19. 『危うさ』
『じゃあ、リーファさんが占えば、カノンちゃんが見つかるんですか?』
ユキちゃんはリーファさんを占い師なのだと言っていた。魔物達から【フォールターナ】と呼ばれる彼女の能力を使って、カノンちゃんを捜索できると言うことなのだろう。
『ええ。リーファはですね、未来視ができるのですよ』
『試しに、ぬしが形となるものを一つばかり寄越してくれぬかの』
『形となるもの、って……?』
『爪や髪など何でもよい』
私は手櫛で髪を撫でてみる。いつも望んでない時に髪が抜けてその都度ショックを受ける癖に、こういう時に限って抜けて来ない。一本くらいなら千切っちゃってもいいかな――そんな淑女らしからぬ粗野な考えに身を委ねそうになっていた矢先、運よく一本の髪を手に取ることができてホッとした。
毛髪をリーファさんに手渡す。彼女がフッと息を吹き掛けると髪はふわりと宙に浮かび、突然ボッと青白い炎に包まれた。リーファさんが部屋に現れた時に見た狐火と同じものだ。その炎はゆっくりと大きく広がると、その中に何かが映し出される気配があった。
それは、砂塵の舞う戦場だった。映像の中で槍を持ったシードが走り回り、対峙する何者かと戦っている。時折ぼやけた映像の端に人の手が映ると、例の光の矢の魔術が勢いよく放たれていた。
私はそれを見て、この映像が未来の私の目線なのだと言うことを何となく理解した。
『おお、これは……』
その映像に、九尾は驚きの声を挙げる。
『驚いたの……ぬしは、魔術を扱えるのかえ』
ユキちゃんと同じだ。人間である私が魔術を操る様子を目の当たりにして、リーファさんは驚いた表情を私に見せた。やっぱり人間って普通は魔術を使えないんだ。
一方で、ただ静かに映像を眺めていたユキちゃんの紫色の瞳には、何処か物悲しい輝きが宿っている。どうしてそんな顔をするの。私はユキちゃんにそんな顔をしてほしくないから、こうして新しく覚えた魔術で強くなろうとしているのに。
『場所は国立闘技場、おそらく明日の魔術闘技大会よの……。どんな運命の巡り合わせか、ぬしが妾の大会に出場することになろうとは』
それについては、狡猾な人狼の罠にハマって出ることになってしまったんです。
カノンちゃんを追うために腹を括った。真実を追い求めると覚悟も決めた。でもその話と、この大会の出場はまったく別の話のような気がする。正直出なくても良いのであれば、迷わず「出ない」を選んだことだろう。
でも、ついさっきユキちゃんに「強くなる」と啖呵を切ってしまった手前、なんとなくそんな弱音も吐くことができないような気もする。おのれクレイグ、これも計算の内なのか。
◆ ◆ ◆
その後、本題としていたハルピュイア……カノン・ノアーノの未来視については、彼女の羽毛を持ち合わせていないことで後日の実施となった。明日、大会の裏で彼女の姉が持参したものをリーファが占う方針で着地したのだ。
私はメイを残し、リーファと共に迎賓の間を去る。
『魔王殿。……あの娘の前では、敢えて黙っておったのじゃがの』
『……ええ』
共に廊下を歩みながら、リーファは遠慮がちにそう切り出す。私はその先に続く彼女の言葉を、薄々と読めてしまった。
『……あの娘、危険じゃぞ』
『…………』
未来視の中のメイは、魔術を使っていた。
そこから連想されるメイのとある『危うさ』。
『……問題ありません、メイは私が支えます。決して先代様の時のようには……』
リーファは先代魔王シュオール時代からの軍参謀だ。だからこそ、彼女は今のメイの『危うさ』を理解している。
『あ、いや……。その点は妾も魔王殿を信頼しておる。じゃが、左様な意味ではなくての……』
彼女は立ち止まった。
『あの娘は「村の無念を晴らしたい」と申した。普通に考えればそれは実行犯への仇討ち、復讐の決意と受けとれるのじゃが……、娘は……その。ただの……、人間じゃ。多少の魔術を操れると言えど、左様な力など持ち合わせておる筈もなく、思想と能力が乖離しておる』
リーファは慧眼を持つ。だが彼女はひとを化かす妲己でありながらも、言葉を巧みに操って物事を婉曲的に、遠回しに表現することが苦手だ。そんな彼女が今……私のために気を遣って、慎重に言葉を選んでいる。
『構いませんよ。貴方の考えのままに申しなさい』
『う、うむ、つまりじゃな……。妾の魔術でも折れぬ強い決意を持つ者、いずれ真相に辿り着くことじゃろう。じゃが、やがて真の敵と対峙した時、実力の伴わぬ其の復讐劇の果てには……凄惨な死しか待っておらぬことをあの娘も理解しておらぬ訳ではあるまい。そこから察するに、おそらくあの娘は――』
『自らの命で全てを終えることも厭わずにおる』
◆ ◆ ◆
サーペントさんが言っていた。
私は生き残った。その意味は、これから私が何をするかで決まる。
ならば私は、必ず真犯人を見つけ出して、捕まえてみせる。それが私の生きる意味なんだ。
ユキちゃんは、私に無茶をするなと言った。だけれど、それじゃ駄目なんだ。
あの村で、みんなが私の代わりに命を落としたのだから。その命の重さには、私も命を賭して報いなければならない。それこそが、ただひとり残されてしまった私の責任だと思ったから。
……相手が強大な黒竜であったとしても。
私の力が、到底遠く及ばない相手だったとしても。
私が捕まえなきゃ。たとえ、この命に代えてでも――――
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☆舞台裏 (以降本編とは関係ありません)
メイ『今日のゲストは前回に引き続きリーファさんです』
リーファ『うむ』
メイ『前の話でリーファさんの魔術を受けた私は、……なんか上手く表現できないけど……凄く怖い気持ちになりました。これって、どんな魔術だったんですか?』
リーファ『ああ、其れについてはまこと済まぬな……』
メイ『あ、いえ! でもそのお陰で、覚悟を決められましたから』
リーファ『ぬしのその覚悟、危険じゃろうて……まあ、先の問いに答えると、まず妾の魔術属性は光じゃ』
メイ『光』
リーファ『うむ、未来視などはそちらを応用しておる。じゃが、先にぬしに使うた「恐怖を見せる魔術」と言うものは、特に光属性の魔術として在る訳ではないのじゃ』
メイ『たしかに「恐怖」って、光のイメージと合わないですよね』
リーファ『妲己である妾は、昔から他者の感情の機微に鋭敏な妖狐じゃった。たとえば目を見るだけで、相手の感情が手に取るように分かる』
メイ『凄い感受性』
リーファ『じゃが妾は……昔から口が上手い方ではなかった。他者との会話で、相手が妾によい感情を持たぬことにも気付いてしまうのでな』
メイ『そんな……リーファさんは別に口下手だとは思いませんよ』
リーファ『すまぬな……じゃが、昔はもっと酷かったのじゃ。そこで妾は……あろうことか誤った方向へ努力を始めた。負の感情を持たれぬよう、魔力で相手の感情をコントロールできぬものかと考え始めたのじゃ。魔力をどう与えれば、相手の感情にどう作用するのかと』
メイ『ああ、それが……』
リーファ『うむ。妾は恐怖のみならず、相手の感情を全て意のままに操ることができる。言うなれば、妾のみが扱える……一種の「洗脳」魔術じゃな』
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