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外伝 2

ノーマン王太子は幼少の頃から大人の女性が苦手だった。


母や乳母は見慣れたものだったが、社交の場に出ると、女性特有のあの視線に当てられて倒れそうになる。

理由は分からない。そういう性質なのだろう。


それでも、王太子という立場上、公爵令嬢との婚約は決まっていた。

とはいえ、婚約が決まったのはお互い子ども同士。

特別なんとも思っていなかったが、どんどん女性になっていく少女にノーマン王太子は困惑した。



13歳のある日、ノーマン王太子は一つ下の従兄弟ロイドが自分の婚約者と庭園で話しているのを目撃した。


「君がノーマンの婚約者じゃなかったらなあ」

「嫌ですわ、なんてこと言うんですの?」

「だって君、ノーマンとまともに会話できるかい?」

「よくお話ししますわよ」

「一体どんな…」

「国の未来のことですとか、今の政策の改善点ですとか…」

「ぷっ!そんなのが男女の会話か!?」


堪らなくなって、僕は飛び出した。

「や、やあロイド!王宮に来てたのかい?僕の婚約者に何か用かな?」


聞こえない様に打った舌打ちが思いの外響いた。

「これは失礼。たまたまお見かけしたんでな」

言葉とは裏腹に、ロイドはまるで見下す様な表情だ。


「父が呼んでいるから、行こう」

婚約者の腕を掴んで、ずんずんと進んだ。

この時、ノーマン王太子は母と乳母以外の女性に初めて触れた。


「ノーマン王太子殿下…」

「ここまで来れば大丈夫かな。引っ張ってすまなかった」

「いいえ、助かりました。お礼申し上げます」

ノーマン王太子は顔を真っ赤にして頭を掻いた。


「情けないね」

「…え?」

「気の利いたことが言えなくて。父が呼んでいたなんて、嘘だ」

すると、目の前の少女はくすくすと笑った。

「えっと…な、何か変なことを言ったかな…」

「私は優しい殿下が好きですわ。親同士が国のために決めた婚約ですけれど…それ以上に私は殿下をお慕いしております」


ぼんっと頭から蒸気が出そうな勢いでのぼせ上がった。


「ぼ、ぼぼ、僕はこの通り…その、あまり上に立つものには向いていないから…」

モゴモゴと語尾を曖昧にする。

「あらそうですか?私は殿下以上に適任はいないと思いますけれど」

ふふふと笑う。

「そんな…お世辞はいいよ…」

「あら、そうですか?本当のことですのに。でも、申し訳ありません。そういう周囲の期待は重たいですわよね」

「君の方こそ、優しいよ…」

和やかな雰囲気の中、人知れず殺意を抱く少年ロイドは

(あんな対して美しくもない女、必死に庇って馬鹿な奴だ)

などと思っていた。




15歳になったロイドは、国賓が招かれた大きなパーティで、様々な国の美しい女性を吟味しながら誰に声をかけようかなどと考えていた。

その時、目の端に映った女性に心を奪われた。


早速駆け寄り声をかける。

「ロイド・ライアンハートと申します。貴方の美しさは今夜の月をも曇らせるでしょう。私とダンスを踊って頂けませんか?」

「お久しぶりですわね、ロイド様。申し訳ありませんが、私はまだノーマン王太子殿下と踊っておりませんので」

その言葉に、この令嬢はノーマン王太子の婚約者だと悟った。

そして一気に思考が駆け巡る。

たった3年でこれほどまでに垢抜けたのかという思いと、どうにかしてノーマンから奪えないだろうかという思いだ。


(くそ、あの時からかうのではなくて、押していれば…)


「では」

と言ってその令嬢は去っていった。



それから事あるごとに公爵令嬢に話しかけたり花を送ったりしていたが

「失礼ですが、この様なことをされると困ります」

という至極尤もな言葉を受けて、ロイドはなぜノーマンばかりが優遇されて、自分はつまらない物ばかりが与えられるのか、父が国王になっていれば王太子になったのは自分のはずだと思って胸焼けがした。


その日、ロイドは部屋に戻って荒れに荒れた。


(あんな陰気な奴が王太子だなんて。いつか必ず失脚させてやる)

そうロイドは決意した。




セレンを見染める何年も前のお話し。

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