意歪救済
目に映るのは紅色の景色。
植物の癒しを含んだ緑も。
花瓶に活けられた花の可憐な黄色もピンクも。
大理石の力強い光沢も。
その全てが禍々しい紅い色に侵され、蹂躙し尽くされていた。そして、その紅の正体は死体。床に無残に打ち捨てられた無数の死体。
「何……これ……?」
掠れた声ながらもオルベルがようやく言葉を発する。その声は震え、怯えていた。それも当然のこと。
目の前に数時間前まで自分と会話をしていた相手が血の海に沈んでいたのだから。
「……ウィニ?」
ウィニは動かない。心臓を打ち抜かれては動ける筈もない。彼女はもうオルベルに笑いかけることもなく、世話を焼いたりすることもない。
「どうして……こんな……」
オルベルは横たわるウィニの身体を震える手で抱きよせ、既に冷たくなった彼女を強く、強く抱きしめる。
「……ジュスティクス、これは……どういうことだ? 聖魔大戦には軍を使えないんじゃなかったのか!?」
五百年前にその開戦が定められた聖魔大戦。そのルールを決めたのは他ならぬ初代聖君ジュスティクスと初代魔王エイヴィルなのだ。その真偽を確かめるのにこれほどの適任者はいないだろう。
『……ええ。私とエイヴィルは確かに五百年前そう規定したわ。でもそれは単なる規約でしかないの。アナタとオルベルちゃんが交わした契約のように魔力的な強制力はないのよ。だから――』
『現聖君、魔王が本気で軍の使用を命じればそれを止める術はないということだ。故に我らは抑止力としてこの姿になったのだが……、ジュスティクスの留守を狙われたな』
ジュスティクスの言葉を引き取りエイヴィルが結論を述べる。
『大方勝てば全てを有耶無耶にできると踏んだのだろうよ。浅はかなことだ』
『…………』
エイヴィルが現聖君に対して侮蔑の言葉を吐くが、ジュスティクスは反論もしない。彼女自身、同じ聖君としてこの所業は許し難いようだ。
「本当にそれだけか?」
『む、どういう意味だ、小僧?』
グァルドはオルベルの側に佇みながら周囲への警戒を更に強くする。
「殲滅ね。それならまだわかる。だけど――」
彼はエイヴィルに手をかけながら言う。
「どうして聖領の兵士までこんなに大勢死んでるんだよ?」
『ッ!!』
そう。聖君がこの城の魔物を魔王、そしてグァルドもろとも殲滅しようとしたのであればこの惨状も頷ける。しかし今回の襲撃の際グァルドはこの城にいなかったのだ。
この城にはグァルドを除けば戦力になる者はいない。人間よりも力が強いといってもオルベルに仕えている使用人レベルの魔物では聖領の選りすぐりの兵士に太刀打ちできる筈がないのである。
つまり、床に打ち捨てられているのはウィニたち使用人の死体だけでなければならないのだ。にも関わらず城の中には使用人の死体だけでなく兵士の死体も大量に転がっている。これは明らかに異常だ。
「そんなにこの状況が不思議かね、グァルド君?」
「ッ、誰だ!?」
右手に掴んでいたエイヴィルを抜きながら、声のした方へと勢いよく振り返る。
そこに立っていたのは一人の男だった。
「……エリゼー」
グァルドは憎々しげにその名を呼ぶ。
「理事長をつけたまえ、グァルド君。……やれやれ、やはり忌血種に品位を求めるなど無理な話だったようだ」
走り出し、殴り倒したい衝動を何とか堪えてグァルドはエリゼーに問いかける。
「オマエ、ここで何をした? 何でみんな死んでいる?」
「私は何もしていないよ。それに私が何かするのはこれからだ」
「ふざけ――」
「……グァルド」
激昂しいまにもエリゼーを殺そうと迫るグァルドの頭を冷ましたのは声だった。彼がよく知っている彼女の声。
「…………ルーシェ?」
目の前に突然現れた彼女に対しグァルドは何とか声を絞り出してその名を呼ぶ。
「無事だったか、良かった……」
城の光景を目にした時点でルーシェも生きてはいないとだろうと考えていたがどうやら無事生き延びていたらしい。しかしグァルドが安堵の吐息をもらす前に彼女は真実を告げる。
「……うん。だって、私が、殺したんだから、無事に、決まってる、でしょう?」
グァルドの時間が止まる。いま耳にした言葉は嘘だと彼の頭が否定する。しかし、エリゼーは追いうちをかけるように言葉を続ける。
「おっと、紹介が遅れたね。彼女はルーシェ=セプフィム。この私の偉大な計画の影の遂行者といっていい存在だ」
『……私の、だと? ならば現聖君はこの作戦には無関係ということか!?』
いつもの口調ではなく聖君としての口調でエリゼーを詰問するジュスティクス。
「いえ、ジュスティクス様。殲滅作戦もこのあとの儀式も聖君の立案ですよ。作戦自体は、ね」
『どういう……』
更に問いただそうとするジュスティクスを遮りルーシェがエリゼーに報告する。
「……そんなことより、理事長。メンゲレは、始末しました。術の、発動方法も、吐かせたので、いつでも、計画は、実行可能です」
「そうか。よくやったね、ルーシェ。では早速始めようか」
『貴様ら、一体何をするつもりだ?』
未だ混乱を振り払えないグァルドに変わってエイヴィルがそう問いかける。
「何、ちょっとした儀式ですよ、エイヴィル殿」
大げさに手を広げ、嬉々とした表情でエリゼーは言う。
「いまここで死んだ者たちの力を私が頂く。それだけのことです。聖君は自分が力を手にできると思っているようですが、あのような下卑た豚には過ぎた力。だから私がその力を貰う」
『なっ!?』
「貴方がたが黒騎士と呼んでいる失敗作も全てはこの作戦のための実験体に過ぎません。アレはデータ集めを目的とした、ただの捨て駒ですよ。データは全て揃いました。私はここにいる者たちの力を得、そして――」
自分に酔いしれながらエリゼーは続けた。
「現聖君、魔王を殺害し、私が聖領、魔領を統べる」
『貴様……』
ジュスティクスが怒気を孕んだ声を出すもエリゼーは気にも留めない。
「さあ、ルーシェ。始めようじゃないか。私はどうすれば良い?」
「……城の外に、魔法陣が、用意して、あります。そこに、力が、集中するように、なっているので、陣の中に、立って、くだされば、それで準備は、終わりです」
「わかった。では行こうではないか!! 聖君の前で従順な犬の振りをするのはもう終わりにしよう。茶番はもうこりごりだよ」
「……ふふ、そうですね」
城の外へと歩き出したエリゼーを追うようにルーシェがその背中に向かって走る。
「……私も、もうこりごり、ですよ。あなたの、下らない欲に、付き合うのは」
刹那。同様にエリゼーの背中に向かって一筋の光が走る。その光はエリゼーの背中を貫き、一瞬の猶予もなくエリゼーの心臓を貫いていた。
「ガァッ!?」
床に倒れ込み、口から大量の血を吐きだすエリゼー。誰の目から見ても彼の命の灯が後ほんの少しの時間で消え去るであろうことは明白だった。
「ル、シェ……貴様…………ッ!!」
エリゼーはひたすらに憎悪を込めた視線でルーシェを睨みつけるが彼女は怯むことなく彼に最後の言葉を贈る。
「……魔法陣なんて、必要ない。死人の数が、揃えば、勝手に、術は、私に向けて、発動するように、なってるもの。あなたはその最後の一人に、なってもらう。いままで私に、利用されてくれて、ありがとう」
彼女のその言葉とともに放たれた矢により、エリゼーが完全に息絶えた瞬間、周囲にあった無数の死体が紅く光輝き、粒子状となってルーシェへと流れ込む。無論先ほど死体に成り果てたエリゼーの身体も一緒に。
『小僧ッ!! いつまで呆けているつもりだ!? 早くあの小娘を止めろ!!』
「クソッ……!! 脚力九、腕力一、再配分!!」
エイヴィルの叱咤を受けてようやく我を返ったグァルドは再び奇妙な呪文を唱え、ルーシェに向かって突進する。エスピリアでは黒騎士を圧倒したそのスピード。一秒にも満たない僅かな間にグァルドは彼女に肉薄する。地面と水平に突き出されたエイヴィルの切っ先が彼女の心臓を貫こうと風を切り裂き、唸りを上げる。
しかしそこまで。
それ以上エイヴィルは前に進むことなくその場で停止する。
「……残念。私の方が、早いよ」
エイヴィルを止めたのは深紅に染まった盾。手鏡程度の大きさのそれはグァルドが繰り出した突きを難なく受け止め、エイヴィルの切っ先がルーシェに触れることを許さない。
「チィッ!!」
予想外の方法で攻撃を防がれたグァルドはすぐさま一足飛びで後退しオルベルの側へと戻る。そうして距離をとる間に彼は目の当たりにした。
ルーシェの変わり果てた姿を。
黒く艶やかな彼女の髪には紅い斑模様が浮かび上がり、宝石のような琥珀色の瞳は見る影もなく真っ赤に染まっていた。
しかし何よりも注目すべきは彼女の周りに浮かんでいるいくつもの紅い雫。先程の突きを防いだ盾。
そう。確かにグァルドはその目で見たのだ。ルーシェの周りの雫が瞬時に盾の形状に変化したその瞬間を。いまでは元の雫に戻っているが、グァルドが攻撃すれば再び盾の姿になるだろうことは誰にでも容易に予想できる。
「……やっぱり、身体は、変化しちゃうか。まぁ、別に、いいけど…………」
「ルーシェ、お前……!!」
「……どうしたの、グァルド? やっとあなたは、救われるって、いうのに……。そんな怖い顔……、は普段から、だったね」
自分を完全に敵として認めたグァルドに対してあくまで以前と同じように接するルーシェ。
「救われる……だと?」
「……うん、この世界から、救われるの」
自分の胸に手を当てながらルーシェは言う。
「……私たち忌血種を、忌み嫌う、このゴミのような、世界から……あなたを、解放してあげられるのよ」
『私たち……? いまアナタ私たちって言ったの?』
「じゃ、じゃあルーシェさんもグァルドと同じ…………」
「ああ、忌血種だ」
ルーシェの言葉に色めき立ったジュスティクスとオルベルにグァルドは純然たる事実を突きつける。
「……そう、私も忌血種。グァルドと、同じ。そしてグァルドに、命を助けられた」
その事実を噛みしめるように口にする。
「……あなたが、私を、助けてくれた」
まるで宝物のようにその言葉を繰り返す。
「……お母さんから助けてくれた後、グァルドは、言ったよね? 生きて、忌血種が、安息を、得られる方法を、見つけたら、教えてくれって。だから、教えてあげる」
ルーシェは胸に当てていた左手を放し、人差し指でグァルドを指す。それと同時に彼女の周りに浮かんでいる雫が顫動を始める。
「……私たち、忌血種が、安息を、得られる、方法は――」
顫動していた雫が瞬時にルーシェの左手に集まり長弓の様相を成し、弦を引く動作をすると紅い矢がいつの間にか番えられていた。
「死ぬことだよ」
その言葉を合図にルーシェの左手に構えられた弓から紅い矢が放たれる。凄まじい風切り音とともに魔弾がグァルドを狙い、古城のエントランスを疾駆する。
しかし、既にグァルドはルーシェの狙った場所からオルベルを抱えて離脱していた。
「脚力八、動体視力二、再配分」
「ひゃあ!!」
矢を放った格好のままのルーシェを迂回するように走り、粉砕された正門から城外へ。
上手く城外に逃れることはできたがグァルドは薄ら寒いものを感じずにはいられなかった。何故なら、黒騎士でも捕えることのできなかったグァルドの動きを彼女は完全に目で追っていたからだ。
(アイツ……俺が見えてやがる!!)
その事実に歯噛みしながらもグァルドは正門前の広場の中心に立ち、待ち構える。
『アレは一体どういうことだ、小僧!? どうして矢があのような軌道で飛ぶ!?』
エイヴィルが指摘したようにルーシェの矢は通常ではありえない動きをしていた。普通の矢ならグァルドが城内でかわした後、床に突き刺さってそこで終わりの筈。しかし、あの矢は床に突き刺さることなく、弧を描いて再びグァルドを射らんと襲いかかってきたのだ。
そしてこうしてエイヴィルが話かけている間にも矢は何度もグァルド目がけて飛来しており、グァルドはそれを全て紙一重で避け続ける。
「『心申必中』……。ルーシェの魔物としてのスキルだ。弓で狙いをつけて放てば、放ったものは必ず狙い通りの場所に当たる。まあ、こうやって粉々にしちまえば問題ないんだけどな」
そう言い、真正面から襲いかかる矢をエイヴィルで粉砕する。
「……グァルドの、『三得七失』より、ずっと、使い勝手が、良いでしょ?」
三得七失。グァルドの魔物としてのスキル。ゲームのパラメータのように腕力、脚力などの力を必要に応じて詠唱し再分配する力である。
通常、生物が有している力は十あり、それぞれ腕力、脚力、動体視力、静止視力、聴力、直感力、持久力、精神力、魔力、魔抵抗力と呼ばれるものだ。
グァルドはそれらを一度、ただの一個の力として変換、統合し、最大三つの力に上乗せする形で再分配することができる。しかし、その代償として残る七つの力は人間並みまで低下し、スキルを解かない限り元に戻ることはない。
つまり腕力五、脚力三、動体視力二と再配分した場合、腕力は通常の五割、脚力は三割、動体視力は二割増となるが、その他の七つの力に関しては酷く弱体化するということだ。
「そう言うなよ、これでも俺は気に入ってんだから」
「……へぇ、そう、だったんだ。知らなかった、よ」
慣れた風で会話を続ける二人。そこに我慢できなくなったオルベルが割り込む。
「あ、あのっ!!」
「……何、お姫様?」
どこか相手を小馬鹿にしたような口調でルーシェが答えるが、オルベルはそんなことは気にしない。グァルドに地面に下ろしてもらい一歩前に出てルーシェをその澄んだ瞳で見つめる。
「な、何で死ぬことが救いになるの? 死んだらそこで終わりでしょう?」
「……終わりに、しなければ、私たちの、苦痛は、一生続く。忌血種の、存在を、認めない、こんな馬鹿げた、価値観を持った世界を、力で壊すか、私たちが、死ななければ、安息は、得られない」
生きて得られる安息。
死で得られる安息。
得られるものは同じ、壊れるのは世界か己か。
そしてルーシェは己を壊すことを選択した。
「……世界を、壊すなんて、所詮絵空事。なら私は、より確実に、実行できる、方法を、選ぶだけ」
「待って、他にも方法はあるよ!!」
「…………本当?」
ルーシェは眉を顰める。自分が考えた方法以外に忌血種が救われる方法が存在するなど彼女は思いもしなかったからだ。
しかし――。
「うん、少しずつ時間をかけてお互いにわかりあっていけば良い!!」
オルベルが口にしたのはルーシェが最も嫌う答えであった。
「……ふざけるな!!」
怒号とともにルーシェが足で地面を蹴り砕く。
「……そんなことが、できたら、誰も、苦労なんて、しない!!」
「でも……」
「……育ての親でさえ、私が忌血種だと、わかった途端、私の言葉に、耳を貸さないで、躊躇わず、首を切り落とそうと、するのに、赤の他人が、私たちと、わかり合おうと、する訳がない!!」
ルーシェは涙を流しながらそう訴える。
「そうだな、確かにそうだ」
「え?」
オルベルの戸惑いの声を無視してグァルドは前進する。ルーシェの立つ方へと。
涙に濡れたルーシェの顔が笑みに歪む。自分の思いは伝わったのだと。自分の救いを受け入れてくれるのだと確信して彼女の心は歓喜に震えていた。
その後にグァルドの言葉を聞くまでは。
「それでも俺はオルベルの方法を信じたい。忌血種の俺に本当の自分でいて良いと言ってくれたコイツを、オルベルを信じたい。だから――」
鋭い双眸を真っ直ぐルーシェに向けてはっきりと拒絶する。
「ルーシェ、オマエの救いは俺には必要ない」
「グァルド……」
オルベルが潤んだ瞳でグァルドを見つめる。しかし、その視線とは別にグァルドを見つめる紅い瞳があった。
「……違う」
『ね、ねえ……、あの子ヤバイわよ』
「……違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う――そんなの違うッ!!」
ルーシェの絶叫が辺りに木霊する。救いたいと思った相手に拒絶され、打ちのめされ壊れた心が向かう先は一つ。
暴走。
「そんな救いなんて認めないッ!!」
彼女は紅い雫から抽出した矢を同時に三本番え、弦を引き絞りながら尚も叫ぶ。
『グァルド、私も使いなさい!! アレはエイヴィルだけじゃ捌けないわ!!』
「良いのか? 仮にも聖領に属してる相手だぞ?」
『……ええ、もう聖魔大戦もめちゃくちゃだもの。それにこの事態は明らかに私たち聖領が引き起こしたものよ。その尻拭いは――初代聖君の私がしなくちゃ……』
「……わかった。なら思う存分使わせてもらうぜ、ジュスティクス!!」
グァルドはそれまで両手で構えていたエイヴィルを右手に、空いた左手にジュスティクスを構え、直後にルーシェが射った三筋の矢を視認する。
『左の二つは私が落とす、エイヴィルは右の矢をお願い!!』
『フハハハハハ!! 任された!!』
「おいおい、タイミング合わせるのは俺なんだぞ?」
そう言いつつもグァルドは自分の間合いに飛び込んできた矢に絶妙のタイミングで剣を振るう。
『閃花』
『轟震』
ジュスティクスは高速で以て二つの魔弾を散らし、エイヴィルは力で以て粉砕する。
「おお、すっげー」
二人の研ぎ澄まされた技を間近で見せられ思わず素直に感嘆するグァルド。
『フハハハハハ、ジュスティクスよ!! こうして貴様と共に戦う日が来ようとは夢にも思わんかったぞ!!』
『私もよ、エイヴィル。こういうのも意外と悪くないものね』
明らかにテンションが上がりつつある二人をそのままに、グァルドはルーシェに言葉を伝える。恐らく最後になるであろう言葉を。
「ルーシェ、オマエがそうなったのは俺に責任がある。だから死こそがオマエの救いなら、俺はオマエを全力で殺してやる」
安息を求めたために堕ちてしまった少女。そのきっかけを作ったのは紛れもなくグァルドだ。故に彼はルーシェを殺すことを躊躇わない。責任を自分で背負うために、目の前の少女が求める安息を与えるために。
「脚力五、腕力二、動体視力三、再配分」
懺悔するように詠唱し、確実にリアの命を刈り取れる間合いにまで接近する。ルーシェはグァルドに向けて矢を放つが、彼はそれをジュスティクスで弾く。
ルーシェを殺せばスキルも消える。ならば矢を壊すための力を温存し、一撃で楽にしてやれば良い。痛みを感じる暇など与えない。そんなものをこれまで自分と同じ地獄にいたルーシェに与えたくはない。それがグァルドの判断であった。
エイヴィルで心臓を、次にジュスティクスで首を狙う。グァルドがエイヴィルを振りかぶってもルーシェは反応しない。じっとグァルドではない何かを見ている。
そして大地に血の花が咲く。
華奢な少女の身体から鮮血が流れる。
青い瞳は驚愕に見開かれる。
なびく美しい銀の髪はまるで操り人形の糸が切れ、人形が地面に崩れ落ちる様を見ているかのようであった。
地面に倒れ伏したのはルーシェではない。彼女は未だ自分の脚で大地に立っている。
「オル……ベル…………?」
グァルドが少女の名を呼ぶ。だが少女は、オルベルは、彼の声に反応することも、彼の名を呼ぶこともなかった。
「……あは、あはは、あはははは!! 初めから、こうすれば、よかったんだ!! ほら、グァルド、間違った救いは、私が、壊してあげたよ!? これであなたは、私の救いに、縋るしか、ないでしょう!?」
狂った笑い声が正門前の庭園に響く。
そのときグァルドは――自分の心が壊れる音を聞いた。
「…………全配分を取消」
「生命力をエネルギーへ変換」
「全能力限界突破」
全ての詠唱を終えたときそこにいたのはグァルドという一個の存在ではなく、一匹の鬼であった。
金属と金属がぶつかる音がする。
それは一度ではない。
二度も、三度も無骨な音を響かせ、そこに何かがいることを懸命に主張する。
では、何がそこにいるのか?
一匹は二本の牙で暴れ回る鬼。
もう一匹は理想を砕かれ目的を失った、紅い雫をその身に纏う悪魔。
二匹はもう何合、何十合もぶつかり合い、その身を着々と死に向かわせていた。
紅い雫から長弓を形成したルーシェはその硬度で以って暴走するグァルドの重い剣撃を紙一重でいなし、隙を見て距離をとり同じく紅い雫で形成された矢で彼の命を奪おうと試みる。
しかし、長弓を形成するのはこれでもう五度目。そして新たに形成した長弓にも既に至る所に罅が刻み込まれていた。
ルーシェは自身に迫る鬼の姿を改めて見、恐怖を覚えた。そして彼女はグァルドのスキルを上辺しか知らなかったことを痛感する。
ルーシェはグァルドのスキルを単なる再配分能力であると捉えていたが、彼の能力は厳密にいえばそうではない。彼のスキルの真価はその再配分能力ではなく、変換能力にある。
今回グァルドが変換したのは生命力であり、生命力は他の十の力に比べ圧倒的なエネルギー量を誇る。
故に本来ならば最大三つにしか配分できないところを全ての力に配分できる上、その全てに十割以上の力が付与することが可能になる。
(……くぅ、一撃一撃が、重すぎる……。あれだけの、命を使ったんだから、相当、強化されている、筈……なのに……!!)
ルーシェは恐れる。このままグァルドに殺されることではなく、グァルドを殺せないことを。目の前で暴走する恩人を救えないことを。
『ちょっと、グァルド!! 落ち着いて!! 落ち着きなさい!!』
力任せに振るわれながらジュスティクスが制止の声を上げるがグァルドには届かない。彼はただ自身の救いを破壊した敵を殺すことしか考えていない。
『エイヴィル!! アナタもグァルドに何か言ってやりなさいよ!!』
『いや、余には小僧を止められん』
『どうして!?』
『……理由を言わねばわからんと言うのか? ジュスティクスよ?』
普段の豪放磊落な気性からは考えられない、深い悲しみを含んだ声でエイヴィルはそうジュスティクスに問う。
『それは……』
勿論、ジュスティクスもその理由はわかっていた。自分の孫が目の前で殺されたのだ、平静でいられる筈がない。そしてその敵を殺そうとしている人物を止めることなどできる訳がないのだ。
『私だってわかってる。でもこのままじゃグァルドは……』
『……うむ。生命力を戦闘力に変換しているのだから放っておけば間違いなく死ぬだろうな』
持ち主の生命力を糧として力を発揮する二人だからこそ、いまのグァルドの状態がまずい状態であることが手に取るようにわかる。
『故にジュスティクス、余と貴様はいま、ただの剣でなければならん。この意味がわかるな?』
『当然よ。この子の命が削られるのをこれ以上助長する訳にはいかないもの』
『それで良い。後は小僧次第だ。余たちは待つしかあるまい』
二人は待つ。自分たちの主が人に戻るのを。グァルドが悲しみと憎しみから解放されるその瞬間を。
グァルドはまるで人ごとのように鬼に成り下がった自分の姿を見ていた。
(これは忌血種が救いを求めた罰なのかもしれないな)
暗い意識の底で一人佇みながらそう彼は呟く。
本来生命力とは不変のものではなく、時間と共に徐々に消費されるものだ。その性質は変換されたところで変わらない。グァルドが生命力の変換によって得た力は時間と共に失われていく。故に戦闘力の低下を防ぐため、いまグァルドは生命力を変換し続けている。
だが、生命力は無限ではなく有限なものだ。そして生命力は魂と同義、それを変換し消費するということは己を消すことに他ならない。このまま全ての生命力を変換し続ければ、いずれ限界が訪れ、グァルドという自我は消え去る。代わりに生まれるのはただの力の塊。鬼という名の破壊をもたらす災厄でしかない。
それでもグァルドは変換することを止めようとはしない。
(コイツを、ルーシェを殺すまでは……決して止めねえ)
グァルドにはオルベルを殺された恨みがある。しかし、彼が生命力変換を止めないのはそれだけが理由ではない。
ルーシェを憎むのと同じくらい彼は自分を憎んでいた。ルーシェを助けたあの日、軽率な願いを口にした自分自身を。
ルーシェがこうなってしまったのも、オルベルが殺されたのも全て自分に帰結する。忌血種は皆が言うように不幸を呼びこむ存在なのだとグァルドは自分を責める。
グァルドは躊躇わない。自分を救おうとする少女に刃を向けることを。死を以てルーシェに安息を与えることを。
まず動いたのはグァルド。エイヴィルの突きによってルーシェの長弓を破壊したグァルドはエイヴィルを持つ右手の勢いを殺すことなくルーシェの左肩に突き立てる。そして間髪入れずに左手のジュスティクスで同じように右肩を刺し貫く。
「ッ!!」
ルーシェの両肩を貫いた後もグァルドは止まらない。そのまま突進し、彼女を城壁に叩きつける。グァルドの突きの勢いは凄まじくエイヴィル、ジュスティクスは城壁をも貫き、抵抗する間もなくルーシェは壁に磔にされる。
そして、磔の状態の彼女の細く白い首に両の手を伸ばし、締め上げる。
「グ……ゥウ……!!」
ルーシェは苦悶の表情を浮かべ、手足を無茶苦茶に振り回す。そうして暴れたところでグァルドが力を緩めることは決してない。彼女の手や足がいくらグァルドの身体を痛めつけようが彼がそれに怯むことはない。
無意味を悟ったのか、次第にルーシェの手足が大人しくなる。また彼女の周りに浮かんでいる紅い雫は首を絞められているせいで上手く操れないのか、ただ顫動を続けるのみである。
「ア……アア…………!!」
「ルーシェ…………これでオマエは救われるんだろう? 一足先に逝って待っててくれ」
そしてグァルドは手にこれまでとは比べ物にならない程の力を込める。いくら強化しているとはいえ、その力に耐え切れる訳もなくルーシェの首は何かを捻じ切ったような音と共に圧し折れた――筈だった。
「……何?」
状況に頭が追いつかない。グァルドの頭に様々な疑問が浮かぶ。
一体何故グァルドはルーシェの首を折ることができなかったのか?
そして一体いつ、グァルドは全能力限界突破を解除したのか?
グァルドがそれらの疑問の答えを得る前に彼の身体は遥か後方へと吹き飛ばされていた。
「グッ……オオオォォオオ!!」
グァルドは何度も地面をバウンドし、優に三十メートルもの距離を一瞬で移動する。
『小僧!!』
『グァルド!!』
ルーシェの両肩に突き刺さったままのエイヴィルとジュスティクスが同時にグァルドに意識を向ける。そしてその直後、二人はグァルドと同じように吹き飛ばされていた。
『ぬぉお!?』
『きゃあああああ!?』
完全に正反対の方向に飛ばされた二人は揃って驚愕の声を上げる。ジュスティクスは城の周りに生い茂る木々に、エイヴィルは大地にそれぞれ突き刺さった。
「……ふふ、びっくり、した?」
グァルドが顔を上げるとそこには戒めを解き、自由の身となったルーシェが地面に降り立つ瞬間だった。
「オ……マエ、何を……しやがった……?」
いまのグァルドにとっては痛みよりも疑問の方が勝るようだ。先ほどのルーシェの攻撃で折れた肋骨が内臓にでも刺さったのか苦痛を噛み殺した声色でグァルドが問い詰める。
「……スタンレイって魔物を知ってる? この城で、魔人の任に、就いていた、魔物なのだけれど」
「生憎と、……知らねえな」
「……そう。魔領の、山の中で、グァルドと、会った、あの日、城外を、警備していた、スタンレイって、魔人を、私が、始末したんだけど、彼の、スキルが、珍しかった、ものだから、さっき、他の人たちを、取り込むときに、一緒に、取り込ませて、もらったの」
「取り込んだ……だと? どういう……ことだ……?」
「……エリゼーが、黒騎士は、実験体だって、言ってたでしょ? グァルドが、初めに戦った、黒騎士には、セリアと、自動反撃の、スキルを持った、弱い魔物を、混ぜて作った」
「な……に……?」
「……ニ体目はヴェイン、アイノ、二人の人間と、『死出峻拒』の、スキルを持った、強い魔物を、混ぜて作った。まあ、どっちも、上手く、安定しなくて、甲冑の中に、液状になった身体を、押し込まなくちゃ、いけなかったんだけどね」
一歩一歩グァルドの元へと歩を進めながら、心底どうでもいいという様子で淡々と続ける。
「……そして、最後は、私。聖領軍の、大勢の人間と、『万物伝達』の、スキルを、持った、使用人の魔物たち、そして、『蒐集奪取』を持った、スタンレイを、混ぜたものを、私に、注ぎ込ませた。結果は、見ての通り、大成功」
「……………………ッ!!」
「……蒐集奪取は、直に接触した、相手のスキルを、奪って、自分のものする、スキル。一つしか、奪えないのが、欠点だけど、これで、グァルドの、三得七失は、もう私のものだよ」
そこまで言い終えてルーシェはようやくグァルドの許に辿り着く。
「……これで、説明は、お終い」
そう言うとルーシェは再び左手に長弓を、右手に巨大な矢を纏わせる。そしてグァルドの額に番えた状態の矢を突きつける。
「……腕力十、再配分」
そして強化した腕で更に弦を引き絞り、万が一にも殺し損ねることのない威力にまで昇華させる。
グァルドは未だ身体に残るダメージによって満足に動くことができず、また逃げても無駄であっただろう。彼女には心申必中のスキルがある。何処に逃げても放たれた矢は追ってくるし、いまは三得七失で強化されている状態だ。致命傷は避けられない。
「……先に、逝ってて。私も、すぐに、逝くから」
最後の言葉と共にルーシェの指が矢から離れ――ようとした。
その瞬間。
グァルドの目の前に閃光が走る。そして当然、鮮やかな紫色で飾られたその電撃はルーシェを一瞬にして飲み込む。避ける暇などない、本当に一瞬の出来事だった。
これは勿論、グァルドの仕業ではない。彼に電撃を放つ力はないし、もし放てたとしてもいまの彼の状態ではこれほどの威力は出せないだろう。
ならば一体誰が?
グァルドは雷撃の放たれた方へとゆっくり顔を向ける。地面には太い一筋の黒い焦げ跡が残っており、雷撃を放った人物を見つけることは至極容易だったといえる。
しかし、その人物を見つけることは容易でも、理解することは困難を極めた。
何故なら、雷撃の発生地。そこに立っていたのは――。
胸の中央に刺さった矢は既に抜け落ち、傷一つない姿で、幽霊のようにフワフワと宙に浮いた銀髪の少女だったからだ。
グァルドが見つめるとその少女も碧い瞳で見つめ返してくる。だが、その目に感情はない。ただ、じっと見ているだけ。
それでもグァルドはその少女の名を叫ばずにはいられなかった。失ったと思ったグァルドの救い。互いに仮面を脱ぎ棄てることを約束した大切な少女の名を。
「オルベル!!」
その叫びに反応したのかオルベルはグァルドに向けて手を伸ばす。
(よかった……、何で生きてるのかはわからねえけど、あれはオルベルだ)
身体のダメージを堪え、グァルドはオルベルの許へと這い寄ろうとする。その歩みは遅く、御世辞にも格好良いとはいえなかったが、それでも少しずつ確かに前進していく。
グァルドには理由はわからないが、いまの彼にとってはそんなことは些細なことだ。オルベルが生きている。それだけで良かった。
前進しながらグァルドもオルベルに向かって手を伸ばす。それと同時に移動による辛さから俯けていた顔を上げた。
彼の目の前に広がっていたのは。
紫電の嵐だった。
「ハッ、ハァッ――!!」
地面に這いつくばった状態でグァルドは息を荒くする。そして、手で顔を触り自身が未だこの世に存在していることを何度も確かめる。
グァルドの身体は間違いなくオルベルが放った紫電の中に飲み込まれていた。あのまままともに紫電をその身に受けていたら確実に消し炭にされていただろう。
紅い巨大な盾。それがグァルドの身を守ったモノの正体だった。
「……良かった、間に、合った…………」
背後を振り返るとそこにはグァルドと同じように地面に伏した状態で、しかし安堵の表情を浮かべたルーシェの姿があった。
「何で……助けた? オマエは俺を殺すことで……救いたかったんじゃないのか?」
「……うん、そう。でも、私の手で、救わないと、意味がない。……いままで、切り捨てた人が、無駄に……、なっ……ちゃうから」
「ルーシェ、オマエ!?」
身体を起こして初めてグァルドは彼女の状態に気づいた。
「……ふふ、初見、だった……から、上手く……、防げなくって……。でも、二回目は……、上手く、出来……た、でしょう?」
グァルドはルーシェが初めの攻撃もいまのように上手く防御していたのだと思っていた。しかしそれは間違いであったことを彼はその目で知ることとなる。
ルーシェの身体で残っているのは上半身のみ。胴から下はまるで元から何もなかったかのような自然さで消失していた。明らかに致命傷であるといえる。
「んなことより早く治癒を――」
「……駄目だよ、そんなこと……、してる……暇、な……いし」
再びグァルドとルーシェの二人を紫電が襲う。既に紅い雫で形成された盾には罅が入りつつあり、完全に壊れるまで幾許の猶予もないことを物語っていた。
「くっそ!! 一体どうすりゃ……!!」
ようやく何とか自分の脚で立ち上がれるまでになったグァルドだが、彼は激しい虚脱感に襲われていた。どうやらルーシェとの戦いで生命力を消費し過ぎたようで、立っているのが精一杯といった様子だ。ましてや戦うなど出来る筈がない。
「……グァルド。……本当に、私……の、……救いじゃ、駄目なの?」
「ああ!? いまはどうでもいいだろ、んなこと!!」
「……お願い。ちゃんと……、答えて」
グァルドは尚も反論しようとするが、ルーシェの目を見て彼女が真剣だということを悟ると苛立ちを隠そうともせずに答えた。
「ああ、駄目だ!! オマエの方法でも確かに安息は得られるだろうよ!! でも、それは逃げてるだけなんだよ!! それじゃあ仮面被って生きてるのと大差ねえ!! 俺は俺として、忌血種のグァルドとして胸を張って生きてえ!!」
いまにも倒れそうな身体を根性で支え、グァルドはそう叫ぶ。
「……あの子と、一緒に?」
「…………おう!!」
「……そう。……わかった」
「……ならとっとと退避だ。このままじゃ死――――あ?」
グァルドは胸に激しい痛みを覚える。彼が訳のわからないまま下に視線を向けるとそこには紅い槍が彼の胸を貫いている光景が広がっていた。
「オマ……エ……」
グァルドはその槍を引き抜こうと手を伸ばすが、それも叶わない。いまの彼に抵抗するだけの力はないのだ。
「……全配分を取消」
「……エネルギーを生命力へ再変換」
槍をその手で掴んだままルーシェが詠唱を始める。
「……万物伝達、……開始」
万物伝達。魔王の使用人を務めあげていたウィニたちのスキル。思念や物質といった万象一切を同じスキルを持った者同士で送受信でき、そのスキルを以て、ウィニたちは使用人独自のネットワークを作り上げていた。
同じスキルを持たない者とは直接接触しなければならないという欠点があったが、いまこの瞬間においてはそんな欠点は無いに等しい。
初めこそルーシェの行動を理解できなかったグァルドだったが槍を通じて徐々に力が満ちてくるのを感じたとき、ようやく彼女の狙いを理解する。
「やめろ、馬鹿!! その傷でこんなことしたら……間違いなく死ぬぞ!!」
「……良いの」
「良くねえッ!!」
「……良いのッ!!」
ルーシェが震える手で槍を掴みながら叫ぶ。
「……もう、助からない……のは、私が一番、わかっ……てるよ」
そう言うルーシェの口からは鮮やかな赤い血が溢れる。自身の生命力をグァルドへ伝達していることで彼女の命が尽きようとしているのだ。
「……私と、グァルドの、救いが……、同じ、じゃ……ない、かもしれない……。そん……なこと、考えも……しなかった、ううん、違う。考えない、ように……、してたんだ」
紅く変化した瞳に涙を溜めながら、しかし決して涙を流すことなくルーシェは言う。
「……私は、もう……すぐ、死ぬけれど、それが、私にとっての……、救いなの。だから、グァル……ドは、何も気にしなくて、良いん……だからね?」
二人を繋ぐ槍に、ルーシェの身体に、罅が幾筋も走る。
「……じゃあ、ちょっと、皆に、謝って……くるよ。たくさん、たくさん、私は、殺し……ちゃったから許してなんか、くれな……い、だろうけど……」
そして悲しい微笑みを浮かべたルーシェの瞳から完全に光が消え、彼女が形成していた盾も槍も、彼女自身も粉々に砕け散った。これでもうグァルドを守るものは何もない。盾が防いでいた紫電がコンマ一秒の間隔すら空けずに襲い掛かる。
そうして再びグァルドは紫電の光の中へと飲み込まれていった。




