序章
『この世は何でできている?』
何故そういうことを思ったかもわからないくらい、唐突に思い立った疑問だった。
この世界に国という概念がなくなり、議会を筆頭にその地域をまとめ発展させた5つの都市を中心に、総ての都市、街を自由に行き来できるようになった時代に、俺こと燐燈遥は暮らしている。
よく「ハルカちゃん」と茶化されるが気に入っている名前だ。
俺は世界に5つある都市の一つ、武力に秀でた都市『暁曉都市レガリア』に住んでいる。
両親は地方の街からの出だが、商売に成功したのか小さな俺を連れて上京したという訳だ。
今はレガリアの下町にあるカフェを経営していて、常連客もできつつあるらしい。
俺は武芸が中心の都市にしては珍しい学校、劉鳳学園に通っている。
名前は仰々しいが、なかなかに楽しい生活を送れている。
「おーい、何してんだ?」
俺を呼ぶのは、上京してすぐに知り合った斎龍佑だ。
住んでいる場所が近いからか、よく一緒に行動している。
「いや、気にするな。少し物思いに耽っていただけだよ。」
「そうか、たまに遠い目をしているから心配でなぁ。何か悩んでるなら、この親友を頼れよ。」
いつもコイツは安請負する癖があるが、何事もやり遂げてしまうのが驚くべき所だ。
「なぁ。」
「ん、なんだ?」
「俺達は親友だったのか?」
「なにぃっ!?昔から遊んでいたのはまやかしだったのか!?」
「ハハッ、冗談だよ。そこまで思いこまなくてもいいだろうに。」
実際にここまで仲のいい友人は、コイツだけかもしれない。
「いやいや、俺はお前に見放されるとまともに生きていける自信がないぞ。」
「なら、ずっと面倒見続けてやるよ。」
「それでこそのお母さんだよ。」
「誰がお母さんだっ!!」
「面倒見がいい所がだよ。」
俺達は笑い合いながら、教室に歩いていく。
「こらー問題児二人組っ、さっさと席に着く。」
「龍佑、呼ばれてるぞ。」
「えっ、俺だけ!?」
「漫才してないで、早く授業の準備しなさいよ。」
彼女は、俺のクラスメートである委員長だ。
委員長と皆が読んでいるせいで、本名を知らないがこれは秘密だ。
「わかってるよ、お母さん。」
「誰がお母さんよ!!まだそんな歳じゃないのに。」
「歳の問題なのか?」
龍佑の言葉にクラスメートが笑い声が湧いた。
その時
外から悲鳴が上がり、校内は急に騒然としだした。
「どうしたんだろう?何かあったのかな?」
「見に行ってみるか?」
クラスメートは面白半分に話している。
しかし、龍佑と俺は異様な空気を感じていた。
「龍佑、クラスを仕切ってくれ。俺は、他のクラスを見てくる。」
「わかった。くれぐれも無茶だけはするなよ、遥。」
「お互い様だよ。」
そういって外へ出ようとすると
「なにしてるのよ、先生を待って指示を仰ぐべきじゃないの。」
「その教師達が混乱していたらどうするんだよ。ここは武芸校じゃないんだ、教師達が正常な動きをできるとは思えないし、自分が大事だからって俺達を見捨てるかもしれない。お堅い委員長には、わからないかもしれないがね。」
「うるさいわね。なら、私も一緒に行くわ。」
「身の安全は保証しないがな、それでもいいなら好きにすればいい。龍佑、情報収集は任せた。」
「わかってるよ。気をつけて行ってこい。」
委員長を連れて他のクラスを回ってみるけど、どのクラスも先生が来ないことで生徒がパニックを起こしていて話を聞くことすらままならない。
「このままだとどうなるんだろうな。」
「どうなるかじゃなくて、どうするかでしょ。貴方達二人はいつも勝手に動いて、結果的に人の役に立っているんだから。」
「まぁ、なんとかするしかなさそうだしな。職員室はもうすぐだな。」
「先生達も何とかしようと頑張ってくれているはずよ。私は信じたい。」
「そうあってほしいと願うのはいいが、裏切られたときのショックはかなりキツいぞ?」
「その時は、貴方が慰めてくれるでしょ?」
「当然。」
委員長と他愛のない話をしながら職員室を目指す。
職員室に近づいた時、中から怒声が響く。
「こんな情報を生徒に公表できるはずがない!!」
「しかし、このままでは生徒や我々の安全の確保が出来なくなります。」
「我々が助かればいい。生徒は二の次だ!!」
ガラッ
「誰だ!?」
「ここの生徒ですよ。今の話は本当ですか?生徒に公表していないことがあるのは。それに、生徒を見捨てようとしているのは。」
「貴様には関係ない、早く教室に戻れ!!」
「あんたは俺の担任じゃないからな。言うことを聞くつもりなんてさらさらない。」
「燐燈くん、もう少しだけ待っててくれるかな?先生も後から行くから。」
「わかりました、先生がそういうのなら。委員長戻ろう。」
「………えぇ、戻りましょう。」
「では、失礼します。」
教室に戻る途中、
「貴方の言った通りね、裏切られるなんて思ってもみなかった。」
「大丈夫だよ。皆待ってるし、俺や龍佑が皆を守るから。」
「そうね、有難う。」
委員長が軽く微笑む。
その表情は、しっかりしていようとする彼女の危うさを表しているように思えた。
「遥、どうだった。」
「駄目だ、教師は自分たちの安全を確保することに必死な奴が多すぎる。自分たちで動くしかなさそうだ。」
「そうか。こっちも色々と調べてみたが、奇妙なニュースばかり流れている。」
その内容は、5つの都市の近郊に見たことのない生物があふれ返っているというものだ。
魔導都市の調査隊が向かったらしいが、連絡が途絶えているらしい。
これは謎の生物が、何らかの攻撃方法を持っている可能性が出てきたということだ。
「燐燈、どうするんだよ、これから。」
「とりあえずは、学園の外に出る。各自家族が無事かどうか気になるだろうしな。」
そういって、クラス全員で学園外に出ようとする。
正面玄関から出てる途中で、
「貴様ら、何やってる。教室に戻らんか!!」
「ゲッ、やべぇ。皆走れ、全力でだ。」
全員が玄関から外に出て、校門に向かおうとすると
前から、奇妙な物が蠢いている。
「あ、あれって。」
「そんな、嘘だろ。」
周りから、口々に絶望していくような声が聞こえてくる。
イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
女生徒が叫び声を上げた瞬間
ザァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
と水が流れてくるような勢いで奇妙な物が流れ込んできた。
「皆、全力で逃げろ!!少しいるくらいなら大丈夫と思っていたが、この数は無理だ。早く!!」
こうなったら取り返しがつかない。俺や龍佑がいれば何とかなる、なんとかしてくれると信じてくれていた人がほとんどだ。それを無理だと感じてしまっては、皆を落ち着かせることも、もう一度まとめあげるのも無理だろう。
「遥、ここはどうする?」
「ここはあえての殿だろう、俺達しか出来そうなのいねぇしな。」
「そうだな、せめて皆は助かってほしいよ。」
「さて、華々しく散ってみせようぜ。」
「了解、行きますか。」
俺達は走り出した。
奇妙な物(ここはモンスターと言ったほうが早いかな?)は、いろんな姿をしていた。
二足•四足歩行や宙に浮いてるもの、地を這うもの、群れを成すものと色々だ。
それぞれが奇妙な鳴き声を発している。
色々いるが全ての物が、俺達に敵意を剥き出しにしているのはいささか厄介だ。
「「うおおおおおおおおおおお!!」」
二人で向っていく。
無謀なのはわかっている、でもここまで皆を率いてきた責任や守らないといけないという義務感が俺達を駆り立てる。
それ以上に生き残ってほしい、「希望」を失わないでほしいという感情のほうが大きいことに気づく。
「皆を………やらせるかぁぁぁぁぁぁ!!」
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
もう感覚がない、そろそろ立ち回りさえ出来なくなりそうだ。
「………龍佑、………生きてるか?」
「なんとか………な。」
助けなんてくるとは思えない状況でここまで戦えたのが凄いことだと思った。
でも、もう無理だろう。
お互いに助け合いながら生き長らえてきたけど、もう体が動きそうにない。
「龍佑、………お前だけでも逃げろ。」
「嫌だ、一緒に帰るんだろ?」
「そう出来るといいな…………。」
そう思い、全身の力を抜く。
最後まで一緒にいられる奴がいたことが、とても嬉しく感じられた。
「遥っ!!」
突然の叫び
目を開けると
「な…とか…たす………れ…た………。」
「そん……な…………………。」
俺の頭の中は真っ白だった。
目の前で血を吐く龍佑、その血を浴びているだけの役に立たない俺。
そして…………龍佑の腹を貫いているモンスターの長い爪。
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
俺は吠えた。
力のなさを思い知らされ、死にそうな友を助けられない無力な己を感じながら。
俺の中で何かが弾けた、俺の意識は闇に飲まれていく。
「ここは?」
『貴方は力を欲しますか?』
『欲するなら、何のためどのように使うかを。』
『そして考えなさい、大切な物達を。』
「俺は、力が欲しい。皆を護れる、敵を殲滅できる力を!!」
「————_——____====___==!!」
俺の口から、聞き取れない絶叫とも慟哭とも取れる音が響く。
誰も、人の声とは認識できないだろう。
『貴方が望むのは、総てを護れると同時に、全てを破壊する力ですか。』
『人の中で一番純粋で、しかし厄介な力です。迂闊に使用できないように枷を掛けておきましょう。貴方の為でもありますから。』
誰かの声は、しっかりと俺に話しかけているのはわかる。
だが、内容が全く入ってこない。
俺の意識は、周りのモンスター然とした肉塊にしか注がれていない。
逆襲が始まった。
全身から憎悪の感情を剥き出しにし疾風のように動く俺を、一匹たりとて補足出来ない。
漆黒の全身鎧を着けた俺は、全力でモンスターを殺し続けた。
モンスターの返り血をいくら浴びようと、平然とし無表情無感情で殺戮を繰り返す。
……………ただ、機械のように。
暫く経って、救助隊が来たのだろう。
「助けにきましたよ、大丈夫ですか?」
「生存者の確認を急げ、ここも攻撃されたようだ。」
「酷い有様だな、これは。」
という、声が聞こえてくる。
他の皆は、………龍佑はどうなったのだろう?
俺が生きているから、他の皆は助けれたはずだ。第一目標は達成できていてよかった。
「りゅ…………す…け。」
「意識があるのか!?誰かこの子に治療を、酷い怪我だ。」
学園の校門に目を向けると、他の生徒が出てきている所だった。
クラスメートの皆や先生も助かったみたいだから、一安心だ。
「君、名前は?」
「…………………………………………………。」
「話せないのか?まぁいい、とりあえず運ぶぞ。」
救助隊員が俺を運ぼうとするが、俺はそこを動きたくなかった。
親友が倒れているんだ、助けず放っておくなんて出来るはずがない。
「……………せ………。」
「なんだって?」
「離せっ!!」
俺はもがいた。
救助隊員も必死なのか、凄い剣幕で押さえようとしているが、俺の力が予想よりも強いのだろう、全く押さえられていない。
その様子を、避難していたクラスメイトや先生が見ていた。
すると先生がゆっくりと近づいてきながら言った。
「すみません、その子はうちの生徒なんです。こちらに預けてもらえないでしょうか?」
先生が両手で俺の手を優しく包み込んで、しっかりとした口調で言った。
「……………わかりました。後はお任せします。」
そう言って、他の隊員が事後処理を終えたのか帰っていった。
「燐燈くん、無茶したら駄目ってあんなに言ったのに。なんで聞いてくれないの?」
「…………龍佑が。」
「龍佑君がどうしたの?」
「死んだ。」
「「「…………………………………………え?」」」
クラスメート全員が同時に声を上げた。
「え、だっていつも遥と一緒にいるだろ?」
「まだ出てきてないだけで、どこかで倒れてるとかじゃないの?」
皆が口々に声を上げるが、俺は返事をしない。
「マジ……かよ………。」
「そんなっ、これからまだ沢山楽しいことあるのに。」
口々に皆が話しているが、俺は聞こうともしなかった。
どうせ俺を責める言葉を発するのだろうと思っていたからだ。
しかし違った。
「遥だけでも生きていてくれたのは正直嬉しいけど、………やっぱり二人で帰ってきてほしかったな。」
皆は俺が生きていることを喜んでくれている。
それがとてつもなく嬉しかった。
「皆……………ありがとう。」
そう言って、俺は立ち去ろうとする。
「何処にいくんですか?」
先生が訊いてきた。
振り返ると、皆が同じような顔をして俺のことを見ていた。
「…………都市の外へ。」
そう言った後、後ろからする静止の声を聞き流して走り去った。
家についたものの、中に入っていく勇気が出せなかった。
今の俺はただの力の塊、しかもいつ暴走するかわからない爆弾のようなものだ。
両親は受け入れてくれるだろう。しかし、いつ暴走してしまうかわからない以上一緒にいるのは危険なことだと、俺が思っているからだ。
背を向けて立ち去ろうとした時、
「遥?」
母さんの声がした。
「お父さん、遥が帰ってきたわ!!」
「そうか、家に入るように言いなさい。」
そう両親が言っているのが、とても嬉しくありとても悲しくあり。
今から立ち去ろうとしていたのに、気づきもせず迎え入れようとしている両親を見て、ずっとそのままでいてほしいと思った。
「ただいま、父さん、母さん。」
「おかえりなさい!」
「よく帰ってきたな。」
リビングのテレビには今日起こったことのニュースが、ひっきりなしに流れている。
モンスターの発生原因も、わかったそうだ。
「各都市の結界を維持する為の中核部分が発生位置だそうだ。総ての都市の中心部に発生できる訳だな。」
「このままだと、この都市も危険かしら?」
「どうだろうなぁ、議会の発表があるだろう。」
二人は俺のことをいつも心配してくれている。
それこそ、過保護なほどに。
だからこそはっきり言うしかないんだ、別れの言葉を。
「……………二人とも、聴いてほしいことがあるんだ。」
二人ともすこし疑問に思ったようだが、きちんと聴いてくれそうだ。
「俺は…………この都市を出て行く、一人で。」
ガッ!!!!!!!!
父さんが無言で顔面を殴ってきた。
「言い訳はしない、何を言われても言い返す言葉がない。でも、もう決めたんだ!!」
「そうか、なら行けばいい。ただし、きちんと準備をしてから行け。離れる最後まで、親としていさせろ。」
父さんも母さんも泣いていた。
無理もない、いきなり息子が出て行くといったんだ。
引き止めたい気持ちでいっぱいのはずなのに、俺の気持ちを尊重してくれる。
「御免なさい……………本当に有難う。」
その日、本当に久しぶりに親子三人で寝たんだ。
安らかに、とてもぐっすり眠れたんだ。
次の日、両親が食料や治療道具を鞄に詰めてくれている。
父さんは無愛想に、母さんは悲しそうに微笑んでいた。
「遥、準備できたわよ。」
「有難う、もう少ししたら出発するよ。」
そう言って身支度をする。
「お前には、何か…………目的があるのか?」
「あぁ、あるよ、父さん。龍佑の敵討ちと、原因の解明。」
「お前一人で出来ると思っているのか?」
「出来るかどうかじゃなくて、やるかやらないかだろ?父さんの口癖だよ。」
「生意気言いやがって……………無事に帰ってこいよ。」
「そうよ、遥。いつまでもここが貴方のうちなんだからね。」
「ありがとう、父さん母さん。行ってきます。」
背を向け、しっかりと一歩めを踏み出す。
ここからは自分一人、頼れるもののない状況に自ら飛び込むけど、再び両親や皆と会う為に必ず帰ってこよう。この都市に。
こうして、俺 燐燈遥の旅が始まった。
自作小説初めてなので中身がイタイ内容だったりしますがそこは容赦してください。
ほんと何を書いた方がいいかも分からないのですがよろしくです。