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第4話 英雄との出会い

 

 英雄の墓場に漂う濃い霧に包まれながら、ロクサスとミーナは周囲に魔獣が居ないことを確認する。


 とりあえずアダムに押し付けられた漫画を懐に入れると、ロクサスは切り出した。


「……さて、これからどうするか」


「ご安心くださいロクサス様! ミーナは頭を使いました!」


 ミーナは得意げに胸を叩いた。


「ここにくるまでにパンくずを落としてきたのです! これで帰り道も分かりますよ!」


「……いや、馬車の轍や馬の足跡があるから来た方向は分かるんだよ。なんなら、そのパンを残しておいて欲しかったかな……食料だし……」


 ロクサスが素直な意見を述べてしまうと、ミーナは得意げな表情のまま固まってウルウルと瞳に涙を浮かべる。

 そして、自分の首元にナイフを突きつけた。


「……すみません、ミーナはやっぱり馬鹿でグズでのろまです。私を焼いて食べてください、そうすればせめて食料になることができます。ロクサス様の身体の一部になれるなら、これほど嬉しいことはありません」


「い、いや! よく考えたら馬車の跡だけじゃ不安だったな! うん! パンも落としてくれてありがとうミーナ! いやー助かった!」


「そ、そうですかっ! 良かったです! ミーナはもっと頑張って、ロクサス様の優秀なメイドになります!」


 単純なミーナはロクサスの言葉を鵜呑みにしてくれた。

 彼女の尊厳を何とか保てたロクサスはこの後の動きをミーナに伝える。


「……とりあえず、ナイフはある。それで地面に印を付けながら馬車で来た方から逆方向に少し歩こうか。馬車で走って来た音で魔獣が集まって来てるだろうし、俺たちがこの地獄のような土地を抜けるには馬車の轍を追跡する必要がある。数刻ほど時間を潰して魔獣が去った頃にまたこの場所に戻ってきて、周囲を警戒しつつ王国に帰るんだ」


「……なるほど! よく分かりました!」


 恐らく半分くらいしか理解してなさそうなミーナからロクサスはナイフを受け取る。

 ナイフは貴重な物資だ、ミーナのお手柄である……お手柄ではあったが……。


「ステーキとか切る時のナイフかよ。道理でロープを切るのに時間がかかってたんだな」

「あはは……大変でした。でも、本物のナイフなんてメイドは持つことができないので」


 ロクサスが馬車に詰め込まれて、ミーナが咄嗟にキッチンから持ってこれた物だ。

 こんな物でも十分なお手柄だった。


「よし、じゃあ移動しよう。ほら、はぐれないように手を握って」


「そ、そそ、そんな!? 私がロクサス様の手を握るなんて恐れ多いです! ふ、服の裾を掴ませていただきます!」


 そんなミーナと共に周囲を警戒しつつ歩くと、朽ち果てた墓がいくつも立ち並んでいる場所に出た。

 ……ついてしまった、ここがこの土地の中心部だ。


「な、なんでこんな場所にお墓がいっぱいあるんですか!?」


 ミーナは怖がってロクサスの服をさらに強く引いた。


 子供の頃に教えられた話をロクサスはミーナに語る。


「これが英雄の墓場……その昔、偉大なる霊媒師がこの場所に亡くなった英霊(えいれい)が宿る墓を建てたんだ」

「英霊ってなんですか?」

「古今東西、あらゆる時代の英雄たちの魂のことらしい。歴史の本に載ってる人とかだな、俺は読んでないから知らんけど」


 不思議と墓の周囲は魔獣の気配がない気がした。

 その英霊とやらには魔獣を寄せ付けない力があるのだろうか?

 有難くミーナと共にそばに腰を下ろさせてもらう。


「それにしても、お墓。ボロボロですね……」

「まぁ、ここも今や魔獣だらけの不毛な土地だ。誰も墓参りになんて来ないし、来れないんだろう」


 ロクサスは悲しそうなミーナの表情を見て、大きなため息を吐いた。

 そして、羽織っていた自分の上着をビリビリと破く。


「ロクサス様っ!? 何をなさっているのですか!?」

「どうせここでじっとしながら時間を潰す必要があるんだ。気休めかもしれんが、墓石を磨いて綺麗にしてやろう」

「で、でしたら私の服をはぎ取って使ってください! さぁ、ロクサス様! どうぞ!」

「……き、気持ちだけ受け取っておくよ。ミーナも俺の上着の切れ端を使って墓を拭いてくれるか?」

「そうですか……、分かりました! そういうことでしたら、誠心誠意お掃除させていただきます!」


 少し残念そうな表情を見せた後、ミーナは気合を入れて苔むしたお墓から汚れを丁寧にとっていった。


 5つ目のお墓が綺麗になったところでミーナが聞く。


「ロクサス様、どうしてお墓を綺麗にしようと思ったのですか?」

「……俺たちだって、この辺りでくたばるかもしれないからな。死んだらこの墓に入れるかもしれないだろ?」

「なるほど! ロクサス様はやっぱり賢いです!」


〈嘘をつくな。お前がその娘の憐れむ表情を見て、何とかしてやりたいと思ったのじゃろう?〉


「は!? ち、ちげーし! 別にこいつのことなんかどうでもいーし!」

「ロクサス様? どうされたのですか? 突然男子小学生みたいな反応をされて……」

「なにって、お前が突然――」


 ロクサスがミーナの方に目をやると、半透明な見知らぬ大人の女性がミーナの横で浮遊していた。


「誰だお前ぇ!?」

「えっ、み、ミーナ=マーリンですが」

「違う、ミーナじゃない! その横にいるお前だお前ぇ!」


〈ワシは英霊のヒミコじゃ。おぬしと同じ霊媒師じゃよ、だから会話ができる〉


「英霊……じゃあ幽霊ってことか?」


〈お前が説明してくれたじゃないか。私はこの墓を建てた偉大なる霊媒師。言わば『英雄』という奴さ。『グレイテスト・シャーマン』と呼んでも良いぞ〉


「ろ、ロクサス様! 幽霊様が見えておいでなのですか!? ど、どちらにおられますか!? ふつつか者ですが、これからこちらでお世話になりますっ!」


 ミーナは明後日の方向に死ぬ気満々の挨拶をした。

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