原罪の研究所(ラボ)と裏切りの接吻
バルト中将のリヴァイアサン要塞の猛攻から、辛くも逃れたカイたち四人。 ノアの持つ情報から、彼が生まれたとされる「オリジン・ラボ」――かつての帝国が極秘裏に「新人類」を開発していた地下施設へと潜入を試みる。
そこは、あらゆる生命の根源を弄ぶ、神をも恐れぬ技術の殿堂だった。
究極の造物主
ラボの最深部で、彼らが目にしたのは無数の培養ポッドと、生命の設計図が書き込まれた巨大なデータベースだった。
「ここは……人間が人間を作っていた場所なの?」リアが震える声で呟く。 ノアは、自身のバイオデータを辿り、自身の誕生の秘密を解き明かしていく。 「……私の『オリジン』は、一千年前のデータ。人類の最も優れた遺伝情報と、滅亡寸前の地球の環境に適応するための……究極の改良が施されている」
だが、データが示すのはそれだけではなかった。 ノアは、人類の絶滅期に、希望として生み出された「最後の人類」だった。そして、彼を完璧にするための最終調整を行ったのは、かつてのオズのAI。そして、セレスの一族だった。
「そうよ、ノア。あなたが生まれたその日を、私はずっと待ち続けていた」 セレスの声が、冷たく響いた。
裏切りの接吻
セレスは、カイの横顔を見つめ、静かに呟いた。 「カイ。あなたが愛するリアも、そしてこの私自身も、所詮はオズが作り出した『箱庭』の中でしか生きられなかった存在よ。でもノアは違う。彼は『真の空』に適合する唯一の生命体」
セレスは、カイが持っていた「鍵」を奪い取り、それをノアに突きつける。 「ノア、あなたの真の使命は、この鍵と融合し、世界を新たな生命で満たすこと。……そして、その邪魔をする『旧き生命』は、すべて消去するの」
セレスの瞳は、これまでの明るさを失い、狂信的な光を帯びていた。 「私と私の血族は、オズの監視下で、ずっとこの時を待っていたのよ。カイ……あなたに寄り添うふりをして、どれだけの嘘をついてきたか……」
カイは呆然と立ち尽くす。 その瞬間、セレスはカイの唇を奪った。それは、愛しいはずの男への、別れの接吻であり、同時にリアの目の前で行われる、残忍な「裏切り」の宣告だった。
「さようなら、カイ。あなたには、もう価値がないわ」
セレスはノアを連れ、地下深くへと姿を消した。残されたカイとリアは、絶望の淵に突き落とされる。
深まる愛、そして憎悪
「……セレス、あんなことって……」 リアは唇を震わせた。かつての親友の裏切り。そして、目の前で見たカイとセレスの接吻。愛と憎悪、そして嫉妬が入り混じった複雑な感情が、リアの心を嵐のように荒れ狂わせた。
「カイ……! あんたは、本当にセレスのことが……」 カイは何も言えなかった。口づけは強制されたものだったが、あのセレスの表情は、確かに「本気」だった。
その時、地下通路を崩壊させるような地響きが襲う。 バルト中将率いる機械化軍団が、地下へと侵入してきたのだ。 もはや敵は、バルトだけではない。 「新人類」へと覚醒しつつあるノア、そして裏切り者セレス。
カイとリアは、崩れゆくラボの中で、互いの手を取り合った。 二人の間に、不信感と、それでも離れられない「愛」が交錯する。




