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21. 誰がトウモロコシじゃ


 Maery F.【誰がトウモロコシじゃ】


 大会前日、午後三時。

 迎賓の間のベッドに腰掛けながら、私はトークスグループ【打倒フォールターナ部】に有ること無いことを散々書き込んでいたアホウ共に返信をしていた。ちなみに私はエリノア語(魔物言語)の読み書きはバッチリである。ユキちゃん先生の教育の賜物だね。


 Craig W.【お、メイ起きたか】

 Schaffner L.【おはようございます】

 Maery F.【寝てねーよ】

 Maery F.【ちょっとリアルで喋ってたのごめん】


 魔王様やフォールターナ様とちょっと話してた、なんて言えるわけがない。

 こんなトークスのグループ名をしておいて、クレイグ達が騒がない筈がないし。

 だからそこは敢えて濁しておいた。


 Craig W.【なあメイ】

 Craig W.【俺達今公園で特訓してんだけどさ】

 Craig W.【お前も時間あったら来いよ】


 相変わらずの命令口調で、人狼から誘いを受ける。

 正直なところ、急造チームで作戦もなく、ぶっつけ本番で明日の大会に臨むのは不安だった。だからせめてクレイグ達の『特訓』とやらに顔を出して、足を引っ張らない程度には動けるようになっておこう。そんな気持ちで私はその誘いに乗ることにした。


 Maery F.【ん、分かった】

 Maery F.【どこに行けばいい?】

 Craig W.【市営の第四運動公園】

 Craig W.【中に入って、アストラ競技場の奥にある芝んとこ】


 どうやらヤツらは市営公園にいるらしい。アストラが何のことだか分からないけど、とりあえず行ってみて、分からなければまた聞けばいいか。


 Maery F.【分かった、今から行くね】


 すぐさま日焼け止めをサッと塗り、必要最小限の荷物をポーチに入れて部屋の扉をガチャリと開ける。私が部屋を出ると、横に待機していた石像の魔物が話しかけてきた。


『こんにちは、メアリー様。如何なさいましたか』


 彼がフィーネさんの言っていた石像鬼(ガーゴイル)なのだろう。

 名前に鬼とあるものの、彼の顔はどちらかと言うと猛禽類に近いように思う。


『ちょっと今から出掛けようと思いまして。大丈夫ですか?』

『ええ、問題ございませんよ。ただ、魔王様より外出の際は護衛をひとりお付けするよう命じられております故、そちらだけご容赦戴ければ』

『はい、大丈夫です』


 護衛がひとり付いていても、別に問題はないかな。

 『訓練なんて危ないことをすんな』って怒られないかだけが心配だけども。


『ところでメアリー様、どちらまで行かれるのですか?』

『市営の「第四運動公園」と言うところまで。あと私、メイで大丈夫ですよ』

『では今後はメイ様と。第四公園まででしたらここから五分ですね。ペガエクを手配します』


 ガーゴイルはそう言うと、石像の姿を解いて動き出した。そしてどこからかスマホを取り出すと、『護衛とペガエクを二頭』と何処かに指示を出す。

 ペガエクとやらは何ぞやと思っていたが、聞くと『ペガサス・エクスプレス』という魔物タクシーの会社があるらしい。



『こんにちは、メアリーさんでしょうか?』


 それから数分も待たず、背に大きな両刃斧を背負った一匹の牛鬼(ミノタウロス)がやって来た。彼は私への声かけの後、隣のガーゴイルにも軽く挨拶を交わす。


『はい、そうです』

『この度は私が護衛をお務めします。必ずお守りしますので、どうかご安心下さいね』


 彼は手を前に組んで頭を下げる。私が魔王様(ユキちゃん)のお気に入りであるためか、こんなガタイのいい魔物のひとまで全員が礼儀正しく接してくれるので、少しばかり申し訳無さが出てきてしまう。私も『よろしくお願いします』とお辞儀で返した。


『ペガエクを城門前に呼ばせております。メアリーさんの準備ができましたら向かいましょうか』



 そして護衛のミノタウロスさんと一緒に城門へ向かうと、門前に薄青色の毛並みのペガサスと、更に一回り大きな茶色の毛並みのヒポグリフの二頭が待機していた。彼等が魔物タクシーの『ペガエク』なのだろう。



『わぁ……!』


(ペガサスに、ヒポグリフだ……!)


 後にこのペガサスさんとの雑談で聞いたことだが、『ペガエク』なのにペガサス以外もいるじゃん! とツッコむのは初回利用者のあるあるらしい。これはペガサスからスタートアップで始まった会社と言うだけで、会社規模が大きくなった今や、運んでくれる魔物はペガサスに限らないためなんだとか。

 私はペガサスもヒポグリフも実物を見るのが初めてであったので、内心少しだけテンションが上がっていたのは内緒だ。特にヒポグリフは、初めに鷲のような上半身を見てグリフォンだと思ってしまっていたが、その後に馬の下半身を見て真の正体に気が付いた時、電流が走ったかのような爽快感が脳内を駆け抜けた。



『人間のお客さんはこちらに乗ってくださいね』


 ペガサスに声を掛けられる。


『足元気をつけて下さいね。鞍は人間のお客さん向けに調整してありますが、もし合わない場合は言って貰えれば』


 そう言ってペガサスは、器用に首を傾けて鞍の位置を示す。

 幼い頃ユキちゃんに話を聞いていた時、私が想像上で最も憧れていた魔物は実はペガサスであった。なぜなら昔持っていた少女漫画で相手役の()()が、白く美しいペガサスに乗っていたから。


『ありがとうございます。もう乗っちゃっても大丈夫ですか?』

『もちろんです。今日は第四公園までですよね。実は、人間のお客さんは珍しいので、私もちょっと楽しみなんですよ』


 ペガサスは嬉しそうにフルルと小さく鼻を鳴らす。

 護衛のミノタウロスさんは、ヒポグリフに乗りながらこちらに親指を立てた。



  ◆  ◆  ◆


『ありがとうございました。またご利用くださいね』


 公園に到着すると、ペガエクの二人はヒヒンとキューンと短く鳴きその場を去って行った。

 憧れていたペガサスの毛並は、まるでベルベット織りの高級な絨毯(じゅうたん)のごとく肌触りが最高で、乗り心地がバツグンだった。人をダメにするペガサス。

 そして彼の話も面白く、五分という短い時間で目的地に着いてしまった時には、私には話し足りなさと触り足りなさと言うダブルパンチの名残惜しさだけが残っていた。


『メアリーさん、公園のどちらへ行かれるのですか?』


 ミノタウロスの彼が尋ねる。

 ヴァーレイン市立第四総合運動公園。そこは豊かな緑の中に施設が整備された、自然と文明が調和した公園という印象だった。


『えっと……あの建物って、アストラの競技場ですか?』


 私は前方を指差す。公園の奥でひときわ存在感を示していた、大きな競技場のような建物がそこにはあった。競技場と言っても変に高さがあり、まるで巨大な塔の一部を切り出したかのような独特の形状をした建物である。


『ええ、よくご存じで。確かにあちらはアストラの建物ですね』

『あの、恥ずかしいのですが、アストラって名前だけしか知らなくて』

『アストラ・アリーナですね。エリノアでは人気のスポーツですよ! あの競技場、縦に長いですよね? アストラはそれぞれのチームが地上と空中の二つに分かれて同時に戦う球技なんです。プロの試合は大迫力ですので、興味があれば是非』

『すごい、プロもあるんですね』

『ええ。ここヴァーレイン市にもプロチームがありますよ。国の広報誌の「えりのあ通信」にもこの前特集されておりましたし、初等学校の子供達にも人気で、将来の夢に挙げる子が多いんです』

『へぇぇ……』


 『私も学生時代にやっておりました』とミノタウロスが続ける。


 魔物に対する自分の世界がまた、一つ広がったような気がした。

 試合を観戦したらどんな迫力なんだろう。

 翼を持つ選手たちが空を素早く飛び交い、地上の選手が激しくぶつかり合い。

 スポーツを見るのが大好きだったお父さんなら、きっとハマってたんだろうな。


『では、今日はアストラの競技場へ向かわれるのですか? 確か事前に申請をしないと、中へは入れなかったかも知れませんが』

『あ、いえ。今日はその奥の芝生広場で友達と待ち合わせしているんです』


 そうして彼を従えるようにしながらアストラの競技場横をずんずんと進み、私達は無事に芝生広場にたどり着いた。そこは、広大な土地に整備されたトラックと、中央に一面の芝生が茂る、青々とした美しい景観だった。


 ゆっくりとしたペースでトラックを散歩するケンタウロス属のひとを眺めながら芝生の中へ歩を進める。初めは大きな公園でヤツらと合流できるのかが不安だったが、芝生の奥で一際目立つ濃紺の巨大な怪獣が猛烈に暴れているのを見て、すぐさまその心配は杞憂と化した。他の公園の利用者達は近くで飛竜が暴れていても無反応で自分の運動をしているのは、流石魔物の国と言ったところだ。


『向こうで何かやっている方がいますね……。危ないのでメアリーさんは、近付かれないように──って、あれ?!』


 そのまま脇目も振らずに巨大怪獣(ナイトホーン)のもとへずんずんと向かう私を見て、ミノタウロスの彼がいよいよコイツ気でも触れたかと慌てて制止してくる。


『ちょちょちょ!! え……まさか、あのワイバーンの元へ行くんですか?!』

『ええ、まあ……』

『えっと……その、まさか()()()が先ほど話されてたお友達で……?』

『大丈夫です、ああ見えてアイツ無害なんで。少しここで待っていて下さいね』

『はあ……』


 私の返答に彼は明らかに納得が行っていない様子で怪訝な表情を浮かべる。この様子を見ると、アイツ(ナイトホーン)のことをオモシロワイバーンだとか言ってナメて掛かってるのって、もしかして世界中で私だけだったりする……?



『来たよ』


 近付いてみて分かった。考えれば当然のことだったが、遠巻きに暴れているように見えたナイトホーンは別にひとりで暴れていた訳ではなく、クレイグとシャフと力比べと言うか、模擬戦をしていたようだった。


『お、メイさん来ましたねぇ』


 シャフが私の声に気付き、こちらに顔を向ける。

 模擬戦中にそんなことすると――


『ぎゃああああぁぁァーー!!!』


 ドォォンという地響きと共にナイトホーンの闇魔術がシャフに直撃する。砂煙が晴れるとそこにはいつもの謎の黒い物体(コウモリだったモノ)がのっぺりと地に伏していた。


『ちょっと休憩しようか』


 バサァっとナイトホーンが地面に降りてくる。

 ヤツはあの巨体にもかかわらず地鳴りを鳴らさず静かに着地した。地味に凄い。


『…………』


⠀地面に降り立つや否や、濃紺のワイバーンはジト目でこちらを睨み付けてくる。


『何?⠀その目は』

『我はお前を仲間だと認めてないかんな』

『そうだそうだ!⠀メイさんもボスにボコられちゃえばいいんです!!』


 いつの間に復活したのか、ナイトホーンの足元に隠れて悪態をつくシャフネル。飛竜の威を借るコウモリだな、こいつ。


『いーじゃないですかボス。別に悪いヤツじゃないっすよ?』

『クレイグはコイツに魔術でブッ飛ばされて無いからそう言えるんです!!⠀あの時めちゃくちゃ痛かったんですから!!!』

『そーだそーだ!⠀シャフとシードに謝れー!!』


⠀コウモリとワイバーンがやいのやいの騒ぎ立てている。あん時のはこちとら正当防衛じゃ。誰が謝るかっての。


『メイ、準備運動はして来たか?』


 そんなヤツらを放っておいて、クレイグは私に声を掛ける。


『ごめん、まだしてないんだ』

『……んじゃあさあ』


 私がそう応えるや否や、それまでガヤついていたナイトホーンが先を続ける。

 その声には先ほどまでの軽さが消え、有無を言わさぬ冷たい響きが宿っていた。


『クレイグってまだ動ける?』

『全然行けますよボス』

『んん、いいね。じゃあ』


 クレイグのその言葉に、ワイバーンはまるで獲物を測るような視線で、私達を見下ろしながら続けた。


『今からお前らふたりで、我に掛かって来いよ』


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