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55. 静かな宣言

『――優勝おめでとうございます。今のお気持ちは?』


 大会プログラムが終わった。

 高成績を収めたベスト四のメンバー……死亡した一名を除くメンバーが闘技場(アリーナ)の中央に並び、インタビューを受けていた。

 ワタシの隣に人狼(ライカンスロープ)のクレイグさんとトカゲビトのシードさん、第三位の聖飛竜(ホーリーワイバーン)クラウディアさんが並ぶ。


『光栄です。対戦してくださった皆様に、心より感謝いたします』


 ワタシは、当たり障りのないコメントをする。

 ホーリーワイバーンのクラウディアさんは、笑顔で観客席へ翼を振っていた。


『――第五回大会で、魔導大蛇(おおへび)の方の初めての優勝となりましたが』

『魔導大蛇(おおへび)の皆様を、勇気づけられる勝利だったと感じています』


 観客の中、魔道大蛇や多頭蛇(ヒュドラー)などからウオオと歓声が上がった。



『――途中、不慮の事故が起こってしまいました。守護魔術の不良という公式発表でしたが……』

『…………』


 一瞬、言葉に詰まる。


 違う。

 あれは事故ではない。

 メイちゃんを守るために、魔王(ミゼル)様とワタシが仕組み、排除しただけだ。


 過剰回復での中毒の誘発。

 守護魔術の不具合……運営側がそう結論付けたのは、こちらの意図通りだった。


『……とても残念です。ただ、あれはどなたの過失でもありません。戦いの場で起こり得た、不幸な事故でした』


 ただ淡々と、ワタシは嘘を並べる。

 魔王の工作員としての嘘を。

 メイちゃんを守るための嘘を。


 嘘で塗り固められた存在。

 それが、ワタシだった。


『――最後に、あなたにとって強さとは何でしょうか?』


 インタビュアーがマイクを近づける。

 ワタシはフゥと息を整え、静かに答えた。


『……大切な人を守ること。ですよ」


 だが、最後の言葉だけは、……本心だった。



 ◆  ◆  ◆


『――ありがとうございました。それでは次に……』


 インタビュアーが準優勝者へ向き直る。

 登録名――【Crawling Nightmare】。

 出場申請上は、人狼のクレイグさんと、トカゲビトのシードさんのチームだ。


『――惜しくも準優勝でした。今の心境は?』

『いや惜しくねえだろ、瞬殺だったじゃねえか! 蛇の兄ちゃん、絶対リベンジしてやっから!』


 クレイグさんがビシィとこちらに指をさす。

 会場からは温かな笑い。ワタシも困ったように笑った。


『――トカゲビトの方は、準決勝まで水魔術を使いませんでしたね。あれは作戦だったのですか?』

『……はい。ここぞという時まで魔力を温存してました』


 翠鱗のトカゲビト、シードさんがダウナーな声で答える。


 なお、メイちゃんはこの場にいない。

 人狼(ライカンスロープ)が人間の姿で戦っていた。

 そう処理した方が、世間的にも、政治的にも角が立たない。

 それが、魔王(ミゼル)様の判断だった。


『――人狼の方はずっと人間の姿で戦われておりましたよね。あれにはどのような意図があったのでしょうか?』


 何気ない質問。当然だ。観戦者はそれが気になる。

 だがその質問に、彼の顔からは笑いが消えていた。


『……ああ、こいつは』


 何処か覚悟をした様子で、クレイグさんは姿を変える。

 現れたのは、亜麻色の髪を持つ人間の少女。

 真っ直ぐな瞳。

 ……メイちゃんの姿が、そこにあった。


『先月俺たち魔物に殺された、人間の村の住人だ』


 少女がそう言うと、会場の空気が凍った。

 平和条約締結から五年。

 ようやく互いの往来が始まった矢先の出来事だった。


『…………』


 彼のその回答に、インタビュアーも、次の言葉を失っていた。

 クレイグさんは続ける。


『過去の戦争がどうであれ、今は和平を結んだんだ。これ以上、罪の無い人間を殺していい理由は無い』


 彼らにも、魔王(ミゼル)様から指示が出ていた。

 世間的には、メイちゃんを含め、オルト村の住人は全員死亡している。

 受け答えの際には、そのように回答せよと。



『……だから俺は、人間との共存を願う』


 しばしの沈黙。

 やがて、まばらな拍手が巻き起こった。

 歓声は無い。

 ただ、静かな賛同の拍手が、そこにはあった。



「……ありがとうございます、クレイグさん」


 誰にも聞こえない声で、ワタシは人語でひっそりと呟いた。



 ◆  ◆  ◆


【――魔物に殺された、人間の村の住人だ】


『…………』


 大会の中継放送。

 その中継を見る、桃色の羽毛を持った、ひとりの魔物の少女がいた。


『メ、イ……』


 そのハルピュイアの少女は、震える両翼を胸に押し当てる。

 ……彼女の頬を、一筋の涙が伝った。


 親友のメイ。かつてオルト村で共に暮らし、共に遊んでいた少女。

 末っ子の彼女にとって、初めてできた、妹のような存在だった。


 オルト村のハルピュイア、カノン・ノアーノ。

 彼女は届かぬ画面の向こうへと、そっと翼を伸ばした。



 ◆  ◆  ◆


【――俺は、人間との共存を願う】


『…………』


 また別の場所で、同じ中継を見る純黒のドラゴン。

 その感情の読めない水色の瞳は、ただ画面内のメイを映していた。


 かつて霊山ガルデニアで遭遇した人間。

 自ら陥没穴に落ち、命を散らしたちっぽけな存在。

 その竜の記憶の中に、彼女が残されているかは、定かではなかった。

 

ちなみにクラウディアさんはインタビューで宣伝し、【Claudia's Cast】のフォロワーが倍になったそうです。


お読みくださりありがとうございました。

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