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夢見嚮後

 魔王城陥落の後、現聖君が聖魔大戦の勝利宣言をしてから三カ月。聖領の人々は戦いの緊張感から解放され、普段の生活へと戻りつつあった。

 勇者を拝命したヴェイン=ディスプル、その護衛を務めたセリア=レドナ、アイノ=リューノ、ルーシェ=セプフィムの四名は魔王を倒した後、疲弊した隙を突かれ忌血種グァルド=ハルフストライフにより殺害される。また聖剣は奪取された模様。

 アラパコル勇者養成学校理事長エリゼー=ディスプル、及び名誉研究員メンゲレ=ベッポの二名はその戦闘に巻き込まれ死亡。

 これが現聖君の公式発表であった。彼の言葉を信じるしかない聖領の国民たちは誰一人その言葉を疑うことは無く、誰もがグァルドのことを罵り、詰り、憎んだ。

 だが、その中でグァルドを信じ続ける人間がたった一人だが存在した。

「フン、誰がこんなもの信じるかい!! あの子はそんな子じゃないよ、それはアタシが一番良く知ってる!!」

 憎々しげに新聞を叩きつけるヒナ。それと同時にヒナの家の扉が乱暴に叩かれる。

「ヒナさん、ヒナさんいるか!?」

「誰だい、騒々しいったらないね、まったく!!」

 ヒナが扉を開くとそこに立っていたのはアラパコル養成学校の職員の男だった。

「何の用だい!?」

「良かった、いたか!! 悪いがいますぐ一緒に聖領殿に来てく――おぶっ!?」

 いきなり腕を掴んでヒナを引っ張って行こうとする男に杖で一撃を与える。

「女を何処かに連れていくならまず四十秒で説明しな」

「あ、ああ……実は――」

 男は頭をさすりながら簡単に説明を済ます。

 全てを聞こえたとき既にヒナは全盛期のスピードで走り出していた。


 ヒナが聖領殿正門に着いたとき、そこには異様な光景が広がっていた。

 まず、目についたのは聖領殿が襲撃されたという話を聞いて集まってきたのだろうと思われる大勢の民衆。

 そして次に目についたのは襲撃者に担ぎあげられている聖君。何事か喚いているがヒナの位置からでは遠すぎて聞きとることは不可能だった。

 最後にヒナが見たのは聖領殿を守護する兵士に包囲された二人組の襲撃者。

 少女は、腰まで届こうかという程の長く美しい銀髪を靡かせ嬉しそうな顔でもう一人の男を愛おしそうにその碧眼で見つめていた。

 一方、男の方は黒い髪に紅い斑が混じった奇妙な風貌をしており、左肩に黒い大剣を背負い、右腰には柄の部分に上品な細工を施された剣を提げていた。

 そして最も特徴的なのはその顔。しかし男の顔を特徴づけているのは右目の眼帯でも、目の下にある紅い痣でもなく、その鬼のような顔立ちだった。子どもが見れば泣き叫び、老人が見れば腰を抜かす。そんな恐ろしい顔。

 しかし、ヒナはその顔に見覚えがあった。

「…………グァルド?」

 忘れる筈もないその顔。気がつけばヒナはその名を口にしていた。

 その声に気がついたのか、男はヒナを一瞥し、バツが悪そうに苦笑する。だが、それも一瞬。何事か隣の少女と会話を交わすと突如腰の剣を抜き床に突き立てた。


「……元気そうで何より……だな」

「どうしたのグァルド?」

「……いや、懐かしい顔を見て嬉しくなっただけだから気にするな」

「? あ、ヒナさんだ!! 後で御挨拶に行かなくっちゃね」

「……おお」

 気乗りしない様子で頷いたグァルドを見てクスクスと笑う傍らに佇む少女。

『グァルド、オルベルちゃん、そろそろ始めましょうよ。待ちくたびれちゃったわ』

「……悪い、悪い。じゃあジュスティクス、頼むわ」

 そう言ってグァルドは腰からジュスティクスを引き抜き、床に突き立てた。

『皆、聞け!! 私は初代聖君ジュスティクス、現聖君の悪事を暴きにここまで来た!!』

「ジュスティクス様だ……」

「本物……?」

「馬鹿、あの御姿は本物だって」

 民衆がざわめく中、尚もジュスティクスは続ける。

『この男は己の欲を満たすためだけに無辜の民を非道な実験に材料として使い、その命を奪った!! 勇者一行が死亡したのもその実験に利用されたためだ!!

 私は皆に問う!! このような非道を許して良いのか!? 答えは否、断じて否だ!!』

 ジュスティクスの言葉に、一人また一人と集まった聖領の民が頷き賛同の声を上げる。

「ジュ、ジュスティクス様。わ、私には、な、何のことだか……」

 ジュスティクスの登場に縮こまっていた現聖君が下卑た笑いを顔に貼り付け最後の抵抗を試みる。

『黙れ、下種!! 貴様のような人間を聖君に任命した私が間違いだった。現時点を以て貴様の聖君の任を解く。一生牢の中で過ごすが良い』

「そ、そんな……」

 現、いや元聖君はグァルドの肩から力なく地面へと落下し、そのまま地下牢へと引き摺られていった。彼が日の光を見ることはもうないだろう。

『皆、すなまいがもう一つ私から報告がある。聞いてくれるか?』

 そのジュスティクスの言葉に目の前で起こった大捕り物に興奮していた民衆はすぐさま静かになる。

『報告というのは新たな聖君のことについてだ。今回このような恥ずべき事態が起こったのも全ては聖領と魔領、この二つがいがみ合っていたことが原因であると言わざるを得ない。それについてはこちらにおられる現魔王オルベル=フィン=サーヴェンガルド殿、初代魔王エイヴィル=オルタ=サーヴェンガルド殿も同意なさっている』

 唐突に眼前の銀髪の少女が魔王であると紹介され、再び民の間に動揺が走る。

「あの子が魔王だって!?」

「普通、いや可愛い女の子じゃないか……」

「初代魔王ってあれか……。何かジュスティクス様と比べると地味だな……」

『黙らんか、小童が!!』

 ヒソヒソと小声で呟く民衆に向かってオルベルはやや緊張した面持ちながらも笑顔で手を振り、エイヴィルは無礼な発言をした若者に怒鳴る。その様子を少し見守った後、ジュスティクスは民衆に告げた。

『故に私はここにいるグァルド=ハルフストライクを新たな聖君とすることを宣言する』

 一瞬の静寂、そしてその後に起こる怒声、罵声の嵐。グァルドに石すら投げつけられる。

「忌血種なんかに俺たちの代表になられてたまるか!!」

「血迷われましたかジュスティクス様!!」

 その負の感情の嵐の中、グァルドはただ黙って立っていた。彼には民衆に対する怒りはない。あるのは寂しさと悲しさ。それを心の内に仕舞い込み、彼はひたすらに堂々と立ち続けた。

『静まれッ!!』

 民衆の怒声を全て自らの怒声で掻き消し、ジュスティクスが再び彼らに言葉を投げかける。

『だから私はグァルドを選んだのだ。彼は自分が忌血種であるが故に差別されることの辛さ、悲しさを知っている。人間と魔物、そして忌血種が共存していく上で彼以上の指導者がいるか? もし、この場にいるのであれば我こそはと名乗りを上げよ!!』

 そこまで言ってジュスティクスは小さな声でグァルドにだけ伝える。

『私の役目はここまでよ。後はアナタが彼らの心を抉じ開けなさい――期待してるわ、新聖君様?』

 その言葉に苦笑いするグァルドだったが、すぐに表情を引き締め、一歩、また一歩と前に進み、ジュスティクスよりも前に出る。

「……あ~、自己紹介は必要なさそうだな」

 圧倒的な敵意の眼差しをその身に受けながらグァルドは続ける。

「……ずっと俺は自分が忌血種であることを隠してきた。そうしなければ生きていけなかったからな。でも、俺はもう自分を偽るのには疲れた。忌血種であることを隠して生きることに疲れたんだ。

 人だろうが、魔物だろうが、誰だって大なり小なり自分を偽って生きてる。だけど、そんなのオマエらだって疲れるだろ?

 だから俺は聖君になってオルベルと一緒に皆が自分らしく生きていける世界を作りたいと思う」

 これはグァルドの最初の第一歩。世界が大きく変わる前の出来事。

「……俺が俺で在れる。オマエらがオマエらで在れる。そんな世界を作ってみせる。だから――黙って俺に力を貸せ!!」

 彼が無境王むかいおうと呼ばれ、聖領と魔領、両方の指導者となるにはまだまだ時間が足りない。

 だからいま、彼は一つの未来を目指して走り続ける。その未来に到達できなかった一人の少女の想いも抱えて、ただがむしゃらに、力強く。


 はい。という訳でひっそりお届けしてまいりました『いつか夢見た本当の自分』これにて幕とさせていただきます。

 もともとは応募用だったものを修正したものですので読み切り感がハンパないですが、グァルドとオルベルのその後については皆様の御想像にお任せします。あ~、きっとイチャイチャしてやがるんだろうな~。

 私が投稿しているものは全て世界観を統一してあります。ですので何らかの形でこの二人の活躍を描けるかもしれませんね。


 最後になりましたがこのやたら長いお話に最後までお付き合い頂いた皆様に感謝を、『鷽から出たマコトの世界』もよろしくお願いしますとイヤらしく宣伝をさせて頂き、ここいらで退散致します。

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