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幸太郎君の幸せラブコメ♡  作者: 幸太郎
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1話☆彡

「幸太郎君知ってる?アルミホイルは有害な5G電波を遮断するんだよ」


 学校が終わり帰る準備をしていると、隣の席の彼女は開口一番そんなことを口走ってきた。


 アルミホイルで電波が遮れるはずないのにいったい何を言ってるのだろうか。


 彼女は廻流 桜、我がクラスの誇る陰謀論者である。外見は非常に良い。


「へー、そうなんだすごいね」


「そうでしょ、幸太郎君。あとねあとね…」


「そうなんだ、うんうん。それはすごいね」


 もう一度言おう。外見は、非常に良い。


 だが話しかけたら最後、陰謀論を死ぬまで語ってくる。


 まるで昆虫植物のような生体である。


 だがこいつの被害者は意外にも少ない。一番最初に罠に引っかかった間抜けが居るからだ。


 俺である。


「それとね、ワクチ...」

「ストォォォオップ」


 反射で彼女の口に昼飯の残りのあんパンを突っ込む。


 彼女が口走ろうとしたことは明らかにライン越えである。


 彼女は口をもごもごした後、両手で俺の右腕を引きはがした。


 あんパンを突っ込んだから喉に突っかかったようだが何とか飲み込めたらしい。


「何するの?」


 ハイライトを失った瞳でこちらを見つめてくる。


 まずい…このままだと《女性に対する不当な身体接触等の禁止に関する法律…通称、不当接触行為防止法違反》で訴えられかねない。


 …何か言い訳を考えなければ。


「何で私の口を塞いだの?」


 鼻が触れるか触れないかくらいまでの距離に急接近してきて詰めてくる。


 …となれば


 俺は彼女に近づいて耳打ちであ・る・こ・と・を告げた。


「悪い政府の人間に聞かれたらどうするんだ。粛清されるぞ」


 完全に出鱈目な理由だがこんな理由を信じてくれると祈るしかない。


 どうだ、これで駄目だったらもう死ぬしかない。


 緊張しながら彼女の顔を眺めていると…彼女は満面の笑みを浮かべた。


「そうだね、ごめんなさい。私としたことが油断したわ」


「でも好きなアンパンを私の口に突っ込んでくるなんて幸太郎君らしくないね」


「いや、まあ…うん」


 何がそんなにおかしいのか、不気味なほどに笑っている。


 …てかなんでこいつは俺の好物を知ってるんだ?


 俺言ったことないはずなんだけど。


「困惑してるね。まあ、私は幸太郎君の全部を知ってるから、幸太郎君の好物も知ってるんだよ」


 俺何も言ってないんだけど。


 こいつの方がよっぽど思考盗聴してるんじゃないのか。


「こらー!何してるんだおまえー!」


 廊下から耳がキンキンする声が聞こえてくる。

 

 振り返るとそこには、俺の小学校からの知り合いの清塚冷がいた。


 家が近所で青髪のボブで身長平均のいたいけ(笑)な少女(自称)だ。


 「こんにちは」


 取り敢えず挨拶をしておく。


「こんにちは…じゃないよ!何!なんで女の子と話してるの!?」


「別に理由なんてないぞ。あっちから話しかけてきただけで」


 陰謀少女に視線を向ける。


 少し考えた後口を開いた。


「そうだよ、私から話しかけたの。私は彼と仲良くなりたいと思っているんだ」


 マジか…いくら陰謀論のせいで人が寄ってこないからってこんな奴と…。


 幼馴染に視線を戻すと涙をこらえるような顔をしていた。


「幸太郎の馬鹿野郎!」


 涙を手で拭いながら走ってった。


 自分のクラスに戻ったんだろうか?


「あいつ何考えてるんだろう」


「さぁ....?」


「まあたまにあぁやって暴走するから、優しい目で見てあげてくれるありがたいな」


「うん、幸太郎がそういうなら」


「いや追ってこいよ!!」


「「うわっ」」


 今度は俺たちのすぐ隣にいきなり冷が飛び出てきた。


「なんで追ってこないの!?いたいけな少女が泣いて走って行ったんだよ!それでも男かってんだよ!」


「いや男女共同社会うんちゃらかんちゃらの時代に男がどうとかいうのはちょっと…ねぇ奥さんどう思います?」


「いや私はそういうことわからないんだけど」


 首を傾げて言った。


「旧〇witterやってないの?」


「やってない」


 じゃあ一体あの陰謀論はどこから取り寄せた知識なんだろうか?


「二人だけで会話するな!…というか男女平等だかなんだか知らないけど、いたいけな少女をぞんざいに扱う男はあり得ないと思うんだけど」


 旧〇witterに書いたら大火事になりそう。


 こいつ、将来かなり有望だな。


「まあでも、目の前に幸太郎君のことを好きな女子が居るなら構ってあげるべきだと思うよ。私は」


「ちょっと無理かも…周りに女の子らしき女の子なんていないから」


「幸太郎の目は節穴だな。それなら幼馴染である私の命と戦時中の旧〇witterを金輪際禁止、どっちがいい?」


「なんでそうなる...」


「仮定だよ。if 、if」


「まあ当たり前にわた「旧〇witter」…し」


「お前、何なんの迷いもなく旧〇witter選んでんだ」


 すごい顔芸だ。これを意識せずにやってるとしたらどんな表情筋してるんだろうか。


「そりゃねえ、当たり前でしょう」


「当たり前だったらダメなんだよ。じゃあどうしたら私を選んでくれるの?」


「うーん。金くれるならいいよ」


「えっ...一応聞くけどいくら?」


 恐る恐る聞いてくる。何をそんなに緊張することがあるのだろうか。


「毎月30万円を死ぬまで。単位はドルでも可」


「無理に決まってんでしょ馬鹿なの」


「ねぇ」


 会話に割り込むように陰謀少女が小さく手を上げた。


「...私、払えるよ」


「え、貸してくれるの?」


 陰謀少女の言葉に冷が食いつく。


 えぇ…というか実家太いんだ陰謀論者なのか。


 いや待てよ、日本古来の家系だからこそ思想が右に偏っているのか!?


 まあここはいっちょ、陰謀少女のノリに乗ってやるか。


「えっとね、ごめんなさい。俺は愛は金に変えられないと思ってるから...。いくら積まれてもお付き合いはできません」


「な、なんで勝手に振られてんのよ」


「ねえ、じゃあもし、もしもの話だよ。お金出すよって言ったら私と付き合う?」


 陰謀少女が言った。


「「...は?」」


 きょとんとした顔でとんでもない事口にしやがった。


「...いやいやいや、色々言いたいことはあるけさ...そもそも俺らが初めて喋ったの数日前だよ?なんで出会って数日の人間とお付き合いしようとしてんの、もしかして一目惚れ?」


「もしかしてどこかで会ったことある?」


「あの、何か反応をくれるとありがたいんだけど」


 さっきまで冗談で軽口叩いていたつもりがなんも反応されず、空気が気まずくなってくる。


「冗談」


 咄嗟に明らかに作り顔と分かる、無理があるおどけた表情を浮かべる。


 しかしそのあと、少し物悲しそうな顔を浮かべる。


「...やっぱり憶えてないんだね」


「え、何を、ちょっと待って、本当にどゆこと?」


「小学校」


「小学校???」


 冷に視線を送る。


 彼女は首を振った。どうやら記憶にないらしい。


「ええっと?覚えてないって?」


「そういえば雪くんって小学校の時に引っ越してきたよね」


「そうだね」


 小学校...引っ越し前...なんかあったっけ。


 黒い綺麗な髪、整った顔。


 誰だ?小学校整った容姿…陰謀論…ボッチ。


 ボッチ、そういえば…彼女は_______。


 __________




「なんで誰とも喋らないの?」


 少年___昔の僕は、隣りの席の少女にしゃべりかけていた。


 少女はいつもクラスで浮いていて、誰かと話しているところを見たこともなかった。


「貴方には関係ない」


 少女は無表情で答える。


「そんなこと言わないでさ、僕たちクラスメイトじゃん」


「たかがクラスメイトでしょ、それに私には何もないし、君が私に話しかけてくる意味なんてないし」


 少女はこちらを突き放すように冷たい言葉であしらってきた。


「そんなことないよ。君、可愛いじゃん。だからだよ」


 本当はなんとなく話しかけただけだったが、僕は咄嗟に嘘をついた。


「外見が目当てってこと?」


「んー、まあなんでもいいじゃん。それよりも名前はなんていうの?」


「廻流 桜」


「綺麗な名前だね」


 このころの自分に彼女の名前の漢字は難しくて読めなかったから、まずは名前のことから聞くことにした。


「それで、話は終わり?」


 この後も僕は何度も彼女と会っては、無理やり会話を終わらせようとする彼女に、何とか話をしようと話しかけ続けた。


 何故忘れていた?


 彼女と会って数年が過ぎたある日、父親が転勤になって、俺はあの町を強制的に出ることになった。


 つまり彼女は…。


______________________________


「やっと思い出した?幸太郎君、思い出してくれてよかった」


「そっか、久しぶりだね」


 今、こうして彼女と話していると無性に昔のことを懐かしく感じてくる


「え、結局二人はどんな関係性なの⁉」


「幼馴染だよ」


 その言葉に冷は驚嘆の表情を浮かべていた。


 まあ、小学校中学年であった人を幼馴染と言っていいのか、些か疑問は残るが。


「あの時はびっくりしたよ。急に引っ越しちゃうんだもん」


 そして、俺の耳に口を近づけていった。


「あの時、どうして私が君と話したのか、今でも分からない。でも、君が話しかけてくれたとき、実はすっごく嬉しかったんだよ」


 隣で冷は何か文句を言ってように見えるが右から左へ聞き流す。


「そうなんだな、てっきり嫌われてるもんだと思ってたから」


「そんなことないよ、幸太郎君って結構人の感情読むの苦手なところあるよね」


「そんなこと言われたことないんだけどな」


「それじゃ私はお先に帰るね」


 そういうといつの間に荷物を纏めていた鞄を持って少し駆け気味で彼女は先に帰った。


 そのあと俺もいつも通り、綺麗なグラデーションがかかっている空の元、帰り道を辿った。


__________


 その日の夜、夜ごはんを食べ終わった後、家を出る。


「ほんと、人使い荒いよなあ」


 独り言を喋りながら角を曲がるとそこには陰謀少女が居た。


「あれ、幸太郎君?」


「その声は、さっきぶりだな」


 暗くてよく見えないが、彼女は大きな荷物を持っているように見える。


「そうだね。幸太郎君はなんでこんな時間に外に?」


「お使いを頼まれた」


「そうなんだ。そういえば幸太郎君、独り言は程々にした方が良いよ。盗聴されて聞かれてるかもしれないんだから」


「もしかしてさっきの独り言、聞こえてた?」


「ん、何のこと?私は思考盗聴されるってことを言ってるんだよ」


 やはり陰謀少女は平常運転だ。


「それじゃあ、また明日学校で」


「うん、それじゃあ」


_______________


 翌朝、いつものように近所のニュースが母さんの口から入ってくる。


「そういえばゆきちゃん、冷ちゃんが家に帰ってきてないらしいのよ」

「…は?」

「こうちゃんは何か知らない?」

「いや…そんなことを言われても」


 あいつのことだ、どうせ家出でもしただけだろう。


 学校に行くと陰謀少女も登校してきていなかった。


 昨日、大荷物を持っていたしどこか旅行に行ったのだろうか?


 だが二人が学校に来ない日は2日、3日…と更新されていった。


 下手に二人のことを知っていたせいか周囲は慌ただしいのに、俺の中では何かが止まったままだった。


 何日目かのある日、行栄不明と判断されて二人の大規模な捜索が始まった。


 賢明な救助の甲斐なく、終ぞ二人が見つかることはなかった。


 このころには俺もまずいのでは、と思い始めたが、焦燥感が増えるだけで何もできやしなかった。


 本格的にまずいと焦り始めた時は全て手遅れだった。


 学校、図書館、駅、町のどこに行っても二人はいない。


 走り回って下手に疲労を増やしていくだけだった。


 徐々に二人が居ない光景は日常を蝕んでいく。


 既視感のある、デジャブとでもいうのだろう。


 何か大事なものが失われていくような感覚を感じた。


 ただ俺は別に大事な人と別れたことなんて___本当に無かった…よな?


 いや、無いに違いない。無かったに違いない。無いはずなんだ…。


 何か、空いた穴を別の何かで無理やり埋め込んでいるような違和感が、二人が失踪した日から日に日に強くなっていくのを感じている。


 この違和感の正体を…知らなければ、ならない。


 何故?

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