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シルヴェスタ城跡~金色の光

「え……?」

 ありあの目の前に……キラキラと輝く黄金の光が集まってきた。サニリアもグラントも……伏せていたリカルドも顔を上げ、黙ったまま、光が少しずつ形をとるのを見ていた。

 やがて光は――小さな人の姿になった。



『……ありがとう』

(この……声……)

 さっき、闇から引き戻してくれた声。ありあは、大きく目を開いた。

『とうさまと……かあさまを闇から救ってくれて』


(……あれって……!?)

 ありあは呆然と光の人形(ひとがた)を見た。その小さな肩に羽織っているのは――ボンボンのついた、淡い黄色のケープ。サリに渡して欲しいと言付けた……もの。


「……あなた、シャルロッテさんのお腹の……!?」

 リカルドがぴくりと動いた。鈴を振るような笑い声が聞こえた。


『……私が巫女の塔に行く。だから、あなたは……』


『……あなたの望むところに』


光の人形は、ふわりとリカルドの前に飛んだ。そして、小さな手を伸ばし、リカルドの頬に触れた。


『……とうさま』


『……私に命を授けてくれて、ありがとう』

「……」

リカルドは……呆然とした瞳を人形に向けていた。

ふふふ、と鈴の音が響く。




『……愛してる』




さあっと風が吹いた。その風に光の粒が散らばった。皆の目の前で……人形は霧のようにぼやけ、姿を消した。澄んだ鈴の音だけが……ただ、そこに残っていた。


 グラントもありあも、サニリアもリカルドも……誰も、何も、言わなかった。





「……リカルド、さん?」

 ――暫くの後、ありあがリカルドの顔を見て、言った。


**************************************************


「……リカルド、さん?」

 アーリャ様の気遣う様な、声。私は……自分の頬に手を当てた。先程……金の光が触れた部分に。


(……涙……?)

 そうするまで、自分が涙を流していることにすら、気が付いていなかった。



『――愛してる』

 あの光は……あの子は……そう、私に言った。



「――っ……」

 私は右手で口元を押さえた。嗚咽が……洩れた。


 ――ずっと欲しかったモノ。手に入らないと、諦めてしまっていたモノ。

 それが……こんな形で、自分の目の前に差し出されるとは思わなかった。

 ……こんなにも、胸を締め付けられるような、ものだったとも、判らなかった。知らなかった。

 

 利用しようとしていたのに。我が子とも……公にしていなかったのに。



 ただ……純粋な気持ちを、私に向けてくれた。そう――かつて幼いアーリャ様が、陛下に向けていたような、温かい、何かを。



 ……ああ

 ……ずっとずっと、欲しかった。手に入れたかった。

 ……無理に手に入れようとしても、手に入らなかった。


 そうやって……手に入れるものでは、なかったのだ。

 ただ……感じるだけで、よかったのだ。

 こんなにも……温かく、優しい、心を。



「……っ……」

 心の……欠けていたところが、埋まっていく。金色の光と共に。鈴の音と共に。


 ――私は暫く、声を出す事もできなかった。ただ……涙を流していた。



「……リカルドさん」

 アーリャ様の声と共に……柔らかな腕が、首に巻き付いてきた。


**************************************************


「……リカルドさん」

 ありあは……しゃがみ込んで、リカルドに抱きついて、いた。リカルドは……静かに、涙を流していた。


「……あの子だけじゃないです」

「……」

「リカルドさんの事、大切に思ってるのは……あの子だけじゃない、です」

「アーリャ……様……」

「シャルロッテさんだって……シルヴェスタ城にいた家臣の皆さんだって……リチャード様もアスタリア様も……グラントも……私だって」

「……」

「だから……その事を忘れないで下さい。『白の影』になっても。私達もきっと……あなたの事、忘れませんから」

「……」

 リカルドがありあの身体に手を回した。ぎゅっと一瞬抱き締めた後……リカルドはありあを離した。


「……ありがとうございます、アーリャ様」

 そう言ったリカルドの瞳は……夏の空のように、澄んでいた。


 リカルドは立ち上がり、ありあに右手を差し出した。ありあはその手を握り、立ち上がった。


 リカルドがちら、とありあの後ろを見、ありあの耳元で囁いた。

「……アーリャ様。あまり陛下をやきもきさせないほうが、よろしいですよ」

「え?」

 ありあが後ろを振り返ると……

(げ)

 ……無表情のサニリアと……これまた無表情のグラントが。

 グラントの視線の強さに、ありあの背筋が寒くなった。

(こ……怖い……)

 さっきの闇の魔物より怖いんですけど!? ありあは思わず首をすくめた。


 ……気まずい沈黙を破ったのは、サニリアの深い溜息だった。


「全く……前代未聞の事が多すぎます。アーリャ様の力の強さもそうですが……生誕される前から、『光の巫女になる』と宣言される御方もおそらく初めてでしょう」

「サニリアさん……」

「……レヴァンダ皇国とセレスタイン王家の血筋……どちらも類稀な魔力を持つ家系。その二つを併せ持つ御子、ですか……」

「……」

「……アーリャ様」

「は、はい」

 ありあはサニリアの方を向いた。サニリアは真っ直ぐにありあを見ていた。

「……あなたは巫女になりたくないのですね」

「はい……」

 ありあもサニリアを真っ直ぐに見た。そして、グラントの隣に歩いて行き、言葉を継いだ。

「私は……グランディアに……グラントの傍に、いたいんです」

「ありあ……」

 呆然とした声。ありあがグラントを見上げると……銀色の瞳が大きく見開かれていた。

 サニリアが頷いた。

「……こちらとしても、『巫女になる』という意志のある御方になっていただく方がよろしいのは、確かです」

「じゃあ……」

「……ええ。シャルロッテ様がお生みになる御子に……光の巫女姫になっていただきます」

「あ、ありがとうございます、サニリアさんっ!!」

 笑顔になったありあに、サニリアの瞳がきらりと光った。

「……ですが」

 鋼鉄のような声色に、ありあが真顔に戻った。

「巫女姫がご誕生になるには……あと半年ほどかかります。その間、あなたには巫女の塔に来ていただきます、アーリャ様」

「え!?」

「……シャルロッテ様に巫女の塔に来ていただくとしても……光と闇の力の均衡が崩れている事に変わりはありません。何の訓練もしていないあなたが、塔から出るのは危険です」

「でも……」

「この地を安定させるにも、時間が必要です。巫女が御誕生になられる頃ならば……ここも安定しているでしょう」


(闇の力に影響されて……私の力が暴走してしまう……?)

(闇の力も……私の力も……及ばない……場所)


 ありあは目を見開いた。あそこ……なら。


 ありあはグラントの袖をぎゅっと握った。グラントが訝しげにありあを見た。

「……サニリアさん」

「なんでしょう、アーリャ様」

「……要するに、あの闇の力に私が影響を受けなければいいんですね? それから闇に私の力が影響しなければ」

「……ええ。グランディアにいては不可能です」

「だったら……」

 ありあはグラントを見上げた。綺麗な銀色の瞳をじっと見つめる。

「ありあ?」

 グラントの問い掛けに、ありあはふっと笑い、改めてサニリアの方を見た。


「私は巫女の塔には行きません。その代わりに……」

 ありあの次の言葉に、グラントの目が大きくなった。


「私――元の世界に――異世界に、戻ります」

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