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魔導の照らす大地  作者: うさとひっきーくん
第一章 駆け出し魔獣ハンター
10/37

・間話 賢族

 ハンター生活を始めて早200日。

 今日は、休日だ。適当な店に物色に行ったり、釣りをしたりする予定でいる。

 そうだ、この機会に賢族の説明を紙に書いておこう。

 俺は将来、種族の生態なんかを纏めた本を出版しようと考えている。


 机の中にしまっておいた魔獣の皮で作られた紙束を取り出し、賢族の生態について纏めた。最終的にはこれを元に客観的な視点で書き直す予定だ。


-----原稿の内容-----


 賢族(けんぞく)。俺達の種族の名称だ。

 この大地にはたくさんの種族が暮らしているが、その中でも知能が高いとされている。


 賢族が脅威に立ち向かうには、練磨された魔導技術を用いる必要があるが、魔力を使うのには先達が残した知識を共有することが欠かせない。しかし、幼くして両親が死んだり、金がなくて本が買えなかったり、覚えたやつから死んで行ったり、教育施設が少なかったり……そういう理由が重なって、賢族は全体的な識字率がそこまで高くなく、知識の伝達は上手くいっていない。


 もちろん魔導に精通する人は文字の読み書きができるが、ハンターを生業としている人たち、特に中級以下のハンターは魔導を軽んじる傾向があるせいか死亡率が異様に高い。本来、最も知識を気にしなくてはいけない層がそれを疎かにしてしまっているのだ。

 これは、先程述べた「魔導を軽んじる傾向」が悪さをしていると思われる。


 上級魔獣を相手取るとなると、賢族が保有する魔力量では到底魔獣のポテンシャルに追いつけないために魔導の技術レベルで戦闘力が決まってくるが、その領域に達する場合、魔力量は多かろうが低かろうが、魔力貯蔵用の指輪や腕輪なんかをジャラジャラとを身に付けることになるだろう。そして、その事実の認知度が低い。


 主にハンターを志す子供たちは、"ペセイルの伝記"に憧れたことがきっかけになっている場合が多いが、そのペセイルの魔力総量が多かったのだ。その影響が今の現状の一番の原因と言えるだろう。

 余談だが、俺が憧れたのはペセイルではなく知恵を司ったメティアだった。そして、それが今の俺の思想の根幹となっている。


 もう一つの要因としては、子供たちの教育の場の数が足りていないことだろう。

 俺は両親が死んでから孤児院で育った。しかしそれは、親が死亡した場合に孤児院で預かるという契約を事前にしていたからそうなっただけで、両親がその手続きをしていなかった場合は一人で生きて行くしかない。お金が無い為に契約ができなかったという場合もある。

 俺やデュアンは運がよかったんだ。孤児院は住居を提供してくれるし、簡単な算術やお金の稼ぎ方なんかのある程度の教養を与えてくれる。もちろん、誘拐対策で目の届く範囲の監視もしてくれる。


-----たわいのない日常-----


 俺は原稿を書いた後、買い出しに出かけた。頻繁に顔を出すことで、店の人との交友関係も築き始めている。たまに素材調達の依頼も貰えたりするしな。


 まずは、立派な石造りの建造物を構えた雑貨屋に顔を出す。

 今日は森の地図を買いに来たが、新しく入荷したものがあればその確認も兼ねている。


「おっちゃん、この地図いくらだ?」

「ようニャータ、60テラだぞ」

「二枚買うから90テラで売ってくれ」

「相変わらずだな――あいよ」


 購入した後は軽く商品について話を聞いて、店をあとにする。


 またこいよ! と気さくに挨拶をする小太りの親父。

 名前は何だったかな……まぁいいや、いつか聞こう。 


 今日は近くの森の地図を購入した。家に戻ったらデュアンに危険区域の説明をする予定だ。

 購入した地図を背負っているリュックのわきポケットにシュッと差し込み、商品の物色を再開する。


-----原稿の内容-----


 賢族は、地頭がいい。デュアンも戦闘に関する知識は直ぐに覚えたし、戦闘の際は俺の指示を瞬時に理解する。何度か戦闘を経験すれば、戦況の把握もかなりスムーズにできるようになるだろう。

 それは、デュアンに限らずどの賢族にも適用されるだろう。あの獣族のレイドですら俺達との経験を積んだことでその辺の理解も広く及んできたんだ。


 デュアンに関しては、俺が本で得た知識を子供の頃から仕込んでいたというのもあるだろうけど。


----------


 そういえば、デュアンと過去にルールを設けて「お互いで戦闘する」という内容のゲームを考案して遊んだりもしていたな。我ながらよく考えられたゲームだと思う。

 ――――ルールとか書いた紙を売ったりできないかな? 今度あのおっちゃんに聞いてみようか。

 ふと、過去の事を思い出して商売の案が思い浮かんだ。


 思案を繰り返しながら歩く俺は、店を持たずに道端に出店を構えている新参商人の元へ向かっていた。

 主に食材を売っている店だ。


「よぉターナ、そのりんごいくらだ?」

「これは三つで100テラだな」

「じゃあ二つで50テラだな」

「いや、60テラだ」


 またこいよ! と気さくに挨拶をする小太りの青年男性。


 この世界の商人は小太りになることから始めるのだろうか。にしても、こいつは少し恩を売るのが下手だな。もう少し勉強する必要がありそうだ。

 そんなことを考えながら、りんごを雑にリュックの中に突っ込んで、商品の物色を再開する。


-----本の内容(予定)-----


 賢族の寿命は、120年程度と言われている。

 一年が大体1000日から1300日ほどだから、一年を1150日と考えてそれが120年……138000日程度生きれることになるのか。

 と言っても、そこまで生きてる奴なんて殆どいない。魔獣の襲撃で死亡やらハンター活動で殉職やら……生きるのは大変だ。

 しかし、他の種族はもっと長く生きる。獣族は、その中の部族にもよるが大体400年と言われている。そんなに生きてどうするつもりなんだろうか。


 とはいっても、寿命は生息する環境に大きく左右される可能性があるって学術書にかいてあった気がすな。なんでも魔力が豊富な場所ほど長生きするし、そこで生まれる子供も強靭になると。

 長年その環境に身を投じなければあまり効果はなさそうだが、俺が今、獣族達が住む"神樹の森(しんじゅのもり)"で100年近く暮らしたなら、少しは寿命が延びるかもしれない。


-----たわいのない日常-----


 よさげな魔導書を売っている出店がないか確認しながら"商売通り"と呼称されている大通りをあるいていると、獣族の知り合いを発見したため、話しかける。


「ようレイド、調子はどうだ?」

「よぉニャータ、上々だぜ? 面白い依頼を受けて、がっぽりよ」

「それはよかったな、俺にも分けて欲しいくらいだ」


 こいつはいつもお金に執着しているな。にしてはそこまで良い装備ではないが……。

 もう少し仲良くなったらいつか聞いてみよう。


 すると、レイドが訝し気な表情で話し始める。


「……なぁ、この間お前と"レッサートラーペント"の討伐に行ってから、金袋から1アテラ硬貨が消えてたんだが――――」


 俺は全力で走った。身体中を巡る魔力をふんだんに使い、地を蹴った。

 そしてその数秒後――――俺は確保された。


「借金ってことにしといてやるよ」

「借金ってことにされといてやるよ……」


 こいつは獣族(けものぞく)類のウォルテム族という種族だ。

 たまに一緒に討伐に行ったり、儲け話に乗っかったりする。結構気の合う奴。


 賢族の硬貨は1テラ、10テラ、100テラ、1アテラ、1メテラと、5種類の硬貨が存在する。

 1アテラは1000テラ、1メテラは10000テラだ。


 ウォルテム族は狼のような頭部を持ち、身体も体毛に覆われている。そのまんま狼が二足歩行になったかのような種族だ。

 獣族類は大体こんな感じに、獣が人型になったような見た目の種族が多い。

 ウォルテム族の特徴だが、この種族は魔力総量が少なく、知能も賢族よりは劣る。その代わり、身体能力が賢族よりかなり高い。耳や目もいいし、野生の感というやつでヤバい敵が迫ってる時とかは毛が逆立ったりする。


 余談だが、俺が1アテラ硬貨をくすねたのは、"薬草図鑑"を買うためのお金が足りなかったからだ。1アテラくらい貰っても差し支えないくらい、俺はこいつとの金策で活躍しているのだが、アプローチが良くなかったのだろう。盗むのは良くないな。


 その後、呆れたレイドと軽く談笑してその場をあとにした。

 暫く歩くと、街の掲示板に貼られた一枚の紙が目に入る。


「なんだ? サルティンローズの魔物が活性化? 近々大きな襲撃が予想される……」


 サルティンローズというのは都市の名前だ。この過酷な環境に建造された数少ない都市のひとつ。その特徴は何といっても女性至上主義の国という事だ。

 女性至上主義というのは、女性の方が優れている!! 見たいなやつだ。でも最近はその思想も崩れかけているらしい。というのも、その街のトップの考えが最近変わってきたそうだ。しかし、現時点でも女性しか正式な住居を持つことはできない。


 ――――いよいよ商売通りを歩き終えたので、することがなくなった。


「そろそろ釣りにでも行くか……」


 よさげな本も売ってなかったので、釣りに行くことにする。この街には一本の大きな川が通っていて、日中は大体30人くらい釣りをしている。

 でも、食べる目的の人は少ないな。売る人が殆どだ。俺は大体食べるけど。


-----原稿の内容-----


 賢族は何もしなければ2日に一度くらいにりんごを食べれば問題なく活動できる。

 これは、賢族が燃費がいい生き物であるからとされている。身体を動かす際には微量の強化魔導で無意識的に強化していから、魔力さえ供給できれば食事をとらなくても長期間活動できる。睡眠時間も大体4時間で事足りる。

 筋肉がより発達している獣族やその類の魔獣ではそうはいかないのだが、逆に賢族よりも燃費がいい種族もいる。どの種族にも善し悪しがあるものだ。


-----たわいのない日常-----


 現時刻、29時38分。

 氷結属性の放出魔導で凍らせて適当に置いていた魚を、数日前にその辺の蔦を編んで作った自作の魚入れに詰めていく。魔導を使えばもっと効率よく魚を捕まえられるだろうか……?


 そんなことを思い浮かべつつ、5匹ほどの凍った魚が入った魚入れを持ち上げ、家路につくことにした。


「ただいまー」

「おかえりー!」


 いつもより少し早い帰宅だったため、デュアンよりも早いかと思っていたが、予想に反して元気な返事が返ってきた。


「帰ってたのか」

「適当に森で数匹魔獣を狩った後、周辺に実ってた木の実を採ってきたよ!」


 そう言ってドサっと木の実が詰め込まれた蔦で編んだ入れ物をこちらに差し出す。


「あんまり採り過ぎるなよ? 魔獣が食べる分がなくなるからな」


 俺は忠告してから魚入れを机に起き、寒期の為に魔導貯蔵用の大きな直方体の魔導具に残った魔力を注ぐ。

 今日は特に何もなかったな。オフの日はそういうのを楽しむ日だが、やっぱりデュアンとあれやこれやをやってる時は楽しいと感じる。毎日それでは疲れるけど、そんなハンター生活は俺に会ってるのかもな。


 ふと、思いついたことを、悪戯な笑みを浮かべながらデュアンに伝える。


「魚の腹の中に木の実つめて焼いてみようぜ」

「えーそういうの十中八九まずいじゃーん」


-----原稿の内容-----


 賢族の肌の色は基本、黄褐色か白色で、目の色は緑か黄色。髪色は金か赤か茶色。それ以外の場合は別の種族とのハーフだろう。

 ウォルテム族と賢族のハーフだと、肌の色や瞳以外にも両種族の特徴が現れるが、同じような身体的特徴をもつ種族どうしのハーフだと、肌の色や髪の色が変わるくらいでその他の変化はあまりない。内面的にはかなり違う性質を持つことになる場合もあるが。


 例えば、魔族(まぞく)は見た目は賢族とほとんど同じだが、髪色が黒くて瞳が赤く、肌色は紫色。

 魔族と賢族の子供は、髪の色が黒か金か赤か茶色、目の色は赤か緑か黄色、肌の色は黄褐色か白色か紫色となる。しかし、何故か肌の色が紫色になるケースは稀だ。

 この大地には多種多様な種族がいるため、ぱっと見でどの種族どうしのハーフかを当てるのは結構難しい。


-----たわいのない日常-----


 捌いた魚の腹に木の実を詰めて、焼いたもの食す。


「あれ、意外とうまいな」

「そうだね、この木の実焼くとしょっぱくなるって聞いてたけど……」

「そんな木の実があるのか。今度木の実の本を買いにでも行こうかな」

「買うのもいいけど、お金を稼ぐのもがんばろうよ……」


 俺の本に対する散財の仕方にやや不満を抱いているデュアンが意見を述べる。


「そうだな、今度レイドと金策にでも行くか」

「……うん!」


 こうして、俺達の久しぶりの休日は幕を閉じた。

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