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深淵の闇~シルヴェスタ城

「ん、ふ、んんっ……!!」

 ありあは身をよじって逃げようとしたが……がっちりと抱き締められて、身動きできなかった。

(食べられてる!)

 リカルドの唇の動きは、かぶり付かれている様に激しかった。ありあの頭が……真っ白、になった。

(な……に……っ……)

 身体から、何かが奪われていく様な、感覚。鳥肌が立つ。

(ち……からが、抜け……)


 リカルドが身体を離した時……ありあはふらっとよろめいた。ずるり、と体勢を崩したありあの右腕を、リカルドが掴む。


「……光炎よ、闇を切り裂け!」

 リカルドが右手を横に払う。太陽のように激しく輝く光の輪が、闇の魔物を一気に切り裂いた。断末魔の叫びが闇に響く。

「……さっきより、威力が増してる!?」

 リカルドが驚いているありあを見た。リカルドの顔色も……元に戻っていた。

「あなたは、その身の内に膨大な光を秘めておられるが、それを使いこなせていない。ですから、力をいただきました。……魔力の受け渡しは、身体を重ねるのが一番手っ取り早いのですがね」

「!!」

 か、身体を重ねるって!? ありあの頬に血が上った。

「ですから、そこまでは」

 リカルドが苦笑した。ありあの顔はますます赤くなった。


「……これで、しばらくは持つでしょう。アーリャ様、頼みますよ」

「はっ、はい!」

 ありあは、大きく深呼吸をし……意識を集中させた。


(グラント……っ!!)


 ――ありあ……




 ――聞こえた。

「!? こっち! こっちです!」

 ありあはリカルドの腕を引っ張った。確かに聞こえた。

「……っ!!」

 リカルドが光の力を宿した剣を、闇に向かって振う。ありあに伸ばそうとした魔物の手が、光に焼かれて落ちた。


 ――ありあ

 ――ありあ


 暗闇の中、僅かに響いてくる、声。

(グラント以外にも……誰か呼んでる!?)

 ありあは耳をすませた。さっき……『助けて』って言った人の声……?

 ありあは声のした方に向かって、重い空気をかき分けるように、進んでいった。


**************************************************


「! リカルドさん、あれ!」

 リカルドが顔を上げる。ありあが指さす方向から……金色の光、が洩れていた。

「行きましょう、アーリャ様」

 リカルドがありあを抱き抱えるように、闇の中を飛んだ。ざわつく声が追い掛けてくる。

「ちっ……!」

 リカルドが詠唱と共に、右手から光を放つ。蠢く触手が燃やされていく。


 ――こっちよ、ありあ


 ……呼んでる。誰かが……呼んでる。


 ありあは、光に向かって手を伸ばした。その手を……温かな手が掴んだ。


 ――おかえりなさい、ありあ


「!?」

 ありあの身体は、一気に光の中へと引きずり込まれた。リカルドも一緒に。


「きゃ……!!」


 ――眩しい!!


 思わず目を瞑り、顔を右手で覆った。


 ――ガクン!


 リカルドとありあの身体は……、下へと落ちていった。


**************************************************


「……っ、リカルドさん!?」

 ありあは我に返った。リ、リカルドさんの上に乗ってる……っ!!

 ばっと彼の身体から降りた。リカルドがゆっくりと上半身を起こす。

「……どうやら、戻って来たようですね……」

 ありあは辺りを見回した。大きな石壁が……あちらこちらで崩れていた。

「お城が……ない!?」

 ありあは立ち上がった。あたりはがれきの山、となっていて……辛うじて、門の付いた城壁が残っているだけだった。


「――ありあ!!」

 ありあは声の方向を向いた。がれきの上を飛ぶように駆けてくる、長身の男性。


「……グラントっ!!」

 ありあも駆け出した。石に躓きそうになりながら――両手を伸ばした。


 大きな手が……ありあを抱き止めた。温かな胸。心臓の音。力強く抱き締められた。

「ありあ……っ!!」

 グラントの声が……掠れていた。心配してくれていたのが、判る。



 ああ……戻って来たんだ。グラントの元に。温かい……



「……ただいま、グラント」

 ありあは、ぎゅっとグラントに抱きつきながら……言った。




「……身体は大丈夫なのか!? どこかおかしいところは……」

 暫くの後、少し身体を離し、ありあの両肩に手を置いて、グラントが言った。

「うん、大丈夫。ちょっと力抜けたけど……」

 グラントが眉を顰めた。

「力が抜けた?」

(う……)

 しまった。い、言いにくいことを……。ありあが言葉に詰まっていると、静かな声が後ろから聞こえてきた。


「――陛下」

 グラントがありあの後ろを見る。ありあも振り返った。リカルドが跪き、頭を垂れていた。


「私は陛下を亡き者とし、王座を奪おうと企んだ反逆者です。どうか御裁きを。いかような処罰もこの身に受ける所存です」

「……」

「リカルドさん……」

 グラントがリカルドの方に一歩踏み出した時――冷静な声が聞こえてきた。



「――グラント陛下。もしよろしければ、その者の身柄、私共が引き受けますが」


 ありあは右手の方を見た。ゆっくりとこちらに歩いてくる、マントを着た黒髪の女性。


「サニリアさん……!?」

 グラントはサニリアを見、冷静な声で尋ねた。

「サニリア。引き受ける、とはどういうことだ」

 サニリアの表情は、全く変わらなかった。

「……リカルド=ヴァン=シルヴェスタ王子。リチャード元王太子殿下の息子。セレスタイン王家の血を引く、魔法騎士、ですわね。剣は陛下と一、二を競う腕前とも聞いております」

「……」

 グラントの表情も、動かなかった。

「そのような資質を持つ者であれば……『白の影』としてやっていけるでしょう」

「白の影!? それって……」

 ありあは思わずサニリアに聞いた。

「……光の巫女姫をお守りする、影の存在。『白の影』になった時点で、――名も地位も全てを捨て、ただ巫女姫様の為だけに生きる存在となります」

「……全てを捨てる、のか」

「はい。……現在の『白の影』も、俗世間を捨てた者ばかり。諜報活動や闇の眷属との戦闘など、危険な任務を任させる事になるでしょう」

「……」

(グラント……)

 ありあは黙ったままのグラントを見上げた。グラントは暫く目を瞑っていたが――やがて、サニリアを真っ直ぐに見た。

「……承知した。リカルド=ヴァン=シルヴェスタ、お前の身柄は巫女の塔に任せることと、する」

「ははっ……」

 リカルドは、頭を下げた。サニリアはリカルドの前に立ち、そして言った。

「……全てを捨て、巫女姫様に忠誠を誓うか」

 リカルドの声も、全く乱れなかった。

「……はい。この身を持って、光の巫女姫様に全てを捧げると誓います」


「リカルドさん……」

 そう呟いたありあに、サニリアがゆっくりと向き合った。



「――では、巫女姫様。巫女の塔にお戻り願います」

 ……ありあの瞳が大きく見開かれた。



 グラントがありあとサニリアの間に立った。

「……ありあは渡さぬ、と申したはずだ」

 サニリアは表情を変えないまま、言葉を継いだ。

「……この現状を見ても、そうおっしゃられますか、グラント陛下」

 サニリアが指さしたのは……がれきの山となったシルヴェスタ城。怪我人を介護する、白いマントを着た人達の姿。

 ――そして、城の上空から感じる――闇の気配。


「……この城が闇に呑まれたことで、光と闇の力の均衡が大きく崩れてしまいました。闇の世界への裂け目を閉じるよう、私共も全力をつくしますが……」

 サニリアの漆黒の瞳がありあを捉えた。

「あなたは、膨大な力を身に秘めながら、全く制御ができていらっしゃらない。このように世界の力が不安定な状態では……いつ何時、触発されて力が暴走するとも限りません」

「サニリアさん……」

 ありあはぎゅっと拳を握りしめた。

「また、闇の力が裂け目からこの世界に流れ込んでいます。光の巫女が巫女の塔にいらっしゃらなければ……この世は闇に覆われてしまうでしょう」

「……」

 サニリアの後ろに……揺らめくように現れた、白い影たち。

「巫女の塔にいらっしゃれば……少なくとも力は暴走しません。あなたのお力がこの世に干渉する事も、制御することができるでしょう」

「……」

「巫女の塔には、光の巫女姫が必要なのです。現在、存在する巫女姫はあなたお一人」

「サニリア……さん……」

「サーリャ様も既に巫女としての力は失われておられます。この状態を元に戻すには、あなたのお力が必要なのです、アーリャ様」

「……」

 サニリアさんの言っている事は、正しい。それは判っている。でも……

(巫女の塔に行ったら……)

(もう……グランディアには……)

 グラントの傍にいられなくなる。ありあはぎゅっと目を瞑った。


 グラントがありあの肩を抱き、サニリアを睨みつけた。

「……ありあは余の妃、だ。巫女の塔へは行かせない」

 サニリアの眉が上がった。

「……致し方ありませんわね。では、強制的にでもお連れ致しまする」

 サニリアが右手を上げ、白の影に合図しようとしたその瞬間――鈴の音の様な声が、辺りに響き渡った。




『――次代の光の巫女には、私がなります』

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