結果
「今日はまず先週のテストを返却するぞー」
外堀先生のはきはきとした声が、死神の死刑宣告に等しい重みでもって俺にのしかかる。
他のテストについては何とか赤点は免れた。
危なかったのは日本史と数学と化学だった。
日本史はサイコロ鉛筆の精度のおかげで赤点を免れた。
数学はまる暗記したヤマが上手く当たって何とかしのげた。
そして最も危うかった化学は、全体の平均が低いため赤点が低く設定された事と、問題文のミスによる獲点に勘の冴え、そして採点ミスでプラス10点という、いわば多重奇跡により超絶的低空飛行で赤点を回避した。
けどさ、奇跡は二度起きないからこそ奇跡であると誰かが言っていた気がするんだ。
そして俺もそう思う。
テストを返却する前に、外堀先生は黒板に平均点と最高点数、そして赤点を順番に書いていく。
平均点63.3、最高点数91だった。
理想的に近い平均点に、満点には届かない最高点数。完全に外堀先生の狙い通りの結果だろう。
そして問題の赤点は30点に設定された。
どういう計算かは分からないが、赤点はいつも平均点の半分くらいに設定される。
今回低めなのは、赤点ぎりぎりのラインに何人か固まっていたからだと俺は推測する。
問題はその境界線が俺の上に引かれたのか下に引かれたのかという事だ。
俺は出席番号順に死神を巡礼しては各々結果を目の当たりにし、様々な表情を浮かべるクラスメイトを見ながら、自分の番を待つ。
先に死地に立った親友の末村弾希は、
「うおっっっっしゃぁああらあぁぁぁぁああぁああああ!!!!!」
という魂の叫びを上げて外堀先生に小突かれた。
あの感じだと赤点ギリギリだったんだな。他のテストは全部返って来たし、これさえクリアすれば俺も補習を免れる。
「高月、おい、高月ツミキ。聞こえないのかおーい」
どうやら俺の番が来たようだ。不安と不安と不安と、あと不安と幾ばくかの不安を胸に抱きながら、俺は外堀先生から答案を受け取った。恐る恐る先生の顔色をうかがう。
いつもはきはきとして笑顔を絶やさない先生の表情からは、何も読み取る事は出来なかった。
俺は席に戻ると、端から順にゆっくりと、固唾を呑みながら答案を開いていく。
右端、名前の下にあるであろう点数を見るのは最後にしよう。
ばっ、と俺は点数以外の部分の答案を開いてみた。
選択問題はやはり三割強は取れている。……全部三択だが。
問題は残りの記述問題だ。
アイドルの名前でしりとりをして埋めた所には、
『個人的に某48人ユニットだけでやってみて欲しいですね』
牛肉の臭みを取る方法を記しておいた個所には、
『今度彼女に教えてみます』
適当に最近の政治情勢について語った場所には、
『右翼っぽい主張は大学入試の小論文で減点要素になる場合があるので要注意』
と書かれていた。全部バツだ。
それいくら人数多いとはいえ多分無理だよってかあんた彼女いるんかいっつーか下手に政治家批判すんじゃなかったぁあああ、という心の中の三重ツッコミは焦燥感でどうでもよくなった。
俺は点数を見た。
27点。
俺は赤点を採った。