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夜雨
梅雨は嫌われがちな季節である。
蒸し暑く雨ばかりの毎日とあれば、自然気分も鬱屈してしまう。
空に輝く月も暈をかぶり、朧に雨の線を銀色に輝かせるばかりであった。
その線を乱す影が一つ。
雨降る月下で木刀を素振りする少年がいた。
男にしては少し長い髪は雨に濡れて額に張りついている。しかしその切れ長の目は、一心に振るわれる木刀を見据えていた。
木刀が振られるたび、銀色の雨が切り裂かれる。一振り一振りが静かで重く、正確だ。機械のようでいて、人間の気迫が乗った剣とでも言うべきか。
少年は何度も何度も、縦に横に木刀を振ると、はた目にも最後の一振りと分かる、今までで最も速く鋭い一閃を振り切って、止まる。
「ツミキ……」
その声は、雨音に紛れて消える。