第4話 シロかクロか
「あんたもしかして願い事で清水さんを抱こうとしてるわけ?」
「いや、別に抱こうとはしてないけど」
「でも付き合わせて欲しいんでしょ?」
「ま、まあ、聞いてみただけだよ。そう言う事も出来るのかなって」
「動けない様にするとか、洗脳するとか色々と方法はあるのだけど、あの子凄くいい子なんだし罪悪感とか沸かないわけ?」
彼女の言葉がグサグサと胸に刺さる。確かに物理的にだったり魔人の力で魅了みたいな事は出来るのかも知れない。だけど本当に欲しいのはそのどちらでも無いというのは分かっていた。
「魔人としてはどうすればいいと思うんだよ?」
「一応学校ではマモで通っているから、周りに人がいないとは言え、ちゃんと名前で呼んでくれた方がいいと思うのだけど?」
「確かにそうだな。そっか今はお前、名前あるんだったな」
「それはそうと、付き合いたいならアプローチする形で力を使うのがいいんじゃない?」
「なるほどな……お願いは間接的にか」
「まぁ、真剣にそんな事考えるアンタはキモいんだけどね?」
マモの言う通り、彼女の気持ちを考えるとか誠意みたいなものは欠けているのだと反省した。とはいえ、魔人のマモはともかく学校で話せる一般人の友達が欲しい。
「まあいいわ。決まったのなら、とりあえずちゃちゃっと願い事を終わらせるから、言っちゃいなさいよ!」
「じゃあ、【仲良くなれる人と同じグループにして欲しい】」
「は? いやに謙虚なお願いね、そんなのでいいわけ?」
「お前が魔法でどうにかするのは違うって言ったんじゃねぇか」
「それもそうね。オッケー、遠回りな気もするけど叶えてあげるから楽しみにしてなさい」
案外すんなりと受け入れられた。同じグループなんて個人間の概念じみた内容でも何かしらは叶える事が可能というわけだ。俺は彼女が一体何をする気なのか気になっていた。
するとチャイムがなる直前、廊下で彼女が先生と話しているのが見える。むしろ話していると言うより、なにやら懇願している様にすら思える。
「だからお願い❤︎ 転校してきたばかりなんです!」
「でもなぁ住穂……班を先生がこのリストで発表するわけにもいかないだろ」
「そこをなんとか! このとおり!」
いやいや、直接交渉かよ!?
魔法は一体どこに行ったんだよ、それにグループって課題のグループかよ!
すると、チャイムが鳴りぐったりとした先生とドヤ顔のマモが教室に入ってきた。すると先生は課題のグループを実力に合わせると言う理由をつけて発表し始めた。
「みてみなさい叶えてやったわ! 大分魔力は使っちゃったけどね!」
「いや、魔力じゃ無くて体力か精神力だろ。お前今さっきめちゃくちゃ頼み込んでいたじゃねぇか!」
「うるさいわね。願いが叶っているんだから別にいいでしょ?」
「それはそうだけど……」
あまりにも嬉しそうなマモに、課題のグループじゃないとは言い出せなかった。しかし、グループにマモと清水さんが居るのは予定通りとして、もう一人が予想外の人物だった。
「ちょっとまて、なんでカズキと一緒なんだよ」
「そんなの、アンタが話した事ある男の子は彼しかいないじゃない!」
それもそうか、と納得する訳がない。仮にもトラブルの元凶だった奴になるのは困る。
「願いは失敗だな?」
「は? そんな訳無いじゃ無い。私と清水さんが居る時点で成功に決まっているでしょ?」
「アイツでプラマイゼロだろっ!」
マモと言い合っているうちに、グループ別に集まる事になっていた。自動的に俺たちの元に集まって来る事になる。
「長嶺くん、よろしくね」
「清水さん❤︎」
「なにハートマークなんてつけてんのよ、そんなんだから気持ち悪いって言われるのよ」
「お前以外にはまだ言われてねーからな!」
「二人は本当に仲良いんだね!」
「「仲良くないから!」」
その様子に清水さんが微笑んでいる。カズキの方は少しバツが悪そうに向かいの席に座ってボソリと呟いていた。
「なんで長嶺のグループなんだよ……」
わかる。わかるぞ、俺もお前が入れられているのは意味が分からないと思っている。しかしカズキは清水さんはともかく、マモにも興味が無いのだろうか?
「宮田くんも同じ班だね」
「ああ、清水か」
二人のやりとりはやけにそっけない物だった。ただ、交わしたのはその一言だけだが入学してそれほど経っていないにしては随分と昔から知り合いだったかの様にも感じた。
「宮田っていうんだ?」
「なんだよ、わりぃかよ」
「別に、語呂がいいと思っただけよ?」
「それはウチの親に言えよ。お前の方が変な名前だからな?」
「富と権力を司る悪魔と同じ名前だよ?」
「それのどこが変じゃないんだよ!」
カズキは悪態こそついてはいるものの、マモとも相性は悪くは無さそうだ。ただ、このメンバーで困った事があるとするならば……
「課題、進めないといけないよな」
「うん。長嶺くん、進めてくれる?」
「そうなるよなぁ……」
引っ込み思案な清水さんにまとめ役をさせる訳にもいかず、あとの二人は問題外だ。どこまでが願いの範囲なのかは知らないが、つまりはその……俺がやるしか無い状況という訳だ。
「とりあえず、資料をだな」
「悪りぃ、俺こういうのパスだわ」
カズキはそう言って席を立つ。最初から期待はしていなかったが、いない方がいい場合もある。
「それじゃ私も……イタタタ」
「ちょっと待て、お前はどこに行く?」
「なによ、耳引っ張らないでよ!」
「さりげなく抜け出そうとするからだろ?」
「だって宮田も……」
「お前はやる事があるだろ?」
そう言うと「何かありましたっけ」と言わんばかりに不思議そうな顔をする。アイコンタクトで一瞬だけ清水さんの方に視線を送ると納得した様にニンマリと笑った。
「そうそう、清水さんって好きな人いるの?」
「なんでそうなるんだよっ!」
ツッコミを入れつつ清水さんの顔もしっかりと確認する。彼女は動揺したのか目を泳がせながら耳を赤くし始めた。
「い、いないよ」
「本当にぃ?」
「そんな、急にそんな話されても困ります……」
「っと申しておりますが、タカシくん的にどうですか?」
「……クロだな」
「ええーっ!! 本当に付き合いたい人はいないんです……」
最後に「多分」と入りそうな間は、好きな人がいる事を確信に変え少し落ち込む。その表情が面白かったのかマモはニヤニヤと緩い顔をしていた。
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