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第3話 襲われなくて良かったです

 

 英雄の墓場に一人置き去りにされたロクサスは必死に考える。


(俺は影が薄くて良かった……魔獣に見つからないように……。まずはこの手足を拘束してるロープをどうするか……目隠しも……)


 ――ザッ!


「ひぃ!? ごめんなさいごめんなさい! 食べないでください!」


 物音一つにビビり散らすロクサス。

 その後もしばらく何度か周囲から物音が聞こえ、ロクサスはその度に泣きながら怯え、生きた心地がしなかった。


 しかし、そのまま十分ほどが経過した頃――


「……ロクサス様、今お助けしますね」


 かわいらしい、聞き馴染んだ声が不意に背後から聞こえた。

 何者かに目隠しを解いてもらうと、目の前には2つだけ歳上の見慣れた少女がいた。


「ミーナ!? なんでお前がここにいるんだよ!?」

「馬車に潜入していました! 私はロクサス様の専属メイドです! ロクサス様が追放されるなら、当然私もお供いたします!」


 ミーナは手に持っていた小さなナイフでロクサスを縛っていた縄を――30分くらいかけてようやく切った。


 ロクサスは大きなため息を吐くと、ミーナに向き合って両方の肩を掴んだ。

 ミーナは身体をビクリと震わせて、頬を紅潮させる。


「いいか、ミーナ。お父様あのハゲは『追放』と言ったけど、これは実質的な処刑だ。助かる見込みはほとんどない、ここは――地獄なんだ」


 ロクサスが過酷な現実を伝える。

 しかし、ミーナは幸せそうに微笑んだ。


「……ロクサス様、ミーナは馬鹿でのろまでグズで……家族に捨てられ、路地裏で死を待つだけでした。そんな私を見つけて、ロクサス様はメイドとして雇ってくださいました」


 土埃で汚れたロクサスの頬をハンカチで拭きながら、ミーナは語る。


「ロクサス様のおそばにいることができれば私は幸せなんです。例えここが地獄だとしても、ロクサス様とご一緒できるのであれば私にとっては心休まる場所なんです」


 ミーナはそう言うと、両手をギュッと握って気合を入れる。


「――だからロクサス様、地獄の果てまで追いかけます!」

「えっ、俺なんか滅茶苦茶に恨まれてる?」


 いつもながらのミーナの間違った言い回しに、ロクサスは笑いながら呆れる。


 ミーナの言い分は分かったが、ロクサスは一つだけ気になったことを聞いた。


「……ところでミーナ。俺がこの場所に放り出されてから10分くらい経ったと思うんだけど、その間は何してたの?」

「いえ、その……すみません。目隠しで手足を縛られたまま怯えるロクサス様を見ていると……その、も……催してしまいまして……」


 ミーナは顔を真っ赤にする。

 どうやら、ロクサスへの凄惨な扱いを見て怖くておトイレが近くなってしまったらしい。


(見られたくない気持ちは分かるが、俺もしょんべんをちびりそうなくらいに怖かったので先に目隠しだけでも取って欲しかったな……)


「なのでその……発散させていただいてました。ロクサス様が(私に)襲われなくて良かったです」

「本当に(魔獣に)襲われなくてよかったよ」


 ロクサスとミーナはお互いにホッと安堵のため息を吐いた。


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