33. Day1.16:16『不穏の予感』
『勝者、【Crawling Nightmare】!』
その後の試合でも、私達は善戦をしていた。
私の魔物ノートの知識に身体強化の魔術。そしてクレイグの天性の戦闘センス。それらが合わされば、まさに連戦連勝。向かう所敵無しであった。
「お疲れさま、クレイグ」
「今回は余裕だったな」
第六回戦。私たちの相手は二匹の妖精だった。
魔術と回避に特化した魔物であったが、強化されたクレイグの速度の前にはなすすべもなく、魔術を発動させる間もなくパシンと叩き落とされていた。
試合開始から五分足らずの決着。まさに瞬殺であった。
私達はアリーナを後にして、一足先に観客席へと戻る。
「シャフ達、まだいないね」
「そりゃそうだろ。俺達が最速なんじゃねえの?」
クレイグは比較的がらんとする観客席を見回しながら言った。
午後の試合からは、すべての進出者が同時に試合を行っている。おそらく他の勝ち残り組はまだ試合中なのだろう。
第三回戦から試合時間が三十分となり、試合ごとのインターバルも三十分が与えられている。その時間を使って体の傷を癒したり、魔力の回復をしたりと次の試合に向けて備える必要があるのだが、はやめに試合を終わらせた者はそのぶん長めに休息を取れる利点がある。五分で試合を終わらせた私達はそのチャンス到来というわけだ。
「あれ? ヘビさん」
「どうもどうも、メイちゃん。お疲れさまでした」
席に腰を掛けて休もうとしていると、商蛇のサーペントさんが客席の上側から階段をずるずると降りてきた。
「え。ヘビさんも、もう試合終わってたの?」
「ええ、まあ……。たまたま運が良かっただけですよ」
困ったように言葉を濁すサーペントさん。
彼も試合で勝ち残っていた筈だ。アリーナ側ではなく観客席の上側から降りてきたと言うことは、私達より前に試合を終わらせていたのだろうか?
そんな私の思考は、彼の言葉により強制的に中断させられた。
「魔力のお薬、要りますか? 五十リルですが」
「ん、まだ大丈夫。お昼に貰った時のヤツを、まだ使わせてもらってるよ」
「おや、そうでしたか」
私はポケットから魔力薬のビンを取り出してみせると、彼はいつもの行商スマイルで返した。サーペントさんの魔力薬は、昨日ナイトホーンから貰って飲んだものに比べて効果が段違いで、チビチビと飲んでも十分な魔力を得られた。毒のような深い紫色の見た目は、高い効力の現れだったのだ。
薬の代金の話になって、そういえば昨日の薬代、まだナイトホーンに払ってなかったなと今になって思いだした。大会が終わったらちゃんと返さないと。
「ところでメイちゃん。先ほど広報課のナターシャさんという方にお会いしまして、人間の女の子を見なかったかと。たぶん、メイちゃんですよね?」
「あ、うん。私だと思う」
「もし出会ったらと、言伝をお願いされました。今日の夜、落ち着いてから部屋の前の石像鬼に話しかけるようにと」
「え。なんだろう」
石像鬼ってあの衛兵さんだよね。いったい何だろう。
もしかして部屋(迎賓の間)の使い方が悪くて、怒られたりするんだろうか。洗面台で顔を洗った時に床にこぼしちゃったからかな。
そんなことを思いながら勝手に戦々恐々としていると、突然周囲の客席がワッと一斉に盛り上がった。
『おい、やべえぞこの41番の奴』
『ここまでの相手も全員、瀕死にしてきたって』
『ウソだろ、ローミア様の防御魔術があるんじゃねえのかよ』
周囲の魔物がざわつく。
彼らの話を聞いていると、どうやら41番の魔物が昨年優勝者である1番の選手を圧倒しているらしい。
「ああ、41番……」
「ヘビさん、知ってるの?」
「ええ。行商をやっていると、いろいろと情報が入ってきますので」
サーペントさんは端末を起動し、『41』番の試合を入力する。
ブゥンと投影された映像では、巨大な二本のツノと分厚い筋肉を持つ、いかにも強そうな四足の魔物が映し出されていた。その魔物は対戦相手の竜の魔物へ馬乗りになって、大きく振りかぶりながら一方的に殴りつけていた。
「この方はヴェルサス・ディンバー……。元魔王軍の退役軍人、ベヒーモスです」
竜の顔の周りには、大きく血しぶきが飛び散っている。
見るに堪えないその光景に目を細めながら、サーペントさんは続けた。
「かねてよりこの方は、戦時中も快楽的に人間を殺めておりました。捕虜や非戦闘員の人間、子供であっても、かまわず」
「そんな、こと……」
サーペントさんは続ける。
「この方に人間への恨みがあるなどは聞いておりません。ただ、己の力の誇示のために敵を殺める……そんな危険な思想の方だったのでしょう」
試合の映像はそこで途切れた。勝敗が決したのだろう。
私は、何も言葉を発することが出来なかった。
「……メイちゃん。こんな危険な方も参加されているのです。ここから先の試合、……決して無茶はされないでくださいね」
彼の言葉が、不安という形で胸に沈んでいく。
見えない次の相手との試合が、静かに迫っていた。
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