002.恋愛経験ゼロの私♀と、歳下のキミ♀
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─前話からの続き…
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高校時代の私は、男子生徒から告白されることが多かった。
でも女子生徒から告白されることも、少なからずあり、現在の私のようなボーイッシュ系から、ギャル系、清楚系、ロリ系と様々だった。
当時は恋愛に興味がなかった為、告白は男女問わず全てお断りし続けていた。
そして、今。
私の目の前に居る、湯上がりでパジャマ姿の夢花さんは、弟の同級生なので8歳も歳下になる。
背は低めで150cm程なのだが、かなり控えめに言っても超絶美少女だ。
そんな彼女が、あろうことか同性な上に、歳上な私に告白してきたのだ。
話していなかったが、私の風貌が高校卒業後を期にボーイッシュ系に変わった理由は、弟を高校卒業迄は育て抜くと決めたからだ。
それを実現する為には、高校卒業したばかりの私の稼ぎでは、弟が成長するにつれなかなかキツい性活になると予想できた。
だから、今から極力自分の服装や美容等には、お金をかけないようにしようと考えたのだ。
恐らく、夢花さんから告白されるに至った要因を作ったのは、私自身だった。
でも、私に好意を抱いてくれている事については、男女問わず嬉しい。
もう私も、今年で20歳を迎える社会人だ。
これからの大人としての長い人生、恋愛だって楽しみたいと思い始めてはいた。
しかし、私が弟を育てている以上は、その恋愛にも色んなところで制約が生まれる筈だ。
よく考えてみれば、夢花さんは友之と同じ12歳の未成年なので、色々問題が起きそうだから断ろうとも考えた。
だけど、現在の彼女が置かれている家庭環境を考えてしまうと、折角今日私が彼女の手を取ったのに、もしお断りしてしまえば彼女は私の手を離してしまうだろう。
そうなれば、彼女の行き着く先は想像に容易い。
超絶美少女なのだ、悪い人間達の食い物にされるだけだ。
かと言って、仮にだが私が夢花さんからの告白を受け入れるとして、付き合おうにも今日出逢ったばかりで、何も知らないのだ。
「あのさ…?夢花さんからの告白、正直嬉しい。」
「わぁ…!!じゃあ…!?」
告白を受けた後、暫く私は沈黙していた事もあり、夢花さんは不安気な表情をしていた。
でも、私の言葉を受けて一気に期待の表情へと変わった。
「でも、ね…?正直言うけど…私、夢花さんのこと何にも知らないんだ。誕生日とか、好きなものとか、色々…ね?だから、まずはお互いをよく知る事が大事だと思うんだ…。」
「確かに…。私も友梨さんのお誕生日知らないです…。」
痛いところを突かれたのか、夢花さんの期待の表情が曇ってしまった。
「だよね?だから、これから言う3つの条件を呑んで貰えるなら、夢花さんとお付き合いしようと思う。」
「条件が3つ…ですか?聞きたいです!!」
この段階で、きっと夢花さんは諦めてくれるだろうと私は踏んでいたのだが、予想は大きく外れてしまった。
「そっか。じゃあ…まず、1つ目は、先ずは友人からスタートでも良いかな?」
「そうですよね…。いきなりキスとか…ヤバいですもんね!!お友達から、宜しくお願いします!!」
出会って数時間と言うのに、私の恋人になった上で、キスまでしようと考えていた夢花さんの行動力には、正直驚かされた。
「2つ目は、夢花さんが成人するまでは大人な関係までは進まなくても良いかな?」
「えっと…。大人な関係って…どこまでがそうなんでしょうか…?」
そんな踏み込んだところまで気になるのか。
正直、こんな返され方をされたことに驚いた。
「あ…。えっと…。エッチするのは大人な関係かな…。あはは…。」
「良かった…。友梨さんにキスとか…ボディタッチとか…その辺りまでは良いって事…ですよね?そうでしたら、問題ありません。」
まぁ、キスとかボディタッチくらいなら、普通の恋人同士でもするだろう。
「そうだね。では、最後の3つ目は、友之を含めて2人の関係は秘密でも良いかな?」
「えっと、それは私も思ってました…。なので、大丈夫です。お友達でも手とか繋いだりしますし、一緒にお出かけもしますし。お家の外で過ごす分には、お友達も恋人も大して変わりありませんし?ですから、私は3つの条件呑みますので…宜しくお願いします!!」
12歳の夢花さんには、難題と思って突きつけた3つの条件だったが、呆気なく快諾されてしまった。
今まで、女性どころか男性とも付き合った経験のない私だったが、もう後には引けなくなってしまった。
「夢花さん。恋人前提にお友達から…私と付き合って頂けますでしょうか?」
生まれて初めて、私が付き合う相手。
それは、8歳歳下の弟とは同級生で、私との身長差が20cm程ある背の低い超絶美少女になりそうだ。
──ギュッ…
「はいっ!!こちらこそ…不束者な私ですが、友梨さん!!宜しくお願いします!!」
凄く嬉しそうな顔をした夢花さんが、私の手を握ってきた。
その小さな手は、同じ年頃の女の子とは違った。
日々の家事などで、苦労しているのだろうかガサガサと荒れていたのだ。
そんな姿を見せられた日には、友梨さんも友之同様、私が守ってあげようという気になる。
「あのさ…?夢花って呼んでも良い…かな?」
「はいっ!!嬉しいです!!あの、友梨さんは…友梨さんなので、私はこれからも友梨さんって呼びます!!」
一体、夢花の中での“友梨さん”って何なんだろうな…?
知りたい気もするけど、知らないままでいた方が、2人にとって幸せなのかも知れないな。
「そっか。夢花、ありがとうね?ところで、私達って、どっちも“彼女”なの…かな?」
「ああ、そうですよね!!私も、女の人とお付き合いするの…初めてで。でも、どっちも“彼女”で良いんじゃないですかね?」
女の人とは、初めてなんだ。
私なんて、付き合うこと自体初めてだけど。
きっと彼女の恋愛の判断基準は、前の相手なのだろうから。
だから、恋愛経験ゼロの私が、それと比べて劣ったりしていたらと思うと…。
今から気が重い。
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─それから30分後…
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お風呂掃除を終え、何も知らない友之が居間へとやってきた。
ここは木造の古いアパートなので、居間と言っても畳敷きの部屋だ。
ソファ等は畳を痛めるので、退去時の修繕が怖くて置けない為、ラグを敷いている。
まぁ、ソファなんてお高い物は、そもそも私の薄給では手が伸びないのだが。
まぁ、普段は姉弟2人でラグに寝転んで、寛ぐスタイルだった。
「今日も風呂掃除、ありがとうねー!!」
「友之君、お疲れ様!!」
そう、いつも2人しか居ないラグの上に、今日は夢花がいるのだ。
ついさっきまで私たちは、携帯電話番号の交換と、SNSアプリのInstant Callee(以降、インスカ)の相互フォローをしていた。
何故、そういう流れになったのか?
それは、ラグの上に私と彼女は寝転びながら、彼女と同じ歳くらいの私の写真を見せている時の事だった。
徐に彼女は、カバンからスマホを取り出したのだ。
彼女は課金制料金プランの旧式スマホを、仕事の都合で殆ど顔を合わせる時間の少ない母親が、連絡用にと持たせているようだ。
「ね、ねえちゃん?!もう、夢花さんと仲良くなったの!?」
「まぁね?」
もう、仲良くなったどころじゃないって…。
私、恋人になる前提で付き合い始めてるって…。
──ヴヴッ!!
そんな時だった。
夢花のスマホが震えた。
「あ、お母さんからです!!さっき、友之君たちのこと、インスカからメッセージしておいたんです!!」
「お母さん、読んでくれたんだ?」
「はい!!えっと…『友梨さんと一度お会いしたいです。』って書いてあります!!」
『夢花さんのお母さんと話つけておきたい』とは話してはいたが、意外にすんなりことが運びそうだ。
それに、今のこの状況では、親権者の同意を得られていないので、下手すれば未成年者誘拐等とも言われかねない。
今の時代、多様性が叫ばれているが故、対外的に見ても、同性だから大丈夫や、同級生の保護者だから大丈夫が、通用しなくなってきている。
だから、早めに彼女のお母さんから、お墨付きを頂いておきたいのだ。