第6話 本物か偽物か
「今更何言ってんだ?」
「返してくれって言われたんすよ」
緊迫した空気の中、カズキが誰かと話しているのが聞こえる。相手は先輩だろうか?
「返してくれで、はいはいそうですかとかえせるわけねぇだろ」
「元々取るつもりまではなかったんすよ。ちょっとからかってやろうとしたらヤケに噛みついてくるからああなっただけで……」
その言葉に、俺は耳を疑った。それと同時にマモの顔をみる。
「悪化させたのアンタじゃん?」
「そうみたいだな……」
「それで、どうするの? 基本的には取った方が悪いから宮田に任しておくのも一つの手だよ?」
彼女が言う様に、からかうだけのつもりでもそれ自体が悪い。自業自得と言えばそうなのだけど……
「お願いします、土下座でもなんでもしますから」
「まぁ……そこまで言うなら」
「いいんすか?」
奴は充分に責任を果たした。とりあえずこれで、返して貰えたのなら俺は何も見なかった事にしてカズキからスマホを受け取ればいいと思った。
「代わりにお前の幼馴染連れてこいや?」
「それは……」
「だってスマホ渡すから手を出すなって話だっただろ?」
「そうなんすけど……」
幼馴染? カズキは交換条件でスマホを渡したのか? 本当は別に取るつもりは無く、その子に手を出されない為のネタだったのでは無いだろうか。だとしたら、朝返そうとした時も相当な葛藤があったに違いない。
本来なら、俺が多少頑張った所でどうにかなる相手では無いだろう。なんなら俺は従うしか無くなっているカズキにすらボコボコにやられている。
「マモ、願えば俺を強くする事は出来るのか?」
「もちろん! オーバーキルだって余裕でできちゃうよ?」
「いやいや、殺す必要までは無いけど。手を出せないくらいまで脅せればいいんだ」
「それならもっと簡単だよ?」
それを聞いて安心する。だがすぐには使わない、状況が悪化した時の最終手段として出せればいい。
「話は聞かせてもらったぜ。幼馴染をダシにするなんざ、とんだ悪党じゃねぇか」
決め台詞をいい、飛び出してはみたもののカズキと先輩方はポカーンとしていた。
「誰だよコイツ」
「長嶺、何しにきてんだよ」
「ああ、コイツが例の転校生か」
だからどうしたと言わんばかりに、先輩三人は俺を睨む。正直カズキの方が強面な事もあり、それほど怖いとは感じない。
「本人自ら取り返しにきたのか?」
「でもお前、カズキにワンパンでやられたらしいじゃねーか?」
こんなくらいで怯むわけにはいかない。俺には魔人の能力という最終兵器がある。
「だからと言って、お前らにやられるとは限らないぜ?」
「長嶺、やめろ! そんなハッタリが通じる人じゃねぇ!」
小柄な先輩がゆっくりと歩いて来る。相当な自信でもあるのだろうか。少し早い気はするが、ノックアウトされるわけにもいかないからな。
「マモ、【俺に脅せる力をくれ】」
「オッケー!」
「長嶺!」
そう言うとマモはスカートをめくりあげる。彼女のパンツが剥き出しになりただの痴女でしか無い。
「うはっ❤︎」
「マモ、何やってんだよっ!」
すると彼女はパンツの中に手を入れまさぐり始める。思えば友達づくりの方法からしてコイツをアテにしたのが間違いだった……。
「はいっ! コレを使いなさいな!」
そう言ってパンツから普段見ることがない黒光りしたものを取り出した。
「は? 拳銃!? なにしなっと物騒なモノだしてんだよっ!」
「コレでガッツリ脅せるよん❤︎」
「よん❤︎じゃねぇから! チート通り越して違法じゃねーか! それよりどこから出してんだよ!」
「某ネコ型ロボットもこうやって出すでしょ?」
「あれはポケットだし、パンツじゃねーからな!」
「うるさいわね。さっさとソレでどうにかしなさいよ!」
ふざけたやり取りの中、先輩達は半信半疑で苦笑いを浮かべた。
「はは……流石に本物じゃねぇよな?」
なるほど、確かに俺はオーバーキルしない事は前提として伝えている。となると本物じゃないガスガンと言うパターンもあるのか。一応確認の為きいてみるか……。
「コレに殺傷能力はあるのか?」
「そんなに無いと思うよ?」
やはりな。だが、なるべく本物だと思わせる必要がある。仮にバレたとしても、ガスガンならそれなりのダメージは与えられる筈だ。
「お前がハッタリだって言うのはわかってんだよ」
「本当にそうか?」
「一般人がそんな物手に入れられるわけないからなぁ……」
強がってはいるものの、やはりまだ動揺は隠せてはいない。だが、これ以上ハッタリは引っ張る事が難しいと焦っていると思わぬ伏兵が援護にきた。
「長嶺落ち着け、そこまでしなくていい。本当に捕まってしまうぞ!」
カズキの一言で空気が変わる。第三者がハッタリに加わると言うのはかなりでかい。
「ま、マジもんかよ。わかった、スマホくらい返してやるよ!」
「それだけか?」
「あーもう、宮田の幼馴染にも関わらない」
「よし、行け!」
先輩三人は、スマホを置くと血相を変えて逃げ出す。意外と呆気なく終わった事に俺は安堵した。
「良かったな、カズキ」
「いや、良かったなじゃねぇから。お前なんて物を持ちだしてんだよ」
「こういうのが無いと流石にむりだろ」
「まぁ、一応礼はいっとく。ありがとな」
「いいって事よ。それにコレ、ガスガンなんだよ」
そう言って俺は地面向かって引き金を引いた。
パンッ!
「は? 嘘だろ?」
「いや、金属製だしどう見ても本物じゃねぇか!」
「ちょっとマモ、殺傷能力は無いんじゃないのかよ?」
「経口が小さいから当たってもほとんど致命傷にはならないよ?」
「そう言う問題じゃねーんだよ!」
この日俺は、魔人の常識の無さを知った。銃を返すと彼女はまたスカートをめくりパンツの中になおす。魔法なのか魔法じゃないとしたら、一体どうなっているのかは気になる所だが、とりあえず別の意味でも中が気になっていた。
「そう言えば、清水さんどこに行ったの?」
「あっ……ここに居ます」
声のした方を振り向くと、小さく手を上げているのが分かった。それにしてもこの状況で様子をずっと見ていたのだろうか……。
お読みいただきありがとうございます!
ドラ◯もんがポケットに手を入れる位置って丁度……
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