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春季の疾風

 その日の放課後。

 春の陽気に誘われて眠りこけていれば、授業が終わった頃に目が覚めた。

「おー、じゃーなスティール」

「まったね、スティールくん」

 可笑しそうに笑いながら、獣人、虫族、植物族は挨拶をして去っていく。やがてただでさえ少ないクラスの中には、その半数程度しか生徒が残っていなかった。

 ジャンも、特に慌てるようではないが、カバンに教科書を詰め込み帰宅の準備を開始する。

「ねぇジャン、私たちこれからちょっと遊びに行くんだけど、ジャンも行く?」

 と声を掛けたのはサニーだが、振り返ればクロコを含む女子二人が群れをなして彼女の背後にたむろっていた。おそらく仲良くなったお友達なのだろう。一人は頭に大きなハイビスカスを咲かせ、スカートのように花弁を広げる植物族の女性である。

 仲良き事は美しきかな――さすがのジャンも空気が読める男だ。ここで「行く行く!」と笑顔で大手を振る愚か者ではない。

「あー、悪い。今日はいいや。また今度な。じゃあみんな、サニーの事よろしく頼みます」

 言いながら彼女の頭に手を置いて、冗談っぽく頭を下げる。

 彼女らはくすくすと笑いながら、「いえいえ」だの「こちらこそ」だのと親切に返してくれた。

「サニーちゃんのお兄さんって面白い人だね」

「えへへ、まあね。自慢のお兄ちゃんです」

 妹のような存在だとは思っていた。だがそれでも血は繋がっていないし、そもそもジャンは人間で、サニーは妖精エルフ族だ。まず物理的にありえないことだが、彼女らも”兄のような存在”と聞いてそう口走るのだろう。

 彼は思わず少しだけ驚いてから、納得し、軽く手をあげた。

「それじゃ、また明日」

「うん、じゃーね!」


 もう寒さに怯えることも身を震わせる事もする必要がない春。

 そして労働の必要もない、一日を過ごして僅かな疲弊すらない夕方というのは懐かしすぎて、ある意味新鮮だった。

 ジャンは大きく伸びをして道を歩く。やがて近づく寮の前はスルー。

 トロスは姉と待ち合わせをして帰ってしまったから残念なことに一人ぼっちだが、ここを敢えて利用して街をぶらぶらと観光するという手が残っている。特に城周辺には店も少なく民家もあまりないが、だからこそ興味深い。

 また適当に店を見てまわるのも良いだろう。いかにも暇人で商売の邪魔になるだろうが、なんにしろ今程に落ち着いていて、なおかつ労働が無い日は無いのだから、ただ帰って寝て潰すのはもったいないように思えた。

「ほー。んっとに、いつ見てもすごいな」

 やがて城の前にまでやってきて、思わず足を止めた。

 清々しい程に巨大で荘厳。縁のない場所のようで、騎士になればここに仕えることになるのだ。これからは飽きるほど見ることになるのだろうが、それでもジャンは、それから少しの間目を離せずにいた。

 そんな事をしていれば、やがて風景の中で動く物体に注意が向く。

 それが――不意に空へと高く飛び上がって、こちらに向かってくるものならば尚更だ。

「なっ……えっ、ちょ――」

 ただの鳥だと思っていたが、その姿異様に大きすぎた。そして近づくにつれて、それが翼を大きく広げ楽しそうに空を滑空する女性の姿だというのが見えた。その姿が、ちょうど自分の元に突っ込んでくる事もばっちりと。

 空気を切り裂いて、まるで重力によって地面に吸い寄せられているかのような滑空。楽しげに頬を上げて笑みを作っているものの、瞳はまっすぐとジャンを睨み、瞬く間に切迫。

 息を吐く暇もなく突風と共に迫り、その四本のあしゆびが彼の顔面を掴まんと広げられて――。

「う、わ――」

 頭を抱えるようにして屈み込む。

 直後に鳥人は、暴風をまき散らしながら数メートルほど後方の地面に着地した。翼をバサバサと羽ばたかせて体制を整え、ごく優雅な着陸である。

 心臓が破裂する勢いでバクバクと激しい鼓動を繰り返す。

 思わずへたりこんでその姿を眺めていると、彼女はくるりと楽しげに振り向いた。

 肩に届くくらいのライトグリーンの髪を振って、それからジャンにこれでもかと言うほどの笑顔を向けた。

「ごめーん、驚かせちゃった? でもじっとこっち見てるジャンくんの方が悪いんだからねー?」

 と、まるで自然に名前を呼ぶ彼女にうろたえる。

 彼女はそれに気づいたように、そういえば、と続けた。

「あたしはアエロ。ほら、獣人ボーアの時に居たの、覚えてない? ミキもシイナも会ってるって聞いて、どうもズルイなって思ってさー」

 楽しげにカラカラと笑う彼女は、大きく胸を反らしていた。そしてそこにもフワフワとした羽毛が顔をのぞかせていて、また豊満な胸が笑うたびに揺れていた。

 胸の谷間が見えるような穴の空いた、首を包むように襟がある長袖のシャツを着る彼女は、それ故にその鍛えられ引き締まった抜群のスタイルが浮き出ていた。

 だからいささか冷静になったジャンにとっては、存在そのものがあらゆる意味で刺激的であり、眼を逸らさざるを得なかったわけである。そうすると、自然的に無言になり、

「ん、どうしたの? まだ驚いてる?」

 なんて、未だへたり込んでいるジャンへと屈み込んで、覗くように顔を近づかせた。

「あ、いや……は、ははは。驚きましたよ、突然飛んでくるんですから」

 自分が情けなく赤面しているのを感じながら、精一杯の虚勢を張る。決して動揺せず、平静を装って対処してみるが――無駄だった。

 アエロはそれから自分の谷間に興奮している事に気づいて、ははん、と鼻を鳴らした。

 彼女はあしゆびでジャンの腹を掴むと、そのまま被さるように乗りつけた。

「へぇへぇ、聞いたとおり、異人種は全然、平気なんだ?」

「へ、平気ったって、この街じゃみんな平気でしょう?」

「そりゃ年季が入ってる人はね。ジャンくんの歳だと、慣れてても親しくお友達ってのは珍しいよ」

「あー、そうですね……」

 クラスの中を思い出せば、彼女の言葉通りなのが分かる。

 確かにある程度の会話を交わしたりはする。だが一緒になって遊んだり、遊びに誘ったりなんて事は今までなかった。

「今日は一人なの? いつもあのエルフの女の子と一緒に居るけど」

「ああ、サニーは友達と遊びに出かけて、今日は一人ですよ。暇なもんで、街でもぶらつこうかと」

「へー、それじゃあ」

 と、彼女は翼をジャンにつきつけ、羽毛で鼻先をくすぐってみせる。

 それが妙に淫靡な行動に思えてしまうのは、彼の意識がそちらに偏っているためだろうか。

「お姉さんと二人きりで遊ん――」

 アエロがイタズラっぽい笑顔を向けて、そう口にする刹那。

 それをものの見事に雰囲気ごとぶち壊しにして声を掛ける輩が現れた。

「お、スティール、奇遇じゃん」

 そんな無作法な声に思わず肩を弾ませる。

 驚いたように、肩越しに後ろを振り返り見ると、そこには二人の男が居た。人間の、彼と同じ制服を着る生徒だ。

 加えて説明すればクラスメイトである。

 獅子のタテガミのように逆立たせた髪が特徴的な者や、長髪を後ろで括る者。共通しているのはジャケットを脇に抱えて、ワイシャツのボタンを胸元まで開ける妙に露出度の高い格好をしていることだろう。

 そして一週間過ごしてわかったことだが、異様なまでに異種族に差別的である。

「どしたん、そんなとこで寝そべってて。人外に食われてんの?」

 男が言うのは極めて差別的の台詞だ。だが心の底から異種族を恨んでそう口にする皮肉的なソレではない。単なるその場でのノリであり、悪ふざけだ。

 百歩譲って、人間同士ならまだ伝わる。あまり良い印象を抱いてなければ笑えるし、友達同士なら縁を切る覚悟で制するか、愛想笑いで済ますだろう。

 だが異種族には通じない。

 誰も、見ず知らずの人間に、外見が違う、故郷が違うという事だけで馬鹿にされれば頭に来るだろう。

 ジャンはだから、その刹那に振りまかれた殺意を機微に察知して――足にタップし、アエロに降りてもらって立ち上がった。

 やがて目の高さが対等になる。

 ――頭に来るのは、異種族が大好きなジャンも同じだった。

「なあスティール、たまには人間と遊ぼうぜ? お前学校に来てからずっと人外に付きまとわれてキツいだろ」

「そうそう、今からアクセ買いに行くんだけど、一緒に行かね?」

 馴れ馴れしく肩を掴み、組む。

 不快な体温が服越しに伝わり、ジャンは思わず嫌悪した。

 作法も礼儀も何もない、恐らく義務教育を経て高等教育を受け、以降の六年間をろくに学ばず無為に捨てたのだろう。なぜ合格したのかが不思議な連中だった。

「キツいのはお前らの方だよ」

 ああ、言ってしまった。

 大した葛藤もなかったが、いざ口にしてしまうと何かが崩れてしまったように思う。

 ケンカなんてしたこと無い。だが胸を焼く怒りは久しぶりだ。

 これでクラスでは迫害されるだろうが――構わない。学校にはお友達を作りに来ているわけではないのだ。

 何が起こったか分からないように、ぽかんと口を開ける男の腕を振り払って彼らを引き剥がす。

「あ? お前何言ってんの? 舐めてんの?」

「どんな場所にもお前らみたいなのが居るってわかると、嫌気がさすよ。おれはお前らみたいなのが大っキライなんだ。お前らみたいなのを、なんて言うか知ってるか?」

「は、テメェ調子こいてんじゃ――」

「口が臭いんだよ、ド低能が」

 食い気味で吐き捨てる、およそ口にしたことのない悪意。

 喉が、顎が、四肢が痙攣するように小刻みに震える。自分が何か、とんでもない事をしているような気がしたが、なんだかどうでも良くなってきた。

 男がツバをまき散らしながらジャンの胸ぐらを掴み上げる。もう一方で、手持ち無沙汰の青年は振り上げた拳を、何の迷いもなく彼の頬に振り落とした。

 衝撃が顔面を歪め、骨を伝達して脳みそを激震させる。

 ひどい痛みだ。とても、簡単に決意して相手に与えられるものではない。となれば、彼らはそれに慣れていて、人の痛みを無視して攻撃ができる立派な兵隊なのだろう。

 思わずよろけて跪く、が。

「炭鉱マンの体力舐めんなよ!」

 立ち上がりざまの殴打。顎を殴り上げれば、タテガミの男は大きくのけぞって、よたよたと後退。のちに尻餅をつく。顎から素直に衝撃を伝達されたがゆえに、彼の眼にうつる世界はぐるぐると回っていることだろう。

 さらに長髪の男へと拳を構えるが――。

「やめなさい!」

 翼から離れた羽毛が振り上げた腕に絡みつき、まるで縄のようになって動きを止める。

 それと同時に、アエロが傍らに現れた。

「一発は一発。それ以上はダメ。それに……」

 キッと、先ほどの殺意を込めて彼女は二人組を睨みつけた。

 だが、その殺意の源になる感情は、先程とは大きく異なっているのだが。

「あんた達も分かっているでしょう?」

 ジャンに言い聞かせるものとは大きく変わる、冷淡な言葉。

 そして彼らもソレを感じ取ったのだろう。立ち上がり、衣服の汚れを払う暇もなくバツが悪そうに背を向け、退いていった。


「バカじゃないの? 確かに異人種あたしたちに優しくしてくれるのは嬉しいけど、人間は人間と仲良くしなきゃ、ダメなのよ?」

 広場のベンチで、ジャンとアエロは隣り合って座っていた。

 頬の殴打は大した威力ではなく、口の中を切る事はおろか頬が腫れ上がることすら無い。

「バカって……まあ、感情に流されたのには確かに後悔してますが」

 それぞれアイスを口に運びながらまどろむ夕方。

 アエロに奢ってもらったのは少し恥ずかしいような気もするが、助かったことには違いない。

「でもお姉さん、ちょっと嬉しかったな。ああいう、男気のあるのは嫌いじゃないよ」

「はは、喜んでもらえれば良かったですよ」

 コーンまでを食べきると、アエロは「よいしょ」と立ち上がる。それから腰を曲げてジャンに顔を近づかせると、そのまま舌を伸ばして頬についたアイスを舐めてみせた。

「……っ?!」

「あはっ、こういうのは初めてだった?」

 頬に伝わる熱い、柔らかい感触。鼻をかすめる甘い匂いに、その全てに頭の芯が煮えたぎってしまいそうになる。頬が、顔全体が真っ赤になって、彼女は楽しそうに笑った。

「でもね、お姉さん大奮発してもっとお礼したいんだ。貴方みたいな人は初めてだから。あの獣人ボーアの時のお礼も兼ねて……ね?」

 彼女はそう言って、優しい微笑みを見せた。


「くっ……、あ、アエロさん……もうっ!」

 イキそうだ。

 凄まじい重力が身体に直接振りかかり、さらに全身を凍えさせるような突風の中で、ジャンの意識は幾度ともなく逝きかけた。

 彼は今、地上から遙か高く離れた上空に居た。

 腹を鷲掴みにする鳥足が肉に食い込み、そしてそれを成している足の上には楽しげに空を舞うアエロの姿が。

 なんでも彼女は今日仕事が休みで、暇を持て余していたらしい。騎士にも休みがあることに少し安心したが、彼女が暇つぶしのために誰かを誘おうとしていた所にジャンを発見したという経緯だった。

 そして思いもよらぬ男気あふれる行動に彼女は気を良くして、空中散歩へと相成った。

 聞く話によると鳥人族はある程度の信頼や親密度を築かなければ、こういった共に空を制するような行動は取らないと聞いたから良いことなのだろうが――。

 目が回る。

 下を見るしか無いジャンは暫く前から目をつむっていたが、いよいよ自暴自棄やけ気味になってきて目を見開いた。が、景色がまともな景色として彼の脳に刻み込まれることはない。

「どーしたの? もう限界? まだ三○分も経ってないよ?」

「い、一時間経ってます……」

「あはは、そうだっけ? やっぱり楽しいと時間が経つの早いね。ジャンくんはいい男だし、独占したくなっちゃう」

「は、はは、そりゃどうも」

 呼吸が出来る事が幸いかもしれないが、全身に突き刺さるような突風や、速度やらでいい加減グロッキーになってくる。

 そもそも掴まれ方からして、捕獲された魚かなにかのようだ。

 いくら仲睦まじくなったとしても、これでは恋人同士なんかではなく、獲物と猟師ハンターにすぎない。

「でも、いい景色でしょう? 風も、気持ちいい……」

 速度をやや緩めれば、空中と飛び交う鳥と同じ速度になる。

 肌に触る風は途端に柔らかなものになって、上空からの光景も、いくらか落ち着いて見学できる。

 となると、その新鮮な光景はあまりにも広大で、思わずため息が漏れた。その余裕が出てきた。

「うわ、上空そらから見ても街でかいですね」

 ――円形のようになる外壁の中に存在する巨大な街。空の上からでもその大きさは随分と目立つものだ。

 そこから黄土色の道が草原の中を突っ切り、道の通過点には森が生い茂る。

 またその道とは逆方向、城がある近くから外へと伸びる道の先には海があり、近辺には小さな漁村らしき集落があった。

 大雑把に見れば森の先にも小さな町があり、上空でさえ小さく、豆のような大きさに見えてしまう街がさらのその奥にある。それがジャン・スティールが保護されていたコロンという街だ。

 あらゆるものが小さく見えるその位置で、ジャンは世界の広大さを改めて認識した。

 この広い大地の中で、こんなちっぽけな人間が四苦八苦して生きている。そう考えれば、異種族だとか人間だとか、そういったものが小さく思えてくる。

「はは、アエロさんはいつもこの世界を見てるんですか? 羨ましいなあ」

「でしょ? いいわよ、空は。小さい事がつまんなく思えちゃうもの……あ、そうだ!」

「どうしたん――」

 ポイッ、と。

 ジャンの腹を鷲掴みにする痛みが、不意に喪失きえた。

 にわかに彼を取り巻く重さが失せたと思うと、身体は大地に吸い込まれるように自由落下する。

 風がまた暴風となって全身を嬲り、臓腑が全て浮き上がるような不快感を催した。

「でえええええええええっ!!」

 だからそんな間抜けな悲鳴も気にならず、

「ほら、抱きついて!」

 目の前に、垂直に降りてくるアエロにさえも、何の感情も抱けなかった。

 ただ藁をも縋る思いだ。だから彼女の言葉は既に耳に届かず、ただ手を伸ばし、その細い体躯からだを抱きしめた。

 それから少しの間は速度がやや緩むだけで、バサバサと幾度か翼をはためかせれば、ようやく緩慢に落下し始める。

 豊満なバストに顔を埋めていたジャンはそこでようやく、己の破廉恥な行動に気がついたが――どうしようもなく、その密着体勢のままアエロを見上げた。

「あははっ、ごめんね? 足が疲れちゃって」

「な、なら降りればよかったじゃないですか……」

 どれだけ平静を装っても、激しく高鳴る心臓は彼女に伝わってしまう。そして、それが落ち着いた今でもなぜだか元に戻らない理由さえも。

 彼は再び頬を赤く染めて、横を向いた。

「いい景色なんでしょ? だったらもっと、少しでも長く一緒に居たいじゃない」

 まるで空中で直立するような形のまま、彼女はゆっくり回るように振り返る。景色は、海の方向へと転換した。

「これを見せたかったし、ね」

 海に大陸が飲まれていくような砂浜。その先には、空の色を写す蒼い海が広がり、その先はにわかに赤くなる。

 水平線に身を沈めつつある太陽は、それまで世界を明るく照らしていたソレだった。

 今まで見たことのな光景。

 水面はキラキラと揺れて光を反射させ、どこか偉大ささえ覚える凄まじい風景だ。

 ジャンは思わず嘆息した。

「……すごい」

 としか言えない、語彙のない自分がなんだか情けない。アエロに申し訳なくなってくる。

「でしょう? ヤなことがあったらいつも見に来てるの。でも、今度からはジャンくんを見ればそれがすんじゃうわね」

「な、なぜですか」

「だってこの思い出を共有した相手だもの。貴方を見れば、今日のことを思い出せるし」

 と言いながら、彼女はその翼で、ジャンの頭を包むように抱いた。

「何があっても前だけを見るのよ。後ろに夢なんかないんだから」

 そうして、ゆっくりと空を惜しむようにして彼らは下降する。

 ――奇妙なまでに心に残るその言葉を胸に、ジャンは地に降り立ち、アエロと別れて、急ぐわけでもなく、家路についた。

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