少女と出会った日
天使という言葉を聞いて、君たちはどんなイメージをもつ?
神聖?願いをかなえる?
__アホらしい
どうしてたまたま天使として生まれただけなのに、そんな大層な心持ちにならなきゃいけないの?
天使だって嫉妬や羨んだりしたっていいじゃない。
なんて思ってんのは、この世界で私だけだろうけど。
*****
ここは神様がすむ世界。私たち天使は神様の補佐として一生を捧げる。
といっても私はまだ見習い。今はまだ養成学校に通うひよっこ。
今目の前で教鞭をふるっている真っ白な髪を一つに結っている長身な女性は私の担任のアリア先生。
「今日は私たちがすむ神界とニンゲンがすむ現界についてです。みなさん、今までニンゲンが度々この神界に迷い込んでいることは知っていると思いますが、私たち天使がニンゲンたちにしてはいけないことは何でしょうか。ではリリカ、答えて下さい」
先生が名指ししたのは、このクラスで一番の優等生。
教科書を反射する大きなレンズをはめた眼鏡を人差し指でカチッと音を鳴らすと、彼女は小さく息を吸った。
「はい。一つ目が私たちがもつ、先天的魔法を使用することです。例えば負傷を完全に治す完全治癒能力などです。二つ目は背中に生える翼を見せることです。私たちが天使だと知られてしまうと、暴行される可能性が高いからです。」
「ありがとうございました。ではみなさん...」
今日も退屈だ。なんの役に立つのかわからない授業。
何もない空を見上げながら、小さく溜息を吐いた。
そんなことよりクリームシチューの作り方のほうがよっぽどためになると思ううんだけど。
「ちょっとアメリ、ぼーっとしない」
急に叫ばれた自分の名前に驚き先生の顔をみる。確かに合ったその目に微かな怒りが見えた。
「はーい。すみませんでした。」
こんなことばかりだから私を憐れむクラスメイトなんていない。嘲笑と軽蔑が混じった目線が送られる。
いつものことだ。
*****
私には好きな場所がある。それは養成学校から小さな雑木林を抜けてすぐの泉だ。この泉は現界とつながっているなんて噂がある。というのも、この泉に落ちた者は二度と姿を現すことがないからである。こんなにも美しいのにもかかわらず、不穏な伝説をもつこの泉が、蠱惑的に思えてならないのだ。
私は底の見えない泉を眺めていた。
「ねえ、アメリ。そんなとこで何してるの?」
あ、さっき先生にあてられてた優等生だ。ええと、名前は...
「別に何かしてるってわけではないよ。あなたこそどうしたの?」
「それが、アメリに少し話があって...」
そうだ、リリカだ。
「え、リリカ急になに?」
「普段の学校生活についてなんだけど、少し授業についていけてないんじゃないかなって思って。ぼーっとしてることも多いし、私でよければ勉強教えるよ。最近授業のペース早いもんね。えっと、日にちは...」
「待って待って、なに勝手に話進めてるの?私勉強に困ってるって言ったけ?一人で盛り上がらないでよ」
「ひ、一人で盛り上がらないでって、私そんなつもりじゃ。アメリのことをおもって提案してあげてるのに...」
「してあげてるって、私そんなこと頼んでないよね。何様のつもり?」
「そんな言い方しなくたっていいじゃない!」
リリカが振り上げたその手は辺りにころっがていた小さな石を持っている。
「あなたなんて知らない!」
投げられたそれをよけるために、身をよじったその瞬間、重心が崩れて泉に落ちていく。
水面の上からリリカの焦った顔が見える。目が血走り、今にも泣きだしそうだ。
なんか悪いことをしてしまった。悪意がないことはわかってた。でも自分にはない輝かしい優しさを目の当たりにすると、どこか消化しきれないもやもやが心を支配して、本心でないことを言ってしまう。
こんな自分大嫌いだ。
次第に光が闇のへと変わり、意識も薄れていく。
願わくばこのまま...
*****
生暖かい風を感じて目が開いた。瞬間、真っ黒な瞳と目が合った。
「あ、目、覚めた?大丈夫?」
ぼやけた視界には心配そうにこちらを眺める少女の顔が映った。
床に寝そべっていた私は体を起こして、彼女をまじまじと見つめた。
見たことのない目の色と、教科書でしか見たことがない衣服。もしかして、、
「...ニンゲンか?」
「え、うんそうだけど。どうしたの?変な夢でも見てた?」
「いや、なんでもない...」
・・・・・・・・・は?