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魔導の照らす大地  作者: うさとひっきーくん
第三章 故郷帰り
29/37

第20話 オークション

 精緻な模様が刻まれた柱と壁。

 綺麗に整列されている精確な造形の椅子。

 総括して、豪華で気品あふれる空間。

 ――――オークション会場。


 俺達は孤児院の皆との再会を祝ったあと、この場所に足を運んだ。

 元々、カッセルポートに赴いたのは、このオークションに参加するのが目的だった。


「なんか、緊張するな」


 俺は、隣に座っているメルビスに緊張していることを伝えた。


「いいものが落札できるといいわね」

「ミドルクラスの魔導具があればいいけど……」


 会話をすると、微かに緊張が和らいだ。


 メルビスは、聡明な空色を主体とした綺麗なドレスを身に纏っている。

 その様相は、煌びやかで爽やか、それでいて無駄がない。


 このドレスは「7メテラ」という俺達の財布にとっては少し重たい値段で購入した。

 ――これでも値切ったのだが、やはり妥協するべきだったか。

 なんてことは思わない位には似合っている。


 俺は、メルビスに気づかれない様にチラチラと視線をメルビスに向けてしまっている。

 どうにも、こういう衝動は自重するのが難しい。


 背徳感に鼓動を蝕まれながら輝く宝石を目に焼き付けていると、右隣りから活発な声が飛んでくる。


「ねぇねぇ、ニャータ。みんな凄い髪型だね!?」


 長い赤髪を一つ結びにした、タキシード姿の青年が興奮気味に俺に話しかけてきた。


 俺は、デュアンの言葉を聞くと、視線を遠くに移して、他の人達の容姿について確認する。

 確かに、俺達のホームとなっている「ペセイル」では目にしない様な、綺麗で派手な髪型が多いような印象だ。


 男性はともかく、女性はミクリアさんみたいな巻き髪が多い。

 中には素直なロングヘアや、デュアンのような一つ結びの人もいるが、それは少数派なようだ。

 きっと、俺達のようなハンターもその中にいるんだろう。


 髪型だけでなく、ピアスやイアリングなどのアクセサリーにも余念がない印象だ。

 どでかい指輪や豪奢な首飾りが、その人の持つ資産の「格」を体現しているのかもしれない。


 資本家や豪商の界隈では、その様な形で周囲に実力を誇示するのだろうか。

 ハンターは、装備の価値で実力を誇示したりする為、意外にも親近感が湧いた。

 とは言え、どの界隈も同じような物なのかもしれない。所詮は同じ人族のすることだ。


 いつもの様に捻くれたことを考えていると、左隣の宝石が俺に話しかける。


「ところで、どんな魔導具にするかは決まってるの?」


 メルビスは、狙う魔導具の性能を決めているのかを質問してきた。


「優先順位は決めてきた。まず最優先は――」


 俺は、優先順位をメルビスに伝えた。


 今一番欲している魔導具は、高品質な貯蓄魔導具だ。

 俺達は現在、貯蓄魔導具は指輪を主に着用しているが、性能さえ問題なければ指輪型である必要はない。

 首飾りでも腕輪でも、背中に背負うような物でも……そんなもの見たことないが。


「そろそろ、指輪以外の物が欲しいわね」


 メルビスは、自分の左手に着用している指輪を眺めながらそう言った。


 実戦の事を考えると、デュアンやメルビスの様に武器を使う人は、指輪よりも腕輪や首飾りの方が良い。

 どうやら、剣を振るう際に少し握り辛さを感じるらしい。

 デュアンは、最初は剣を握る右手に指輪を嵌めていたが、最近はメルビスの様に左手に着用している。


「そうだな。腕輪型か首飾り型か……メルビスは、首飾りが似合いそうだな」


 ふと、メルビスにちょっかいをかけたくなってしまった。

 反応が可愛いので、たまにこういう事を言ってしまう。


「え!? そう、かな?」


 メルビスは照れた様子で自分の首元を見つめ、そう言った。


 俺達が指輪型の魔導具を着用する理由は、単純に値段が安価だからだ。

 その分性能も劣るが、腕輪一つよりも指輪二つの方が貯蓄できる魔力量は多い。


 今回新しい魔導具の購入を狙っているが、出来るだけ大容量の物が望ましい。

 理由は、俺が団長から譲り受けた高級な指輪はミクリアさんに渡してしまったから。

 勿論、ミクリアさんとの友情の方が大事なので、後悔はしていないが。


「ニャータは、首輪が似合いそうだね!」


 右隣りから水を差すように下らない言葉が飛んできた。


 俺は、満面の笑みを浮かべながらこちらの様子を伺っているデュアンを、顔の骨にひびが入るくらいの強化魔導を施した拳で殴った。

 ――当然、俺の拳の骨が砕けた。


「硬すぎるだろ、お前の顔……!!」


 痛みに悶えながらツッコミを入れる。


 本当に、ギャグなんじゃないかという硬さだ。

 分厚い金属の板を思い切り殴った時の様に、デュアンの顔面はビクともしなかった。


「ニャータ、わざとやってるよね? もう5回目くらいだよ?」


 デュアンは、心配を孕んだ表情で冷静に指摘した。


「一応、少しずつ強化魔導の強度を上げてるんだがな……」


 砕けた手の甲を治癒しながら、そう呟いた。

 

 その後は、たわいのない談笑で時間を潰しながら、オークションが始まるのを待った。


 ――待つこと、数分。

 正面の舞台袖から、司会者と思われる人物が姿を現した。


「みなさまお待たせいたしました。現時刻を持ちまして、オークションを開催致します。司会は私――」


 司会の人は、卓越した話術を駆使して、つらつらと挨拶をした。


 司会が自己紹介を終えると、最近話題になっていることなんかを話して会場を温める。

 いい感じに場が温まると、最初の商品の説明に入った。


「それでは、皆さまお待ちかね。最初の商品を紹介いたします!」


 そう言うと、台の上の商品を覆っていた白い布をバサッと捲った。


 姿を現した商品は、脛当型の魔導具だった。

 効果は装着部位周辺の足に強化魔導を施してくれるという、オーソドックスな性能だ。

 俺達は既に三人とも同じような性能の魔導具を持っているため、スルーする。


「こちらの商品、10テラからスタートいたします。我こそはという方は挙手と共に値段の提示をお願いしたします!」


 司会がそう言うと、ぞろぞろと値段を叫ぶ声が響き渡る。


「200テラ!」

「220テラ!」

「240テラ!」


 買い手が金額を叫び、値段が吊り上がっていく。

 こういったオーソドックスな商品の購入を検討する人たちは、専ら商人だろう。

 できるだけ安く買い付けようと、競争しているわけだ。


 暫く、小刻みに増えていく金額を聴いていると、少しずつ挙手をする人が減っていき、最終的には「320テラ」で声は鳴りを潜めた。


「もう、おられませんか?」


 購入希望者の声が静まるのを確認すると、司会が最終確認をした。


「それでは、こちらの魔導具は320テラで落札となります!」


 司会は最終確認を済ませると、木槌を叩きつけて甲高い音を響かせてそう言った。


 どうやら落札者が決定した。

 恐らく、最初はこんな感じの安価な商品が続くだろう。


「良さそうな武器はあるかな……?」


 最初の商品の競売が終わると、右隣りのデュアンが話しかけてきた。


「どうだろうな。でも、お前の剣よりもいい魔導具なら出品されると思うぞ。落札できるかは別だけどな」


 俺は、未だ興奮気味のデュアンにそう言った。


 最優先は「貯蓄魔導具」だが、二番目に優先すべきは「武器」だ。

 中級魔獣であれば、現在の武器でも工夫次第で通用する。

 だが、武器の質が上がれば一戦当たりの労力が減るだろう。

 これにより、現状よりも更に多くの魔獣を狩ることができるようになる。


「それでは、次の商品はこちらです!」


 司会が白い布を捲ると、格好のいい黒光りしている鎧型の魔導具が姿を現した。


 その見た目に、客たちが「おぉー」と感嘆の唸り声をあげる。


「凄いな」

「カッコイイね!」


 その精緻かつ力強い見た目に、俺も思わず唸ってしまった。


 皆の反応を確認すると、司会者が「凄いでしょう?」と観客を煽ってから、性能の説明をし始めた。

 司会の解説によると、著名な防具鍛冶師が作成した力作で、その力作の鎧に更に著名な魔導刻印師による魔導刻印が施された一級品だそうだ。


 効果は、鎧本体と肉体全身に強化魔導を施すというもの。

 特に、肉体全身を強化するというのは、とんでもない性能と言える。


「ねぇ、ニャータ。なんで高度な魔導具はあんなに高いの? 刻印なんて、誰でもできそうじゃない?」


 デュアンが、ふと浮かんだ疑問を投げかけてきた。


 俺は、これまで溜め込んだ知識を使って、その疑問を解消させる。


「高度な動作をさせる為の刻印をできる人は少ないんだ。それに、生半可な素材では動かしたときに壊れたりもする。高度な刻印を施せる魔導刻印師が希少で、且つ素材も貴重だから、必然的に値段が高くなるんだ」

「へぇ……そういう理由があったんだ」


 我ながら、上手く説明ができたと思う。


 魔導具に高度な動作をさせる場合、刻印が正確に彫られていなければ、魔力を無駄に消費してしまったり、特定の条件下で意図しない挙動をしてしまうことがある。

 そして、そう言った不具合を引き起こす可能性を払拭する材料として、名声がとても有効なのだ。


「200メテラ!」


 デュアンに説明を終えると、少し魔導具について想いふけっていたが、そこから引き戻すように、会場に大声が響き渡った。


 デュアンへの解説でスタートの値段を聞いていなかったが、既に俺が払えるような金額ではない。


 まだオークションが始まってからそんなに時間は経っていないが、定期的にこのような目玉商品ともいえる傑作を出すことで、顧客の興味を保たせるようにしているのだろう。


「2320メテラ!」

「2500メテラ!」


 そんなことを考えているうちに、あっという間に値段がとんでもないところまで上り詰めていた。


 すると、緊張感を纏い始めた空気感を切り裂くように、ハッキリとした声が会場に響き渡る。


「6000メテラ!」


 途端に、価格が跳ね上がった。


 これには思わず、「おぉー」と客席がどよめく。


 これは、決定的だろう。


 予想通り、この後に名乗りを上げるものはおらず、「4000メテラ」で落札された。


「すっごいね、6000メテラだって!」


 デュアンが身を乗り出し、高揚した声色でこちらに話しかける。


「あれは豪商ね。更に高い値段で上級ハンターに売りつけるんだわ」


 メルビスが、比較的冷静な見解を述べる。


「あんな金額、一生かかっても払える気がしないな……」


 俺は、自分の所持金と比較して感想を述べた。


 購入者は、小太りで、ゴツゴツとした趣味の悪い指輪や首飾りを身に着けている。

 見た目で判断するのはどうかと思うが、恐らく豪商で間違いないだろう。

 

 しかし、6000メテラで買い付けたという事は、少なくともそれよりも高い金額で売るってことだよな?

 本当に払える奴、いるのか?


 にわかには信じがたいが、買う人もいるのだろう。

 一括で払う人は少ないだろうが、上級ハンターなら数年かければ払えない事もない。

 あの魔導具はこの世に一品のみだ。それは揺るぎない価値となる。


 とはいえ、防具の優先度は低い。

 現状の装備でも充分戦えるからだ。


「そういえば、ここまで本なんかは殆どないね。魔導書とかは出品されないの?」


少しの沈黙の後、デュアンは再び疑問を投げかけた。


「ほとんどないな。一般的な中級以下の技術を記した魔導書だったらそもそも買い手がつかないし、高度な魔導書は魔導協会が高値で買い取ってくれる」


 俺も再び、デュアンの疑問が解消できるよう努めた。


 しかし、感の鋭いデュアンは俺の言ったことのおかしい点を指摘する。


「上級魔導書だったら、高値で売れるんじゃないの?」


 デュアンの一言に、思わず過去の出来事を思い出してしまった。


 過去に、俺は「5メテラ」で「上級魔導書」という本を購入した。

 しかし、そのおかげでサルティンローズに向かうことになって、メルビスと再会することもできた。

 因みに、「5メテラ」で購入したのは無理を言って譲ってもらったからで、実際の値段は「2メテラ」だったらしい。


 俺は、そんな過去の過ちを懐にしまい、デュアンの疑問を解消しにかかる。


「本は基本的に絶版になったもの以外は大して値が付かないんだ。本屋で買えばいいからな。そして、魔導書は魔導大学が数年に一度一新して出版している」

「なるほど、そういうことなんだ……」


 デュアンは納得したようだ。


 今話したような理由もあり、オークションにかけられるのは専ら魔導具となっている。

 そして、出品される魔導具の殆どは、「魔導大学に通う生徒の作品」や、「ハンターの遺品・引退品」となっている。


 俺達は「ハンターの遺品・引退品」をターゲットにしている。

 実際に使われていた物の方がいくらか性能も保証されているからだ。


 俺達は、商品について定期的に会話をはさみながら、購入する商品を検討していた。

 しかし、出品数が残り僅かになっても、いまだに購入に踏み切れないでいる。


「残り4品になったわね……」


 メルビスが、残りの品数を口にする。


「今日は見送りか?」


 俺は、見送りの可能性を示唆した。


 そんな会話をしていると、司会がハキハキと喋りだす。


「残り少なくなって参りましたが……まだまだ、帰宅には時期尚早です! さぁ、ご注目ください、次の商品はこちら!」


 司会が得意げにそう言うと、これまで通り白い布を捲った。質素な腕輪型の魔導具を取り出した。


 特段目を引くような装飾や素材でもなさそうだが……。


 皆がリアクションに戸惑っている中、司会は性能の説明に入る。


「こちらの腕輪型の魔導具。ミドルクラスに類する『魔導合金』を素材として作成された腕輪に、魔導大学に通う優等生が刻印を施した

物になっております」


 魔導大学の優等生の作品と言うと、少し会場がざわついた。


 とは言え、未だに盛り上がりに欠ける。

 優等生とは言え、良質な魔導具を世に出した実績があるのかどうかも分からない。


「気になるその性能ですが……なんと、何もせずとも僅かながら魔力を充填してくれる魔導具となっております!」


 司会は、凄い商品を紹介しているかのように説明をした。


 そんな凄い商品を前に大歓声……となることはなく、客席は微妙な反応を示した。


 その理由は、恐らく、どれくらい凄いのか見当が付かないのだろう。

 現存の商品の価値は把握しているだろうが、新しい性能を持つ魔導具がどれくらい評価されるべきかはわからない。


 しかし、それも無理はない。

 商人たちは管轄外の専門的な知識は自分で調べることはあまりせず、信頼を置く専門家に尋ねる。

 俺の知り合いにも承認を志した男がいるが、そいつもそういう奴だった。


 怠惰の様に思う人もいるかもしれないが、これは純粋に効率を重視した結果であり、怠惰ではない。

 少なくとも、俺はそう思っている。


「それではこちらの商品、1メテラからスタートいたします! 我こそはという方は、挙手と共に値段の提示をお願いしたします!」


 司会は、微妙な空気にも関わらず、これまでで一番威勢よく開始の合図を言い放った。


 明らかに、説明不足と言える紹介だった。

 これは推測にもならない憶測だが、商品価値が理解できる人に渡って欲しいという出品者の意向があったのかもしれない。


 それはさておき、俺は専門的とまでは言えないながらも、商品の価値は理解できていると思う。


 ――これは、狙うべきだ。


 当初の目的だったミドルクラスの魔導合金による魔導具であること。

 自動的に魔力を充填してくれるという奇怪な機構を持つということ。

 この二つが決定的だ。


 俺は、メルビスの方に視線をやって合図を送った。


 すると、右隣りから来る意味ありげな視線に気づいたメルビスは、小さく頷いた。


 メルビスの相槌を受けると、競りに参戦することを決めた。

 果たして、所持金で落札できるだろうか……。


「10メテラ!」


 思案を巡らせていると、恰幅の良い紳士が手を挙げて額を叫んだ。


 購入意欲としてはまずまずといったところか。


 最初に提示する価格は、この後の展開に置いて重要な役割を果たす。

 価格が初期値に近ければ、購入意欲が低く、商品に大金を払う価値がないと周囲に知らせるし、逆に初期値よりも遠ければ、前者とは逆の意味を成す。


 つまり、上手くやれば展開をコントロールすることもできるのだ。

 とは言え、商品の認知度や司会の解説の内容なんかにも左右されるため、そう上手くいくようなものでもないが。


 静観する理由も分からないので、俺は最初の人に続いて、声を上げる。


「11メテラ!」


 相手がどの程度払う気でいるのかが分からない為、1メテラ刻みで様子を見ることにした。


 次に、最初に声を上げた男が再び声を上げる。


「12メテラ!」


 俺も負けじと値段を上げていった。


 そして、数回の競り合いの後、価格は「24メテラと70アテラ」まで上がった。


 今のところ、競り合いに参加してるのは4名だ。

 どんな目的で購入を検討しているのかはわからないが、「10アテラ」刻みとなったここらが勝負どきかもしれない。

 所持金は「35メテラ」としているため、「30メテラ」まで一気に上げてしまおう。

 出し惜しみをしている場合じゃない。


「30メテラ!」


 会場に「おぉー」という声が響いた。


 俺がこれまでの流れを断ち切って値段を一気に釣り上げると、これまで軽快なテンポで価格を言い合っていた人たちが静まり返った。


 決まったか……?


「32メテラ!」


 最初に声を上げた男が張り合う様に価格を叫んだ。


 会場は、先程よりも大きなどよめきが響き渡る。


 しかし、声を上げるまでに数秒の間があった。

 恐らく、相手もこの辺りで落札するつもりだったのだろう。

 思ったよりも高くなったために、少し渋ったのだ。


 これは、いくしかないか……。


 俺は、「これでとどめだ!」とばかりに手を挙げて価格を言い放つ。


「35メテラ――」

「50メテラ!」


 これまで競りに参加していなかった男性の声が響き渡った。


 50メテラ……? そんなお金は持っていない。


 その声の主は、そこそこ年がいっていると思われる、「紳士」と呼ぶに相応しい佇まいのおじさんだった。


 このタイミングでの大幅な高騰。

 俺の出せる額の限界を、虎視眈々と見極めていたのかもしれない。


 ダメだったか。


「100メテラ!」


 落胆した矢先、堂々とした女性の声が大きく響き渡り、価格が倍に跳ね上がった。


 まだ、高騰するのか……?


 そんな額をスパっと言い切ったその女性の事が気になり、その女性の方を向いた――――


 そこには、金髪を綺麗にロールさせている、瀟洒(しょうしゃ)な立ち姿の女性が立っていた。


「ミクリア……さん?」


 小さく声を漏らすと、俺の視線に気づいたミクリアさんが、こちらにウインクをした。


 佇まいからは想像できないような、フランクな合図だと思った。

 その立場に奢らない姿勢が、彼女の魅力だと俺は思っている。


 助けてくれた……んだよな?


 「随分と早い恩返しだ」と心の中で呟いた。


 ミクリアさんが提示した「100メテラ」以降、金額を叫ぶ人はいなかった。


「ニャータ、良かったわね」


 メルビスが安堵した表情で、俺にささやかな祝福の言葉を掛けた。


「もう、恩を返されてしまったな」


 俺は、爽やかな苦笑いを浮かべながら嘆くようにそう言った。


 せっかく売った恩を、もう返されてしまった。

 もう恩を理由にお願いは出来ないだろう。


 俺達は、念の為残りの三品の商品も見ていくことにした。


 ――残された三品は、全て素晴らしい作品だった。

 その中の一つに、芸術を重視して作られた著名な作者による剣があったが、2000メテラで購入されていた。


 全ての商品の行く末を見届けると、俺達は会場を後にした。


「俺達も、将来はあれくらいお金を持ったりできるのかな」


 未だ着慣れないタキシードに着いたゴミを払いながら何気なくそう呟いた。


 お金が全てではないが、あのスケールと比較すると、俺達もまだまだおこちゃまだなと思ってしまう。


「どうでしょうね。これからの努力次第だと思うわ」


 特に気負うことなく、リラックスした声色でメルビスが返事をする。


「きっと、持てるよ! この三人だったら!」


 デュアンは、いつも通りの活発な声で俺達の将来を肯定した。


 その後も、出口を目指しながら、たわいのない会話をした。


「あ、ミクリアさんだ!」


 出口に差し掛かると、デュアンが嬉しそうにそう言った。


 デュアンが向いている方向に視線をやると、会場の入り口から少し離れた所にある噴水の傍に、瀟洒な佇まいでこちらを見つめる存在があった。

 それは、喧騒にまみれてもなお、ひと際存在感を放っているミクリアさんだった。

 

 デュアンの声を聴いたミクリアさんは、凛々しい佇まいの女性と思われる護衛と共に、俺達の元に歩いてきた。


「ニャータさん、お受け取り下さい」


 間近にまで迫ると、ミクリアさんは、金属のしっかりとした箱を差し出した。


 恐らく、先程ミクリアさんが落札した腕輪型の魔導具だろう。


「もう、恩を返されてしまいましたね」


 俺はそう言って、差し出された箱を受け取った。


 ミクリアさんは、俺の言葉を受けると目を瞑り、優雅に首を横に振った。


 その後、ゆっくりと目を開け、口を開く。


「いいえ、この程度ではまだ返せておりません。それとも、私の命は100メテラ以下と……そうおっしゃるつもりですか?」


 ミクリアさんは、目を細めて笑顔を作りながらそう言う。


「い、いえ、そうではありません」


 俺は、スパイスの利いた冗談に苦笑いを浮かべながら、その問いを否定した。


 続けて、弁明をする。


「ミクリアさんとの関係を築けたというだけで、助けた時の恩は返されています。私に残された恩といえば、友情の証として送ったその指輪くらいでしょう。その恩も、たった今返されてしまいましたけどね」


 俺は、友人関係である気安さも残しながら、紳士的な口調でそう言った。。


 すると、ミクリアさんは疑問符を浮かべた表情でこちらを見て、こう言う。


「あら? この指輪、100メテラ程度では到底購入できるものではありませんよ?」


 ミクリアさんは、俺が譲った指輪型の魔導具が嵌っている右手の甲をこちらに差し出してそう言った。


「そうなのですか?」


 思わず、質問で返してしまった。


「えぇ、恐らく1000メテラは下らないかと」


 ミクリアさんは、それが周知の事実であるように、抑揚をつけずにそう言った。


 1000メテラ!? 団長、こんなものをただで譲ってくれたのか。


 ――いや、それほどあの時の俺を評価してくれていたという事だったのだろう。

 その評価が、過大評価ではないことをこれから証明していかなくてはいけない。


 俺が決意を新たにしていると、ミクリアさんは何かを打診するように言葉を発した。


「それで、一つ皆さんにお聞きしたいのですが」

「……なんですか?」


 了承の意味も込めて、内容を尋ねた。


 すると、メルビスとデュアンが注目したところで、内容を告げる。


「みなさん、一緒に魔導大学へ通ってみませんか?」


 その言葉を聞くと、思わず両隣にいる二人に、交互に顔を見合わせた。


 ――魔導大学。

 入学金だけで1000メテラほどかかり、そこから更に授業料やら何やらで年間500メテラほどかかるという、魔導の聖地「テルセンタ」にある教育機関だ。

 その恐ろしく高額な学費に恥じないほどに膨大な資料や研究施設、教授を抱えており、「魔導の宝庫」と呼ばれることもある。


 テルセンタには、魔導を学べる施設がいくつかあるが、その大学に通えるのはほんの一握りのみだ。

 俺もいつか通うために、お金を稼ぐ手段を確立しようと画策していたが……。

 甘く見積もっても、数十年はかかると思っていた。


 そこへ、一緒に通う?


 という事は、お金のほうは負担してくれると考えてもいいのだろうか?


「すみません、ミクリアさん。一緒に通うって言うのは、学費の方を支払っていただけるという事ですか?」

「えぇ、勿論です」


 俺の質問に、ミクリアさんは表情を崩すことなく即答した。


「三人分となるとかなりの額になると思うのですが……」

「問題ありません。それに、貴方達であればこの投資が無駄になることもないでしょう?」


 これもまた、表情を崩すことなく即答した。


 どうやら、全く問題ないらしい。

 流石名家のお嬢様、財力が桁違いだ。


 そして、肝心の回答だが……ハッキリ言って、この誘いを断る理由が全く思いつかない。

 それに、ミクリアさんの後ろ盾があれば、様々なことが上手くいくだろう。

 魔導大学に通えるだけでなく、そんな特典もついて来る。


 俺は、後ろを振り返り、メルビスとデュアンの注目を集めると、咳ばらいをしてから、自身の意向を伝える。


「二人とも、これは願ってもない申し出だ。俺は絶対に行くべきだと思うが、反対意見はあるか?」

「あるわけないじゃない! こんな幸運、人生最大に決まってるわよ!!」


 俺の問いかけに、メルビスは大興奮といった様子で賛同の意を示す。


「えー。ハンターはどうするの? せっかく中級ハンターとして認めてもらえたのに……」


 メルビスとは打って変わって、デュアンは乗り気ではないようだ。


 恐らく、魔導大学についてよくわかっていないのだろう。


 そんなデュアンに、一からこの申し出の大きさを説明する。


「えぇ!? そんなに凄い所なの!? だったら……行くべき、なのかな?」


 説明を受けたデュアンも、少し揺らいだようだ。


 やや誇張気味に伝えたが、嘘とまではいかないはず。

 いや、流石に「団長クラスが沢山いる」というのは無理があったかもしれないな。


 とは言え、魔導大学に通うという事は、今後のハンター活動にも圧倒的な良い影響を及ぼすだろう。


 俺は、もう一押しという所まで揺らいだデュアンに止めを刺しにかかる。


「ギルドに申請すれば、ハンター活動の休止も認められている。緊急でペセイルが襲撃されたとかでもなければ、強制招集もない」


 デュアンの心配事は、恐らくハンターとしての活動がどうなるかというものだと思う。

 それを解消するために、ハンターの活動休止が可能であることを伝えた。


「そうなの? だったら、行った方がいいね!」


 説明を受けたデュアンは、魔導大学へ行くことに賛同した。


 デュアンの説得を終えたところで、ミクリアさんに向き直って答えを伝える。


「ミクリアさん。この申し出、大歓迎で受けさせていただきます」

「そうですか……! でしたら、来年の初めにペセイルにお迎えに上がります。それまでに引っ越しの準備を済ませておいてくださいね」


 笑顔でミクリアさんがそう言うと、右後ろにいたデュアンが前に出てきて、ミクリアさんに語り掛ける。


「ミクリアさん、来年から一緒だね!」

「えぇ。一緒に魔導を学びましょうね」


 二人は仲良さげに話し合った。


 この二人は相性が良さそうだ。

 きっと、魔道大学でもお互いに助け合う事だろう。


 そして、デュアンとミクリアさんの仲が進展して、フリーになったメルビスが俺に傾けばいいな……なんてことを考えてしまう。


 とは言っても、恋仲になりたいという事ではない。

 恋仲になると、色々とややこしい関係になってしまうからだ。


 命を懸けて活動する上では、些細なストレスが命取りになる。

 俺の場合、ただでさえ神経質なため、そんな状況に精神が答えるのは想像に難くない。


 という事で、俺の当面の理想は、メルビスが俺に大して好意を持っていることが殆ど確定した状態で、活動を続けるという事だ。

 これであれば、俺の精神面も安定するし、未来への活力もみなぎるはずだ。


 もし、恋仲になる場合は、結婚が前提であることは絶対だ。

 結婚が前提でない恋愛関係ならば、その期間により良い人が見つかれば、別れることになる。

 互いに浮気に怯えるような神経質な状態だと、両者とも精神が不安定になり、通常ならなんてことない問題でも絶縁のきっかけにまで発展してしまう可能性がある。

 それだけは、例え寄生族に身体を乗っ取られたとしても、あってはならない。


 しかし、結婚が前提であればどうだろう。

 交際が始まった瞬間から、実質的に夫になり、籍を入れるまで「生きる」、ただそれだけだ。

 「生きる」というのが目的なら、それに集中すれば死ぬこともない。


 これならば、未来を見据えて努力もできるし、別の異性にかまけるなんてこともない。

 そして、そのまま最高の状態で活動をして、成長する。

 その後、ハンターとしての活動が落ち着いてきた頃に「そろそろ、いいんじゃないか?」なんて会話をして、遂には結婚を決意。

 大団円となる。


 そんな、定かでもない遠い未来を馬鹿馬鹿しいほど本格的に見据えていると、師匠――ネイアの事を思い出した。


 彼女は、最初こそ気の合う友人の様に振る舞っていたが、とある出来事をきっかけに求婚を迫るようになった。

 しかし、出会って間もなかったために時期尚早にも程があり、更には、ネイアはまだ成人していなかった。

 俺としては、正直まんざらでもなかったが、否定せざるを得なかった。


 結婚か……。


 今はメルビスの事が気になっているが、もしかしたら将来の嫁はネイアになるかもな。

 なんて、自惚れ過ぎか。


 ネイアは、今頃は故郷で魔導の訓練をしているのだろうか?

 ミクリアさんに頼めば、魔導大学に一緒に通うこともできそうだが、連絡先がわからないな。


「どうしたのよ、そんなニヤニヤして」


 メルビスが引き気味の表情で、俺の気持ち悪い表情の理由を聞いてきた。


「え? あぁ、ちょっと……魔導大学のことでな」


 本当は、魔導大学の事なんて考えていなかったが、咄嗟にそう言ってしまった。


「あぁ、その気持ちはわかるわ。魔導を志す者にとっては夢の場所よね!」


 そういって、メルビスは爽やかな笑顔を見せた。


 そんなメルビスに、思わず見惚れてしまう。


 メルビスは、自分の顔をじっと見つめる俺を不思議に思ったのか「どうしたのよ?」なんて声を掛けてきた。


 不思議そうな表情で疑問を投げかける彼女を見ていると、「いい加減気づいてくれないかな」なんて思ってしまう。

 そんな女々しい自分に、少し落胆した。


 俺は、腕輪を嵌めてからミクリアさんに一つの質問をする。


「ミクリアさんはいつまで滞在されるのですか?」

「明後日のオークションに出品される魔導具を購入したら帰る予定です」


 その返答を聞いてから、俺は一つの提案をすることにした。


「では、帰りの護衛は俺達に任せてみませんか?」

「護衛ですか……」


 俺がそう言うと、ミクリアさんは考えるそぶりを見せた。


 数秒間の思考を終えると、こちらの目を見て回答を述べる。


「あなた方は戦闘経験も豊富ですし、問題ないでしょう。いくらで雇われてくださいますか?」


 ミクリアさんは、護衛料を尋ねた。


「お金は要りません。ミクリアさんとの関係を深められるだけで充分です」

「あらあら、ニャータさんはお上手ですね……では、帰路を共にするとしましょう。来年はご学友として沢山の時間を共に過ごすことになるでしょうから、私にとっても都合がいいです」


 ミクリアさんは、俺の申し出を快く承諾してくれた。


 こういうのは、スタートダッシュが大事だ。

 「社交辞令で済ませない様に、できるだけ距離を縮めたいと思っている」、という意向を示すのが大切なんだ。

 勿論、ミクリアさんにわざわざそれをする必要はなかったかもしれないが、帰路を共にしない理由も見当たらない。


 その後は数分程度談笑し、俺達が宿泊している宿屋を教えてから解散した。


「ニャータ、今日はこの後どうするの?」


 メルビスが俺に問いかけた。


「そうだな……一緒に行動する必要がある用事は特にないな。宿に戻って、着替えたら別行動にしよう。俺は製本屋にでも行ってみようと思ってる」


 メルビスの問いかけを受けると、俺はこのグループのリーダーとして、今後の予定を明確にした。


「じゃあ私は、会う約束をしていた知り合いに顔を出しに行くわ」

「じゃあ僕は……テイラにでも会いに行ってみようかな!」


 二人がそれぞれ今後の予定を口にする。


 「テイラ」か……懐かしい名だ。


 テイラは、俺達と同じ孤児院で育ち、商人を志していた。

 彼は、俺達より一つ年上だったため、一年早くこのカッセルポートにある「マーチャントギルド」に入会した。


 マーチャントギルドは、商人を志した者が入会することで、商人として生きる上でかなり有利になる特典を得られる。

 有益な情報交換の場を得たり、人脈を構築できたり、行商の際の護衛をハンターギルドに直接依頼することもできる。

 毎年ギルドに納める金額が他のギルドよりも高いが、それはお金を稼ぐのに有利な特典を得ているわけだから、当たり前と言えるだろう。


 商人か……俺の本を売る際は、テイラに話をしてみるのも良いかもしれないな。


 今後の予定を伝え合った俺達は、取るに足らない日常会話を繰り広げながら、愉快に宿を目指した。


 ――数分後、宿の到着した。

 中へ入ると、部屋を借りたことを証明する木で作られた札を懐から取り出して店主に見せる。

 それを確認した店主は、何も言うことなく途中だった作業に戻った。

 

 木造で作られた宿の階段をギシギシと音を立てながら、三階まで昇っていく。

 三階に到着すると直線に幅2mほどの廊下が伸びており、突き当りから左に向けて更に廊下が続いている。

 その廊下の両端に扉が規則正しく据え付けられている。


 俺達は、その廊下の中腹くらいまで歩き、その左側にある扉を懐に仕舞って置いた鍵を使って開ける。

 メルビスはその右隣りの扉を同じく鍵を使って開けた。


 部屋に到着すると、俺とデュアンは私服に着替えを始める。


「何だか良い雰囲気の宿だよね、ここ」

 

 タキシードを脱ぎながら、デュアンが感想を言った。


「そうだな。照明も魔導具を使ってるようだし、儲かってるのかもな」


 俺も、ここに来るまでの廊下から得た情報から、推測を述べた。


 基本、質素な建物であれば照明に魔導具を使用することはない。

 たまに拘りを持った店主が貧乏の癖に照明に金を使っていたりもするが、それは例外中の例外だ。


 それだけでなく、この宿の部屋は掃除が行き届いているように見えるし、純粋に規模が大きい。

 カッセルポートは旅行客も多いし、やはり需要があるのだろう。


「じゃあ、僕もう行くね。また後で!」


 そう言うと、着替えを終えたデュアンは足早に部屋を出て行った。


 その数分後、俺が着替えを終えた頃に、隣の部屋の扉が開き、デュアンと比べて控え目の足音が聞こえた。

 恐らく、メルビスの足音だろう。


 俺はというと、製本屋に向かう前に、ミクリアさんから受け取った魔導腕輪の機構を確認することにした。


 タキシードを畳んで袋にしまってから、きっちりとした箱の中に納められた腕輪を取り出し、眺める。


「うーん、わからん」


 腕輪に刻まれた、精緻な刻印を見つめながらそう呟いた。


 そりゃそうだ。

 碌な参考書もなしに独学で習得できるほど甘くはない。


 機構を確認するというのは、本当に自動的に魔力が充填されるかを確かめるということだ。


 現在、腕輪には最大まで魔力が充填されてある。

 このままでは上手く動作しているか確認できない為、まずは使い切ることにした。


 そう決断すると、適当に生成魔導を使って魔力を消費し始めた。


 こんな風に何も考えずに魔力を消費する機会はほとんどない為、悪い事をしているような気分になる。

 いっそのこと、派手な造形でもやってみるか。


 と言っても、特に思い浮かぶことのなかったので、記憶が古くなりつつある、ネイアのシルエットを形作ってみることにした。


「身長は、このくらいだったっけ?」


 独り言をぼやきながら記憶を呼び起こしていく。


 そして、段々と形を確かな物にしていき、ネイアだと分かるようなシルエットを作ることに成功した。


「おお、意外とできるもんだな!」


 これには流石の俺も高揚してしまった。


 その後、俺は調子に乗って、ネイアのあられもない姿を想像しながら製作活動を続けていった。

 ――暫くすると、集中力が良い感じに高まってきたところで、部屋の外で足音が聞こえた。


 俺は、瞬間的にこの状況をみられるのはまずいと思ったので、その足音に耳を傾けた。


「ニャータ、ごめんなさい。私のお金が入った袋、さっき預けたわよね?」


 キィと軋む音を立ててメルビスが扉を開けてそう言った。

 

 ノックくらいしてくれ……!

 心の底から、そう思った。


 とは言え、ギリギリのところで生成魔導を解除することには成功していた。


「あ、ああ……これだよな。はい」


 俺は、心ここにあらずと言った心境でいつも通りを装った。


 咄嗟に集中力を解いたからか、ふわふわしたような感覚を覚えた。

 これは、且つて一度だけ経験したことがある。

 人前で言えるようなことではない。

 あの時は、今以上にゾッとしたのを鮮明に覚えている。


「ありがとう、じゃ」


 メルビスはそう言うと、この部屋をあとにした。


 危なかった……。

 大きなため息を吐く。


 俺のネイアは、いつの間にか人前に見せられないような体勢になっていた為、メルビスに見つかるのはかなりまずかった。


 その数秒後に深呼吸で気持ちを落ち着かせた後は、頭が回らなかったので何も考えずに魔力を消費しきった。


 その後、空になった腕輪に俺の魔力を魔力切れになるギリギリまで充填した。

 すると、腕輪の容量は、俺の魔力総量の四倍くらいだということがわかった。

 これまでの指輪は、俺の魔力総量と指輪の最大容量がほとんど同じだったが、今回の腕輪はそうではないようだ。


「最大容量は、申し分ないな」


 容量を確認した後は、再度指輪の魔力を自身に戻して魔力を空にする。

 その後は、熱魔導で腕輪の熱量を監視して、どのくらいの速度で満タンになるのかを確認する。

 ――待つこと20分程度で腕輪についている宝石の色が変化し、満タンの合図を示した。


 20分……俺が魔力切れから完全復活するには食事なしで2時間は掛かる。

 俺の魔力総量の四倍の容量を持っていることを鑑みると、これは素晴らしい速度と言えるだろう。


 そこで、こんな魔導具を製作した人が通っているという魔導大学のことが頭によぎった。


「魔道大学か……」


 今から、踊ってしょうがない心を上手く押さえつけながら呟いた。


 自分がこんな魔導具を作れるかはわからないが、出来る限り努力をしよう。

 俺の取り柄と言えば、継続力と頑強な精神力くらいだからな。


 あとは、この作品を作った人とも話がしてみたい。

 それ以外にも、沢山の人と魔導について語り合いたい。


 俺は、広がる未来を夢想した後、綺麗な海が反射した眩い光が差す部屋をあとにした。

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