第24話 絶望感
対決の日を三日後に決めた魔人は、清水さんを連れて行ってしまった。『お願い戦争』という謎のルールはそれからの俺たちを悩ませる事となった。
「勝利条件はなんなんだよ……」
「アタンが考えている事なんて私にわかるわけないでしょ?」
正直、勝てばどうなるのか負ければどうなるかもわからない。ただ一つ言えるのはアタンはマモより桁外れに強いという事だけだ。
「サキが攫われた訳だし、俺たちも何か出来る事があれば協力するからな?」
「僕の力では何も出来ないかもしれませんが……」
正直、ロミの力ですら巻き込みたくは無い状況だ。しかし、協力してもらわない事にはどうしようもない状況なのかもしれない。
「その時は頼むよ。一度落ち着いて考えたい」
俺はそう言って一度家に帰る事にした。
何はともあれ、戦う事にしてもマモに聞いておきたい事があった。
「そう言えばなんだけど。お前あの魔人の事、元神だって言ってたよな?」
「アタンはそうね」
「あれはどういう意味なんだ?」
「どうってそのままの意味だけど?」
「神って……まぁ、魔人が居るくらいだからいてもおかしくはないのか」
そういうとマモは少し強張った表情になる。
「アンタにら言っておいた方が良さそうね。先代とも話している訳だし薄々は勘づいているとおもうけど……」
そう言うとベッドに座り、彼女は少し遠い目をして語り出した。
「私たち魔人は、簡単に言えば呪いみたいなものなの……」
「呪い?」
「そう。魔人のそれぞれに役割があるのは気づいてる?」
「監督官とか富と名声とかそういう奴か?」
「そう。特に神器の魔人は欲望を司っているから、普通の魔人より強いの」
「なるほどな……」
「ちなみに私は大罪で言うところの【強欲】なのだけど、アタンは【嫉妬】なんだよねぇ」
欲望を司る所から願いを叶えると言う事につながっているのか。
「だけど、響き的には【強欲】の方が強そうなんだがな?」
「そうね。でも【強欲】は人が作った欲望なの。富や名声なんて物は上を知らなければ得る事の無い欲望じゃない?」
「まぁ、そうなんだけど」
「だけど【嫉妬】は違う。愛情の裏返しで生まれる欲望には罪悪感がないのよ」
「神から魔人ってそう言う事なのか?」
「それもあるけど世代の問題ね。【強欲】でも先代と私じゃ比べ物にならないし、アタンは少し特殊な状況だったから……」
魔人の世代交代がどの様に行われるのかはわからない。それでもアタンという魔人が普通では無い事位は分かった。
愛情の裏返しか……いずれにしても、俺には必殺技がある。
「マモ、願いを使う」
「まぁ、それしか無いけどね。それで、願いは何にするつもり?」
「【清水さんを奪還してくれ】」
「は? 無茶言わないでよ。却下!」
「いや、却下ってそんなのアリかよ」
いいアイデアだと思ったのだが、やはり願いを使っても出来ない事はある様だ。簡単に行かない事くらいは分かっていたのだが、すんなりと却下される事になるとは思わなかった。
「そうね、アタンの力に直接干渉してしまう様な事は出来ないと思って貰った方がいいかも?」
「間接的なら願いも使えるって事か?」
「まぁ、彼女が気づかない様にする事ができるなら不可能ではないわね……」
「ちょっと待て、こちら側には願いを使うリスクがあるのに清水さんには無いのかよ?」
「別に無い訳じゃない。ただ、彼女はまだ願いを使っていないだけよ。アタンが勝手にしている範囲の力でも私達の願いを使った位の力がある……というのが正しいわね」
思い返せばロミを抑える時に俺は願いを使っていない。別の意味では使っているのだが、取り押さえるという事に関してはマモのナチュラルな力だけでやり遂げていた。
それと同じ様に、マモとアタンの力の差は大きい。願いを使ってやっとナチュラルなアタンの虚をつく事が出来る程度という訳か。
「気付かれない様にって難易度が高すぎるだろ……」
「だけどそれしか無いわ。清水さんがどうなってもいいの?」
「分かってるよ」
「それならいいのだけど……」
分かっているとは言ったものの、圧倒的な力の差と経験値が違う相手に上手くやれる補償は無い。だが俺は今持てるカードを全て使ってでも最善を尽くすしか無いのだ。
今まではこちら側が強者の立場だった。それ故に無茶な策でもどうにかする事が出来ていた。もし、逆だったなら……俺はどうされれば負けていたのだろうか?
正直なところ、いくつかの方法は思いついてはいる。しかしどれもアタンに気付かれてしまえばいとも簡単に覆されてしまうものばかりだ。そんな中でどれかを選ぶなんて事は俺には出来ない。
俺はそのまま途方に暮れるしかないのだろうか。
結局、夜まで考えてみたものの決断できるほどの策には辿り着く事は出来なかった。ただただ思考を巡らせては簡単な打開策に道を塞がれてしまう。
「あーもう、どうすればいいんだよっ!」
机の上で唸るだけの俺は、不安で眠る事さえ出来なくなっていた。
「相手はアタンだからねぇ……」
「どうにかする方法は無いのかよ」
「私だって何かあるならすぐに言っているわよ」
「まぁ……そうだよなぁ」
「先代なら何か思いついているのだろうけど」
「先代? 真門さんの事か?」
「そうね……実際力だけで言えば、先代は私と大差はないもの」
「大差はないって、お前は絶対に勝てないみたいな事言ってたじゃねぇか?」
「そうよ? 勝てるわけないじゃない。だけど、欲望の力の源は同じだから同じ戦略ならそこまで差は無いはずなのだけど……」
という事は、彼は力の使い方が上手かったというだけなのだろうか? 現にマモの力自体は殆どの事が出来る様に思う。だとしたらアタンとの差は出来る事ではなく単純に出力の差という事が考えられる……。
「だけど先代は、神器の魔人の中で結構強い方だったんだろ?」
「そうよ、実際には魔王も一目を置き対等に話せる位の力はあったはずよ」
だとしたら、単純にマモに欠けているものがあるはずだ。それが解決するならもしかしたらアタンと張り合える位にはなるのかもしれない。
「マモ、また先代に会わせる事はできるか?」
「まぁ、【願い】を使ってくれるなら会わせる位なら出来ると思うけど……」
「なら頼む!」
「本当にいいの?」
「ああ、多分それしか方法は無いと思う」
俺はもう一度彼に会う為に、一つの【願い】を使う事にした。
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