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出会って良かった(カイエン視点)

セレンの元に行かなければならない。

彼女の父君もどんなに心配しているだろうと思うと、わかってはいるが体が動かなくなってしまう。


タルトがきゃんきゃんとベッドの周りを飛び跳ねる。

かしゃかしゃと爪が床を引っ掻く音がしきりに聞こえる。


それでも何も答えないでいると、やがて

「ウ〜〜〜」

と呻く声が聞こえる。


仕方なくベッドの外へ手を垂れると、袖を咥えて引っ張られた。

無理やり気怠い身体を起こす。


「なんだ、タルト。お散歩に行きたいのか?」


仔犬とは思えないような力でぐいぐい引っ張る。

長い逡巡の末、タルトに付き合うことを決めてベッドから降りた。





そして、タルトが向かった先はといえばウエストバーデン家だった。

そんな訳で、僕は今非常に気まずい中、紅茶を啜っている。


「今日は一雨来そうですわね」

セレン様がいよいよ天気の話をしだしたので、もう本題に入らなければなるまいと腹を括った。


「聞き及んでいると思いますが…」

「ロイド様による不当な解雇のことでしょうか?」

「ええ…なんでも帝国の内通者という汚名を着せられました」

「あら、本当ならば晒し首ですわね」

セレンは遠い目をする。


「そうならなかっただけありがたいと思って、静かに暮らしたいのです」

「分かっています。貴方ならそう言うでしょう」

セレンはふ、と穏やかに笑う。

「貴方の騎士としての誇りは、騎士でなくては成せないものですか?」

「…わかりません」


俯く僕を、セレンが後ろからそっと抱きしめた。

「力や刀で守れるもの、心の強さで守れるもの、権力やお金で守れるもの。世の中には手段が違えど目的を果たせることは多くありますわ」

その細い腕をそっと撫でる。


「まだ、見せていませんでしたね」

言ってセレンはドレスの裾を少しだけ捲る。


「え…?文字が…ない…?ストッキングを履かれているのではなく?素足ですか?」

「ええ。パルマ様が、呪詛返しにあって私の呪いは消えたようです」

僕はセレンをきつく抱きしめた。

「貴方を苦しめるものが消えて…良かった…」

「気づいていないかもしれませんが、呪いが消えたのも貴方が私を守った証です」

「僕はなにもしていません」

本当に、何もしていない。

何かしてやりたくても、できなかった無力さ。

しかし、セレンの瞳は僕の思考を全て読み取るかのように強い。

くすっと微笑む彼女。その笑みは、僕が今まで感じていた一切の翳りが消えている。


「貴方の強さは、人を前向きにさせる。それはとても難しいことです。普通の人にはできない。もし私がカイエン様と出会ってなければ、呪いは消えていませんでした」

「そう…でしょうか?」

「私は諦めていたのです。全てを。でも貴方が現れた」


セレンは強い視線を外さない。

「貴方に会えて良かった」


(ああ、僕はこの方に会えて、知らなかった自分を知った。初めての感情を教えてもらっている)


僕はもう溢れる気持ちを抑えられない。

セレンをきつく抱きしめた。


「セレン様、僕と出会ってくださってありがとうございます」

続きは明日15時ごろ投稿します。


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