第7話 君はもしかして
スマホを取り返してから、結局のところは清水さんの連絡先は聞けていない。代わりにと言うと変なのだけど、カズキと連絡先を交換した。
「番号聞かなくてよかったの?」
「あのタイミングで聞くのはおかしいだろ」
「だけど宮田とは交換してたじゃん?」
「あれはカズキが聞いてきたからで、別に俺から交換しに行ったわけじゃないからな」
とはいえ、あの場所には清水さんもいた。というか今までタイミングのいい人だとは思っていたのだけど、いつも居る様な気がしていた。
学校の帰り道、空はまだ明るいものの日が沈み始めているのがわかる。それはそうとこの魔人はどこまで付いて来る気なのだろうかと思っていた。
「あのさ、もしかしてウチまで来る気?」
「当たり前でしょ?」
「マジかよ。だけど、親父は出張でいないんだけど?」
「丁度いいじゃん?」
「はぁ?」
「何? いやらしい事でも考えてるわけ?」
「考えてねーし!」
とは言ったものの、女の子が家に来るというのを意識しないはずはない。魔人とはいえ見た目だけなら日本どころかワールドクラスの美人だ。
「ところで魔人って何を食うんだ?」
「うーん、人間の精気?」
「音だけ聞いたらセクハラだからな?」
「と言うのは99%嘘で、味噌煮込みうどんとかたべるよ?」
「魔人って名古屋で作られているのかよ。それより残りの1%ファンタジー残してんじゃねぇよ」
とはいえ、彼女の反応をみるに結構ガチだというのが分かる。そうで無ければ願いを叶えるなんて慈善事業をやっている訳がない。
「それより後の事、気づいてる?」
「何の話だよ」
「誰か付いてきてるのだけど」
そう言われ、前を向いたまま意識する。確かに誰かが付いてきている様だ。もしかしてあの先輩達が仕返しにでも来たのだろうか?
とはいえ、もし今襲われたとしたらもう脅す為の銃はない。また願いを使わなくてはいけなくなってしまう。
「一旦誰か確認しよう」
「確認って、どうする訳?」
「ちょっと付いてきてくれ」
そう言って俺は彼女の手を引いて早足になる。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「いいから、そのままあの角を曲がるぞ」
路地の角を曲がると、ちょうどいい場所にあるマンションの駐車場に入り身を隠した。
「急に引っ張らないでよ!」
「しーっ。大きい声だすなよ」
「だって……確認してどうするつもり?」
「先輩達だったら、家がバレる訳にはいかないだろ。それに、必要なら対抗しないといけない」
「また銃をだすの?」
「いや、流石にあれはリスクが高すぎる」
息を殺して待っていると足音がする。やはり付いてきているのだ。
「あのさぁ……」
「なんだよ?」
「アンタってパーソナルスペースはないわけ?」
ふと気づくとマモが俺の胸元近くで上目遣いをしている。
「近すぎるんですけど?」
「あ、いや……」
魔人とはいえスーパー美少女。目の前数センチと言うのはインパクトがあった。すると、聞き覚えのある声がして俺の血の気が引いた。
「そ、そう言うのは良くないと思います」
可愛いらしい声。動揺しているのか少し震えている様に聞こえる。それより何で彼女が?
「し、清水さん❤︎」
「まだ、私達高校生だし。あ、でも高校生ならそれくらいは有るのかもしれないですけど……」
「いや、違うんだ!」
まるで浮気がバレた様なシチュエーション。生憎俺とマモの認識は合っている事もあり、本来ならすぐに誤解は解けるはずだった。
「清水さん、誤解しないで! 私たちはただの主人と従者の使役されるだけの関係なの!」
「何だその説明! さらに誤解させてどうすんだよっ!」
清水さんは鳩に豆鉄砲が飛んで驚いた後に食べた様な顔になる。
「主人、従者、使役……」
「ほら、引いちゃったじゃねーか!」
「なんですかそれ❤︎」
「ちょっと、清水さんも何で興味深々なんだよ!」
マモは腕を組みドヤ顔になり清水さんを見下した様に目を細めた。
「さてはあなた、生粋の変態ね!?」
「なんて事言うんだよっ!」
とりあえず、落ち着こう。マモは既に落ち着いている様な気はするが、俺が動揺している。清水さんは顔が紅潮し今にも絶頂を迎えそうだ。
「はぁ……ところで、なんで付いてきてたんすか?」
ため息では無い。心を落ち着かせるための深呼吸だ。結果的には窮地に立たされているのだが、それでも彼女が目の前に居るのは嬉しい。
「それは……」
赤くなっていた顔がみるみるうちに青ざめて行くのが分かる。やはり彼女は俺たちにバレない様に付いてきていたのだ。
「タカシくん。夢を見るのはやめなさいな?」
「どう言う意味だよ」
「彼女は生粋の変態よ?」
「だから、お前それめちゃくちゃ失礼だからな」
マモがそう言うと再び顔がリンゴの様になる。どっちだ? 恥ずかしさなのか喜びなのかどっちなんだ?
「私は……」
「はい、俺たち黙っておきますんで」
そう言ってマモの口を塞ぐ。少し暴れやがったから若干羽交締めにする。
「私は……長嶺くんが好きなんです」
「え、マジで?」
「あと、カズキくんも……」
「……それってどう言う?」
「こっそりと客観的に見ているだけでいいんです!」
するとマモが俺の腕を抜け出し、仁王立ちになり高らかに笑う。
「ふっふっふ! コレで確定ね!」
「いやまだわからないだろ」
「往生際がわるいのだよタカシくん。彼女は生粋の変態……いや、腐女子よ!」
清水さんの発言からも、マモが9割方正しいと感じてしまう。しかし、
「いや、腐女子ってもっと地味な子なんじゃ」
「その考えは改めたまえ!」
「そうですよ、長嶺くん!」
「なんで清水さんまで、俺が悪いの? 両思いとまではいかないけど、1.5思い位にはなってると思うよ?」
清水さんは今までに無いくらいに自信が溢れ出し、サムズアップしてキラリと笑みを放った。
「長嶺くん、そういうシチュエーションもアリです!」
「ナシだよっ!」
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