第6話 ご本人様の登場
振り返った時に見た英霊たちの覇気に圧倒されてロクサスはしりもちをついた。
ミーナは見えないはずだが、彼らが居るその場所を見て何かを感じ取り、震えている。
ロクサスたちの前で、英霊たちは一斉に膝をついて頭を下げた。
そして、一番前にいる風変わりな帽子をかぶり、扇を持った初老の男性が穏やかな口調で話す。
〈数百年ぶりの心よりの追悼、非常に心地よいモノでした。墓石の汚れと共に我らの鬱憤も洗い流されたかのようです。誰のとも知らぬ墓にこれだけの施しするとは……お二人の弔いの精神に心より感謝いたします〉
「あ、あの……ありがとうございます。ミ、ミーナも喜ぶと思います」
圧倒されながらロクサスはなんとか返事をした。
声が聞こえていないミーナもロクサスの言葉を聞いて頷いている。
〈ほら、お主。助けが必要なんじゃろう? こ奴らを憑依できるようになれば魔獣をなぎ倒してここを抜け出すのなんて造作もないことよ〉
ヒミコはビビり散らかしているロクサスを見てクスクスと笑う。
「ひ、憑依……?」
〈お主、もしかして霊媒師の能力をまだ使ったことがないな? 憑依すれば霊体の生前の能力を発揮することができるんじゃ〉
「じゃ、じゃあ、もしかして俺が苦手な槍とかも上手く振るえるようになります……?」
ロクサスの言葉に英霊の中の一人の青年が立ち上がった。
〈槍なら俺、クー・フーリン様に任せろぃ〉
槍の英雄クー・フーリン。
ロクサスの兄、アダムや当主ダグラスが受け継いだ槍の技術。
その開祖とも言うべき人物だ。
ロクサスも説教される時によく『偉大なる英雄クー・フーリン様の名に恥じぬよう……』と付け加えられている。
彼がそのご本人様らしい。
〈おっ、乗り気で良かったではないか。両者の合意があれば憑依はできるぞ〉
ヒミコに教えられながら、ロクサスは困ったように苦笑いした。
「そ、そうなんですか……あはは。でも槍は今、持ってないんですよねぇ」
ロクサスの言葉にクー・フーリンも腕を組んで首をかしげた。
〈そうか、確かに槍がねぇとなぁ……それにしてもこんなに幼気な2人をこんなヒデー場所に追い出すなんて、どこの誰だか知らねぇがサイテーな野郎だな、親の顔が見てみてぇぜ! 安心しろ、お前さんの身体を借りて、俺様の槍術でそいつらをコテンパンにしてやるからよぉ!〉
「あはは……ありがとうございます」
(俺を追放したのはあなた様のご子孫です……)
自分のために怒ってくれているクー・フーリンを前に、ロクサスはそんなこと口が裂けても言えなかった。