第2話 願いを叶えてやろう
値段が値段だっただけに、全く期待はしていなかった。カズキを警察に突き出しさえすれば、元のスマホは帰ってくる、それまで最低限の繋ぎにさえなれば五千円でも充分お得だと思ったからだ。
SIMカードをここに入れるのか? 凝った造りの割には現代のテクノロジーに対応しているというチグハグなアイテムだ。しかし、お兄さんが言っていた様にカードを入れるだけで電源が入る。
「うわっ、マジで起動した。リンゴじゃなくて何このマーク。女の子の顔? これ本当に五千円でいいんですか?」
シンプルでフラットデザインのマークが出るという、凝った演出。この点に関しては充分満足だ。しかしお兄さんに声をかけたものの、先程まであった露店が綺麗さっぱりとなくなっており、もちろん彼の姿も消えてしまっていた。
「えっ、嘘でしょ?」
ほんの数秒目を離しただけのはず。起動しなければ返品してやろうと思ってはいたのだけど、流石に店ごと丸っと消えてしまうのは予想外だった。
騙されたか……と思ったものの、スマートフォンは意外にもちゃんと起動している様にみえる。それに、左上にはキャリアのマークもしっかりと表示されており特に問題はない。電波と充電のマークが∞となっているのが気になるもののスマホとしては普通使えそうだ。
「充電を差す所がどこにもないんだよなぁ……」
頭の中でお兄さんが言っていた事が本当なのでは無いかと囁いて来る。軽い割に耐久性にも優れていそうな造りのこれは充電せずに使えるなら、元のスマホより全然こっちの方が優れている。
すかさずアプリを見てみると、電話とネットのマークに設定のアイコン。それに、起動時に出てきたマークのアイコンが並んでいた。
「至って普通だ……」
後はチャットのアプリが欲しい所だが、設定画面から他のアプリもダウンロードも出来そうではあるのが分かる。むしろこれだけハイスペックのスマホなのであれば一万円でも安すぎるレベルだ。
だが、ここまで来たなら他の事も試してみたくなる。俺は最初に並んでいたアプリにあった、【デフォルメされた女の子】のボタンを押してみた。
『このボタンは周りに人が居ない場所でしかご利用出来ません』
は? なんでスマホが周りに人が居るのを認識しているんだよ。仕方ない、とりあえず裏通りとかに行けばいいのだろうか?
俺は好奇心が溢れるがままに、人気の無い場所を探す。流石は都会というべきなのかなかなか誰もいない場所というのが見つからない。細い路地に入り奥に進んだ先でようやく周りに人が誰も居なさそうな倉庫裏を見つけた。
「流石にここなら起動出来るだろう」
これでダメなら、このボタン自体が凝った演出だったのだと諦めるしか無い。それでも充分楽しめた事もあり後悔は無かった。
だが、周りに人が居たら起動出来ないアプリって一体なんなんだよ。そんな事を考えながらもう一度ボタンを押すと先程とは違い画面が開く。女の子のマークがコインを回しているかの様に動き出すと画面の後ろが光りだした。
「な、なにこれ?」
赤い光が何も無いはずの空間へと固定されて行く。それが徐々に人型へと変わっていくと、その人型の光が実体へとかわり出し銀髪でコスプレの様な格好の女の子が姿を現した。
「お呼びいただきありがとうございます」
目を開くと吸い込まれそうな緑色の瞳。透き通る様な白い肌に、完璧なバランスを詰め込んだ様な美しい顔。よくみるとデフォルメされたアイコンに似ているという、なんとも言えない神秘的な雰囲気の彼女は俺に話しかけてきた。
「えっと、あなたは誰ですか?」
「私は『スマホの魔人』でございます」
「魔人って、あの? だけどスマホって魔人が出て来るには近代的過ぎるだろ……」
「何を想像されているかは分かりませんが、そこまで間違ってはいないかと」
まさかとは思っていたが、本当に物語に出て来る様な『魔法のスマホ』だったのたど理解した。
「それで、『スマホの魔人』は一体何をしてくれるの?」
「そうですね、何をと言われると少し困ってしまうのですが、簡単に言うのであれば願い事を一つだけ叶えさせていただきます」
「願い事? マジで!?」
「はい、大体の事は叶えられますよ。私はその願いが叶え終えるまで、アテンドさせて頂く事となっています」
大体の事……それって凄い事なんじゃ。いや、ただ一つだけとなると話は変わってくる。代表的な願いは金や不老不死なのだろうけど、ずっとメリットがある事を考えると何かしらの能力をもらった方がいいのかも知れない。しかし、無限に近い金が有ればそれはそれで何でも出来る気がする。
「例えばだけど一京円とかでも可能なのか?」
「出来なくはありません、ですがそれほどの金額を出すので有ればただの紙切れになる可能性やドルで出した方がいい可能性が高いです」
「現実的!!」
「なので無難に経済にあまり影響が出てこない100億位が宜しいかと」
なるほど、彼女の理由も一理ある。しかし不可能とは言ってはおらず、出来るがハイパーインフレみたいな状況になりかね無いという訳か……。
「なら不老不死やチート能力を貰いたいとしたらどうなんだ?」
「結論として不老不死は出来ません。その場合限りなく近い形、今の身体のまま丈夫なサイボーグになって頂く事になります。能力の場合も人間の出力で出来ない物は近い形になるかと……」
あくまで、物理法則的な部分で超えられないものが有るという事なのか? 現代のテクノロジーを超えている時点で物理法則を無視している様な気もしないでは無いのだけど。
「なるほど……」
「お悩みになられるのは理解出来ます。そこまで急がれる必要はありませんので、その都度相談いただいたり、願いが決まってからもう一度呼んで頂いても構いませんよ?」
魔人にしては物凄く親身で良心的な提案だ。しかし俺は、それを聞いて反射的に閃いた。
「よし、決めた!」
「相談されなくて、宜しいのですか?」
「とりあえず何でも大丈夫なんだよな!」
「はい。ある程度、経済や物理法則の辻褄を合わせられれば問題ありませんよ」
「なら決まりだ」
「そうしましたら魔法陣を開きますのでそのタイミングで元気よくお申し付け下さい!」
そう言うと彼女はひざまづき、そっと目を閉じて何やら呪文を唱え始め、ゆっくり目を開くと落ち着いた口調で言った。
「そうしましたら契約させていただきます」
その瞬間、白い魔法陣が開く。俺はドキドキもワクワクもドギマギもしながら、覚悟を決めて願い事を口にした。
『願い事を100個にしてくれ!』
「承りました。では、願い事を100個へ……は? ちょっと待って、そんなのズルい!」
開いていた魔法陣が輝き、彼女の胸元へ吸い込まれて行くのがみえる。
「ダメー! 100個ってバッカじゃないの! 今の無し、ああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
光はそのまま消え、彼女はヘタリと座り込むとまるでゴミを見る様な視線を俺に送ったのだった。
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