27. Day1.9:30 R1-2『サーペントさん』
『一回戦第二試合を始めます。8,193番から16,384番のチームは、闘技場に登壇してください。繰り返します。8,193番から16,384番の――』
『ワタシです。行ってきますね』
サーペントさんはそう言うと、ずるずると階段を下って行った。
『お疲れ様。シャフ、ナイトホーン』
『我なーんもしてないけどね』
試合を終えたふたりを労う。ぴんぴんとしているワイバーンの隣でぐったりと地に伏すコウモリ。
『シャフ、大丈夫?』
『バテました……』
『ヘビさんに魔力薬の試供品貰ったけど。飲む?』
『ふへぇ……』
シャフはプルプルと震える翼で小ビンを受け取る。そして中の紫色の液体をペロリと一舐めすると、
『……ぉ』
『おおおおおおぉーー!!!』
『スゴいですこれ、メイさん! 力が湧いてきます! 二十四時間戦えます!!!』
『え、そんな凄いの……? 怪しい薬じゃないよね……?』
『魔剤です魔剤! おいしいですー!!』
『お、おう。ヘビさんに感謝してね?』
『うおおー! ありがとうございますー!! ヘビさんー!!』
『…………』
そんなやり取りをシャフとしていると、私は不意にナイトホーンが何か言いたげな目でこちらを見下ろしていることに気が付いた。
『何?』
『いや、別に。そろそろあいつの試合始まるよ』
しかし私が尋ねると、ナイトホーンはふいと目を逸らして端末を操作し始める。
え、何それ。別にコイツは私がシャフと仲良くすることにヤキモチを焼くようなタイプじゃないだろうし、普通に気になるんだけど。
『それでは第一回戦第二試合……始め!』
そうして私が巡らせていた思考は、会場に響く開戦の合図と湧き上がる大歓声によって強制的に中断させられた。
「ヘビさんの試合見なきゃ」
私は急いで端末に【14,002】を入力する。サーペントさんのエントリー番号だ。
ブゥンと試合映像が映し出される。勇者エリックとサーペントさんの試合だ。
電光石火。開始早々、勇者エリックは疾風のように距離を詰めていた。人間とは思えない早業。あの時のビッグマウスを裏付けるような実力を持っている……そんな印象だった。
そして剣の間合いに飛び込んだ次の瞬間――
勇者はサーペントさんの尻尾に吊るし上げられていた。
(え、勇者よっわ)
というのが第一の感想だったが、実際にはサーペントさんの技ありであった。
間合いに飛び込む直前に鎌首を上げて相手の視線を上方向に誘導し、その隙に死角となる足元を尻尾で捕まえる。身体の長い蛇の魔物でこそ可能な戦法だ。
「降参してください」
「お前……魔物の癖に人語を話すのか?」
「……今降参すれば、痛い目は見ませんよ」
「っ、誰が……!」
勇者とサーペントさんの口が交互に動く。おそらく会話をしているのだろうが、その内容までは私達の端末からは聞き取れない。
すると勇者がジタバタと暴れ始める。サーペントさんはやれやれと言った風に首を振ると、尻尾を勢いよく振り下ろしエリックを地面に叩きつけた。
「ぐあぁっ!?」
ドォォンと言う音と共に、地面が抉れる程の強力な一撃だった。
そしてサーペントさんは再び尻尾を吊り上げると、再び何かを話す。
「……お願いです、降参してください」
「……ぐっ……」
勇者は何も言わなかった。しかし今度はその返事を待たずして、サーペントさんは容赦なく再び勇者を地面に叩きつける。
「ぐあああっ……!!」
「……降参しませんか?」
そして再び尻尾を吊り上げると、そのまま全ての力を乗せるように連続で地面に叩き付けていく。
(ヘビさん、意外と攻撃がえげつない……)
正直なところ、それは直視するのが少し憚られるような光景だった。普段の温和な様子のサーペントさんからは想像もできないような、『魔物』としての攻撃的な彼の姿。
『いいねあれ。我もできないかな』
『ボスの尻尾じゃ巻き付けられなくないっすか?』
ナイトホーンが尻尾をうねうねさせながら言う。
「……まだ分かりませんか? 『ヘビに捕まった獲物』がどのような末路を辿るのか、まさか聡明な人間が知らない筈が無いでしょう……?」
試合映像の奥の方で、隣のアリーナの様子がチラリと見えた。
気がつくとすぐ隣で試合を行っていたネズミとカエルが、いつの間にか試合そっちのけでその光景を見てガタガタと震えている。ゼッケン番号は【14003】と【14004】。勝者が次の対戦相手となってしまう。
「わ……分かった、降参する」
ぼろ雑巾のようになったエリックが何かを呟く。
するとサーペントさんは丁寧に彼を地面に下ろして解放した。
そこで試合の中継は終了。決着が付いたと言うことだ。
試合時間三分。異例のスピード決着であった。
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