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ギルド → 追放(一方通行) → 市場

「ユート・ピアソン。本日付で君を解雇する」



『はい?』



冒険者ギルドのギルド長室。

呼び出された俺は、思わず間の抜けた返事をしてしまった。



「聞こえなかったのかね? 君はクビだと言っているのだ」



『理由を伺ってもよろしいでしょうか?』



「君の仕事が終わったからだ」



『はあ。』



なるほど。

確かに、俺が担当していた仕事は終わった。


俺の名前はユート・ピアソン。20歳。

冒険者ギルドの嘱託職員として、街周辺の地形調査を担当している。

固有スキルは【マッピング】。


一度訪れた場所を、半透明の地図として視界に表示できる能力だ。

例えば、今も俺の視界にはギルド長室の見取り図が浮かんでいる。


机、椅子、扉、窓。


自分の現在位置まで分かる。

もっとも、地図に表示されるのは俺自身が実際に足を運んだ場所だけだ。

知らない場所は空白のまま。

戦闘能力が向上するわけでも、魔物を倒してくれるわけでもない。

要するに、地図が見えるだけのスキルである。

だが、地形調査には非常に便利だった。

普通なら測量器具を持ち歩き、何人もの調査員で確認しなければならない地形を歩くだけで把握できる。

俺はこの能力を活かして冒険者達の旅に同行し各地の地図を整備していた。


仕事は順調で街周辺の地図作成は予定よりも大幅に早く完了した。

なので、これから情報共有の為のハンドブックを制作する段取りだったのだが。



『つまり、完了の目途が立ったので契約を終了するということでしょうか?』



「そういうことだ」



ギルド長は大きく頷いた。



「君は予想以上に早く地図を完成させてしまった。

これ以上、給料を支払う理由がない」



『なるほど。

では今期の満了金は貰えないと?』



言いたいことは分かった。

俺が早く仕事を終えたので、残りの人件費を節約したいということらしい。

ちなみに、目の前のギルド長は最近赴任してきたばかりの天下り役人。

前任者とは面識があったが、この人とは今日が初めてのまともな会話になる。



『では、引き継ぎについてご相談したいのですが。』



「引き継ぎ?」



『はい。

地図の維持管理に必要な資料が、まだ完成していません。

数日いただければ、後任の方が困らないように整理できます。』



「必要ない!」



ギルド長は即答した。



「地図は8割以上完成してるじゃないか。

もう専門家を雇うメリットはない段階だよ。

後は冒険者達に片手手間でやらせればいいだけだ。

そうやって賃金を水増ししようとしても無駄だよ。」



『いえ、地図というものは定期的な更新やメンテが必要でして。』



「そんなことは知っている!」



ギルド長は不機嫌そうに鼻を鳴らした。



「更新が必要になれば、そのときに冒険者を派遣すれば良いだけだ。」



『一応念を押しておきますが、調査済みの区域には…」



「くどい!」



机が叩かれた。



「君はもう必要ないと言っているのだ!

この私が着任した以上、冗費は認めない。

経費さえ削減すれば幾らでも利益は上がるんだよ!!」



やれやれ。

聞く耳持たずか…

じゃあ、去るか。



  「お待ちください!」



部屋の隅から響いた声。

受付嬢のクレア・ベルモント。

俺の調査報告書を取りまとめてくれていた担当者。

明るく快活なので冒険者達の憧れの存在である。



  「ギルド長! 

  ユートさんの解雇には反対です!」



「なんだね、ベルモント君?」


 

  「彼がどれほどの成果を上げたか、ご存じなのですか!?」



クレアは抱えていた書類を机に広げて、俺の地図製作の重要性を説いた。

俺が内心感心したのは、彼女が長期的かつ広範な視野で冒険者業務を把握している点だった。



  「御再考を願います。

  これほど優秀な人材を、引き継ぎもさせずに

  追放するのは明らかな損失です!」



「無能な人材に余計な給料を支払う方が損失だ!」



ギルド長は俺を指さした。



「そもそも、【マッピング】などというスキルは戦闘で何の役に立つのだ!?」



『戦闘能力を高める効果はありませんね。』



俺は正直に答えた。



「ほら見ろ!」



やれやれ。

これ以上の議論は無意味だな。。

俺としては、雇用契約を終了すること自体に異議はない。

雇用主が必要ないと言うのなら、別の仕事を探せばいいだけだ。



『では、俺はこれで失礼します。』



「ふふふ。

分かればいいんだよ。

言っておくが、食堂や売店の使用も禁止だからな。

当然、職員用の宿所も本日中に退去だ!

私物の残置はゆるさんからね!」



『え?』



「当たり前じゃないか。

君はもう部外者なんだから。」



そこまでやるかね、普通。

余った食券どうしよう…



『…承知しました。

施設への立ち入りは致しません。』



  「ギルド長!

  それは困ります。」



「ベルモント君。

そりゃあ彼は困るかも知れないが、これも規則だからね。

仕方なかろう?」



  「いえ! 

  弊ギルドの損失があまりにも!」



「ええい!

くどい!!

私が追放と言ったら追放だ!!

これは決定事項!!

はい、! この話は終わり!!

終了! 解散!!」



天下り役人の通弊なのだが、反論に耳を傾ける辛抱強さが、このギルド長にもない。

俺はバッグを背負うとそのままギルドを後にした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ユートさん!」



ギルドの建物を出ようとしたところで、クレアが追いかけてきた。



「ちょっと待ってください!」



『はい?』



「本当に、あれでよろしいんですか!?

あんなの明らかに雇用法違反ですよ!」



『まあ幾ら法律があった所で、トップに守る気が無いのなら無駄でしょ?』



「…ユートさんがどれだけギルドに貢献してきたか、あの人たちは何も分かっていないんです。」



『クレアさんは分かってくれていたじゃないですか。』



「え?」



『それだけでも十分です。』



俺がそう言うと、クレアは黙り込む。



『でも、解雇されたこと自体は、そこまで悪い話でもないと思っているんですよ。』



「どういうことですか?」



『これからは、自分で仕事を選べますから。

年齢的にも下積みは十分かな、と。』



今までの仕事に不満があったわけではない。

給料は安定していたし、地形調査も嫌いではなかった。

ただ、冒険者達に同行しているうちに気づいていた事がある。


俺の方が彼らより冒険者仕事に向いている、と。

これは優劣の話ではない。

俺のスキルは冒険者仕事と非常に親和性が高いのだ。

なのでフリーハンドでやらせて貰えば、俺の方が楽に稼ぐ事が出来るだろう。

最近は漠然とそんな事を考えていた。

幸い、色々な冒険者の仕事を間近で見学し、近隣の殆どの街を見聞した。

俺は恵まれている。



『当面はフィールやダンジョンで薬草や素材を採集しようと思います。』



「採集をするんですか!?

魔物だって出るんですよ!?」



『もちろん、無理に戦うつもりはありません。』



子供の頃から自覚していたことなのだが、気質的に俺は闘争に向かない。

多分、些細な優劣に興味がない所為だろう。

或いは他者への情や関心が乏しいのかも知れないな。



『お気遣いありがとうございます。

短い間でしたが、同僚にクレアさんのような方がおられて幸運でした。』



「困ったことがあったら相談してくださいね! 

私にできることなら協力しますから!」



『それは心強いですね。

では、俺はここで。』



「またお会いしましょう!」



勿論、辞めた職場の人間と会うつもりはない。

互いにとってコンプラ違反だからな。

最後に余っていた食券をクレアに手渡す。


ぎゅっ。


遠慮がちなクレアに握らせた、その瞬間。



【マッピング経験値を獲得しました】



視界の隅に文字が浮かんだ。

え?

どうして、このタイミングで経験値が入るのだ?

いや、ここは冒険者ギルドの玄関だぞ。

新しい地形情報など取得していないはずだが。


誤作動?

珍しいな、こんなのは初めてだ。


まあ、どちらでもいい。

大した問題ではないだろう。



「……あ。」



『……はい?』



クレアが小さな声を漏らした。

そして、俺の手を食券ごと握ったまま動かなくなった。



『……クレアさん?』



「……えっ!?」



彼女は我に返ったように顔を上げた。



「あ、いえ! 何でもありません!」



『……そうですか?』



「は、はい!」



クレアは慌てて手を離した。

何故か、頬が赤い。

……熱でもあるのだろうか?



「……あの。」



『はい?』



「……また、お会いできますか?」



『ええ。

当面はこの街で暮らすつもりですので。』



「……本当ですか?」



『街で会ったら気軽に声を掛けてください。』



「……はい!」



クレアが嬉しそうに笑ったので、俺の中で一段落。



「……では、また!」



『ええ、お元気で。』



俺は手を振り、ギルドを後にした。

特に感慨はない。

ありふれた解雇風景だ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



宿所では寮母さんに驚かれたが、荷物の回収は無事に済んだ。

小さな日常品などを買取屋に2万ウェンで売却。

(足元見られたなー。)

最後に退去届に押印して完了。


こうして、俺の冒険者ギルド勤務は終わった。

ちなみに、俺が作成した地図はすべて提出してある。

調査報告書も提出済みだ。


だから、引き継ぎ書がなくても、しばらくは問題なく運用できるだろう。

但し地図の更新方法や、調査情報の管理手順については、まだ十分に文書化できていない。

そこだけが少し気がかりだった。

まあ、俺が心配しても仕方ないか。

ギルド長が必要ないと判断したのだから、きっと何か考えがあるのだろう。


俺はそう結論づけて、市場へ向かった。

明日からはダンジョンに潜るつもりだ。

職員用宿所に戻れない以上、急いで生活基盤を整えなくてはならないからな。

だから、まずは冒険用の保存食を買っておかなくてはならない。


幸い、俺の【マッピング】には、まだまだ探索できる場所が残っている。

ギルドが調査指定を見送った零細ダンジョンなどは手つかずだからな。

未踏破の区域を歩けば、スキルの経験値も増える。

俺にとっては潜るだけでも、それなりのリターンはる。



『よし。明日から頑張るか。』



市場で知り合いのおばさん達と雑談し、薬草の買取相場が高騰している話を聞く。

ふむ、幸先が良いな。

素人の俺でも1日5000ウェンは稼げる。

当面、食いっぱぐれはなさそうだ。



「ユートちゃんは本当にのんびり屋さんねえ。

クビになったんだから、もっと緊張感持ちなさいよー(笑)」



『あはは。

善処します(笑)』



この時の俺は、まだ知らなかった。

【マッピング】が自重を考えてしまう程のチートスキルだったことに。

ましてや、自分が王になるなど夢にも思っていなかった。

何故なら栄光のロードマップは、この日に始まったばかりだったのだから。




to be continued ⇒

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