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グランディア城~王妃の間

「……」

 ごろん、と寝返りをうつ。柔らかくて……温かい。

「……さま」

 誰か……の声……?

「アーリャ様。おはようございます」

 ……おは……


……よう!?


 がばっとありあは身体を起こした。白い上掛け、白いシーツ。天蓋のあるベッド。

「今日もいいお天気ですよ?」

 声のする方に顔を向けると、サリがにっこりと笑って立っている。白い光が、窓から部屋の中に差していた。

(え……?)

 あれ? 私……

「にゃあ」

 黒い塊が弾んで、ありあの膝の上に乗って来た。

「ミーちゃん!?」

 咄嗟に口から出た名前。それを聞いたのか、子猫がありあの手のひらに頬を擦り寄せて来た。


「え……私……」

 記憶が徐々に蘇って来た。

シャルロッテさんの家?に入って……お茶をごちそうになって……?


「ええええええっ!? お、覚えてないっ!?」

 サリが驚いたありあをなだめるように、言った。

「アーリャ様は、お疲れだったのか、眠ってしまわれたのですわ」

「えええええっ!!」

 ひ、人の家に上がり込んで、寝ちゃったの、私っ!?

「それで、陛下が迎えに来られて……」

「えええええっ!?」

 グ、グラントがっ!?

「ここまで陛下がアーリャ様を運んで下さったのです」

 そ、そう言えば……なんだか、ゆらゆら揺れてたような……気が……。

(あ、あれってグラントが運んでくれてたのっ!?)

 う、うわわわわっ! は、恥ずかしいっ!!

ありあは思わず上掛けで熱くなった顔を隠した。

「も、もう、グラントの顔、見れないっ……!!」

 サリが再びにっこりと笑った。

「そんな事ありませんわ。陛下はアーリャ様の事、とても気遣ってらっしゃいました。長旅で疲れているようだから、寝かせておくように、とおっしゃって……」

 は、恥ずかしすぎて、死にそう……っ……


ぐう。


(う……)

 どうやら、こんな時でもお腹は空くらしい。サリは、わかっていますよ、と言うように頷いて、テーブルからトレイを運び、ありあの目の前に置いた。

「どうぞ、お召し上がりください。お腹空いていらっしゃるでしょう?」

 湯気の立っているスープ。ふんわりした白パン。瑞々しい、野菜たっぷりのサラダ。

「はい……いただきます……」

 ありあは大人しくスプーンをとり、スープを一口飲んだ。


**********************************************************************


「……陛下」

 今日も執務室に冷たさの滲む声が響いた。

「わかっている……」

 グラントははあ、と深い溜息をついた。両肘を磨きこまれた机について、頭をかかえた。

 グラントを見るヴェルナー伯爵の瞳がきらりと光った……気がした。

「王妃様が赤の離宮に呼び出された揚句、王の愛妾に毒を盛られて失神、そこに陛下が乗り込んで、王妃様を連れ帰ったという噂ですが」

「……」

 ヴェルナー伯爵の言葉は容赦がなかった。

「……まあ、正面から城に入らなかっただけ、よしとしましょう。噂はあくまで城の使用人の間、だけです。貴族達には見られていませんから」

「……あの、サリとかいう侍女のおかげだな……」

『陛下、こちらの通路をお使い下さい。人目につかず、王妃の間へ行く事が出来ます』

 そう言って、使用人専用の通路を案内してくれたおかげで、小うるさい貴族共には見つからなかった。

「根も葉もない噂が立っているところを見ると、口も固いようだしな」

「本当に、根も葉もないんですか?」

 じろり、とヴェルナー伯爵がグラントを睨む。

「……ああ。シャルロッテは、ありあを害そうとはしていなかった」

 ヴェルナー伯爵はまだ疑わしそうな顔をしていたが、やがてはあ、と溜息をついた。

「とにかく、早く決着をつけて下さい。この騒ぎでは、ロクに話も出来ていないのでしょうから」

「……ああ」

 グラントは、頭を上げ、両の手のひらを見た。柔らかな感触が、まだ残っている気がした。


『……笑って……いて……ほしい……』

 ――確かにそう言った。酒に酔った状態だったが。

(そう言われた……のは)

遠い昔。僅かに心に残る、温かい思い出の中。


 はあ、と再び溜息をつく。

 ぐったりとしたありあを見た時――……

 『笑っていてほしい』、そう言われた時――……

……今までにない感情が、心を支配した。そんな事は、あの時以来、なかった。


(すでに、かなり振り回されているな……)

 グラントがそう思った時、ヴェルナ―伯爵が感心したような声を上げた。

「……それにしても、この見取り図……アーリャ様が作ったのでなければ、他国の間者の仕業かと思うところでしたよ」

 グラントもヴェルナー伯爵が机の上に広げた巻紙を見た。正確な城の輪郭に、階段や部屋の位置まで細かく書き込まれていた。

「どうやら、ありあは建物に興味があるようだな」

 サリも『赤の離宮の外観を見たいとおっしゃって近くに……』と言っていた。

「まあ、城の探検はほどほどにしていただいて……」

 グラントはヴェルナー伯爵からの圧力?を感じた。

「アーリャ様には、一刻も早く、正妃としてのお勤めを果たしていただきたいものですが」

「……」

「その為にも、あの御方と早く話をして下さい」

「……」

 もともと、ジェラルドはシャルロッテの事を快く思っていないようだったが……。

「……わかった」

 グラントの返事を聞いたヴェルナー伯爵は、やや頬を引きつらせたが、やがて、深い溜息をついた。

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