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第46話 その日の午後

 ルーシー達が午後の授業を受けている頃。

 学園の外では早々に帰路に就く学生が数名。


「くそ! 何なのだ、あの女! 気にくわない!」


「で、殿下。あまり気にしない方が……、先生も的当ては学科の成績には関係ないって言ってたじゃないですか」


「うるさい! レーヴァテインに負けるのは分かっていた。だが、見ず知らずの田舎者にまで負けるとは俺のプライドが許さない!」


 悪態を吐くリーダー格の男。彼の的当ての成績は三位であった。

 名はニコラス・カルルク。

 カルルク帝国の第七皇子である。


 第七皇子ということで皇位継承権は第七位。

 彼の兄である第一皇子は優秀であり、健康そのものである。

 結婚もしており、子供もいる。皇太子としても公務に参加している。

 何も問題なければ次の皇帝は兄である。


 ニコラス自身、はなから皇帝になろうなどと思っていないし、末っ子である為か皇族としての教育もほどほどで甘やかされて育っている。

 何不自由ない生活ではあるし、そろそろ婚約の話も出ているくらいだ。


 だが彼はそれが気に入らないのだ。


 卒業したら、どこかの貴族の娘と結婚して、帝国のどこか無難な要職に就くことになるだろう、すでに敷かれたレールに乗っている現実に彼は不満だった。


 だからといって皇室に泥を塗るような愚かな行為をするほど馬鹿ではない。


 だからこそ、昔から自分に仕えている幼馴染の前でしか愚痴は言わない。それで精一杯だった。


「そういえば、殿下。婚約の話がありましたよね。どなたか気に入った娘でもいましたか?」


「くだらん。どいつもこいつもお決まりのお世辞ばかりだ。大体、七男の俺に魅力がある訳ないだろう。

 あるのは皇室とのパイプだけだ。ほんと、どいつもこいつも俺をみていない。可憐な少女を演じているが、その後に薄汚い親の顔が見える。まったく反吐が出る」


「殿下、そのようなことを言っては……。ここだけにしてくださいよ」

「分かっている。俺だって祖母や両親の顔に泥を塗るつもりはないからな」


「あ。でしたらレーヴァテインの娘が良いではないですか? さっきだって殿下が挨拶しているのに顔色一つ変えませんでしたし……」


 たしかに俺が挨拶をしているというのに何の反応も示さなかった女が二人いた。レーヴァテインとグプタの女。


「……いや、レーヴァテインは駄目だ。……アレは祖母の特別だ。ふ、それこそ、たかだか皇帝の七男程度の俺では身分が釣り合わないだろうな」


 自嘲気味わらうニコラスだった。


(しかし、俺は何に腹をたてているのか。そうだ、あの毎日グプタで遊び惚けていたような間抜けな顔をした女だ。

それにあいつの能力、きっとずるをしたに違いない)


 そう思うとニコラスは余計に腹が立った。


「殿下は今日は魔法道具屋ですか?」


 ニコラスは不機嫌だったが。その言葉で急に気分が晴れる。

「ああ! そうであった。店主から連絡があったのだ。今日は随分と昔に使われていた古い魔法道具が入荷したんだ。こうしてはいられん! お前達早く行くぞ!」


 ニコラスの唯一の趣味。それは古い魔法道具の蒐集である。

 兄たちに比べて何も取り得がないと思っていた彼であるが、魔法道具に関しては別だった。


 彼は魔法機械に移り変わる社会において、古くからある魔法道具にシンパシーを感じていたのだ。


 例え、今の世界にとって利用価値がなくなろうとも。

 歴史的価値と存在感はあるのだ。それこそが大切なことではないかと。


 何の特技もない、皇室の伝統に守られたお飾りの第七皇子である自分にとってはそれが唯一の心の支えであった……。


 ◇◇◇◇◇


 一方、学園内の中庭にあるレンジャー訓練場にて。


「ぐぬぬぬ、解けぬ。我としたことが拘束されて身動き一つとれんとは。くっ! ころ――」


「ちょっと! ルーシーさん、なんで木にロープを付けようとしてたのに、自分の身体がグルグル巻きになってるのよ。それじゃまるで変態さんじゃない!」


 なぜか、ロープはルーシーの体中をがんじがらめに拘束していた。

 なぜこうなったのか……それはルーシーにしか分からない。だが当のルーシーにも分からない。つまり迷宮入りである。


「私にもわからん! ロープの奴が勝手に我を拘束したのだ! おのれ―、やはりこの私が邪魔だと言うか! さてはこのロープ。ベアトリクスの眷属だな?」


 思わぬアクシデントで素に戻ってしまったルーシー。


 ソフィアは見逃さなかった。

 ルーシーはやはり同好の士であった。闇の精霊を従えている時点でなんとなくは感じていたが、今確信に変る。


「うふふ、ルーシーさん。やっぱり私と気が合うわ。……そうね、ふふふ、そのロープはやはり海のドラゴンロードの眷属。青く細長いその姿はまさしく――」


 芋虫の状態になって、もごもごと動くルーシーと、謎のポーズを取るソフィア。


「お嬢にソフィアっち。何やってるっすか。そのロープはただのロープっすよ。100パーセント植物性っす。ちなみに青く染めてるのは紛失防止のためっす。ドラゴン要素なんかありゃしやせんぜ?」


 アランに聞かれていたので、その場で黙り赤面する二人。12歳。さすがに人前でさらすには羞恥心がある年頃であった。


 もっとも、ソフィアはそれを昨日クラスメートの前で披露しようとしていたのだ。警告してくれたルーシーには感謝してもしきれない。一生の友達とは彼女のことだとソフィアは思った。


「あの、アランおじさん。ロープが身体に巻きついて取れないです……」


 アランはルーシーに巻きついたロープを解く。意外に複雑に絡んでいたため、さすがのアランも少し苦戦した。


 ルーシーはなぜか自分の手首と足首をロープで縛られていた。というか自分で縛ったのでは? と、疑いたくなるくらいにしっかりと拘束されていたのだ。


 アランとしてもここまで不器用な人間は初めて見た。

 部下ならクビだ。だがそれも微笑ましく思う。アランにとってもルーシーはイレーナ同様に大切な存在だからだ。


「お嬢は不器用だったんすね。団長からは教えてもらわなかったっすか? 団長はレンジャーとしても一流だと思ったっすが……」


「……お父様は。私にロープを触らしてくれませんでした。手の皮が剥けるし、顔に怪我でもしたら大変だって……」


「さすがは親バカの団長っすね。でも俺っちもそれには同意っす。幼いお嬢には怪我などさせられないっすから。……でもそれは今までの話。お嬢は、もう大人なんでしょ? お嬢はどうしたいっすか?」


「アランおじさん……。  私にもっと教えてください。私はもう子供じゃありません。失敗はしますけど、頑張りますから!」


「おっけーっす。そのための学園っす。生徒に教えるのは教師の喜びっす。じゃあもう一度。ロープワークは一度覚えれば一生ものっすから、頑張るっすよ」


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