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50. Day2.16:00 R14『飛竜系配信者②』


『……向こうの試合で、「死者」が出たって』


 クラウディアさんは、憂いを帯びた表情でそうつぶやいた。



『…………』


 もう片方の準決勝、それはヴェルサスと商蛇サーペントさんの試合だった。

 まだ、試合が始まって五分と経っていない。こんなにも短時間で、あちらは決着が付いてしまったというのか。


『……キミたち、知ってる? 準決勝に残った、……ヴェルサスってひとのこと』

『……ああ』


 昨年の優勝者の竜に、ナイトホーン様(ボス)ですら破ったベヒーモス。

 奴は、その圧倒的な力で殆どの試合を短期決着させてきたと聞いた。更には闘技場(アリーナ)に展開される玄武ローミア様の守護魔術を持ってしても、……それを上回る攻撃で、多くの対戦相手が瀕死の重傷を負ったという話も。



『……ボクはね。一位種として、ヴェルサスを止めたいんだ。あいつの力は未知数、あまりにも危険だ。……キミ達の力じゃ、及ばないかもしれない程に』


 クラウディアさんは、視線を落としながら言葉を紡ぐ。

 先ほどまで『邪竜モード』をしていた明るい彼女の顔は、すっかり消えていた。



『……キミ達は強いよ。そしてボクに比べたら、まだまだ若い。これから先、訓練を重ねれば、もっと強くなれるんだと思う。……だからこそ今日。キミ達がこのまま勝ち進んで、決勝であいつにその芽をみすみす摘み取られるのを……ボクは見たくないんだ』


 クラウディアさんの瞳には、目の前の二人の未来を案じる切実な想いが宿っているように見えた。その言葉は単なる戦いへの覚悟ではなく、二人の若い戦士が危険な決勝の舞台に立つことを恐れる親のような、……そんな慈みの感情を感じられた。


 そう、それはつまり。準決勝で……命を落とした、のは────



『サーペント、さん……』


 メイは、ぽつりと呟いた。


 家族や村の仲間。反人派の魔物に襲われ、その全てを失った。

 そんなメイに遺された、ほんのわずかな心の拠り所。

 ……メイが最も厚い信頼を置いていた、あの蛇の魔物すらも。

 彼女の前から、奪われてしまったというのか。



『……だからね。今日、この試合だけは。……悪いけれど、ボクが勝たせて貰う』


 クラウディアさんの眼光が鋭くなる。決意を固めた目。

 彼女はバサァっと再び飛び立った。


『…………』


 メイは彼女の言葉には応えず、その場で俯き、ただ立ちすくむ。



『クレイグ』


 後ろから、声をかける。



『ねえ、キミ。大丈夫……? 試合、始められる……?』


 臨戦態勢に戻ったは良いものの、なかなか構えない人間の娘。

 その姿に、見かねたクラウディアさんが心配そうに声を掛けた。


『ボクも、そんな状態のキミたちとは戦えないよ。……降参、してくれないかな』


『…………いや』


 しばしの沈黙のあと、メイがようやく顔を上げた。


『降参は、しねえ。……全力で、来てくれ』



『……そっか。じゃあ、いくよ。……ごめんね』


 ブオォッとクラウディアさんが空中からブレスを放つ。

 それを、二人は揃って後ろに跳んで躱した。



 ドオォォン……!


 ブレスが着弾すると、床が大きく砕ける。

 メイは隣で爆風に乗り、ズザァっと片手を付いて勢いを殺した。



『それなら尚更……負けらんねえもんな』



 そう呟くメイの()()の瞳が、まるで満月のように光を帯びた。

 そして、みるみるうちに手の爪が鋭く伸び始める。


『――――なあ。そうだろ? ()()



()()()()


 ……おれは、再び声をかける。

 魔力を練る。()()の瞳で敵を睨む。……魔術の行使だ。


『勝つよ』


 その言葉と共に、おれの槍から鋭い水の奔流が放たれた。


『なっ……!』


 ドオォォ……ッ!!


 水の本流は渦を巻き、大きな槍と化す。

 そして、パァンという発破音と共に……ワイバーンの左翼膜を貫いた。


『そ、そんな、水魔術……!? だってキミは、これまでの試合で一度も魔術を……!』


 ドォォンという音と共に、揚力を失ったクラウディアさんの巨体が地面に落ちる。

 一拍の後、空中で四散した水が細かなシャワーとなり、闘技場(アリーナ)全体に降り注いだ。



『へへ……よくやった! ()()()!!』


 メイ……もとい、メイに姿を変えたクレイグは重心を低く取る。地を這うように背筋を曲げたその姿勢は、……人間のそれとは、程遠いものだった。



『墜としちまえばこっちのもんなんだよ』


 クレイグは素早く距離を詰める。

 そして墜ちた飛竜の翼膜――おれの攻撃により損傷をした、左の翼膜に鋭爪を振るうと、ブシュッという音と共に、クラウディアさんの傷口から真っ赤な鮮血が噴き出した。


『ああああっ!!!!』


『……ワイバーンとの戦いは』

『俺達、ちょっと自信あるんだよな』


 再び、おれとクレイグがふたりで一文を完成させる。


 ワイバーンの弱点は翼膜である。

 飛竜種にとって、巨大な翼は生命線だ。強大な種にしては何とも情けない話であるが、その翼膜が水を多分に吸収して重くなったり、激しく損傷をして風を捉えられなくなると、羽ばたきで揚力を得ることが難しくなる。

 簡単に言えば、濡れたり傷つくと飛べなくなるのだ。


『俺達、散々ワイバーンに鍛えられて来てんだよ』

『翼を狙うよ。クレイグ』



 クレイグはおれに先行して、再び間合いを詰める。


『くっ……まだ、まだ!』


 クラウディアさんが尻尾を薙ぎ払い迎撃する。

 しかしメイの姿をしたあいつは、人ならざる跳躍でそれを躱した。


『甘いよ! 飛竜(ワイバーン)を相手に、逃げ場のない空中へ回避するのは!!』

『当たり前っすよ』


 ブシュッ!!


『がっ……!?』


 ワイバーンが目を見開き硬直する。

 竜が眼下へ視線を戻す。……おれが、最大の急所である『腹』を目掛けて──その斧槍を突き立てていた。



『俺は囮だ。注意を上に引くためのな』


 クレイグは飛竜の正面に着地すると、すぐさま低く屈む。

 さすがクレイグ、よく分かってる。

 そして息つく間もなく、おれはメイによって底上げされた力で、突き刺した斧槍を無理やり横に振り抜いた。

 屈んだクレイグの頭上スレスレを槍が通過する。槍は飛竜の内臓を破壊すると、横一文字に、彼女の真っ赤な鮮血が迸った。


『ぐ……ああぁぁぁあアアアア!!』


『……俺の爪じゃ、飛竜の鱗は貫けねえからよ。囮になるしかねーんすよ』


 クレイグが起き上がる。彼の着るねずみ色のパーカーは、クラウディアさんの返り血で大きく染まっていた。



『……っは、は……。ごめん、ね……キミたち……』


 彼女の身体が大きくよろめく。

 腹から噴き出した血が床に滴り、彼女の呼吸は荒い。

 ……だが。


『ボクは……キミ達の実力を見誤って、いた、みたいだ』


 その声は震えているのに、瞳だけはまるで獲物を捉えた捕食者のように鋭かった。


(……っ)


 ゾクリと背筋が凍った。


『……ここから、は。ちょっと……本気を出させて、貰うよ』


 光が、彼女の全身から立ち上がる。

 眩しい。……いや、熱い。

 離れているのに、皮膚が焼けるような熱さだ。


『シード、下がれ!!』


 クレイグの叫びが聞こえる。

 叫んだ瞬間、クラウディアさんの翼がバサァッと広がり、


 そこから奔流のような光が放たれた。



 ドォォォンッ!!


 地面が抉れる。床の破片が舞い上がる。

 おれは咄嗟に槍を盾にして構えた。

 だが、無謀だ。こんな細い槍じゃ防げるはずもない。


『は……?』


 ――それなのに、おれは無傷だった。

 

『なんで……』


 そう思って隣を振り返ると、……すぐに、その理由が分かった。


『クレイグ!!』


 おれは叫ぶ。

 そこにいたのは……すでに変身の解けた、白毛の人狼。

 地面に突っ伏して倒れる人狼は、全身の毛並がぶすぶすと焼け、既に気を失っていた。


(まさか、おれだけを……!)


 ハッと地面に目を移す。

 光に焼かれた闘技場(アリーナ)の床が、大きく抉れ、焼け焦げている。

 なのに、おれへの放射線状だけ、全くの無傷だった。


 クレイグは光の魔術を扱える。ホーリーワイバーンのクラウディアさんと同じだ。

 変身を解いてまであいつがやったこと。それは、同種の魔術を当てて、……おれの前だけ、威力を相殺したんだ。



【……俺の爪じゃ、飛竜の鱗は貫けねえからよ。囮になるしかねーんすよ】


 あいつの言葉が蘇る。

 だからあいつは、おれに託して――


 クレイグのもとへ駆け寄ろうとしたおれの前に、クラウディアさんが着地する。

 翼膜は破れ、腹からは血が流れ続けている。彼女の出血も少なくない。

 既に意識を手放していてもおかしくないのに……その気迫は、さっきよりも遥かに強かった。



『……ごめんね。その子には、あとで、謝っといて。だけど、もう……手加減、できないんだ』


 ハァ、ハァと肩で息をする彼女。

 その彼女の全身を、光の奔流が浮かび上がる。

 空気が震えた。さっきと同じ、最大規模の光の矢――



(……わかったよクレイグ)


 おれは槍を握り直す。

 お前がおれを信じてくれたのなら。

 おれも、全力でそれに応えてやる。


『……キミは、強いよ。トカゲビトくん。でも……ボクも、負け、られない』


 クラウディアさんは、痛みに顔を歪めながらも、ゆっくりと翼を広げた。


『……これで……終わり、だ』


 彼女の翼が、おれに向けて振り下ろされる。


 ドガァァァン!!


 床が砕け、放たれた光の矢が会場ごと地面を焼き尽くした。



『え……?』


 だが……おれは、そこには居なかった。


『そ、そんな……! どこ……行った、の……!?』


 彼女はキョロキョロと周囲を見回す。

 駄目だ。そんな横ばかりじゃ、おれは見つからない。



 水魔術。彼女の光の矢が届く直前、おれは、地面に強く水を放った。

 そして身体を数メートルまで宙に浮かせ、地面に当たる矢の爆風の勢いを上空に逃がして、さらに跳躍した。

 ……さっき、クレイグがブレスを回避した方法を、参考にしたんだ。


(…………)


 おれは静かに魔力を練り上げる。

 確実に仕留められる、最大の力で放てるように。



『上……!?』


 クラウディアさんがおれを見つける。

 飛竜(ワイバーン)を相手に、逃げ場のない空中へ回避するのは悪手なのだろう。

 でも……充分に、時間はあった。



 魔術を行使する。

 水魔術……おれが使える、最大の攻撃。

 憧れの青龍ラフィアバートさんを模した巨大な水の龍を、彼女に放った。


 ドォォォォンッ!!


 轟音が響く。十メートルほどもある彼女の身体が、簡単に後ろへ吹き飛ぶ。

 彼女は声を挙げることもなく、床を転がり、……壁に激突して止まった。


『……ハァ……ハァ…………』


 おれは膝をつき、槍を杖にして立ち上がる。

 全身が痛む。魔力もほとんど残っていない。

 でも――――


『……勝ったよ。クレ、イグ』


 クラウディアさんは、動かなかった。


 おれは焼け焦げた地面に腰を掛けると、ただ一言、そう呟いた。

50話です。

めでてぇ。


シード・ソーリア(本物)は14話を最後に、30話以上を空けての再登場らしいです。


お読みくださりありがとうございました。

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