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保護

「ジャンが居ない!」

 まず寝ているテポンの部屋に駆け込んできたのは、タマだった。

 午前三時の出来事である。

 そんな彼女に布団を誘い、落ち着かせると共に散歩に言った旨を説明してやって、

「彼にも色々あるのよ」

 そう、最近晴れない彼の表情を思い出しつつ、タマをたしなめた。

「――ジャンが居ないんです!」

 午前六時。

 ようやく目が覚めて、制服に着替えていると、今度はサニーが扉を開けて入ってきた。瞳は潤い、今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうな程であり、またこの上無く不安な様子で、それを訴えていた。

 そして間髪おかずにオクト、スクィドもやってくる。

 まったく、騒がしい朝だ――そう思いながら、並ぶ三人へと一喝した。

「あの子だって子供じゃないのよ、お腹がすけば帰ってくるわ。放っておきなさい」

 わずか一言のうちに矛盾をはらませた台詞だったが、その点には触れず。

「……しかし、テポン様が最も動揺なされているのでは?」

 見逃さない無粋なスクィドの指摘によって、テポンは初めて自分の手が震えて同じボタンをしめたり外したり、それを繰り返していることに気がついた。

「う、うるさいわね……でも居ないものはしょうがないわ。今日中に帰ってこなければ警ら兵にでも捜索願を出す。これでいいわね?」



「……うぅ……」

 小さな呻き。それがジャン・スティールの存命証明であり、そして間もなく――夢も何もない、暗闇の中から意識が急浮上した。

 ――無意識が、本来鼻腔を刺激する筈だった腐臭や、あの独特な鮮血の錆の匂いが存在しないことに違和感を覚えた。筋肉を硬直させる堅い地面の上に、その肉体がないことを、次いで認識した。

 まず疑問。

 そこからは、ジャンの意識が確認事項を読み上げるように、多くを確認していった。

 指先を動かし、そして両腕の筋肉、肩、首……共に損傷なし。上肢は無事であり、足を同様に確認。問題なし。つまり五体満足だったが――じんじんと、脈拍と共に激痛が肉体に残り続けていた。

 もはや慣れたものだが、無理に起き上がれば耐え切れずに声が漏れる。

 下手に近くに異種族がいれば、太刀打ち出来ずに死んでしまうはずだ――そう考えてから、ジャンは気がついた。

 太陽光が鈍い。正確には本来頭上、寝転がっているならば目の前から降り注ぐその光源が瞼を隔ててもよく分かるはずだったが、まるでまだ日が出るばかりであるように、横方向からの鈍い光を流し込んでいた。

 そしてこの体を包む暖かなもの……これは布団ではないのか?

 風もない、自然が周囲には確認できない。

 ならばここは? まさか、異種族の穴倉に連れ込まれたのか?

 胸の奥がざわめくのを感じて――ジャンは思わず目を開けた。

 視界がぼやけ、だが徐々に鮮明になる。

「……ここ、は――?」

 まず目に入った天井は、板が立体的に貼りつけられていて、空へと高く伸びてゆくような錯覚を覚えた。そしてある一定の高さで壁と壁へ支えとなる棒を伸ばし、その近くには縄が垂らされていた。

 首吊り自害ようのソレかと思えば、その縄には加工された肉が連なって括りつけられていた。保存食としての調理中なのだろう。

 そして顔を横に向ける。ジャンが横たえる寝台の横には小さなローテーブルがあって、その上には綿糸を粗く織った布と、包帯がいくつか置かれていた。その向こうには台所。薪がくべられている調理台の上に乗っている鍋はコトコトと静かに音を立てていて、僅かにずれて置かれる蓋の隙間からは白い湯気を漏らしている。

 何の香りもしないところを見れば、それは単純に加湿のために行われているのだろう。

 ならば、ここは乾燥地帯か――となれば、最後に居た地よりやや東や北方へと連れ去られたのか。

「いや……」

 彼は言葉を言い直した。

 連れ去られたのではなく、”保護”されたのだ。

 明らかにこれは人智が及ぶ作りであり、納屋を改装したであろう狭い室内だったが、それでも生活するには十分な物品で溢れかえっている。台所の下に小さな蓋があるのを見れば、地下収納庫もあるはずだ。

 そしてこの布団。衣服を縫い合わせたものの中には、恐らく羽毛か、綿か。それらが入っていて、敷き布団はシーツ、そして藁が敷き詰められている。

 周囲は小奇麗で……集落や街ではない、おそらく好きでこういった僻地に済む道楽家や猟師といった所だろう。

 異種族の毛皮や骨を採取して加工することは珍しくない。肉だって、野草の選別のように食用として扱えるものとそうでないものがある。今回は残念ながら毛皮や骨格以外に”使える”ものは無かったが……それでも加工技術が確かならば、防寒具として、あるいは武器、ないし装飾品として商品に変えることができた。

 この小屋ではこれから寒くなるにあたって、それを凌ぐ術が少ないから、そういったものを作るのに必要なはずだ。

「やっと目が覚めた。五時間も眠っていたのよ、人様の寝台ベッドで、あんたは」

 足元から聞こえた声に、思わず心臓が跳ね返った。

 息を止め、決してすまいとしていた愚かな行いを――彼は思わず反射的に、身体を起こしていた。

「――っ!!」

 そして暴発する激痛の嵐。どうすればこんなに余すことなく緩急もなく痛みが全身に広がるのか、疑問になるほどの苦痛を覚えながら、ジャンはうめき声すらもらさずに、そのまま倒れこんだ。

「まだ薬も塗ってないんだから寝てなさい。いいわよ、こっちはお陰で睡眠不足だけど、いつかやろうと思ってた薬の精製ができたし」

 やがて目の前に現れ、木目調のローテーブルに腰を落とす影。

 どこまでも冷静で、筋張ったような声はどこか頼れる風もあったが、しかし飽くまで澄んだ女性のそれだった。

 毛皮のベストを着こみ、下には網目のシャツを。太ももまでしか裾がない短めのズボンは妙に光沢を持っていて、されど堅いというわけではなさそうだった。そしてシャツは全身一体のものなのだろう、ズボンの下から足先まで伸びていた。

 彼女はそれを魅せつけるように足を組んで、それからその美貌に見とれるジャンへと屈み込む。

「元気はありそうね」

 言われてから、はっと彼女の肢体を見つめてしまっていたことに気がついて、すぐに視線を逸らす。

「あ。いや……すみません」

 上気したように朱に染まるジャンを見て、くすりと笑う彼女は軽く肩をすくめた。

「いいわよ。ほら、布団どかすわ」

 手に持った器を片手に、彼女は手を伸ばす。そういった所作と共に肩甲骨を過ぎる長い黒髪が揺れて、毛先が彼女の背中をくすぐった。

 彼女は首元に置かれる布団の端を掴むと、力任せに足元へと吹き飛ばす。

 ――闇に似た白目のない黒き瞳。それが柔和に細まって微笑みかける。顔に刻まれた魔術の紋様はいささか女性としては似合わぬいかつさを見せていたが、彼がそれに畏怖することはなかった。

 美女といえる風貌を持つ彼女だが――何かが引っかかる。ジャンはその違和感を覚えていた。

 布団の下には、半裸の上肢。彼女はしなやかな指先で器の塗り薬を掬いとって、まず彼の胸に滴らせ、手を伸ばし、摺り込むように広げる。

 冷たい液体は彼女の手によって温められてぬるくなる。艶やかな手つきは胸から腹へ、そして脇、腕へと這いまわり、そしてくすぐるように渦を巻いてから、しっとりと触れ、押し付けられた。

 粘度の高い樹液のようなそれを肌に摺り込んで、ついで重なるガーゼを数枚てに取って肌に貼りつけ薬液を吸い込ませ、包帯で固定する。

 それを幾度か繰り返せば、上肢のほとんどは包帯に包まれることになった。

「筋肉の酷使が原因ね。幾つかの筋が切れてるみたいだけど、薬を塗ったから一、二週間くらいで完治するわ」

「すみません、助けていただいたみたいなのに、その上こんなことまで……」

 ジャンの言葉に、軽く笑うように鼻を鳴らした。

「ふん、何言ってんのよ。こうするつもりが無かったら、そもそも拾ってこないってのよ」

 テーブルから寝台に座り直し、退屈そうにつま先で包帯の表面を弾きながら、肩越しにジャンを見る。

「……あんたって、どっかで見たことある顔してるのよねえ」

「あ、おれもなんか、見たことありますよ。アナタのこと」

 瞳と同様に黒い塗料を塗ったように黒い爪を持つ彼女は、その指を唇に当てて思考する。果たして、最近は忙しくてまともにヒトと会っていなかったから昔の話だろうが、それでも彼のような顔はまだ記憶に新しい。

 最後にまともにヒトと会ったのはここより東に進んだ位置にある都市である。独立国家ではなく、領地の境目付近にある大きな街であり、コロンの街よりも加工品や武具の製造で有名な鉱山都市である。

 日銭を稼いでのどかに暮らしていたが、その仕事で少しばかり面倒事があって、恒例となるアレスハイム襲撃ができなかったが――ああ、そうか。彼女の記憶はそこで蘇った。

 彼は最後の襲撃の日に会った男だ。

 見ない顔が正義感を奮わせて現れて、妙に頑張っていた。弱いが、なんだか期待させられるような顔が印象的だったのだ。

 だったら――口にしないほうがいいだろう。

 襲撃の理由を話すことも面倒だし、なにせあの国では何人も殺している。せっかく助けたのにこの怪我で逃げられて、自分の目の届かない所で死なれても後味が悪い。

「全然思い出せないわ。ま、お昼を獲ってくるからそれまで寝てればいいわ」

 彼女は立ち上がり、ジャンに布団をかけて背を向ける。扉の前で立ち止まって、そこに置かれるズボンの裾よりやや下まであるヒールが高いブーツを履いて、外へと出ていった。

 残されたジャンは、言われるがままに目を瞑って、未だ肉体に染み付く疲労故に、瞬く間に意識は深淵を転がり落ちていった。



「ど、どういうことッ!?」

「どういう事かと申されましても……説明したとおりで、それ以外は調査中ですが――午後十一時以降の門の開扉は記録にございません。他の手段で街から出るなんて、外壁を飛び越える以外しか……」

 アエロの怒号めいた言葉に、警ら兵はすくみ上がりながらも、調査結果を再び端的に告げた。

 ――ジャン・スティールの捜索願は、その日の正午に”タコ型の異人種”によって提出されたという。記録によれば、その人物はジャンが居候する屋敷のお手伝いさんだ。

 そしてジャンが家を出たとされるのが午後十一時前後。

 現在までで、既に十五、六時間が経過している。

 情報では武器も何も持たず、そして現在街を捜索中だが、手がかりはなく、また今までで誰も彼の姿を見ていなかった。

「……ッ、面倒ね! ッたく! 自分の持ち場に戻っていいわ、この件は私が受け持つから」

「はっ!」

 学校へと向かっていた足を早めて目的地へと急ぐ。

 それを、わざわざ簡単な調査をしてから伝えてきてくれた警ら兵は敬礼をして、その姿を見送った。


「ジャンくんの友達は……」

 既に門から多くの学生が吐き出され始めていた。

 もしかしたらかえってしまったかも知れない。書類を探して、一軒一軒調べるのも良いが……時間がない。それに友人らが何も知らなければ完全に徒労だ。

 わざわざ来てみたは良いが――来なければよかった。

 アエロは己の思慮の浅さに腹が立って、短い舌打ちと共に踵を返す。

 すると、

「あら」

 視線の先に、見慣れた姿があった。

「アエロさんじゃないですかあ。どうしたんです?」

 捻れた角を持つ牛人族の騎士――エクレルは気易い私服で立っていた。薄いシャツは胸元が緩く、故にそこをピンと張れば両肩があらわになってしまう。そんな衣服も、彼女のたわやかでありながらも誇張なくその存在感を大きくしているバストにかかれば、胸元からずり落ちることなくそこにとどまった。

「なによ、乳牛ホルスタインのくせに」

 歩けば胸が揺れる。動けば胸が躍る。アエロにとって彼女のイメージは、まずそこから始まった。

「っと、そんな悪態はいいのよ」

 いつもの事だから、挨拶がわりのようなものだ。それにアエロのエクレルに対する悪口は、局所的な――主にその嫉妬対象である胸に対するものでしかない。

「エクレルはなんでこんな所に?」

「なんでって……今日は仕事が休みなので、”リサ”を迎えに来たんですよ」

「リサ? ……ああ、あのはぐれのね。学校では偽名を使ってるんでしょ?」

「そうですね。へたに”はぐれ”ってバレても可哀想なので」

「そうね。ったく、優しいわねー、胸も大きいし」

「かっ、関係無いですよそれ!」

 そんな発言に思わず両手で胸を抱くようにしてそれを隠し、動揺混じりに、ソレより、と話題を転換した。

「アエロさんだって、なんで学校なんかに……?」

「実は、ジャン・スティールを探しているのよ。なんでも失踪しただとか、なんとかで――」

「――え、エクレル! な、んで……こんな所に!」

 会話を遮ったのは、不意の闖入者。

 それは尾を力なく垂らしているクリィム――リサの姿だった。

 真っ赤な髪は鮮やかだったが、同様に真紅の瞳は、されどくすんでいるようだ。それが感情と共に変わるのならば、やはり尾と同じに元気がなくなっているという事だろう。

「なんでって、迎えに来たんですよ。みんなして……そんなに私が迎えに来るのが不思議なの?」

「い、いや、そういう訳じゃないが……お前は?」

 リサは、そしてエクレルは共に歩み寄って並ぶ。そうする中でリサはアエロの存在に気が付き、エクレルと話をしていたらしい事を思い出す。

 声をかけられて、再び思惑の海に飛び込もうとしていた彼女はリサに目を向け、立ち直った。

「アエロよ。エクレルと同じ騎士団をやらせてもらってるわ」

「そうか。昨日の甲冑の男と関係があるのか?」

「昨日の甲冑? ……ああ、まあね。ジャン・スティールを探しているんだけど、知らない?」

 昨日の甲冑の男はジャンを校舎から校舎裏の武器庫へと連れてきた使いっ走りだ。

 と言うか、まだ昨日の事なのか――イヤなまでに長く感じる昨日と今日を振り返って、アエロは思わずため息を漏らした。

 そしてまた、彼女の言葉にリサが眉間にシワを寄せる。右腕が、徐々にハサミへと変化し、尾がいきり始めているのをアエロは見た。

「スティールが、どうしたんだ?」

「こっちが聞きたいわよ。学校には来てなかったんでしょ?」

「ああ。サニー……ヤツの妹の話では、朝起きたら居なかったと。心当たりも無いようだ。当然私も分からないし、他の連中も同様の反応を見せた。だからてっきり、お前らがどうこうしたのだと思っていたのだが……違ったのか?」

 怪訝な表情で、疑るような声色で、彼女は言葉の裏でアエロを責めた。

 しかし訊くまでもなく全てを説明してくれた彼女に軽く頭を下げてから、首を振った。

「知らないわ。彼の行動は単独で、そして突発的なもの。現在は、なんらかの手段で街の外に出たという事が有力とされている」

 本来ならば一般人には与えない情報だが――この国ではそういった機密はごく重要でない限りは曖昧に流れ出している。それを取り締まる法律はないし、注意する警ら兵も居ない。

 簡単に言えば、このアレスハイムという国はごく限定的で危機敵状況こそで本領発揮できる法がなされていて、大した事件や事象でなければ、多くは警ら兵などが対処して終える。それは、この国が根本的に治安がよく平和な国であるからだった。

「じゃあ昨日、スティールに何を吹き込んだ。精神的不安から暴走したんだろう。そのきっかけを、お前達が与えたんじゃないのか?」

「――仮にそうだとしても、もう遅いわ。彼の安全を祈るしかない」

「よくそんな口が利けたものだな? 外から中に入ってくる者には厳しく、大切な国民が情緒不安定からの暴走で外に飛び出れば無関心か。だからムカつくんだよ、この国は。体裁よく”溝の連中”と”交友”しているみたいな事をっているようだが――」

「そんな話は知らないわね。そうやって”ひねた”考え方をしているから、はぐれなんでしょう? どちらにせよ、そんな話を異人種どうるいに語った所でなんにもなりはしないわ」

 食い気味に言葉を遮り、高ぶった心が挑発的にリサに言葉を返した。

 どちらも冷静とは言えない。生産的とは言えぬ言い合いに、エクレルは静観していたがなんとか止めようとわたわた動くが、どうすればこの事態を沈静化できるのか……彼女にはわからない。

 そうして、各々の胸に渦巻くそれぞれの憎しみが火花を散らし、にらみ合いが続く。が、それを解いたのはアエロの方だった。

 翼を広げ、大きく上下させれば――風を起こし、高く跳躍して翼を動かせば、間もなく風を起こし、風に乗り、彼女は空に舞った。

「悔しかったら強くなって、国を――あなたの理想を現実に反映できるようになりなさい。あなたは、それが出来るところを目指しているんだから」

 彼女はリサに言葉を残し、さらに空高く飛び上がって、姿を消した。

 残された二人は、それぞれ彼女の言葉に思うところを見出したのか、だまりこくり、それから誰ともなく歩き出して、帰路についた。


「なに、これ」

 門付近の建造物の屋上。平たい、家屋内からそこへと出られるようになっていて、さらに固められているちょっとした広場にも使える場所だ。そしてその末端部分はヘリとなっているのだが――その一部が砕けて、周囲に破片をまき散らしていた。

 人為的な破壊だ。そして破片は、屋上の端まで飛んでいるところを見れば、さらにその先、地面にまで落ちていることは確実。ならばその破壊力は相当なものだった筈だ。

 ここを殴り飛ばして、その勢いで高く飛び上がって……。

「いや、現実離れしすぎでしょ……」

 どんな強靭な拳とでたらめな腕力を持っていれば、それが可能となるのだろうか。そう自嘲気味に考えて、ジャン・スティールはそれが出来るはずだという理解に至った。

 彼は肉体強化魔術パワー・ポイントを持っている。それがどれほどのものかは知らないが――わざわざ魔方陣としてそれを得ているならば、精錬されきった魔術と考えて間違いはないだろう。

 可能だ。

 自棄になっているなら、自暴自棄気味ならばその確率は格段に上がる。

「……もうッ、もうもうッ……物分りの良い子だと思ってれば、面倒臭い子ね!」

 彼女は手ぶらで外に出た時の危険性を良く知っている。戦闘面での実力を持てども、それが未だ未熟であると判断されていれば尚更だ。

 一般人ならば、異種族と接触して――五分以内に死に至る。基本的にはそう言われている。ある程度の戦闘経験があればその時間は伸びるが……魔術を持たぬ限り、異種族にもよるが、それに勝利し、あるいは逃げ切れる可能性は極めて低い。

 彼女は再びそら高く飛び上がると、迷いなく外へと飛びさって行った。

 西の空は、早くもその景色を朱に染め始めていた――。

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