001.8歳離れた弟の同級生♀に告白されて
────
─ある平日の昼過ぎ…
────
──カチャカチャカチャカチャ…タンッ!!
いつものように、私が経理の処理をパソコンに向かいながらしていた。
静岡にある商社の経理部に、私は高校卒業後から勤めており、もう今年で20歳になる。
「ヒソヒソ(はぁ…。杉原さん、今日も格好良いよねぇ…。)」
「ヒソヒソ(あれで彼氏とか居たら私、寝込むー!!)」
勤める会社は自社ビルを構えており、6階建で各フロアもなかなか広く、様々な部署が入っている。
経理部は5階にあり、他に入っている部署は人事部、総務部、広報部だ。
部署名を見れば大体想像はつくとは思うが、女性社員の構成比率が異様に高く、8:2程だろうか。
部署と部署とを仕切るものはなく、申し訳程度に通路で仕切っている。
部署の配置的には田の字で、建物の奥の北側に経理部、人事部、エレベーターや階段に接する南側に広報部、総務部だ。
机の配置は向かい合わせになっていて、それの縦の列が複数並んでいる。
「すみませんっ!!友梨さんっ!!この請求書間に合いますか!?」
突然、大きな声が私の背後から聞こえ、机の上に社内書式の支払依頼書と請求書が置かれた。
通常はシステム上で支払依頼等がされ、画面上で確認の上、それを承認するだけで済む。
しかし、急ぎの場合は手書きの支払依頼書を作成し、部門長の承認を貰った上で経理部まで持ち込めるのだ。
「ボソボソ(ん?入金期日、明後日かぁ…。)処理しますが、相手先には1日ズレるかもしれないと、連絡入れて貰えますか?」
「はいっ!!分かりましたぁ!!友梨さん、ありがとうっ!!」
──ギュゥゥゥゥッ!!
通常、支払処理には締めがある為、遅れれば次の支払処理のタイミングになる為、半月位は遅れてしまう。
支払サイトも様々ある為、イレギュラー対応にも臨機応変に対応するのが、私たち経理部の努めだ。
今、私のところにやってきているのは、商品1部の事務担当の佐野さんで、2年程先輩の女性社員なのだが、何故か彼女は私を下の名前で呼ぶのだ。
「あ、え…。いえいえ。これも経理の仕事ですからね。」
今もどういう意図でかは分からないのだが、私の手をオーバーアクションで握ってきている。
「ヒソヒソ(佐野さん、ズルい!!杉原さんの手なんか握って!!)」
「ヒソヒソ(何してるの!!汚い手退けなさいよ!!)」
そういえば、私の名前を言ってなかった。
私の名前は、杉原友梨。
ショートカットにスーツ姿という出立ちのせいか、関西の某歌劇団の男役に見えなくもないが、別に意識している訳ではない。
高校時代の写真を見て貰えば分かるが、今とは正反対な清楚系のロングヘアで、男子から告白されるような女子だった。
────
─その日の定時後…
────
──カチャッ…カチャッ…
いつものように定時が終わると、月末月初以外は18時30分頃には会社を出て、現在借りているアパートへ真っ直ぐ帰宅している。
今日は月末前週なので、そのパターンだ。
今、玄関の扉の鍵を開け終え、ドアの取っ手に手をかけたところだ。
──ガチャッ…
「ただいまー!!友之、帰ったぞー?ん…?!」
隠すことじゃないので説明すると、2DKの間取りの木造アパートで、8歳離れた弟の友之と2人暮らししている。
別に、親の目の届かない場所で、2人きりで禁断の愛を育んでいる訳ではない。
私が高校3年のあと少しで卒業を控えた、2月のことだった。
両親が乗る乗用車に、大型トレーラーが車線をはみ出し正面から突っ込んだのだ。
大型トレーラーの運転手が運転中にくも膜下出血で病死したのが原因で、両親が乗る乗用車は大型トレーラーと側壁の間に挟まれ、ペシャンコになり即死だった。
私の両親は、2人とも親に捨てられ施設で育った過去があり、私たち姉弟は他に頼れる肉親は居なかった。
絶体絶命にも思えたが、私は高校在学中に簿記検定2級を取得しており、進路も現在の会社への就職が内定していた為、最悪の事態は逃れられた。
両親の生命保険等の保障もあり、何とか高卒という低い給与水準でも、今のこの生活を維持することが出来ている。
そんな姉弟だけの暮らしも、もう2年程が過ぎようとしており、弟の友之を無事地元の公立中学へと入学させられる事が出来た。
丁度、その入学式から1ヶ月が経とうとしていた。
そんな話よりも、今私は驚きを隠せないでいる。
玄関の扉を開けたら、そこには弟の通う公立中学指定の、女子生徒用のローファーが綺麗に脱ぎ揃えられていたのだ。
現在の我が家で、私以外の女性用の靴を見るのは、今日が初めてだ。
「ねえちゃん!!おかえり!!あの、さ…?今日、同級生連れて来てるんだ…。あはは…。」
「あの…。ゆ、友梨さん!!は、初めまして!!菊池夢花と申します!!」
え…?
な、何この子…。
めっちゃくちゃ、かわええ…。
ああ、友之め…。
て言うか、高校時代の私の髪型に似てるし…。
「昔のねえちゃんに似てるでしょ?」
「ああ、それは思った。て言うか、友之。どうして夢花さんを家に連れてきた?もう19時過ぎてるしさ…?」
そこら辺を友之に問いただす意味も込めて、靴を脱ぐと2人を連れて居間へ向かった。
────
─それから30分後…
────
2人から聞き出した話を纏めるとこうだ。
まず、入学式の次の日、夢花さんが友之に声を掛けてきたらしい。
結構、最近の女子は積極的なのかもしれない。
声を掛けられた友之は、背の大きさこそ違うが、以前の私に似た風貌の夢花さんに驚いたようだ。
そこで咄嗟に友之は、持っていた私の写真を見せたようで、夢花さんも驚いたらしい。
結局それがきっかけで2人は仲良くなり、お互いの家庭のことについても、ゴールデンウィークに入る辺りで話をするようになったそうだ。
周囲の同級生が、旅行だ帰省だと言う中で、夢花さんは浮かない表情でいたらしい。
友之は放課後の教室で、自分は姉と2人きりで暮らしているので、ゴールデンウィーク中は家にいることを夢花さんに話した。
すると、夢花さんも母子家庭で、更に蒸発した元父親の作った借金返済の為、母親が夜の仕事をしていて、殆ど家に居ないことを話してくれたそうだ。
そして今日、友之が「夢花さん?今日から、うちで夕飯とかお風呂済ませてけば?ねえちゃんには、俺から言うから。」と啖呵を切って今に至るとのこと。
「話はわかったよ。夢花さん、うちの弟が言う通り、夕飯とかお風呂済ませてけば良いよ。でも、夢花さんのお母さんと話つけておきたいから、明日でも伝えておいてくれるかな?」
「はい…。ありがとうございます!!あの…。夕飯代って渡されているお金あるので…使って下さい!!」
夢花ちゃんを放ってはおけなくて、勢い任せて言ってしまったけれど、高卒で手取りの少ない我が家にそれは凄く助かる。
「こちらこそ、ありがとう。有効活用させてもらうよ。だから、帰ったらお母さんに宜しく伝えてね?」
────
─それから更に1時間後…
────
夕飯を済ませた後、夢花さん、私の順でお風呂を済ませていた。
今は、友之がお風呂に入っており、その後風呂掃除も行う流れになっている。
「私の昔のパジャマでごめんね?ちょっと大きかったよね?」
「大丈夫です!!あのぉ…友梨さん?」
「ん?どうした?」
ああ、やっぱりな。
友之のことが好きで、姉に恋愛相談か?
なかなかお母さんとは、時間的に難しいだろうしな。
「あの、驚かないで聞いて下さいね…?私…。」
やっぱり、恋話来たー!!
「わ、わ、私、ゆ、友梨さんのことが好きなんです!!入学式の時、お見かけしたその時から…。こ、これは、本気です。遊びじゃありませんので!!つ、付き合って下さい!!」
「はぁ…?!」
思わず変な声が出た。
まさかの、友之じゃなくて私狙いだったとは。