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月花の君が私と知った時

「貴方を妻に迎えたく、このガレリアン・ニール、星に幾度も願いました。どうか、私の愛を受け取って頂きたい。"月花の君"」

さっき私に婚約破棄を突きつけた、その口で今度は愛を語る。

跪き、差し出された赤い薔薇の花束。

その瑞々しい花弁は"月花の君"を想って選んでくれたのだろうと思う反面…


「…ニール公爵」


街道脇の野花を引きちぎったその手で、薔薇の花束を差し出す。

彼の二面性を表しているようだ。


「どうかガレリアンとお呼びください。そして許されるなら貴方の名が知りたい」

私には決して許さなかった名前で呼ぶことを求められる。


「私の名前を知ったなら、貴方は…」

「どこのご令嬢だろうと構わない!恋焦がれた貴方と添い遂げる為、どんな苦難も乗り越えよう!」

ずいとさらに高く掲げられた薔薇。


「貰った野花はすぐに枯れてしまいましたわ。ニール公爵」


「え?」


「どこの令嬢でも構わない、それならなぜ婚約破棄をされたのかしら?」


顔を上げ眉根を寄せるニール公爵。


「そんなに私の名前が知りたいのなら、教えて差し上げましょう。私は…」

言ってゆっくりとスカートの裾を広げてお辞儀をした。

そして、ニール公爵が最も望んでいない名を口にする。

「セレン・ウエストバーデンです。どうぞ、以後お見知り置きを」

「…これはこれは…"月花の君"はユーモアも持ち合わせていらっしゃる…貴方とセレンとでは似ても似つかない…」


私は無言で微笑む。

その微笑みでニール公爵は顔を赤くして、私に見惚れた。


ーーこの男は本当に…


「私に縋りつかないで下さいませねと先程申したでしょう?確かに私、貴方と先ほどまで婚約していましたのに」

ニール公爵は目を丸くした。


「分厚い眼鏡も時代遅れのドレスも貴方が望んだから着ていた、と言ったらお分かりになりまして?」


「あっ…えっ…セレン…!?」

「もう婚約は破棄されたのです。名前で呼ばないで頂きたいですわ」

「そんな…あれは父の人違いで…」

「そんなこと、私は知りません。男の目に障らない格好を貴方が望んだのだわ」


ニールは明らかに動揺して息も切れ切れに言う。

「今なら!今なら間に合う!セレン!破談は取り消しにしてくれ!!!」


私は思いっきり笑ってしまった。

「間に合う?間に合うはずがないわ。貴方に無下にされたこと、私全て覚えてましてよ?」

「すまないっっ!!」

激しい後悔が彼を包んでいる。

ぎゅうと抱いた薔薇の花、あれではきっと明日には萎れてしまうだろう。


「今更そんなことできるはずもないことくらい、ニール様には分かるはずです。だから言ったのですよ、婚約は破棄されましたと」

「ああっ」

ついに頭を抱えて地面に突っ伏した。


「すまないセレン!どうか!!」

私のドレスの裾を掴んだ。

「その謝罪はどうか、貴方の"月花の君"を探すために奔走された父君にかけて差し上げてください」

「父にも謝る!いくらでも謝るから!!」

私は心底呆れた顔で懇願する彼を見た。


「貴方は月の夜に幻を見たのです。どうか、私のことは忘れてくださいませ」

「いやだ!!いやだあああああ!!!」

私は、ぐいと裾を引っ張った。

ニール公爵の手が落ちる。


「ごきげんよう」


放心している公爵をそのままに、私は馬車に乗り込んだ。

本日まだまだ投稿します。

お楽しみに!

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