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グランディア城~赤の離宮その1

「うわあ……」

 ありあの口から溜息が洩れた。

「すごい……エレガントな建物……」


 森を抜けたところに立っている、赤い屋根の建物。まさに『宮殿』だった。

白い壁の柱や、窓枠も、どちらかというと女性的なデザインだ。アールデコ調に近い?、とありあは思った。正面玄関の前には、綺麗に刈り込まれた薔薇園があり、大輪の真っ赤な薔薇が誘うような香りを出していた。

「グランディア城は男性っぽい感じだけど……こちらは女性っぽいデザインよね……」

 きょろきょろと辺りを見回すありあに、サリが怯えたように言った。

「ア、アーリャ様、そろそろお戻りにならないと……」

「うん」

 踵を返したありあの耳に、小さな鳴き声が聞こえた。

「あれ?」

 振り向くと、薔薇園の茂みから黒い子猫が転がり出て来た。

「か、かわいいっ!」

 思わず猫の傍に行く。アーリャ様、と呼びかけるサリの声に、大丈夫と返し、子猫を抱きあげた。

「ふわふわ……」

 大きな丸い瞳。艶のある毛並み。にゃあ? と首を傾げられ、ありあの心はすっかり子猫に奪われてしまった。

「首にリボンしてるから、飼い猫……よね」

 喉をなでなでする。ごろごろと甘えた声をし、子猫がありあに顔をすりすりしてきた。

「この子飼いたいなあ……」

 ありあがそう呟いた時、聞きなれない女性の声がした。

「……では、お譲りしましょうか?」

 ありあは子猫を抱いたまま、声の方を見た。薔薇園に立つ、一人の女性。黒い髪に黒い瞳。真っ赤なドレス。黒い親猫を抱き、ありあをじっと見ていた。

「え、いただけるんですか!?」

 ありあの声に、女性はゆっくりと頷いた。ややカールした彼女の長い髪が、ふわっと風に揺れた。

(うわ……大人の女性って感じ……)

「……ア、アーリャ様……」

 サリの声に、きらり、と女性のアーモンド形の瞳が光った。ありあの姿を一通り見回すと、ふふふっと妖艶に笑った。

「よろしければ、中にどうぞ。お茶でもご用意しますわ」

「はい、ありがとうございます」

「アーリャ様っ!?」

 焦った声を上げたサリを女性がちら、と見た。

「この方には、この子の説明をさせてもらいますわ。そう、お城の方へとお伝え願えるかしら?」

 あ、そうか。何も言わないまま、王妃の間を出てきて、結構時間が経ってるなあ、とありあは気がついた。

「サリ、私、この方とお話していくわ。そうグラントに伝えてくれる? すぐに戻るって」

 どうしようかとおろおろした感じだったが、サリは何かを決めたかのように頭を下げた。

「は、はい……」

 サリが小走りに元来た小道を戻っていくのを見てから、ありあは女性に促され、建物の中に足を踏み入れた。


**********************************************************************


「綺麗……」

 ありあは目を見張った。外観もエレガントだったが、内装もすごかった。

「この壁紙といい、家具といい……調和がとれてて……」

 派手ではなく、上品な女っぽさのある部屋だった。薔薇のようないい香り。お香かしら、とありあは思った。

「こちらへどうぞ」

 女性がソファを勧めた。ありあは「ありがとう」と言って、ソファに座った。クッションが効いてる。

「ふかふか……」

 子猫はありあの手から離れ、ソファの上で丸くなった。

「本当、かわいい……」

 頭をなぜる。目をつむった子猫を見て、ふふっとありあは笑った。


「さあ、どうぞ、お口に合えばよろしいのですけれど」

 女性がテーブルにティーカップを置いた。受け皿とおそろいの、白い磁器。銀色の蔦模様がカップの縁を取り巻いていた。

「いただきます……」

 ありあは一口飲んで、目を丸くした。

 女性はありあの正面に座り、同じようにティーカップを口元に持っていった。

「この香り……」

 ふわん、と香る不思議な香り。少し甘めのお茶に何か、が混ざっていた。

「いい香りでしょう? 私はいつもこうしていただいていますの」

 女性がにっこりと笑った。凄い美人。大人の色気がありあにも分かった。

「……私は、シャルロッテ=アルダーと申します」

「私は……」

 自己紹介しかけたありあを、シャルロッテが瞳で制した。

「レヴァンダ皇国の巫女姫、ですわね? 正妃として陛下が連れて帰られた、という」

「はい……ご存知でしたか?」

「それはもちろん……」

 ふふふっとまたシャルロッテが笑った。

「……陛下には、いつもお世話になっておりますもの」

「え?」

 グラントがお世話に? この方、グラントの恩人なのかしら、とありあは思った。

「えーっと……夫がいつもお世話になっております……」

 ティーカップを置き、深々と頭を下げたありあに、シャルロッテの目が丸くなった。

「……あなた、変わった方、ですわね……」

 シャルロッテの声に、ありあは彼女を真っ直ぐに見た。

「私、何か間違った事してるでしょうか? その、よくわからなくて……」

 ありあの言葉に、ますますシャルロッテの目が丸くなった。やがて、耐えきれなくなったように、ぷぷっと彼女は吹き出した。

「……いえ、大変おかわいらしいと思いますわ。きっと、陛下もそんな所を愛おしくお思いなのでしょう」

 ……愛おしく……?

それは違う、とありあは思った。だって……

「グラントは別の方を愛してます。だから、私の事はそんな風には思ってない……は……ず……?」

 あれ? 言葉がはっきり出ない。足元がふわんとする感覚。身体がぽかぽかして、何だか……。

「……王妃様!?」

 シャルロッテの呼び掛けを最後に、ありあの意識はふうっと遠ざかっていった。

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