第22話 箱戦争勃発
「いや、待て。サキは何か誤解してる!」
とはいえ客観的に見れば、ロミオが急に襲いかかった様にも見える。それはつまり、清水さんの大好物になってしまっている。
「誤解?」
「そうだ、誤解だ!」
「なんだ、てっきり私はもうバラしたのかとおもっちゃった……」
いやいや。それはそれでマズい……ロミオの顔から血の気が引いていくのと、カズキに疑問符がうかびあがるのとが同時に起きる。正直、猫の姿でないのなら必死に俺は弁解に走っただろう。
「バラしたって何のことだ?」
「あっ……」
「あ、いや……僕がカズキ、宮田くんの事を好きだって彼女は勘違いしているんだよ」
「勘違い? それならバラしたじゃなく言ったっていわないか?」
「そ、それはそうなんだけど」
「それにしても動揺しすぎだろ」
ロミオの言い訳には無理がある。いや、この場を納める事は出来るのかもしれないが、顔がそっくりなロミの事に気付かれるのは時間の問題だ。
「にゃおにゃーん!」
とりあえず少しでも気が引ければと鳴いてみるものの気まずい雰囲気は収まりそうもない。
「なぁ……お前ら何か隠しているだろ?」
少しずつまるで詰将棋の様に二人を追い詰めていくのがわかる。カズキ自身、もしかしたら気づき始めているのかも……。
そう思った瞬間、俺は予想外の言葉を聞いた。
「サキの持っている箱だせよ?」
「えっ……」
いやいや、目的はそうだったとしてもこのタイミングではないだろ。いや、動揺している今がチャンスなのか? まさかカズキはずっと様子を伺っていたのだろうか?
「箱ってこのオルゴールの事?」
「そうだよ。それがロミの神器なんだろ?」
「何言ってるの? これはおばあちゃんからの形見で、そういうのじゃないよ」
斜め上の考察と、カズキがあっさりと神器だという事をバラした事にもう、どうにでもなれと言った気になる。
「な、何でそうなるんですか!」
「ロミオも魔人だ。だから知っていて協力しようとしていた、ちがうか?」
「違いますっ!」
「なら何故、俺と協力して取り返そうとしているんだ?」
酷い勘違いだ。俺たちが取り上げようとしている理由をロミの為だと思ったのだろう。
「何言ってるの? ロミオがロミだよ?」
「は?」
「だから、ロミオがロミなの……」
何でもアリだな。カミングアウト祭りかよ。
「そんな訳……ロミオ、ちがうよな?」
「……」
「違うっていえよ!」
「……ごめんなさい。ロミは僕の本来の姿です」
そう言って彼は目の前でロミの姿に変わる。
「嘘だろ……」
「僕だって、本当はカズキさんと契約したかったんだ。それを断ったのは貴方じゃないですか!」
「断ったって……俺は……」
だが、これがいけなかった。正直俺でもわかる、清水さんは別に騙すつもりだった訳じゃない。なんなら、二人の事に協力するつもりでいてくれていた。
だけどそれは、ロミオとの信頼関係があってこその話で、契約したくなかったとなると話は違う。
「そんな風に思ってたんだ……」
「ちょっと待てサキ!」
「もういい。みんな私の事なんて……長嶺くんも」
えっ? 何で俺?
マモの事だとしたらそれは違う。俺は清水さんの事が……。
「何の話だよ!」
「もういいって言ってるでしょ!」
「だから何で怒ってんだよっ!」
すると清水さんは付けていたネックレスを外し、カズキの方に投げつけた。
「何すんだよ!」
「もういらない。両思いなんだしカズキくんが持っていればいいでしょ」
「そんな。僕には契約があります」
「そんなの破棄するから、彼と契約すれば?」
「本当にそれでいいんですね?」
「いいに決まっているじゃない。【契約破棄】するわ……」
清水さんがそう言うと、ネックレスと彼女の手が光り刻印されていたマークが消えた。それと同時にカズキに刻印の光が現れた。
契約破棄とかできるのかよ。俺はカズキに移った事よりこんな簡単に破棄出来てしまう事に驚いた。
「何だよこれ……」
「契約が移行されたのです。これで僕と契約関係になりました」
「いや、なりましたってサキとの契約は?」
「彼女は自ら破棄されたので……」
「そんなんでいいのかよ」
「本人の希望が強くないと、破棄はできません」
清水さんは何も言わずヘタリと座り込んでいた。希望が強くないととの事だったが、ロミオの事を気に入っていたはずなのに、彼女はどうして破棄出来たのだろう。本当に破棄したかったのだろうか。
とはいえ、ロミがカズキの契約魔人となった事で本来の懸念点は解消された。魔人の力が無くなった今、彼女から箱を奪う事は容易な事だろう。
俺はなんとなく清水さんが不憫に思えて、彼女の近くに寄る。いつもの優しい笑顔はそこには無くどこか放心している様に見えた。
「でもよ、ロミオがロミだったのならあの箱は一体なんだったんだよ?」
「あれは本物の神器です。今のうちに回収してしまうのがいいと思います」
「ばあちゃんの形見なのになぁ……」
「ですが、危険である事には変わりありませんので仕方ないです」
ロミはそう言うと、清水さんの近くに寄る。魔人である彼女の力なら簡単に奪えてしまうだろう。
ロミが箱に手を伸ばすと、それまで放心していたはずの清水さんはすかさず箱を掴んだ。
「これまで持っていかないでよ……」
泣いている様にも聞こえたその声は、俺の胸にずっしりと重みを与える。しかしロミも使命を全うするべくして彼女の腕に手をかけた。
「清水さん……諦めて下さい。これは貴方が思っている以上に危険な物なんです」
「やっ……嫌っ」
ロミの圧倒的な力の前に、彼女の力は弱すぎた。あっさりと取り上げられてしまうとその場に泣き崩れてしまった。
どうにかしてやりたいけど、マモが恐る位の魔人だからなぁ。こればっかりはどうしようもない。
しかし、ロミがカズキに箱を渡そうとした瞬間、彼女はもう一度箱に手を伸ばした。意表を突かれたのか、ロミの手から箱がゆっくりとこぼれ落ちていく。床の上に転がった瞬間、清水さんの手が箱に触れるとそれまで閉じていた箱が開き、どこか懐かしい様なメロディが流れ始めた。
「箱が……開いた……」
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