いなくなった者
緑のドレスを身に纏い、恭しくお辞儀をした。
「国王陛下、並びに王太子殿下にお目にかかります。ノーマン・ライアンハート王太子殿下、お誕生日誠におめでとうございます」
「おお、セレン来たか。ほんに美しいのお」
「覚えていただけていたのですね。光栄でございます」
「そなたとは一度会うたきりだが、忘れもせぬよ。うむ。美しさに磨きがかかっておるな」
国王陛下の女好きは有名だが、私はこの方が嫌いではない。
息を吐くように誉めるが、勿論口説かれたことはない。
一見軽そうだが嫌だと思わせない。男性よりも女性を立てる、この人の処世術なのだろう。
「ノーマンもそう思うじゃろ?」
「あ、いや、そのわ、わた、わたしは…こ、ここっ婚約者がおります身…そのような」
透き通るような白い肌を真っ赤にしてガチガチと震え出した。
「うむ、セレンすまぬな。下がって良いぞ」
私はドレスの裾を広げて挨拶を済ませた。
(ノーマン王太子殿下、緊張しいだとは聞いていたけれど)
去り際、ちらっと王太子を見ると、立ち上がり裏にはけるのが見えた。
(ええ…主役がいなくちゃ困るわよ…)
私はきょろきょろとあたりを見渡す。
先ほどからホールの中を探しているがカイエンの姿が見当たらない。
謹慎処分を受けているわけではないし、本日は祝いの宴。
来ているはずだ。
周囲の視線が痛い。
カイエンのことか、はたまた婚約パーティでの騒ぎの一件か。そのどちらもかーー
私は人々の間を縫ってバルコニーへ出た。
(もしこのままカイエンと会えなかったら…)
今生の別れでもあるまいし何を考えているのだろう、自分らしくない。
ぶんぶんと頭を振った。
水でももらおうと会場に戻ると、人々の間に騒めきが広がっていた。
どうやら王太子が戻っていないようだ。
挨拶の列は徐々に長いものとなり、その列の人々は目指す先の様子を伺おうと首を伸ばしている。
遂に国王陛下が暫く待つように言って下がっていった。
側近たちの姿もない。
ということは…
(みんな王太子殿下を探しているということ?)
私は騒めきの中にカイエンの姿を探すけれど、やはり見当たらない。
ひとまずもう一度バルコニーに戻った。
風に当たって時が過ぎるのを待つことにする。
コツ、と足音が止まった。
俯いた視線の先に見えるのは男性の足。
パッと顔を上げると、そこにいたのはロイドだった。
「レディ、ごきげんよう。今日は祝いの席だ。そんな怖い顔をしないで」
さっと居住まいを正して丁寧にお辞儀をした。
「ロイド・ライアンハート様にお目にかかります。少し気分が悪くて風に当たっていた所ですわ」
「おや、水でも用意させようか?」
「いいえ、大丈夫です」
「それとも…カイエン君の心配かな?」
私は真意を図りかねて、その目を見る。
「それは、一体どういうことでしょうか?」
ロイドはやおら私に近づいた。
そして、突然顎を片手で掴んだ。
思い切り顔が近づく。
「言っただろう?後悔するぞと」
この男は、卑劣だ。
「お離しくださいませ」
「良い顔だ。美しい者の怒った顔はゾクゾクする」
吐息が当たる。
ガリッと耳を噛まれた。
「いっ!?」
「どうする、私についてくるかい?カイエン君に会わせてやろう」
「彼に何を…したのですか…」
ロイドはくつくつと笑う。
「君が来なければ、カイエン君は王太子殺しの犯人になってしまうよ」
続きは明日15時ごろ投稿します。
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