第14話 ドキドキ
いきなりのカミングアウト。俺が言うのもなんだが、マモはこういう時のデリカシーは皆無だ。おかげで二人は双方に照れてしまい中々話せないでいた。
「なんかいいよなぁ……」
「どうしたの?」
「イチャイチャ一歩手前っていうのか? 青春してるよなと思ってさ」
「タカシもしてるじゃん?」
「俺が? お前ととか言うんじゃ無いだろうな?」
「ほらそれ、ずっと好きな子抱いているし」
……確かに。
魔法でぬいぐるみになっているとはいえ、中身は清水さんだ。
「へ、変な事いうなよ。あくまで彼女が近くで見れる様にしているだけなんだから」
「へぇー。ちょっと意識したでしょ?」
「してねーよ」
意識しまくっている。二頭身になっている事もあり本当は触ってはいけない所に手が当たっているのではと気になり出す。まさかこれもマモの策略なのか? もしそれでお嫁に行けないとかいう話になったのなら迷う事なく嫁に来てもらおう。
「あの……どこに行けばいい?」
「そういえば言ってなかったね。ここからは富と名声の魔人流のデートプランよ!」
すると、すぐそばの道に白く大きなリムジンがとまり中から運転手が現れた。
「住穂様、お待たせいたしました」
「うむ、くるしゅうない!」
「殿かよ! というか、こんな物どうやって手配したんだよっ!」
見た事も無い車。中も広く飲み物まで用意されている。
「すっげぇな……」
「うん」
「どうかしら? 私の実力は!」
「普通にすげぇ。よくこんなの手配できたな」
流石は自分で富と名声を謳っているだけの事はある。するとマモは俺に黒いプレートの様な物を手渡した。
「なんだよこれ?」
「通称ブラックカードよ。今日のおもてなしはこれを好きにつかうといいわ!」
「これがステータスというやつか……」
年会費がかかるとか色々と意味のわからない事があるカードらしいのだが、基本的には上限額がないカードなのだという。だが、そんな物を使う様な所なんて行った事もなければ必要な程使える自信もない。
「こんなの貰ってもな」
「まぁ、使う様なデートプランは用意しているからアンタは支払い時にドヤ顔でそのカードを出して行けばいいわ」
「ドヤ顔でって……まぁドヤるけど」
ただ、マモが作っていたデートプランは一庶民、いや下層民だったのかと思うほどに凄く、流石は富と名声の魔人というだけの事はあるのだと思い知る事となった。
彼女は過去にどれほどの願いを叶えてきたのだろうか? そう思わずにはいられなかった。
「リムジンでテイラーで全身服作って高層階のレストランってもう頭おかしいだろ」
「ああ、俺もそう思う」
「これじゃデートどころじゃねぇよ」
カズキのいう事には一理ある。明らかに今日のマモは何かがおかしいと思っていた。
「なぁ、コレ俺の願い使ってねぇよな?」
「ご心配なく、私の本来の力だから」
「本来のっていわれてもな……」
あれだけ願いを渋っていたマモにしては羽ぶりが良すぎる。今までの感じで行くならもう既に何個も使わなければいけないレベルだ。
とはいえ、こんな経験は簡単にはする事は出来ない。高層階のホテルのレストランからは沈み始めた夕日が見えビルの光が目立ち始めていた。
「あのさぁ、住穂」
「どう? 満足した?」
「いや……まぁ、これだけ色々としてくれるのはありがたいとは思うんだけどな、」
「まだ足りない?」
「充分すぎるんだよ」
そう、薄々感じてはいたがカズキは思っている事はハッキリと言うタイプだ。それは相手が魔人だとかそう言った事は関係ない。
「俺だってこういうのに憧れる事はあるよ。けどな、そうじゃないんだ」
「何が?」
「俺は、長嶺も住穂もなんだかんだで友達と思ってる。いや、思い始めていると言った方がいいか」
「タカシ、良かったじゃん」
「けどよ、友達ってこういうのじゃねぇんじゃねぇかな?」
「うーん、よくわかんない」
「そうか……」
そう言うと取り憑く島の無いマモの雰囲気にカズキは口を噤んだ。
「本当はもっと凄い体験をさせたかったんだけどねぇ……今日はこれくらいでいっか」
カズキの言葉が気に入らなかったのか、マモはそう言って席を立った。するとウエイターに声をかけ戻ってくるなり手を出した。
「はい。今日はこれで終わりっ」
そう言って差し出したのは銀色のカードが二つ。勢いに負けて受け取るとそれがなんなのかを理解した。
「これって……」
「そう、このホテルの鍵だよ」
「いやいや、ホテルの鍵って」
「宮田くんはロミと。タカシは……ぬいぐるみと泊まればいいんじゃない?」
「いや、マモはどうすんだよ」
「私はちょっと、行く所があるから……」
「行く所って、」
それだけ言うと彼女は颯爽とどこかに消え、俺はカズキと目を合わせた。
「宮、いやカズキ……」
「まぁ、住穂がそうしたいんなら別にいいんじゃねぇの?」
少し呆れた様な顔を隠す様に笑う。俺が名前で呼んだからなのか、この状況の違和感に共感したからなのかはわからなかった。
「ロミちゃん、住穂の事気にせず帰っていいからな。口裏は合わせとくから」
「僕は、宮田くんと一緒にいたい……」
「マジかよ。お前が思っているほど俺はいい奴じゃ無いんだけどな」
多分カズキは色々と考えているのだろう。マモの事やロミの事、それだけでパンクしそうになっている様にすら感じた。
仕方なくカードの部屋に着くと、家族で泊まるとしても広い位の最上階のガラス張りの部屋だった。カズキも今頃は度肝を抜いているのだろう。
俺は抱えていたぬいぐるみをベッドの上に置くと、服を着替える事にする。しかし、どこからともなく視線を感じる。それはまるで監視されているようにすら思える位だ。
なんだ……まさかまた他の魔人が。
この状況で現れたとしたら、マモがいない事もあり反対側の部屋に居るロミの助けを呼ぶしか無い。そう思い目線を落とすとぬいぐるみと目が合った。
「あ……」
そう、このぬいぐるみは清水さんだ。あまりにも怒涛の一日だった事もあり忘れていた。いや、正確には大切にしていたものの本人というのを忘れていたというのが正しい。しかしこれ、どうやって元に戻せばいいんだ?
いや、元に戻したらそれはそれで他の問題がでてくる。とりあえず明日マモに会うまでは我慢してもらうしか無いのだろう……。
そう思って清水さんに伝えようともう一度抱えてみる。言葉は聞こえているのかモゾモゾしているのが分かる。
「明日まで我慢してくれ」
そう言った瞬間、ぬいぐるみのふわふわとした感触が重みに変わる。それと同時に人肌の様な柔らかさを感じるとそのまま重みに負け俺はベッドに押し倒されてしまった。
「あっ……戻っちゃった」
「そ、それはいいんだけど。この体勢はマズくないですか?」
抱き合った様に、それでいて顔も近い。後数センチでも近づけば唇が触れてしまうほどだ。
「そんな事言ってるけど、長嶺くんは離さないんだね?」
「だって、大好きですから……」
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