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28. Day1.10:00 R1-3『シード(仮)とクレイグ(仮)』

『トカゲビトと……人間?』


 第一回戦第三試合。

 四千を超える試合の準備が同時進行で始められる中、たまたま一つの試合の様子を観戦した一部の観客から小さなざわめきが起こった。

 アリーナに立っていたのは、黒いパーカーを着た翠鱗のトカゲビトと、――鼠色のパーカーを着た人間だったからだ。



…………

……


『ほらよ、これ』

『パーカー?』


 サーペントさんの試合を見届けた後、人狼が手渡してきたのは鼠色のパーカーであった。クレイグやシードが着ている黒色の物とは色違いで、シャフが着ているものと同じデザインである。


『それ、クロウルの今年のツアーの奴』

『ハウリングエクリプス?』

『え。お前知ってんの?』

『いや、そう書いてあるし』

『んだよ』


 三日月をバックに咆哮する狼のシルエット。その上には【The Crawling Nightmare】とバンド名が書いてある。背中には血の滴るような赤色のフォントで【The Howling Eclipse Tour 1068】と書かれたデザインだった。咆哮の蝕ハウリング・エクリプスツアー。私はあまりハードロックを聞かないけれど、世の男達の間ではウェスト国のこのバンドが絶大な人気と知名度を持っていることは知っている。


『これ着ればいいの?』

『おう。洗って返せよ』


 言われた通りにパーカーを着てみる。クレイグとの身長差もあってちょっと私には大きい気がするけど、まあ不便にならない程度だった。


『んで、なんでこれを?』

『深くフード被って出りゃシードだって思われんじゃね?』

『いや、流石に無理があるでしょ……』


 やっぱりこいつ(クレイグ)、三馬鹿の中でも一番馬鹿だ。なんでそれで行けると思った。そもそも私、トカゲの尻尾とか生えてないし。


『無理か?』

『無理じゃん』

『じゃあアレだな』


 人狼が一瞬光に包まれる。光が晴れるとそこには翠鱗のトカゲビトがいた。


『俺がシードやるから、お前が(クレイグ)やれよ』

『え、どういうこと?』

(ライカンスロープ)が人間の女に変身してるってノリで』


 なんで本人(クレイグ)を目の前にして私が本人(クレイグ)のフリせにゃならんのよ。


『お前って光の魔術使うじゃん。俺の魔術属性も光だからさ、普通にバレないんじゃね?』



…………

……


『えーと、人間……すか?』

『いやァ……俺ライカンスロープ。今は変身してるんだぜ』

『はぁ……』


 試合相手の魔物が不思議そうに聞いてくるのでクレイグを(かた)る。なんとなく声を低くして、男の感じも演出しておいた。


『…………』


 シード姿のクレイグが何か言いたげにジト目でこっちを見てくる。なんだいその不満そうな目は。

 いや違うか。シードはいつもそんな感じのやる気のない目だったわ。



『それでは第一回戦第三試合……始め!』


「よし、行くよ。クレイグ(メイ)!」



 ◆  ◆  ◆


 初戦の相手は三メートルを超える大きな走鳥属の魔物だった。

 クレイグはトカゲビトの得意とする水属性の魔術を扱えず、また、一般的なトカゲビトはクレイグのような光属性魔術を扱えないため、シードの姿では槍での物理攻撃が主体となる。要するに、魔術縛りのハンデ戦だ。

 だが私達には、作戦があった。


「あのひとは斧嘴鳥(アクスビーク)……鳥だけど、空をとべない」


 人語。この会場にいる数万の魔物達は、その大多数が人語を解さない。何故か人語を話す三馬鹿やオモシロワイバーンの方がレアケースなのだ。

 それはつまり、敵前で堂々と戦術や意思の伝達を行えるということ。


「おおきなくちばしを振り下ろしてたたかうけど、きゅうに横には曲がれない――」


 クレイグが敵の攻撃を真横にステップして回避する。アクスビークの攻撃は地面を砕き、アリーナに大きなヒビを作る。マトモに食らえば一撃で勝負を決められてしまう可能性もあるだろう。

 アクスビークは突き刺さった嘴を引き抜くと周囲をきょろきょろと見回した。


「そして、うしろに走ることもできない――」


 その隙に背後をとったクレイグが斧槍を薙ぎ払う。


『ギェッ!?』


 突然の背後からの攻撃に、アクスビークは驚いて前方に走り出す。

 魔物(まも)ノート。私がかつてユキちゃんに教わってまとめ上げた魔物の生態書だ。私はそれらをすべて記憶している。


 速く走るために身体の重心が前方に偏っているアクスビークは、後ろ蹴りなどの背後に重心を置く行動ができない。つまり、対峙した際には真後ろが完全な安置となる。自然界の広大な土地では彼に背後から追い付ける者がいないため全く問題にはならないのだが、ここは狭いアリーナだ。行動範囲の制限のあるこの状況下は、彼にとって最大の不利益となる。


『付いて……来るなあぁァ~!!』


 アクスビークはパニックになり、クレイグを振り切ろうとぐるぐるとアリーナを回り始める。


「……強化行くよ、シード(クレイグ)

「っしゃあ!!」


 私は覚えたての身体強化の祈りを捧げ、クレイグを強化する。

 姿を変えているとは言え、元来素早さの高いライカンスロープに身体能力強化のバフが掛かるのだ。如何にアクスビークと言え、それを振り払うことはできないだろう。


『ギェッ……は、はや……!』


 見る見るうちにアクスビークに追い付くクレイグ。

 そして再び完璧に背後を取ると、斧槍を振りかざした。


 よし、捉えた――!


「うおっ!?」


 次の瞬間、クレイグは大きく吹き飛ばされていた。奴に接触はしていなかった。それなのに、クレイグだけが勝手に吹き飛んだように見えた。

 私はその状況に、思い当たる節があった。


「魔術……!」


 魔物(まも)ノートには情報を持っていなかった、アクスビークの魔術。だが、その正体がシャフの扱うような風の魔術、突風のようなものであることは、容易に想像が出来た。だって、私もシャフに喰らったことがあるから。


「くっそ! なんだこれ!!」


 クレイグは再び背後や側面からの攻撃を試みるも、変わらず突風に阻まれ、吹き飛ばされてしまう。


「どーすんだ! メイ!!」

「いやァ俺メイじゃないって……」


 クレイグがシードのフリをしていることも忘れて私を呼ぶ。


「周囲に竜巻のように風が吹き荒れているのなら」


 三六〇度を防御できる風の鎧などあり得ない。何故なら、地面には風が流れないから。

 竜巻のような風の循環が鎧の正体であるのなら、頭上の一点。そこに風は流れようがない。


「真上からの攻撃を試して」


 私がそれを言う頃には、既にクレイグは大きく跳躍していた。恐らく私が言わずとも、自らその結論に辿り着いていたのだろう。

 ヤツは頭は弱いが、戦いのセンスだけはズバ抜けているように思えた。


 ザシュッ!!


『ギェあああ~~~~っ!』


 クレイグが斧槍で上空から脳天割りを繰り出す。

 それをマトモに喰らったアクスビークは遂に地に伏した。


『勝者、【Crawling Nightmare】!!』


 審判員の高らかな宣言と共に、私たちの第一試合が幕を閉じた。

お読みくださりありがとうございました。

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