第81話 キャンプ実習⑥
朝が訪れる。
ルーシーは周りが明るくなったのを感じ自然と目が覚める。
皆はまだ眠っているようだ。
起こさないようにそっとテントを出る。
日が昇ったとはいえ朝の砂漠はかなり寒かった。
テント内は温かく、寝袋で寝ていたために少し火照った身体を冷やすにはちょうどよいだろう。
他の班の生徒は誰も起きてはいなかった。
「おう、お嬢、早起きっすね、その格好だと寒いでしょう。火の側に来るといいっす」
アランがキャンプの中央で焚火を前に座っている。
「アランおじさん、もしかしてずっと起きてた?」
「いやいや、さすがに緊急事態以外は徹夜はしないっすよ。魔法結界当番の最後の子達と交代っす」
アランの目線を追うと守護の杖は近くのテーブルの側に立てかけてあった。
そしてイレーナがカップを両手に持ちながら近づいてくるのが見える。
「パパ、コーヒーが出来たわ、あらルーシーちゃん、早起きなのね」
イレーナも早起きのようだ。
「こうして私達だけなのは久しぶりよね、はい、ルーシーちゃんはコーヒー飲める? ブラックだけど……」
「あ、はい。多分大丈夫です。暖かいのでなんとなく飲めそうです」
本当は嫌いだが、砂糖とミルクをこの砂漠で注文するのは控える。それに最近は味はともかく香りがよいので飲むだけなら問題ない。
「お嬢、学園にも慣れてきたころっすね。どうすっか? 楽しんでますかい?」
「うん、毎日楽しい、まさかイレーナさんが担任の先生になるとは思わなかったけど、それにアランおじさんも。……でもそれって私の為でしょ? なんか申し訳なく思っちゃって」
「あら、ルーシーちゃんがそう思う必要は無いわよ? 私達は冒険者だけど、逆に言えばどんな仕事でも依頼があれば引き受けるってこと。それに給料もいいし、割のいい仕事だって思ってるわよ? ね、パパ」
「そうっすね、団長からはお嬢を見守るように命令は受けやしたが、案外先生ってのも悪くないもんっすね。もっとも俺っちは非常勤で給料はそれなりっすがね」
「でもパパは別の仕事もやってるじゃない。結果的にはパパのが儲けてるし……」
「まあ、それはそれっす。おっと、そろそろ起床時間っすね。さすがにお嬢の寝間着姿を同級生の男どもに見せるわけには行かないっす。早くテントに戻って下さいっす」
ルーシーは自分の格好を思い出した。早く着替えないと集合時間に間に合わない。
テントに戻ると皆は既に起きて朝の支度を始めていた。
「あら、ルーシーさん、どちらに行かれてたのですか?」
「うん、ちょっと早く起きちゃったから散歩してたんだけど、先生と長話してたらこんな時間になっちゃった」
「あまり寝間着姿で外を出歩くのは感心しませんわ。気を付けてくださいまし」
ソフィアにも同じことを注意された。
「うーん、そういうもんかな。グプタでは気にしたことなかったのに……」
「それは、グプタが開放的過ぎなんです。男は狼ですわ」
「え? そうなの? 人間だと思ってたけど違ってたのか」
「もう、真面目に言ってるのですわ。ルーシーさんは無防備過ぎなんです。いくら紳士的な男子でも裏では何を考えてるか分かりませんの」
「……うん、わかった。ソフィアさんがそういうなら気を付けるよ」
◇◇◇
キャンプ二日目は本格的に砂漠を歩いて地形を把握する事からだった。
基本、首都から出たことが無い都会育ちの生徒達にとっては、砂漠の風景の何から何まで新しく新鮮な気持ちであった。
ルーシーとて西グプタの外壁の頂上から初めて砂漠を見たときの感動は今でもはっきり覚えている。
「さて、そろそろ目的地が見えて来たね。アラン先生、魔物の気配はするかい?」
先頭を歩くマーガレットは歩みを止めアランに尋ねる。
砂漠の先に見えるのは大きな岩山だった。
「うっす。気配はしないっすが岩山にはモンスターの巣があるはずっす。ちょっと偵察に出てくるとしやすか。皆は少し休憩しててくださいっす」
アランが岩山から戻る。
「大丈夫っすよ。魔物はいなかったっす」
「なんだい、てっきりデスイーターの巣があると期待してたんだがね。生徒達にもイベントが必要じゃないかい?」
「マーガレット先生。ここはそもそも魔物のいない地域ですから……」
「甘いよ、それは油断というものだ。確かにここは安全地帯だけど、10年前はそうではなかった。なぜか理由なく突然魔物がいなくなったってだけだろう? 10年間いなかったからと言って今日いないとは限らないじゃないか」
マーガレットの言う事は正論だった。10年間いないからって今日現れない道理はないのだ。
当たり前だが10年間いないので今日もいない。だがそれは確認して初めてわかるのだ。
一同は岩山のふもとまでやってきた。
近くでみると大きな岩山だった。
高さは西グプタの外壁と同じがそれ以上はある。
そして岩山の中腹には不自然にぽっかりと円形の穴が空いていた。
穴の直径は身長の二人分はあるだろう。
それはトンネルのように岩山の向こう側に続いていた。
「ここが10年前に突然出来たとされる横穴さ。誰が作ったのかは分からない。ここにトンネルを作るメリットも無いしね。
自然にできたとも思えない。ここを通った冒険者が偶然見つけて今もまだ謎なのさ、そしてなぜか魔物もいなくなった。何か関係性があると思わないかい?」
生徒達は大きな岩山にぽっかりと空いたトンネルを眺め思い思いの感想を述べる。
10年前に出来たとされるトンネルの内側の表面はキラキラとガラスの様な膜で覆われており光が反射して宝石のようだった。
「綺麗、あれって自然にできたの? 岩の中には宝石があるってことですか?」
ルーシーはマーガレットに質問をする。
「いいや、あれは熱でガラス質が溶けたんだろう。私が思うにこれはドラゴンブレスか、それに順ずる魔法だね。極大魔法の一つにそういうのがあったね?」
「はい、極大火炎魔法。最終戦争、序章第三幕『選別の炎』ですわね。でもこれほどの威力があるのですか?」
「正解。さすがは大魔導士のご令嬢。ただ想定される威力に対して、この現象は少々理屈が合わない、威力が高すぎるのさ。
これが一人の魔法使いの仕業だったら恐ろしいが、数人で魔力を集めれば可能かもしれん。
まあカルルク帝国にもグプタにも誰一人知る者がいないが現状かな。
……だが、どうだい? 美しいだろう。今まさに生徒諸君は世界の不思議を肌で感じているんじゃないか? 座学も良いがもっと世界を知るといいさ」
広大な砂漠にある謎のミステリースポットに生徒たちはただ感動しっぱなしであった。




