第17話 あとを頼まれて
マモは慌てた様にそういうと、落ち着いた雰囲気を装って俺を見る。
「もう、止めにしない?」
「なんでだよ」
「だって、面白くないじゃん」
「いや、別に俺は面白いけど?」
「人には、知られたく無い事の一つや二つあると思うんだけどなぁ……」
それは否定はしない。俺だって全てを曝け出している訳ではないし知られたく無い事だってある。マモがそう言うのなら無理に詮索はしないでおこう。
「ならもう、帰るか」
「そうだよ。清水さん置いてきたんでしょ?」
「あ、やべぇ……」
「折角のいいシチュエーション作ったのに、アンタ何やってんの?」
「それはお前が!」
「私は古い先輩と話していただけだけど?」
「まぁ、そうだよなぁ……」
俺が勘違いして飛び込んで来ただけだ。別に真門さんも今はマモをどうこうしようと言う感じは全くと言って無かった。
「まあまあ、折角きたんだ。それに変わった願いを叶える事となったおかげで長い付き合いになる様だから今度魔王にも会ってみたらどうかね?」
「魔王……ですか?」
「そう。第八天魔王、現代の魔王様だ」
「その響き、どっかで聞いた事あるんですけど?」
「そうかい? まぁ、あの方は有名だからね」
有名って、本当にそれだけなのかな……
「まぁ、どっちにしても俺は帰った方が良さそうですね」
「そうそう。私は明日の朝には迎えに行くからアンタはさっさと帰りなさい!」
「マモ。そう言う事はいうもんじゃないよ」
「ご、ごめんなさい……」
「長嶺くん、元の場所まで送ろう。帰り道は分からないだろうからね」
「先代がそんな事しなくても……」
「お前が帰らないなら俺はどうやって帰るんだよ」
「そんなの勝手に……」
彼女は不服そうではあったが、真門さんに送ってもらえる事となった。とにかく、予想していた様な事は無かった事が今回の救いだった。
「長嶺くん。あの子の事を頼むよ」
「なんですか? そんな改まった形で」
「あれはああ見えて結構寂しがり屋なのだよ」
「マモがです?」
「ああ。だけど、今日会って結構楽しんでいるみたいで安心させてもらったよ」
「そんな親みたいな……」
「まぁ、そんな感情なのかもしれないね」
元来た道とは少し違う道だった。正直、真門さんが付いてきてくれなければ帰る事が出来なかったのだと思う。道の終わりに小さな木の扉を見つけると彼は優しく言った。
「ここを抜ければ帰る事が出来るだろう」
「すみません、迷惑かけてしまって」
「また、会う事があればその時は酒でも飲み交わそうじゃないか」
「あ、いや。俺未成年ですし」
「そんなにすぐ会うつもりかな? 次に会う時は成人しているかも知れないだろう?」
「……たしかに」
「ありがとうございました」
俺には魔人がどれほど生きて来たのかはわからない。真門さんが人間になって二十年以上経つというのなら少なくとも人間よりは長い時間の感覚で生きて来たのだろうと想像はついた。
彼が人間になっている以上、確かに今とは違った形で社会に出てから会う事になるのかも知れないと思うと不思議な感じがしていた。
扉を抜けホテルに着いた俺は現実に帰って来たんだと思った。清水さんは心配しているだろうか、カズキやロミも気になっているに違いない。先に大丈夫だったと伝えるべきだと思いカズキの部屋の前についた。
「ロ、ロミちゃんそこは……」
「カズキさん。気持ちいいですか?」
……まさか?
でも、一応声はかけた方がいいよな?
トントンッ!
「はい!」
「あ、ロミちゃん?」
ドアを開けたロミは薄着に短パンのスタイルで、なんとも言えない格好をしている。
「あ、長嶺さん。マモは大丈夫でしたか?」
「あ、うん。なんか普通に仲良く話していたよ」
「すみません。騒ぎ出しちゃって……実はマモン様よりさっき連絡があって聞いちゃいました」
「なるほど……それで。ごめん、こっちこそ邪魔したみたいで」
「長嶺、悪かったな」
「カズキも邪魔したな」
「いや、マッサージしてもらってたんだよ」
「へぇ……」
「肩だからな?」
まぁ、肩だろうが棒だろうが俺には関係ない。そもそもそうなる様に仕組んだデートだったんだから。
「まぁ、俺は戻るからよろしくやってくれ」
「おう、悪いな」
完全にアイツら付き合ってんじゃないかと思うほどに柔らかい雰囲気を纏う様になっていた。だが、俺も清水さんと同じ部屋。今度は気にせずイチャイチャしてやろうとドアを開けた。
「ごめん、遅くなって」
「えっ、えっ、ちょっと」
「う、うわあああ」
「入るならせめてノックして下さい!」
「ご、ごめんなさい……」
清水さんが何をしていたのかは尊厳に関わる為割愛しておく。しかし、驚きはしたものの元々変態なのは分かっていた事もあり俺はそれほど気にはならなかった。
「住穂さん連れて帰って来なかったんですね」
「おじ様とお話していただけだったからね」
「パパ活みたいなかんじですか?」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ。清水さんはマモをなんだと思っているんだ……」
「エッチな魔人?」
「ちょっと改めようか」
「私のイメージは改められましたか?」
「あ、いや。そんなに変わってない」
「えー……」
好きな子のそういう場面を見てしまったのは、ちょっとラッキーなのかもしれない。ただ、びっくりするくらいにイメージ通りだった。
「長嶺くんって私のどこが好きなんですか?」
「なんていうか全部?」
「私、ネコですよ?」
「じゃあ、家で飼うよ……毎日愛でる!」
「そうじゃなくて、タチは出来ません」
「そっちの話!? 俺、タチは求めてないよ!」
やはり彼女は腐っていた。それはそれでいいのだけどカズキを相手にイメージしてるのだと改めて理解した。
「でも、長嶺くんとはそんな事はしないです」
「なんで?」
「自分の行いを振り返ればいいです」
「行いって言われても、俺清水さん好きだよ?」
「もう騙されないですけど……添い寝位なら仕方ないので許してあげます」
そう言って一緒の布団に入ると、彼女は後ろを向き背中を俺にくっつけた。ギュっと彼女を抱きしめるとシャンプーと女の子のいい香りと、生々しい香りがしていた。
お読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ評価、ブックマークをして頂けると創作の励みになります!
感想などもございましたらお気軽に書いていただけると嬉しいです★
次回もまたお会い出来る事を楽しみにしています(*ꆤ.̫ꆤ*)




