孤剣2
斎木祭はひねくれ者だ。
どれくらいひねくれているかというと、小学校の頃なんかは好きになった女の子に嫌がらせをしてしまった事もあった。
筆記用具を隠したり、黒板消しを扉に挟んで待ち伏せたり。
そしてそのために、高月ツミキとの因縁が始まった。
高月はその子を守るため斎木に立ち向かったのだ。
何度も喧嘩し勝っては負けて、何度も勝負し負けては勝って。
――けれども負けたとしか思えない。
勝っても斎木は何も手に入れられず、負けても高月は全て手に入れていた。
――これは、そう、嫉妬なのかもしれない。
素直に感情が表現できないだけで彼は純粋なのだが、そのひねくれ具合は甚だしく、理解者はほとんどいない。
――だから斎木のこれは、そう、嫉妬なのかもしれない。
斎木は、曖昧な感情のまま剣を握るのをよしとはしないが。誰も、明確に感情を制御し振るう事など出来まい。
――そう思っていた。
しかし、高月ツミキは純粋にまっすぐに自分を表現できた。
末村弾希は真意を言わずとも、自らの実直な行動で示せた。
波倉未来は器用ではないものの、ひねくれてはいなかった。
そして、古式岸子はいつも自分のままでいる女の子だった。
更に、荒神実依也は何物にも囚われない自由な人物だった。
――しかし、斎木祭はどうだろう
曖昧で茫漠で有耶無耶な感情のまま、明確で正確で杓子定規な敵意とする。
そうして理由もなく、いつも誰かと戦ってきた。あるいは理由を探して戦ってきたのか。
中学の頃剣道をやっていた折、偶然高月と当たった事があった。
あれは奇しくも、実依也の家の道場での事。
応援に波倉がいる時点で嫌な予感はしていた。だが斎木は見て見ぬふりをして対戦するまで無意識に相手を見ないようにしていたのかもしれない。
――普段なら実依也が大将で、大将戦に行くまでに終わる。だから仮に大将が奴でも何も問題はない。
そう思おうとした。
そんな現実逃避の元、高月と竹刀を交えた俺は、動揺と焦燥の末――
――また、負けたのだ。
その帰り道、急に降り出した雨に斎木は空を仰いだ。
降り注ぐ雨の下、雨か汗か、はたまた涙か。
熱い雫が、頬を伝う。