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【短編】あの……、私は聖女じゃなくて魔法少女ですよ? ~勝手に召喚しておいて追放?魔王様の方がよほど良心的なので、悪は成敗しちゃいます!~

作者: 月追める
掲載日:2026/07/17


「なんだそのハレンチ極まりない格好は!お前のような女が聖女のはずがない!」


 そう叫んだのは、壇上に立っているこの国の王子……確か、エンゲイル・ド・リュグナールって名乗ってたっけ。その人が私を指さした。


 周りで見ている大人達も、顔を顰(しか)めてこちらを睨んでいる。


 いや、私、自分が聖女だなんて一言も言ってないんだけど?


 それに、そっちが「“変身”とやらをしてみろ」って言ったんじゃない!私だって、このスカート丈は流石に短いと思ってるよ。でも、ちゃんと下にフリフリのドロワーズは穿いてるし、そもそもあんたに言われる筋合いなくない!?


 彼らの理不尽さに、私は我慢ならず声を荒げた。


「だから!私は“聖女”じゃなくて“魔法少女”だって言ってるでしょ!?この服は、正式な魔法少女のコスチュームで……!」

「煩い煩い!聖女じゃないのなら、お前に用はない!即刻、ここから出ていけ!」

「はぁ!?」

「衛兵!早くこの痴女を城から追放しろ!!」

「「「はっ!」」」


 王子が命じると、衛兵達が私を取り囲んで腕を掴んだ。怒りのあまり、ここで戦ってしまおうかという考えが頭をよぎる。


 でも、この力は自分本位で使っちゃいけない。世のため人のために使う力なんだから。


 そうして唇を噛みしめて我慢している間に、城の外へ追い出されてしまった。


 目の前に広がるのは、見たこともない景色。小説や漫画のような世界。

 

 私は――あの人達によって異世界に召喚され、追放されてしまったの。聖女じゃないって理由で。


「そっちが勝手に呼び出したくせに!それならせめて元いた世界に戻してよ!いくら魔法少女でも、次元の渡り方なんて知らないってばぁ〜っ!!」




挿絵(By みてみん)




 私、黄金井(こがねい)千星(ちせ)。この春、高校三年生になったばかりで、魔法少女ピュリチアーズのイエローを担当している。


 私の生きていた世界では、戦隊ヒーローや魔法少女は当たり前のように認知されていて、憧れの存在なの。


 でも、誰もがなれるわけじゃない。心からなりたいと願っている人達の中から選ばれて、その人にだけ力が授けられるんだって。魔法少女のチームに一体与えられる、お助けマスコットからそう教わった。


 あぁ……プーチアに会いたいなぁ。


 確かに私、保育園や小学生の頃のなりたい職業には必ず『魔法少女』って書いていたし、魔法少女に選ばれた時は嬉しすぎて卒倒しちゃったもん。

 

 魔法少女は、中学一年生から高校三年生の六年間だけ。だから、あと約一年で任期を終えて、魔法少女に選ばれた次代の子達に役目を引き継ぐはずだった。


 ――それなのに。


「どうしてこんなことになっちゃったんだろ……」


 肩を落として独り言ちる。


 あのバカ王子や周りの人達は、どうやら“魔王”を倒すために“聖女”を召喚したかったらしいの。


 でも、突然見知らぬ場所に転送されて、「おぉ、成功したか!この者が聖女なんだな!」なんて言われたら否定したくなるでしょ?


「あの……、私は聖女じゃなくて魔法少女ですよ?」


 って。だって私、聖女じゃないもん。そうしたら、全員の目の色が変わったの。


 魔法少女とは何だと問われたから説明して、変身しろと高圧的に命じられて……。


 だから私は、両手首に付けている変身アイテム――キラキラのリストバンドを掲げて、変身してみせたの。


 シャンシャンシャララ〜とどこからともなく音楽が流れて、魔法少女の衣装に早変わり。そうしてキメ台詞を高らかに叫んだ。


「爽やかな酸味で目を覚まさせてあげる!魔法少女、チアレモン!」


 いつもなら、「あっ!ピュリチアーズだ!」「魔法少女が来てくれた!」って、みんな喜んでくれるところなんだよ?


 ――でも、向けられたのは、嫌悪感や忌避感。結果、城から追い出されてしまったの。おかしくない!?


 今代の魔法少女のテーマは“チアリーディング”。悪を浄化し、人々の未来を応援するの。

 

 そんなわけで、歴代の魔法少女のコスチュームと比べれば、群を抜いてスカート丈が短い。


 だから、「ハレンチ!」って言うのも分からなくはないんだよ?


 でもでも!そっちが変身しろって言ったのに!理不尽すぎるでしょ!



 私は一度変身を解いて、城から少し離れた下町の道端に座り込んでいた。私の服装が珍しいのか、みんな訝しげに一瞥して素通りしていく。制服ですら、この世界では異質みたい。


「みんな……」


 ぽつりと呟くと、魔法少女ピュリチアーズの仲間達……五人の顔が思い浮かんで泣きそうになってしまう。


 同じクラスにいるチアチェリーは、突然私が消えたから驚いているに違いない。悪の手先の仕業かもしれないって、今頃みんなで私を探しているだろう。

 

「何処を探しても、悪の手先を問い詰めても、私がいないって知ったら……みんな心配するだろうな」


 いつもなら絶対に嫌なのに、悪の手先に捕らえられただけだったらどれほどよかったかと思ってしまう。


 だって、まさか異世界に召喚されてしまうなんて……。


 私が抜けてしまったら、激化している悪の手先との戦いだって、五人の負担が増えてしまう。それにこのままだと、私は最後まで役目を全う出来ずに、魔法少女の任期を終える可能性だってある。


 悔しい……悔しいっ!でも、今の私に出来ることなんて……。


「……ううん。私は魔法少女ピュリチアーズの、チアレモンだもん。どんな状況に陥ったって、挫けちゃいけない……っ!」


 瞼を閉じれば、仲間の声が聞こえる気がする。みんななら、「負けないで!」「前を見なきゃ!」って、絶対に励ましてくれるから。


 目を覚ますために、両手で頬を軽く叩く。パンッ!と軽やかに弾けるような音が響いた。


 そして私は、バカ王子の主張を思い返した。


「この国――リュグナール国の人達は、魔王や魔族に苦しめられている……って言ってたっけ?」


 魔王や魔族は、この国の人達を脅かす悪しき存在らしい。辺境の地を襲っては領土の拡大を試みたり、人間の子供を攫ったりしているとか。好戦的で享楽的。常に争いの絶えない種族だと話していた。


 だから、異世界から“聖女”を招き、国を救ってほしかったのだ、と。


 それなら、私のすべきことは――。


「私は聖女じゃないけど、別に魔法少女が魔王を倒しちゃ駄目……なんてことはないよね?この世界の人達が困ってるなら、魔法少女としての役目を果たさなくちゃ!」


 私は立ち上がって、人目のない細い路地に入った。


 再び変身し、リストバンドの宝石をタップして、チアバトンとチアポンポンを取り出す。バトンの下側にポンポンを取り付ければ、空飛ぶ箒ならぬ空飛ぶバトンになる。


「魔王なんてすぐにやっつけて、絶対に帰る方法を見付けてみせるんだから……!」


 私はそれに跨って、魔王が治めるという魔の国へ向けて飛び立った。




 ――のだけれど。


「どういう、こと……?」


 魔の国に着いてみれば、聞いていた話とまるで違ったの。


 市場では、魔族が食材や生活用品を売り買いし、親が子供の手を引いて歩き、友人同士で談笑している。


 何の変哲もない、だからこそ素晴らしい平和な光景。人間の営みと変わらない、平穏な生活が広がっていたのだから。


 それに、地上に降り立った人間の私を見ても、魔族は襲ってくることも、捕まえようとすることもなかった。好戦的で享楽的。常に争いの絶えない種族って聞いていたのに。


 ……格好が物珍しいからか、私が人間だからか、ジロジロと見ていく者達はいたけど。


 でも、それを言うならお互い様なんだろうな。


 彼らの頭には鬼や羊のような角が、もしくは背中には鳥や蝙蝠のような羽が生えているの。時々、手足が人の形とは違う者もいて……。初めて魔族と遭遇した私は、彼らをまじまじと眺めてしまったから。


 最初、びっくりしたのは間違いない。でもね、暫く眺めていて思ったの。違うのは見た目くらいで、魔族も人間とそう変わらないんじゃない?って。


 こんなの、出鼻をくじかれたどころの騒ぎじゃない。なんとか見付けた魔法少女としての意義が、すぐに打ち砕かれてしまったんだから。

 

 今の彼らを見る限り、魔族が悪しき存在だとは思えない。だから、どうして魔王を倒さなくちゃいけないのかも分からなくなってしまって。


「私、なんのためにこの世界に召喚されたんだろ……」


 私は、またしても肩を落として打ちひしがれるしかなかった。



 とぼとぼと魔の国を彷徨い歩いていると、小さな公園に辿り着いた。ベンチに腰かけ、ぼんやりと空を見上げる。


 空は綺麗に澄んだ青色で、拍子抜けにも程があった。自然と涙が込み上げてきて、ぐっと堪える。


 魔の国って聞いていたから、瘴気が濃すぎて人間には立ち入れない場所!とか、太陽の光が届かない常に暗い国!……なんて想像していたのに。とっても普通なんだもん。


 その瞬間、ぐうぅ……と虚しくお腹の音が鳴った。

 

「お腹、空いたなぁ……」

 

 怒涛の展開で、これまではアドレナリンが体中を駆け巡っていたのだろう。けれど、魔の国を直に見て緊張が解けてしまったせいか、体が空腹を訴え出したの。


 でも私、無一文なんだよね……。


 それに、オカルト好きなチアグレープが、


「“ヨモツヘグイ”って言って、異界の食べ物を口にしてしまうと、その世界の住人になってしまって元の世界に戻れなくなっちゃうの。確か、有名なアニメ映画でもその要素を取り入れていたよ」


 なんて話していたことを思い出してしまった。


 私、これからどうしたらいいの?こんな知らない場所で、みんなの元に帰れないまま、飢えて力尽きてしまうのかな。


 怖い。怖いよ……。


 そんな恐怖で僅かに俯いた時、足音が聞こえた。ハッと顔を上げて警戒する。


 少し離れたところに立っていたのは、小学校低学年くらいの幼い少年だった。小さな二つの角が頭の先からぴょこんと生えている。


「こ、子供……」

 

 そういえばここ、公園だもんね。少しだけ肩の力を抜いて、少年を見つめた。


「お姉さん、こんなところでどうしたの?」


 きょとんと首を傾げる少年の瞳は真っ黒で、髪も艶やかな漆黒だった。美少年でとても可愛らしい。元いた世界で見慣れた瞳や髪色が嬉しくて、なんだか無性に抱きしめたくなってしまう。


「お姉さん、人間だよね?誰かに連れてこられたの?」

「……そうじゃないよ、大丈夫。でも、その……魔族は悪い生き物なの?人間を連れ去るような者もいるの?」


 私は口にしてから、子供に質問するような内容じゃないよね……と思ったけれど、少しでも情報がほしくて返事を待った。少年は「うーん」と考えたあと、こう言った。


「魔族にも悪さをするやつはいるとは思うけれど、別にそれって人間も同じじゃないの?」

「!」

「よ……ボクは、優しい魔族を沢山知っているよ。だから、“魔族”とか“人間”とかじゃなくて、“悪いことをすれば悪者”だと思ってるけれど。でも人間は、魔族全てを嫌っているよね」


 少年は目を細めて、じっと私を見る。私は決して、この子の言う“人間”とは違う。勝手に決め付けて、誰かを悪とすることなんてしない。


「違う!私は……っ」


 頭を振って否定したところで、またしてもぐうぅ……と間抜けなお腹の音が響いた。慌ててお腹を抱えてももう遅い。あぁ、恥ずかしいっ!


 目をまん丸にした少年は、ぱちぱちと瞬いたあと、とてとてと走り去っていく。「待って!」と声をかけたけれど、その影は次第に見えなくなってしまう。


「もっと、魔の国について教えてほしかったな。これからどうしたらいいか考えたかったし……」


 私の勝手な都合だけど、少年と話すことで頭の中を整理したかった。


 ……人は、飲み食いせずどれくらい生きていられるんだろう。それに、食事だけじゃない。帰る家もないから、眠る場所さえないこの状況。


 魔法少女だからって、そんな時まで明るく前向きに……なんていられない。


「帰りたい。帰りたいよぉ……っ」


 我慢していた涙がこぼれおちた。家族、友達、そして魔法少女の仲間達。大好きな人達の声や顔が頭をよぎって、私は顔を覆った。


「……お姉さん、大丈夫?」


 近くから聞こえた声に驚いて横を見ると、さっきの少年が私の隣に座っていた。……いけない。心が不安定なせいで、こんなに近付かれるまで気配に気付けないなんて。


「お腹、空いたんでしょ?ほら」


 少年の手には、きっと市場から買ってきたのだろう串焼きが握られていた。香ばしい、いい香りが漂ってくる。口の中に唾液が溢れ、ゴクリと飲み込んだ。


 その優しさに甘えてしまいたい。でも――私は食べてはいけないと、必死で手を握りしめる。


「……?お金は心配しなくていいよ?」

「違う……違うの……。私、それを食べたら、もう帰れなくなっちゃうんじゃないかって、怖くて……」

「帰れなくなるって、どういうこと?」


 決して子供に聞かせる話ではない。そう頭では分かっていたけれど、私の心は限界だった。


 日が傾き、柔らかな夕日が差す中、私は堰を切ったように自分の身に何が起きたのかを少年に語った。こんな小さな子供には理解出来ないだろうと思いながらも、言葉が止まらなかった。


 少年は静かに私の話に耳を傾けながら、時々背中を摩ってくれて。こんな大きなお姉ちゃんがごめんね……と申し訳なさを抱きつつも、今はその優しさがたまらなく嬉しかった。


「……そんなことが」

「だから、この世界の食べ物を口にしていいか、分からないの。でも、君の優しさは本当に嬉しかったよ。魔族が悪い者ばかりじゃないって、君自身が私に教えてくれたの。ありがとう」


 そう言って、つい小さな頭を撫でてしまう。すると、少年はカッと顔を真っ赤に染めた。恥ずかしかったのかな?


「ふふっ、可愛い」

「可愛……っ!?ま、まさか頭を撫でられるなど……っ」


 少年は照れてしまって、俯いてボソボソ何かを呟いている。こんな子を……魔族を悪だなんて。あのバカ王子や人の国の人達は、何を見て魔王や魔族を悪だと言っていたんだろう。


「……他の場所に行って、調べるしかないよね」

「待って、何処に行くの?」

「君の知らないところで悪さをしている魔族がいて、そのせいでリュグナール国が迷惑しているのかもしれないから。誤解があるなら解きに行かないと」

「飲まず食わずで、休みもせずに?無茶だよ」


 少年は、行かせないと言わんばかりに私のスカートの裾を掴んだ。


「チセの話は分かった。食べ物を食べたくない理由も。でも、魔法少女だからって、何も食べず水も飲まずに体は持つの?」

「それは……。でも……」

「ねぇ。帰る方法を探すにしたって、飢え死にしちゃったら元も子もないんじゃないの?チセ自身が生きていなくっちゃ」

「あ……」


 少年は私の手を掴んで、串焼きを握らせた。確かに、ここで死ぬのが一番最悪な結末だよね。こんな小さな子に諭されてしまうなんて……。


 私は串焼きをじっと見つめたあと、恐る恐る肉をかじった。罪悪感を抱きながらも、塩の効いた肉の旨味を噛みしめて、再び涙が溢れてしまう。


「おい、しい。美味しい……っ」

「チセ。行くところがないなら、ボクの家においでよ」

「そんな、迷惑なんじゃ……?」

「大丈夫。ほら、行こう」


 少年は、串焼きを握っていない方の手を取って、そのまま歩き始めた。雑踏もおかまいなしに、ずんずんと進んでいく。いや、少年が前を歩いてくれるおかげで自然と道が割れて、私は随分歩きやすいけど……。


 親御さんからすれば迷惑極まりないだろう。我が子が見ず知らずの……しかも人間を家に連れてくるなんて。


 物語のワンシーンで「何処で拾ってきたの!元の場所に戻して来なさい!」って台詞、よくあるよね。……私、野良犬や野良猫みたいに「返してきなさい!」って言われちゃうのかな。



 そんなことを考えていたら、少年が「着いたよ!」と言った。


 えっ?と驚いて固まる私の手をしっかり引いたまま、少年は門を潜っていく。門番らしき衛兵達は何も咎めることなく、少年と私を通しているんだけど……。


 えっと……どう見ても、お城……だよね?


 昼に人の国の城から追放されて、夜になったら魔の国の城に招かれている私。……いやいや、どういうこと!?


「ね、ねぇちょっと!ここ、魔王がいるお城じゃないの!?どうしてこんなところに……。そもそも、君は一体……?」

「ん?そうだね……」


 城内に入ったところで手を離され、少年がゆっくりと振り返った。ただならない気配にぎょっとして、身を引いて臨戦態勢を取る。


 少年は少し口の端を吊り上げたあと、背中から大きな黒い翼を生やして自分自身の体を包み込んだ。


「そんなに警戒するな。言ったように、魔族は悪い生き物ばかりではない。それを知ってくれているそなたを、余は傷付けん」


 子供らしい声が、どんどんと低い男性の声へと様変わりしていく。


 翼が広がり、中にいたはずの少年は――黒曜石のような瞳も艶やかな黒髪もそのままに、美丈夫へ変貌していた。


 凄く、かっこいい…………じゃなくて!


「なっ!?君、いや……えっ!?」

「ようこそ、異世界からの来訪者――チセ・コガネイ。余は、この魔の国――ルロワ国を統べる王、スーヴァという」

「この、魔の国を統べる……王。おう……?」


 ちょっと待って、嘘でしょ?と私が一歩後退ると、それよりも大きな歩幅で距離を詰められ、ぐいと腕を掴まれてしまった。


「ま、魔王っ!?」

「不可思議な服をまとった人間がこの国にやってきたと聞いたのでな。幼子のふりをして近付いたのだ」

「だ、騙したの!?」

「チセの素性を知るためには、ああして近付くのが手っ取り早かったのだ。この姿で近付けば、警戒して逃げていただろう?」


 私は反論出来ず、声を詰まらせた。確かに、こんな高貴な見た目の魔族が近付いてきたら、絶対に警戒しちゃうけど!


「あちらの“人間”は我ら魔族を悪として、何度も攻め入ってくるのだ。こちらもチセを警戒してのことだったと理解してくれないか?」

「人の国の王子は、魔族が好戦的で享楽的だって……」

「あぁ。そなたが話してくれたことで、色々と腑に落ちた。あの国の者達は、我ら魔族を“悪”に仕立てたいのだろう、とな。異世界のチセまで巻き込み、挙句追放するなど……外道共が」


 少し話しただけの私の境遇に、彼は強い怒りを露わにしてくれて。私の瞼がふるふると震えてしまう。


「すまないが、チセを元の世界に戻す方法は余も知らぬ。そんな方法が存在しているのかも」

「そう、ですか……」


 そういえば、子供の姿だったからって、魔王に対して不敬な言葉遣いだったんじゃ……と、取ってつけたように言葉を改める。


 すると、魔王様は面白そうにくつくつと笑った。


「だから、せめてここで暮らすといい。城の中は気のいい者達ばかりだ。好きに過ごせ」


 魔王様は私の頭を優しく撫で、口の端を上げた。


「くくっ。余の頭を撫でる者など、いつぶりだったろう。あれには驚かされたな」

「……っ!?あ、あれはだって!……くしゅんっ」


 私は肌寒さから、くしゃみをしてしまった。このスカート、本当に短いんだからっ!


 すると、魔王様が背中のマントを私にかけてくれたの。


「えっ?」

「女の身で体を冷やしてはいけないだろう。部屋を用意させるから、それまで被っておけ」

「……ありがとうございます。正直、私も思ってるんですよ?このスカート短すぎだし、ちょっと恥ずかしいって」

「先程は、誇りある衣装だと話していなかったか?」

「誇りはありますけど、それとこれとは別問題なんですっ!」


 この衣装が可愛くないわけじゃない。今代の魔法少女であるピュリチアーズの六人しか着られないコスチュームだから、誇りだってある。


 でも、ちょっとイタくない?とか、足見せすぎじゃない?とか、歳を重ねれば恥じらいだって生まれるのは普通でしょ!?


「……それなら衣装を考案した者に、一度問い合わせるべきじゃないか?新たな衣装を仕立てさせるべきだろう」

「……」


 あまりにも魔王様の言葉がまともすぎて、私は再びぐうの音も出なかった。




 それから、魔王城での生活が始まったの。


 魔王――スーヴァ様が、私を“魔王直々の客人”だと紹介してくれたからか、城ではとても丁寧な扱いを受けていた。


 食事は美味しいし、ベッドもフカフカ。至れり尽くせり過ぎて、己のやるべきことを見失いそうになる。


 そもそも私には、この世界の理なんて何も分からないんだもん。


 私達のいた世界では、普通は魔法が使えない。戦隊ヒーローや魔法少女が特殊なだけ。でも、この世界の人達は、誰しも“魔術”が使えるそうなの。


 だから、召喚や帰還の方法は、魔王様が調べてくれることになった。自分で調べたいけど、どう考えても難しそうだしね。


 それなら私は何をしているのかというと、スーヴァ様に紹介してもらった講師から、この世界のことを教わったり、実際に魔族の暮らしを見て、彼らが“悪”ではないと確認したりしている。


 人間を嫌う魔族もいるけど、「あの国の奴らは、難癖をつけて戦を起こそうとするから嫌いだ」って言われた。そりゃ嫌いにもなるよね。


 あとは、私が魔族の子供達に勉強を教えたり、一緒に遊んだりしているの。


「ねぇねぇ、チセお姉ちゃん!あれやって!」

「私も見たーい!」

「仕方ないなぁ。じゃあいくよ?」


 私はいつものように子供達に強請られて、変身してみせた。


「爽やかな酸味で目を覚まさせてあげる!魔法少女、チアレモン!」


 キメ台詞とキメポーズをすると、子供達はきゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ。


「すごーい!可愛いっ!」

「魔法少女!正義の味方っ!」

「ねぇ、魔法少年はないのー?僕もお姉ちゃんみたいになりたーい!」


 無邪気な少年少女はとても可愛らしい。魔族の子供だからって、加虐性が強いわけではなかった。人間の子供と何ら変わらない、幼気な少年少女そのものだった。


「魔法少年はないけど、戦隊ヒーローならあったよ。君も正しい心を持ち続けていたらなれるかもしれないね」


 そう口にしながら、私は子供達の頭を撫でる。


 私がこの世界に召喚されてから、約一ヶ月。


 今やルロワ国の子供達の間では、魔法少女ブームなのだとか。小さい子はごっこ遊びが好きだもんねぇ。


 子供達に群がられていると、私を迎えに来たスーヴァ様が静かに微笑んでいてドキリとする。いつから見ていたんですか!?

 

「あっ!魔王様だっ!」

「魔王様ーっ!」

「お前達、チセに遊んでもらっていたのか?」

「きゃあっ!あはは!」

「僕も、僕もやってー!」


 スーヴァ様は、子供を高く抱え上げた。その慈愛に満ちた表情を見れば、バカ王子達の主張こそが嘘だとよく分かる。


「そろそろ帰るぞ、チセ」

「は、はい」


 低く落ち着いた声で呼ばれ、手を差し出された。自力で飛んで帰れるのに、スーヴァ様はいつも迎えに来てくれて、魔術で私を飛ばせてくれる。


 触れた手は、大きくて厚くて……小さな私の手を優しく包む。


 行くあてがない私を助けてくれたばかりか、こんなふうに優しく接されたら……意識しない方が無理でしょ!吊り橋効果だって必死に言い聞かせてるけど、胸の高鳴りは簡単には収まらない。


「どうした?顔が赤いぞ?」

「ち、ちょっとはしゃぎ過ぎたのかもしれませんね!あははっ」

「ふっ、なんだそれは」


 歯を見せて笑うスーヴァ様。


 城下に現れれば、民達から声をかけられるほど慕われ、砂埃だらけの子供にも関係なく手を伸ばし抱き上げる魔王様。この方が、“悪”なわけがない。


 だとしたら、人の国の思惑は一体――?


 私は、私がこの世界に来ることになったきっかけであるリュグナール国に対して、不信感を募らせていった。




 それから、更に半月。


 これまでの生活に加え、元いた世界のお菓子を作って振舞ったり、魔法少女として火事の現場に駆けつけて救助を手伝ったり。


 そんな私を、スーヴァ様は「余の国のためにありがとう」って、いつも感謝してくれた。「魔族を嫌わずいてくれて嬉しい」って、お菓子も美味しいって、喜んでくれて。


 スーヴァ様が「好きに過ごせ」と言ってくれたから、女子高生らしく、そして魔法少女らしく過ごせていた。


 元いた世界を思い出して無性に泣きたくなった夜だって、スーヴァ様が「元気がないな」って気付いて、夜通し私の話に付き合ってくれたの。そしたらあっという間に朝になっちゃって、スーヴァ様の側近や使用人から「寝てください!」って二人揃って叱られて。


 スーヴァ様の側は、凄く居心地がよかった。



 ――そんな時。



「な、何ですか?これ」

「……人の国から宣戦布告が届いた」


 まだこちらの文字や意味の理解が完璧ではない私は、スーヴァ様に内容を教えてもらった。……そういえば、言葉が通じるのは不幸中の幸いだよね。


 そこには、私が人の国で聞かされた、“領土の無断拡大”や“人間の子供の人身売買”、更には“聖女誘拐”と書かれているらしい。それらが魔の国のせいだと。


「聖女誘拐?あの国、性懲りもなくまた召喚の儀式をしたんですか?」

「いや、これはチセのことらしいぞ」

「はぁ!?」


 スーヴァ様曰く、リュグナール国の間者がルロワ国に潜り込んで、内情を探っていたそうなの。この国からすれば疚しいことなんてないから放置していたんだって。どうやらその間者が、私の人気を聞き付けたらしい。


 その情報を自国に持ち帰って、「我らが召喚した聖女が魔の国に攫われ、見世物のように働かされている!」と主張し始めたのだとか……。


「それを口実に、この国に攻め入るつもりなのだろう。まったく愚かな。……チセ?」


 スーヴァ様の言葉は、次第に右の耳から左の耳へ通り抜けていった。怒りのあまり、目の前が真っ赤に染まるような感覚を抱く。


「……勝手に召喚しておいて、聖女じゃないからって捨てたのは自分達のくせに?」

「チセ。おい、チセ……?」


 行くあてもない私に声をかけてくれたのは、スーヴァ様だけだった。私を受け入れてくれたのは、人の国の人間ではなく魔の国の魔族だった。


 それなのに。それなのに……っ!


「……っ!」

「チセ!待て、チセ……っ!!」


 私は気付けば変身し、部屋を飛び出していた。そのままバトンに跨って、リュグナール国へ飛ぶ。


「私を火種に、魔の国に攻め入ろうなんて!そんなこと、絶対に許さないっ!ピュリチア・サーチ!!」


 私は飛びながら魔法を展開する。風の力を頼りに、人の国の情報を集めていく。


『あの時の娘が役立つとはなぁ。でかしたぞ、エンゲイル』

『あの女を連れ戻して魔王を倒せば、民からの支持も回復するでしょうね、父上』

『うむ。重税を課していたのも、魔族による侵攻のせいだと言えば、民の不満も抑えられよう』

『そういえば、奴隷市に流す予定の子供の中に、見目のいい娘がいたので、私の離宮に回してもいいですか?』


 風が届けてくれた多くの声は、民の声を聞かず権力を振りかざし、それを魔の国に罪だと擦り付けるものばかりだった。


 その中で、あのバカ王子とその親――リュグナール国王の声も聞こえてきて。


「……っ!ピュリチア・サンダーーっ!!」


 私は、目前に迫るリュグナール国の王城目がけて、雷撃を落とした。ドオオオォォン!と爆音が響き、城の頂点ではためいていた国旗も、尖塔部分ごと吹き飛び、粉々に砕け散っていく。


 人を傷付けないよう、粒子状になるまで破壊したそれによって、大量の粉塵が宙を舞う。風を起こして、山の方へと誘導する。


 尖塔が壊れ、露わになった城内では、人々の逃げ惑う様子が見えた。そこには、臣下や使用人達を押しのけて逃げようとする、バカ王子と国王らしき姿も。


 私はすうっと息を吸って、大声で叫んだ。


「待ちなさい、エンゲイル・ド・リュグナール!――悪を浄化し、人々の未来を応援する。魔法少女ピュリチアーズのチアレモンとして、私はあなた達を成敗するわ!」

「なっ!?」


 私の声に、バカ王子はハッと顔を上げた。


「こ、これはお前の仕業かっ!」

「そうよ!魔の国に届いた宣戦布告を見たの。魔王様や魔族は“悪”じゃなかった。それどころか、あなた達こそ“悪”じゃない!だから私が、全部知らしめてあげる!」


 塔を破壊した轟音で、下町の人達が慌てて顔を覗かせている。それを見て、私はリストバンドの宝石をタップしてチアメガホンを取り出し、声を張り上げた。


「リュグナール国のみなさーん!こんにちはー!私、聖女として召喚された、異世界人でーす!魔の国に攫われたって広められているけれど、全部真っ赤な嘘なの!私の服装を見て『聖女じゃない!』って追い出したのは、この国の王族や貴族達なんだよーっ!」

「う、嘘をつくな!デタラメだ!」


 バカ王子は必死に反論する。でも、普通に喚いたところで声が届くのは近くにいる人達だけ。


 私はかまわずメガホンを構え続ける。


「魔の国は、家族や友達と引き離されて行き場のない人間の私を、優しく助けてくれたの!あの国の魔族は、この国の王侯貴族が言うような、非道な生き物なんかじゃない!人間と同じ、心がある者達なの!」


 私の声に、人々はざわめく。魔族は“悪”だと教え続けられた人達にとっては信じられないのだろう。


「領土の無断拡大と言われていたのは、山賊が住み着いて隷属させられていた村を魔族が助けたから!人間の子供の人身売買は、魔族に罪を擦り付けて貴族達が道楽と金儲けをしていたから!聖女誘拐は、さっきも言ったとおり、この人達が身勝手に召喚したのに追い出したからなの!」

「貴様、不敬だぞ!おい、早くそいつを拘束しろ!」


 バカ王子の命令で衛兵達が魔術を発動し、こちらに攻撃を向けてきた。私は魔術に対し、魔法をぶつけて相殺する。


「私の言葉が信じられなくてもいい。でも、この国の愚かな統治者の言葉だけを信じないで!この国の民が飢えていたって、魔族のせいにするだけで手を差し伸べてくれない、自分勝手な人達の言葉だけを信じないで!!」


 私は必死で声を上げる。そして、ピュリチアーズの真骨頂――悪の浄化のため、光を放つ。


「ピュリチア・リムーブ!お願い、目を覚まして!」

「ぐあぁっ、目がっ!」


 私の放った光は、バカ王子や国王、その周りに侍る貴族達の悪しき心や許されざる行いを具現化していく。その姿は邪悪な影となり、彼らの背後でゆらゆらと蠢いている。


 人の善悪を、他人の物差しで判断するのは難しい。それでも、普通に生きていたらこれほど大きな影にはならない。


 逆に、道や部屋の窓から私を見ていた人達は、洗脳が解けたように「どうして私達、魔族が悪者だって信じていたのかしら?」「王族や貴族ばかり裕福な生活をして、俺達を助けてくれなかったのに!」と憤り始めた。


 ――そう。


 この国の王侯貴族は、魔の国の悪評を広めただけでなく、長い時間をかけて、少しずつ善良な人達の意識を洗脳していたの。禁忌の魔術を用いて。


「これで、洗脳されていた人達も目を覚ましていくはずよ。あなた達のこれまでの行いは、正しい心を持つ人達によって裁かれるわ!もしそうでなかったとしても、私が絶対に許さない。魔の国に攻め入ると言うのなら、私が全力で相手をしてあげる!」


 サッと手を上げ、再び雷を落とす。別の尖塔が粉々に吹き飛んだところを目の当たりにして、バカ王子は「ヒイィ!」と間抜けな悲鳴を上げながら尻餅をついた。


「きっと、あなた達の召喚魔法は正しかったのよ。この世界が求めていたのは、聖女なんかじゃない。悪を倒す存在だったのよ!」

「ぐ……っ!そ、そうだ……交渉!交渉をしようじゃないか!」


 私が再び浄化の光を放とうとすると、バカ王子はそんなことを言い出した。私は眉を寄せる。


「……交渉?」

「そうだ!きっとお前は誤解しているんだ。王族は何も知らない。きっと、愚かな貴族が吹聴し、魔術を使って我らのことも洗脳していたに違いない!」


 バカ王子の後ろで蠢く影を見て、私は白けた表情を浮かべた。いや、もう色々と聞いちゃってるし、そもそもあんたの“悪”の塊がそれだけ具現化しているのに、よく言うよ……。


「だから、私と共にこの国をよりよくしようではないか!お前を我が妃として迎えてやろう!」

「はぁ!?ぜっ」

「それは聞き捨てならんな」


 「絶対に嫌!」と言い切る前に、私は急に現れた長い腕に抱かれていた。驚いて顔を上げると、黒い髪が風に揺られて煌めいていた。


「す、スーヴァ様っ!?」

「まったく……一人で先走るな。危なっかしくて目が離せないじゃないか」


 そう言いながら更に抱き寄せられ、私の顔はどんどん熱くなっていく。気付けば私達の周りには、魔王城で一緒に過ごしたスーヴァ様の側近や使用人達が集まり、翼を羽ばたかせていた。揃って王城へ睨みを利かせている。


「み、みんな……っ」

 

 下町からは、「あ、あれが魔族!?」「えっ、でも格好よくない……?」「あの子を助けに来たのか?」なんて聞こえてきた。そうなの、魔族は怖い存在なんかじゃないんだから!


「この娘を奪いたいと言うのなら、奪いに来るといい。余と戦をしたいと言うのなら、望み通り相手をしてやろう」


 スーヴァ様は淡々と告げてから、視線を遠くへ向けた。そして、ぱかりと口を開いたかと思ったら――城から一番近い山に向かって光線を放った。


 えっ!?ビーム?それはビームですか!?スーヴァ様っ!


 戦隊モノも勿論好きな私は、つい目を輝かせてしまう。


 すると、スーヴァ様は「……あまり見るな。口の中を見られるのは、少し恥ずかしい」と僅かに顔を赤らめた。え?そこ、恥じらうところですか?可愛すぎませんか?


 光線を受けた山には風穴が開いていた。……あの山、そのうち崩れそうだよねぇ。スーヴァ様にお願いして、周りの町や村に被害が出ないよう、帰りに寄り道させてもらおう。


 私がそんなことを考えている間に、決着はついたらしい。というか、城の人達は戦意喪失していた。


 スーヴァ様だけでこの戦力だもん。聖女や他人の力を頼るつもりで生きてきた怠惰な王侯貴族が、勝てっこないよね……。


「人の国の者達よ。彼女のように行き場を失った者や、生活が困難な者がいるのなら、余の国に来るといい。当面の生活は保証してやれるだろう。……ただし、魔族は人間よりも魔力も腕力も強い。こちらの国を陥れるつもりで訪れた者がいれば、その時は容赦せぬ」

 

 堂々とした物言いで宣言するスーヴァ様は、まさに王の風格を見せつけていた。


「チセ、帰るぞ」

「はい!」


 わざわざ迎えに来てくれたことが嬉しくて、私は心からの笑みを浮かべた。



 ――というのは一瞬のことで、ものの数秒で私はスーヴァ様の腕の中でもがいていた。



 だって!私!抱きかかえられたままなんだもん!


「は、恥ずかしいから離してください!いつものように手を繋いでいたって飛べるんでしょう!?」

「嫌だ」

「えっ!?嫌だってなんですか!?」

「余の制止も聞かず、一人で飛び出していったチセが悪い」


 どうやらスーヴァ様は少し怒っているらしい。確かに、考えなしに飛び出してしまったのは私だもんね。そのせいで、みんなを引き連れてくることになってしまったのだから。


「ご、ごめんなさい……」

「魔法少女とやらが強く気高いのは分かっているが……好いた女が危険に晒されるのを黙って見ていられる男はいないだろう?」


 スーヴァ様はそう言って、私の顔を覗き込んだ。美丈夫の憂い顔と告げられた言葉に、私は固まってしまう。


「すっ、すすっ、すっ!?」

「……くくっ。好いている……と口にしたのは初めてだったか?」


 初めてですが!?そんな優しそうな目で見つめられても、私……。私は――


「……私は、この世界を知ってしまった。魔王城に住むみんなも、魔族の子供達も、みんな好きになっちゃった。でも……元いた世界で、家族や仲間が待ってるんです。元の世界のことも、私は……」

「分かっている、分かっているさ。だが、ただ元いた世界に戻れれば、チセの心は晴れるのか?この世界と分かたれ、余と離れることになっても」


 その言葉に、私はくしゃりと顔を歪める。スーヴァ様の瞳には、今にも泣き出しそうな私が映っていた。


「……寂しい。離れたくない。帰りたい!でも、スーヴァ様とも、離れたくない……!私っ、私は……っ!」

「私は?」

「……スーヴァ様のことが、好き。心細かったの、ずっと。元の世界に帰れるか不安で、この世界で生きていけるのかも分からなくて、怖かった。でも、いつだってスーヴァ様が側にいてくれて、居場所も自由も与えてくれた。いつの間にか、スーヴァ様の側が、私の帰る場所になっていたんです……っ」


 スーヴァ様の胸元をぎゅっと掴み、心を吐露する。優しく髪を梳かれて、目尻に涙が滲んでいく。


「ならば、共にいられるようにしよう。まだ、チセを帰してやれる方法も見付かっていないくせに、口先だけですまないが……。こちらに来る術があるのは確かなんだ。チセが世界を行き来出来るよう、これからも魔術の研究を続ける。だから、余の側にいてくれないか」


 ――こんなふうに優しく抱かれたまま、そんなことを言われて断れるわけないじゃない。


 私は胸が詰まるほど嬉しくて、涙を流しながら頷いた。


「……私、聖女じゃないですけど、いいですか?」

「ふっ、なんだそれは。余は、魔法少女の君がいいんだ。チセ」






 それから半年が経った。


 あのあと、リュグナール国がどうなったかは……言わずもがな。目を覚ました人達はこぞってルロワ国へやって来た。それこそ、貴族の中でも誠実さを持っていた人達は、あの国を見限ったみたい。


 ……そういえば私、最後まで浄化しないで戻ってきちゃったからなぁ。


 あの人達、具現化した“悪”の塊を背負ったままだもんね。きっと反省も改心もしないだろうから、影は小さくならないだろうし、そんな人達に仕えたくないよね……。


 そのうち地図から消えるかもしれないそうだけど……逃げてきた人は魔の国が受け入れているし、その方がみんな幸せかもしれないね。


 魔術の研究は難しくて、まだ元の世界に繋がる魔術は編み出せていないみたい。


 でも、仕事の合間や休みの日には研究室にこもって、文献を読んだり魔術式を試したりしているスーヴァ様を側で見ているから、私は信じている。


 いつか、家族や仲間ともう一度会えるようにしてくれるって。


 信じているんだけど……。


「あの、スーヴァ様……?私を膝の上に乗せたまま研究する必要あります……?」

「側にいられて、勝手に目の届かないところへ飛んでいかない。いいことずくめだな?」

「うぅ……っ」


 どうやら私、少しも離してもらえなくなってしまったみたい……。魔王城では、みんなから生温かい目を向けられている。


 自業自得とはいえ、恥ずかしいし、いたたまれない!もう許して、スーヴァ様!


 こんなの、スカート丈なんかより、よっぽど恥ずかしいよぉっ!!





お読みくださり、ありがとうございました!


聖女召喚の儀で現代人が異世界へ転移させられるのは王道展開かと思いますが、転移させられた聖女が“元から魔法少女”というのはお見かけしなかったので、面白くて筆が乗ってしまいました。


女子高生であり魔法少女である千星の、純粋な正義感や元気いっぱいの明るさ。時折見せる憤りや不安、恥じらいやつっこみ。

魔王スーヴァの意外な照れや、ちょっぴり意地悪な溺愛っぷりを楽しんでいただけた方、是非とも感想や評価をお待ちしております。


また、少し宣伝させてください!


完結保証の現在連載中作品:

【 悪女レニエラの罪は暴かれる ~閣下、どうぞ“わたくしの部屋”をお探しください~ 】

挿絵(By みてみん)


ミステリー強めの長編を連載しております。

毎週土日・10:10と18:10、週4回更新中

目玉として、少し変わった試みでエンディング分岐を“4つ”ご用意しております。

恋愛的ハッピーエンドも勿論ございます!

※分岐前である、ミステリーとしての謎が明かされる本編は、8月頭に投稿完了します!この機会に是非ご一読いただけますと幸いです。


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応援宜しくお願いいたします( .ˬ.)"


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