005.始まるキミたちとの共同生活(1)
────
─6月のはじめ…
────
何だかんだで、香純ちゃんと夢花の母娘が我が家へと、転がり込んで来ることとなり、その日を迎えた。
とりあえず、2人を出迎えたりする準備をしなければならないので、友之にも手伝って貰おうと考えた。
──コンコンッ…
今、友之の部屋のドアをノックしているが、いつもならすぐに反応があるのだが、今日に限って反応がない。
──コンコンコンコンッ…
「友之ぃ?起きてるかぁ?」
おかしいな?
声を掛けても反応がない。
──ガチャッ…ガチャッ…
友之の部屋のドアノブを回すが、中から鍵が掛かっていて開かない。
仕方ないので、ドアに耳を当ててみる…。
「(はぁ…はぁ…。香純さんっ…!!香純さんっ…!!)」
ああ…。
そういうことか…。
独りでお楽しみ中だったようだ…。
まぁ、お年頃だし?
今日から、歳上で元人妻の香純ちゃんが来るのだ、妄想は無限大に膨らむか。
はぁ、仕方ない…。
お出迎えの準備は、私1人ですることにしよう。
──ヴヴッ!!
狙ったかのようなタイミングで私のスマホが振動した。
誰だろうか…?
最近、香純ちゃんにインスカのアカウントを教えた。
教えたというか、遠回しに例の件をチラつかせて脅されたに近いのだが。
そのせいで、夢花と香純ちゃんと2人からメッセージが、絶え間なく来るようになってしまっていた。
──『今から、友梨さんのアパートへ伺います。」
──『お母さんが、常連さんから軽トラを借りたようで…持ち出せるものを積んであるみたいです。』
スマホのロックを解除して、新着メッセージを見ると夢花からだった。
すぐにインスカを起動すると、彼女からのメッセージを確認した。
軽トラの荷台は意外と積めるので、侮ってはいけない。
借りている部屋にはそんなに荷物はないが、あまり置かれると狭くなるので、気が気ではない。
──『どれくらい積んであるかな?」
香純ちゃんが運転して、夢花が助手席だろうと私は勝手に思って、夢花にメッセージを返した。
──『私とお母さんの衣類の入った収納チェストくらいです。』
──『もうそろそろ、着きます!!』
返ってきたメッセージを見て、少しホッとした。
しかし、もう着くのか…。
やはり2km弱の距離がある、徒歩と車だと早さが違うな。
──ガチャッ…
玄関の扉を開けた私は、アパートの外廊下を歩き始めていた。
このアパートは木造2階建で部屋数は10部屋あり、私達の住む部屋は2階の一番奥の部屋だった。
一番奥と一番手前の部屋が2DK、真ん中の部屋が1DK、その両脇の部屋が1Kの間取りになっている。
だから、住んでいる人達の生活様式は様々だ。
事前に大家さんには、同居人が2人増えると伝えて承諾を得ている。
まぁ、大家さんと言っても…中学時代の同級生の実家なので顔パスだったが。
──トントントントントントントントン…
アパートの2階から地上へと降りる為、唯一鉄骨で造られた階段を降りながら、私は周囲を見渡した。
すると、向こうの方から派手な青色の軽トラが向かって来るのが見えた。
まさかな…とは思ったが、そのまま階段を降り切った。
──キィッ…!!
アパートの目の前に、先程見かけた派手な青色の軽トラが止まったのだ。
恐る恐る軽トラの運転席に目をやると、そこには香純ちゃんが座っており、隣の助手席には夢花の姿もあった。
──ギッ…
「運転、お疲れ様?」
「あ、友梨ちゃんっ!!わざわざ、お出迎えしてくれたのぉ!?」
──バタンッ!!
軽トラの運転席側のドアが開いたので、開口一番で私から香純ちゃんに声を掛けた。
嬉しそうに車から降りるとドアを閉め、私に駆け寄ってきたのだが、今からお仕事にでも行くような服装だった。
「まぁ…ね?夢花から、“お母さんが、常連さんから軽トラを借りた”って連絡あったから。荷物あるのかなってね?」
「あらぁ!?夢花、友梨ちゃんへ連絡…してくれてたのねぇ?ありがとうねぇ?」
母親とは思えない程、皮肉っぽく夢花に向かって香純ちゃんはそう言った。
先を越されたという妬み嫉みだろうか。
「じゃあ、この勢いで荷物運んじゃおっか?」
──バタンッ!!
「はいっ!!」
私の言葉を聞いて、慌てたように夢花も車から降りてきた。
夜の蝶のような香純ちゃんとは対照的に、彼女の出で立ちはいつもの中学のジャージ姿だった。
「引越しにはやっぱり、動きやすいジャージ姿が良いよねぇ?」
「そうですよねぇ!!私、着てきて正解でしたぁ!!」
夢花は、わざとらしく香純ちゃんの方を見ながら私に向かってそう答えた。
全く、この母娘…仲が良いのか悪いのか…。
──バタンッ…!!バタンッ…!!バタンッ…!!
そんなこと考えつつも、私は軽トラの荷台の側あおりと後あおりを下ろした。
最近、会社で平ボディのトラックへ、災害地への支援物資の積み込みを社員総出で手伝う機会があり、その時にあおりの下ろし方を見ていた。
なので、今日がぶっつけ本番だったが、軽トラと言うこともあり、意外と簡単に下ろせてしまった。
「わぁぁっ!!友梨さんすごぉいっ!!」
「これで、収納チェスト下ろしやすくなったよね?って…どうやって積んだの!?」
「車、貸してくれた常連さん達がねぇ?手伝ってくれたのぉ!!」
ああ、そういうやつね…。
なら…なんでついて来なかったんだろ?
「下ろすの、手伝いに来てはくれないんだ?」
思わず、口からポロッと本音が溢れ出てしまった。
そんなに量はないとはいえ、女性3人だけでは結構しんどいものがある。
部屋には友之も居るが、独りでお楽しみ中なので邪魔するのは悪い気がする。
「友梨ちゃんに…ね?悪い虫つくの嫌だったからぁ…。私の方から断ったんだけどぉ…?」
収納チェストを、夢花と私で軽トラの荷台から下ろしているのを尻目に、香純ちゃんがそう答えたのだ。
悪い虫って…常連さんに失礼じゃないのか?
そんなことを思いつつ、収納チェストを地面へと下ろした。
ああ、下ろす前にその地面の上に段ボールを敷いたので、荷台から下ろしたものの底面が汚れたりする心配はない。
──トントントントントントントントン…
「お、おはようございますっ!!ゆ、ゆ、友梨の弟の友之ですっ!!今日から、よ、よ、宜しくお願いしますっ!!」
何というタイミングだろうか。
鉄骨製の階段を友之が足早に降りてくると、香純ちゃんに向かって自己紹介を始めた。
何事も、第一印象が肝心なのは彼も理解しているようだ。
これで、荷物の運び手が出来た。
そうだ。
弟の友之は12歳なのだが、背が170cm近くある。
まだまだ成長真っ只中なので、顔は少し下ぶくれで身体も太くはないがぽちゃぽちゃしている。
亡くなった父親は若い頃、背が180cmを超える醤油顔の美青年だったらしいので、友之は有望株なのだ。
と言うのも、父親と母親は歳が大きく離れており、親子程の差があった。
その為、私の知る父親は他所の家で言う、祖父みたいだったので、若い頃を見たことがない。
生前、母親がそう言っていたので、きっとそうなのだ。
「わぁ…っ!!キミ、友之くんって…言うんだぁ?すっごぉく、おじさんの若い頃の面影あるぅ…!!きっと、おじさんに似て女泣かせなイケメンになるよぉ?」
「え?!本当ですか!?お父さん…女泣かせだったんですか?!」
ん…?!
女泣かせって、どういう事!?
それに…香純ちゃん、若い頃の面影って言った?
「え?!お父さんの若い頃、香純ちゃんがなんで知ってるの!?」
「だってぇ、うちの両親と昔の写真とか見せ合ってたから…ねぇ?あの頃はぁ、私も小さかったけどさぁ。」
そんな交流してたとは…。
仲良かったとは言え、まさかそこまでの間柄だったなんて…。
両親が亡くなった時は素っ気なかったから、驚きだ。