閑話?
笑みを抑えられない。
まあ、この家には自分だけしか住んでいないから問題などないのだが。
壁に3人の写真が張り付けられている。
山田 太郎
清塚 冷
そして宇曽 幸太郎
最初、上からこの3人が政府側のスパイである可能性があると伝えられた。
私の脳に真っ先に思い浮かんだ最悪のケース。彼がスパイである可能性。
まず最初に一人の容疑が外れた。
けれどそれは彼ではなかった。
安堵には程遠く、日に日に不安が膨れ上がるばかりだった。
だが、なんと喜ばしいことに、今日になってようやくスパイの正体が判明した。
赤いペンで清塚冷の写真に大きくバツを付ける。
あの時、彼が政府の悪口を言ってくれて助かった。
あの時は思わず笑みが抑えられなかった。
気持ち悪いやつと思われていないだろうか、それが心配だ。
政府のスパイに施されている教育__「スパイが政府へ批判することを禁止する」という洗脳教育。
歪な教育をしている政府に、今日ばかりは感謝した。
なんにせよ彼女が再び彼の視界に入ることは、もう二度とないだろう。
正に一石二鳥。私にとって、これ以上ない幸福だった。
予定通り、素早く荷物をまとめてこの町から出ていく準備をする。
彼と会えなくなってしまうのはとても悲しいが一時的なものは我慢するしかない。
最終的に彼と一緒になるための必要経費だ。
彼と一緒に遊びに行った時撮ったツーショットの写真を入れた写真立て。
また少し口元が緩む。やっぱり彼は私にたくさんの幸せをくれる。
これを見ると今でも彼との波の音まで鮮明に思い出す。彼への気持ちが溢れそうになって決意が鈍ってしまう。
写真立てを荷物の奥に仕舞い込む。
彼はこれから何度も涙を流すだろう。血反吐を吐いて、心がぐちゃぐちゃにされて、想像を絶する恐怖を体験するだろう。
だけど、大丈夫。安心して。私が救うから。
彼の勇気を貰うために、写真を胸ポケットに入れる。
覚悟を手放さないように深く息を吸い、力強く扉を開けて部屋を去る。
「一旦はさようなら。君が地獄の底へ落ちて落ちて落ち切った時、運命の再会をしましょう」
誰かの未練だけが残された部屋の扉は固く、そして確実に無機質な音を立てて閉じた。