表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/151

第70話 休日②

「それでは父上。いえ、パパ。そこまで言うなら、ぜひエスコートしてもらいましょう。食事代はもちろん全額パパの奢りで」


 シーンとする一同。

 さすがにそれは……だがセシリアパパは満面の笑みだった。


「もちろん喜んで。……でもセシリアちゃん、ママには内緒だよ? でないとセシリアちゃんのお小遣いも無しなっちゃうからね?」


「はい、ではパパと私は共犯者ということで……」


「では早速行こうじゃないか。そうだ、せっかくだしゴンドラに乗ろうか、船でしか行けない水上レストランがあってね、日中はおしゃれなカフェになってるんだよ。よし、そうと決めたら早速行こうじゃないか」

 

 さっそくゴンドラを手配するセシリアパパ。

 一同はされるがままであった。


 彼は上機嫌で物事を進めるのでこちらが意見を言う暇などなかった。

 それに水路を優雅に渡るゴンドラに乗るのは初めてだし、それはそれで良しとしてついていくことにした。

  

 ゴンドラに乗ること数分。大きな水路の中央にはまるで水に浮かぶ一つの建物が見えた。

「あのー、ノイマン閣下。あのお店は予約しないと入れないんじゃ?」


 街に詳しいリリアナは心配そうに質問をする。


 陸と隔離された小さな水上レストランは完全予約制である。

 それを予約なしに行って大丈夫なのかと、当然の質問であったが。


「はっはっは、お嬢さん。それは問題ないさ」


 何が問題ないのか、事前に予約をしておいたとでも言うのだろうか。

 最低でも一週間前には予約を入れないと行けないはずの人気店に、それとも顔パスで問題ないのだろうか。


 確かに社会的地位を鑑みれば可能に思えるが、それは無いだろう。

 どの道予約したお客さんが居てはあの広さのカフェでは入ることができない。


 ということはやはり一週間前に予約していたということだ。


「ねえ、セシリアさんは今日の事知ってた? あのお店、予約しないと入れないはずなの」


 リリアナはやはり心配でセシリアに聞く。

 セシリアは無表情ながらも。はぁっと溜息をついた。


「いいえ、事前に聞いていたらお断りしています。父はああいう人なので皆さんにはご迷惑をおかけします」


 水上レストランに到着すると、風通しの良いテラス席に案内された。

 人混みから離れているためか水路を流れる静かな水の音だけが聞こえてくる。

 海とも川とも違う本当に静かな音であった。


 早速メニューを確認する。


「さーて、何でも食べなさい。遠慮することはない。屋台料理は無いが直ぐに対岸のレストランからボートで料理が運ばれる仕組みだ。飲み物なら注文したらすぐに届くよ」


 何でもとは本当だった、どうやらこの水上レストランは対岸にある高級レストランが運営しているようで。いわばビップたちの隠れ家的な場所のようだった。


「パパ。いいえ、父上。今日は私達は屋台の料理が食べたいのです……それに都会の喧騒を味わいに来たのです。ですがこれでは台無しではないですか」


 セシリアは不機嫌だった。


「セシリアさん、私達、別に気にしてませんわ、せっかくお招き下さったのですし、それにここも素敵ですし……」


 ソフィアはフォローをするが、セシリアは言葉を続ける。

   

「父上は昔っからそうです。だから母上は今でも仕事を止めずに、ずっと外国で単身赴任しているのですよ。きっと父上が嫌いになったんじゃないんですか?」


 感情のない声でそういうセシリア。なにかとんでもない場面に遭遇しているのではとルーシーはかなり引いていた。


「いやいや、それは誤解だよ。ママはルカ殿の護衛だからね、多分ずっとそうだろう、それでも彼女は僕と結婚してくれたんだよ。でもセシリアには寂しい思いをさせてしまってるね、うーん困ったな」


 セシリアパパも感情のない声で応対している。

 案外この親子は似ているのだ。


 だがこの冷めた親子喧嘩は居心地が悪い。


 せめて先に飲み物でもとメニューに手を伸ばそうとした瞬間。

 隣のテラスから、白い帽子をかぶった品の良い老齢の女性が声を掛けてきた。


「おやおや、ノイマン宰相。うちの学生が困っている様子だね。あまり若い子に付きまとうのは感心しませんよ?」


 学園関係者だろうか。セシリアは学生服だったので、怪しいおじさんに言い寄られる少女の姿に思わず助け舟を出したのだろう。

 ルーシーはそう思うも、この老齢の女性からは何かとてつもない高貴さがオーラとなって見えそうになっていた。


「ふふ、ご婦人よ、学園関係者とお見受けするがご心配なく、この子は我が娘です。それにここは都会、娘に万が一が合ってはなりません。それに、私は宰相ではありません元宰相です。うん? というか……その声は……オリビア陛下」


 老齢の女性は帽子を脱ぐと、一同に軽く会釈をする。


「お久しぶりだね、ノイマン宰相、そして相変わらずのストーカーぶりのようです。丁度よいでしょう。今日は私に付き合ってもらいましょうか。このお店、今日は貸し切りなのでしょう?」


 テーブルに座る、オリビア先帝陛下とかつての部下であったノイマン元宰相は席に座る。


 うなだれるノイマン元宰相、随分小さくなっているようだった。


「あの、オリビア陛下。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はソフィア・レーヴァテインです。両親が大変お世話に――」 


「しー。ソフィアさん。今の私はただの隠居老人です。それに今日はこのストーカーに少し説教をと思いましてね。また別の機会にお会いしましょう。

 それに今日は学園生活初めての休日でしょ? お友達と楽しんでらっしゃい」


「セシリアちゃん……そうか、策で負けたのか、私は娘の手の平で踊らされていたという事か、ふっ……成長したな、私以上の策士に育って……」


 ぶつぶつ言うセシリアパパを後目に一同はゴンドラに乗る。


「では皆さん行きましょうか。今日は屋台巡りでしたね」


「あの、セシリアさんってお父様と仲が良くないんですか?」


 ルーシーは心配だったので思わず聞いてしまった。

 自分がもし父親と喧嘩したらと思うと悲しくなったのだった。 


 だがセシリアはケロッとしていた。


「父は、ああでも言わないと止まりませんので、困ったものです。

 それに今日は助っ人をたのんでおいたのでここまでは計画通りです。小さくなった父上を見てとても気分がいいです」


 表情が変らないセシリアだったが、この時だけは少し意地悪気に笑ったのだった。


 しかし、先代の皇帝陛下を助っ人にするとは大胆なことだ。

 セシリアはそのことについても少しだけ笑顔を見せながら言った。

 

「ええ、案外乗り気でしたよ。久しぶりにかつての盟友と一日思い出話をするのも引退後の楽しみの一つだといってました」


 ルーシーは知らなかった。

 カルルク帝国の今の繁栄の地盤は、先代皇帝オリビアとその右腕であるノイマン宰相の治世の時に築かれたのだということを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ