006.始まるキミたちとの共同生活(2)
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─前話からの続き…
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──トントントントントントントントン…
初対面だと言うのに、香純ちゃんは友之に興味津々の様子で、地面に置かれた収納チェストを友之が片側を持とうとしたら、彼女は率先してもう片方を持つと、2人は鉄骨製の階段を登って行ってしまった。
それにしても、先程彼女が私の父親について“女泣かせ”と言った事が気になった。
何故、父親の子供である私が知らないことを、隣の家の香純ちゃんが知っていたのだ?
「…さん?友梨さぁん?友梨さああああんっ!!」
「わあっ?!夢花、ゴメンゴメン…。少し考え事してた…。」
夢花が私の顔を覗き込むようにして、何度も声を掛けてきていたのにも気付かないくらいだった。
痺れを切らした夢花に、大声で名前を呼ばれてようやく気づいた。
「今日からぁ…?私達、一緒に暮らすんですよね…?なんか…ここに来るまでは、思っていても実感湧かなくて…。でも、こうしてぇ…傍で友梨さん見てたらぁ…実感湧いてきましたぁ!!」
インスカでは、散々”逢いたい逢いたい“送ってきてたのに…。
実感が湧きたくて、私に送ってきていたのか。
──ムギュッ…!!
「あ…。」
急に柔らかな感触が私の腕を包み込んだ。
この柔らかさは…。
「あのさ…?夢花。上、着けてないのか?」
「ああああっ!?お部屋に居る時は、いつもこの格好で…。でも、お、お出かけする時は、着けてますからっ!!」
まぁ…確かに。
わかる。
きっと、香純ちゃんの常連客達が手伝いに来てしまって、着ける暇無かったんだろう。
確か、初めて友之が連れて来た日、制服のブラウスの下から薄ら肩紐が透けて見えていた。
「良かった…。いつもかと思って、私心配しちゃったよ?出かけるまでは、私も夢花と同じだから安心してね?」
「でも、私あまり持ってないので…。学校に行く時か、遠くにお出かけする時だけです…。」
いつも同じインナーだと、今のご時世いじめとかあるかもしれない。
私なりに何か協力できないか考えた。
「大丈夫だよ。荷物部屋に置いたら、街まで見に行こ?引越しのお祝いに、夢花に買ってあげるからさ?」
「え…!?大丈夫です…。友梨さんに悪いですから…!!」
「そんな高くない可愛いデザインのやつ、何着か買えばいいさ。私はさぁ…?今はスポーティなやつしか着けてないけどね?」
遠慮する夢花だが、仮にも私の恋人になると約束している相手だ。
これから続いていく学校生活、恥ずかしい思いをさせたくはない。
「あ、そうだ!!私が高校の頃着けてたやつ、後で着けてみる?もう使ってないからさ?サイズあえばあげるよ?」
「わあぁっ!!友梨さんのですかぁ!!是非、着けてみたいですっ!!」
私の腕に抱きついたままの夢花は、少し顔を赤ながらも、満面の笑みでこちらを見上げてきた。
まじまじ見ると、母親である香純ちゃんと雰囲気がどことなく似ている気がする。
それと、夢花は緊張からか興奮からかは知らないが、胸の鼓動が腕を通して伝わってくる。
それに比べて、今の私はまだまだのようだ。
彼女を見ていても、近くにいても、ドキドキしてこない。
幼馴染の香純ちゃんの娘と知って、少し醒めてしまったのは事実だ。
今、私の中で夢花は弟の友之と同様に、”悪い人間の魔の手から守ってあげたい“という、保護者的な感情なのだろう。
これが徐々にでも、夢花の期待に応えられるような『恋人』になれれば良いのだが。
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─それから、30分後…
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「とりあえず荷物、運び終わったかな?って…香純ちゃんはどこ行ったの?」
「あ!!お母さんなら、借りて来た車を返しに行きました!!」
アパートの私達の部屋の居間には、常連客から借りた軽トラを返しに行った香純ちゃんを除き、3人の姿があった。
居間には、運び込まれた香純ちゃん達の荷物が置かれている。
2DKの部屋に4人が暮らすとなると、部屋を割り振らなければいけない。
まず、4人の中で唯一の男子である友之については、現状維持で今の部屋のままで良い。
残るは女子3人なのだが、私は別に寝られれば問題ないので居間で良い。
あとは…香純ちゃんと夢花か。
生活が不規則な香純ちゃんの事を考えると、私の部屋を使ってくれた方がいい。
となると、残った夢花はどうしようか。
「今日から4人で住むから、部屋割りをと考えたんだけどね?」
「ああああ!?そっか!!僕とお姉ちゃんだけじゃないんだよね…。僕の部屋誰か使って…。」
「友之はいいから!!そのまま使って?で、私の部屋をさ?香純ちゃんと夢花で使ってくれるかな?」
部屋割りの話を聞いた友之は、色々と慌てた様子で自分の部屋を使ってと言いかけた。
でも、そこへ私が話を遮って、夢花に向かって話を始めた。
「えっ?!では…友梨さんはどこで!?」
「私は居間で良いからさ?寝られれば良いしね?」
「なら、私も…居間が良いです!!」
全く…。
なんとなく、そんな予感はしていた。
「え?!夢花、居間だからさ…?プライバシーとかあまり無いけど大丈夫…?特に、着替えとかする時とかさ…?」
「はい!!着替える時、友之くんに部屋へと入ってもらえれば良いです!!」
まぁ…そうなるよね。
眼中にない男子には、絶対に見られたくないだろうし。
「そうか…。という事だからさ?友之、協力してもらえるかな?」
「夢花さんから、直々のお願いなら仕方ないよ!!協力させて下さい!!」
何も知らないとは、こういうことを言うんだろうな。
あの日、友之が夢花を家に連れてきたのは、恐らく下心があったからだろう。
まぁ、夢花にとっては渡りに船で、入学式の時見かけた私に近づけるチャンスだったから、乗ったんだと思うけど。
可哀想だが、友之よ…。
お前に脈はないんだよ…。
「友之…くん?ありがとう…?」
「そんなもう!!夢花さん、良いって良いって!!僕達、クラスメイトだし?今日から、家族みたいなもんだし?」
そんな気持ちを知ってか知らずか、夢花は友之に向かって笑みを浮かべた。
全く…香純ちゃんからの悪影響なのだろうか…。
親の背中を見て育つとは言うが、こんな若さで…友之を手玉に取ろうとしているなんて。
ああ、怖い怖い…。
格好つけて、友之も家族とか言っちゃって…。
そのことで、墓穴掘らないといいけれど。
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─それから、更に30分後…
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軽トラを返しに行った香純ちゃんが、ようやく戻ってきた。
その間に、3人で私の部屋から荷物を居間に運び出し、香純ちゃんの荷物を空いた部屋に運び込むのを済ませていた。
その後、居間で私と夢花の2人で、収納等の配置を考えながら行っていたのだが、あることで行き詰まった。
元々、私は部屋では折り畳み式のダブルの敷布団で寝ていた。
夢花も折り畳み式のシングルの敷布団を持参してきたのだが、居間は約12畳程あるが2枚敷くと部屋の広さに限界を感じた。
「あのさぁ…?香純ちゃん。私、夢花と一緒の布団で寝てもいいかな?」
「うちは全然構わないけどねぇ?夢花はどうなのぉ?」
香純ちゃんからの問いに対して、夢花は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、コクコクと頷くばかりだった。
「じゃあ、決まりだね?私のダブルの敷布団だけ残して、夢花のシングルの敷布団は置く場所も困るし、処分しちゃおう。掛布団とかは後で考えよう。」
何故だろうか、もの凄く恨めしそうな表情で我が娘である夢花を見つめる香純ちゃん。
それとは対照的に、勝ち誇った表情に変わった夢花を私は見逃さなかった。
「お母さんは、自分のお部屋あるんだから!!わがまま言わないで?友梨さんも、私もお部屋無いんだから!!仕方ないでしょ?」
まぁ、その通りだ。
個室が2部屋あるだけでも、私達は恵まれているのだが。
「そういえばぁ、将来有望な友之くんはどこぉ?」
「本当だぁ!!友之くん、どこ行ったんだろ?」
話を変えるかのように、香純ちゃんに話を振られて気付いたが、いつの間にやら友之の姿が見えない。
また、自分の部屋にでも篭って先程の続きでもしてるんだろうか?
──コンコンッ!!
「友之くぅん?居るかなぁ?」
いつの間にか香純ちゃんが友之の部屋の前に立って居て、ドアをノックして名前を呼んだ。
すると、ガタンという大きな音が部屋の中から聞こえてきた。




