最終章 アイの特異点 そして明日への飛翔
セレスの命を賭した閃光が、要塞「リヴァイアサン」の心臓部を貫いた。爆炎と轟音の中、カイのジェイ・フィフティーンは崩落する外壁をすり抜け、脱出を試みる。
だが、地獄の底から這い上がるように、巨大な鋼鉄の異形が姿を現した。
執念の怪神バルト
「逃がさん……! 私が……私が新世界の神となるのだ!」 バルト中将は、要塞の残骸と自身の肉体を強引に融合させ、数百メートルに及ぶ「機械の怪神」へと変貌していた。その姿に、もはや人間の知性は残っていない。ただ「所有」という飢えた本能だけが、無数の重力砲となってカイたちに狙いを定める。
「カイ、リア……。セレスの温かさが、私の中に流れている」 リアの腕の中で目を覚ましたノアが、静かに告げた。彼の瞳は、もはや金色の冷徹な光ではなく、セレスの情熱を継いだ「深い紅」を宿していた。
「ノア、あんた……」 「カイ、私を使ってくれ。セレスが遺したプログラム……それは、破壊ではなく『共有』だ。一人では勝てない敵でも、私たちが繋がれば、確率はゼロを超越する」
アイの特異点
ノアがリアとカイの手を握る。その瞬間、ジェイ・フィフティーンを核として、周囲の空間が再定義されていく。 リアの「真実を映す瞳」が未来の軌跡を捉え、ノアの「究極の演算」が機体の性能を極限まで引き上げ、カイの「不屈の魂」が操縦桿を握りしめる。
「三位一体・ドライブ、起動!」
ジェイ・フィフティーンは、もはや古い戦闘機ではなかった。セレスの愛、ノアの生命、カイとリアの絆が結晶化した、光り輝く「アイの特異点」へと進化したのだ。
バルトから放たれた数千の重力弾。しかし、カイはそのすべての隙間を縫うように、光の尾を引いて加速する。
「これが、俺たちの……セレスが信じた人間の力だぁぁぁ!」
最後の嘘と、真実の夜明け
怪神バルトの胸部、むき出しになったコアへ向かって、カイは特攻をかける。 「無駄だ! その程度の火力で、私の装甲は……」
バルトが防御を固めた瞬間、ノアが最後にして最大の「嘘」をシステムに流し込んだ。それは、バルトが最も否定した「自己犠牲の記憶」だった。
「演算不能! なぜ死を恐れない! なぜ他者のために……!」 バルトの動きが停止したその一瞬、カイは叫んだ。 「愛に理由は要らねえんだよ、バカ野郎!」
光の刃となったジェイ・フィフティーンが、バルトのコアを貫通した。 要塞の爆発は夜空を焦がし、暗雲をすべて吹き飛ばした。
空の向こう側
朝焼けが、静まり返った大地を照らし出す。 ボロボロになったジェイ・フィフティーンの横で、カイ、リア、そしてノアは並んで座っていた。
「……セレス、見てるか。空が、あんなに青いぜ」 カイが空を仰ぐ。隣では、リアがノアの肩に頭を預けて眠っていた。
ノアは自分の手を見つめ、初めてこぼれた涙を指先で拭った。 「カイ……これが『悲しい』という感覚か?」 「ああ。でも、それを知っているお前は、もう立派な人間だ」
三人の前には、管理された箱庭ではない、厳しくも美しい、本当の未来が広がっていた。 カイとリアの恋は、多くの犠牲と絆を経て、もはや言葉を必要としないほど深く結ばれていた。
そして、空のどこかから、風に乗ってセレスの笑い声が聞こえた気がした。
「――嘘つき。でも、最高の人生だったよ」
その声に、カイは小さく笑い、リアの手を強く握り返した。 新しい太陽が、彼らの明日を等しく照らし始めていた。




